転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第16章 魔王は4人で倒すもの

第211話 離脱、1

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 山頂には、聖獣と化したノアの上に乗って移動した。ライトとの戦いの前に少しでも体力を温存するためだ。

 ただ、移動スピードは落としてもらっている。セリナの魔力回復のためというのもあるのだが、それ以前にセリナがノアに自力でしがみつけないほど疲弊しているから迂闊にスピードを出せないというのが現状だ。

「セリナちゃん、大丈夫?」

 後ろからリオンの不安そうな声がする。きっと、目を開けてられないくらいぐったりとしているセリナのことを心配しているのだろう。

「ごめんなさい……私、みなさんにご迷惑を……」

 掠れた声でセリナは俺たちに謝るが、誰も彼女を責めようとはしなかった。

「全然迷惑なんかじゃないわ。あなたが頑張ってくれたおかげで、あたしたちの体力と魔力を温存できたのだから」

 アンジェの言う通りだ。実際、四人がかりで戦ったところで、間違いなく近距離戦法の俺とアンジェは爆発物を扱うケインとは相性が悪い。リオンの補助があったら戦えたかもしれないが、こんな序盤で彼の魔力はあまり使いたくない。勝てたとしても、みんな半分くらいは体力も魔力も削られていたことだろう。むしろあの戦いはこちらの大金星だったのだ。

「次は俺たちが頑張る番だ……セリナはゆっくり休んでろよ」

「そう言わせてやりたいところだが、厳しいだろうな」

 話に割り込んできたのは、意外にもノアだった。髭をアンテナのようにピンと立てるノアは、何かを感じ取っているみたいだ。

「多分だが……近くに魔王たちがいる」

「ライトの居場所がわかるのか?」

「そっちはわからないが、セトのほうはなんとなくわかる。どうせ二人一緒にいるだろうよ」

「なんとなく」と言っているが、ノアに迷いはないように思えた。昔のよしみだからだろうか、彼女の勘に妙な説得力を感じた俺は、緊張でごくりと唾を飲んだ。

「んで、勇者様には魔王様に勝てる算段はあるのか?」

 正面を向いたまま、ノアが俺に尋ねる。魔王を前に確認……というよりかは、ノアの興味本位だろう。

「……なくはない。上手く行くかは別として」

 そう答えると、ノアは「ほう」と楽しげに笑った。

 そんな話をしているうちに、山岳部の地盤が見えるくらいでノアが下降していた。『アルカミラ』の九合目といったところか。瘴気も濃くなっており、まだ昼間だというのに薄暗い。

「なるほど……流石にここまで来ると、ちょっと息苦しいわね」

 瘴気が漂う辺りを見回しながら、アンジェは軽く咳き込んだ。まるで『ザラクの森』にいるみたいな居心地の悪さだ。木も花も一個も見当たらないし、何よりこの山自体に生命を感じない。

 辺りを警戒しながら地上に降りてみる。静かだ。今のところ、魔物の気配もライトたちの気配も感じない。

「セリナ……調子はどうだ?」

「ええ……少し休んでだいぶ元気になりました」

 そう言いながら、セリナは自分の鞄から瓶に入った液体を飲み干した。多分、クーラの水だろう。クーラの水の癒しの力で水分と魔力を回復しているみたいだ。といっても、微々たるものだろう。顔色もこれまでと大して変わりはない。

「セリナちゃん、休んでて。僕も頑張るから」

「そうだぞセリナ。俺たちなんて元気がありあまってるんだから」

「で、でも……」

 俺もリオンも二人して力んで言うものだから、セリナは困惑しているようだ。けれども、救いを求めるようにアンジェに視線を送るが、残念ながらアンジェも俺たちと同意見だ。

「これ以上あなたに無茶させたら男が廃るってものよ。少しくらいあたしたちにも持たせてちょうだい」

 と、アンジェにウインクされ、ようやくセリナは「わかりました」と頷いた。

 そんな話をしていると、いきなり前方から「ゴゴゴゴゴ」と地響きがし始めた。

 地震のように揺れ始める地面に身構えていると、そうしている間にも地面はぼこぼこと穴が開き始め、そこから魔物の手が出てきた。

 地面からどんどん魔物が湧き出てくる。前方、左右、そして後方。数はざっと十数体。瞬く間に囲まれてしまった。

 しかもどいつもこいつも体長が二、三メートルはあるし、熊やゴリラみたいにゴツイ体型ばかりだ。それに加えてご立派に剣や槍など武器も構えてやがる。血走った目はこれまで見た魔物とは違う。剥き出しになった牙からは最早涎が出ているし、殺気がビンビンと立っている。無論、全員体に魔王の配下の証である赤い花模様の刺青も刻まれていた。
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