転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第15章 絶望の街『イルニス』

第204話 決闘《デート》のお誘い

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「お姉さん、『オルヴィルカ』のギルドの人じゃん。なんだ、生きてたの」
 
 ニヤニヤしながらも、残念そうな口調で言うケイン。しかもねぶるようにセリナの顔面からつま先まで見ている。どうやら自分の爆弾でどこか傷跡がないか探しているみたいだ。その意図にアンジェも気づいたのか、静かに怒った彼が徐に腰に差した剣を抜いている。

「残念ながら、彼女の傷はあたしの仲間が綺麗さっぱり治してくれたわ」

「そうかい。それは本当に残念だ」

 切っ先を向けるアンジェにケインが「お手上げ」というように両手をあげる。刃を向けられても余裕綽々なのはアンジェがこの場では自分を切らないことに気づいているからだろう。つくづくムカつく野郎だ。

 アンジェとケインのやり取りの横で、セリナは俯きながら小さな肩を震わせていた。自分の職場を壊し、同僚を傷つけ、自分を殺しかけた当の犯人が目の前にいるのだ。恐怖で震えるのも無理もない。

「おやおや? ひょっとして俺が怖い?」

 ニヤつきながらケインがセリナの顔を覗き込む。

 その行動に俺もアンジェも止めようと奴に手を伸ばしたが、途端にケインの表情が変わった。最初は意外そうに目を瞠ったケインだったが、「へえ」と感心するように口角を上げたのだ。その妙な表情の変化に俺もアンジェも思わず小首を傾げた。

 だが、俺たちを差し置いてケインはセリナに話しかけていた。

「……明日の正午、『アルカミラ』の麓で待っている。そこで一緒に遊ぼうぜ、お姉さん」

 それだけ言うとケインはひらりと手を振って俺たちの前を横切った。一方的な宣戦布告だった。 

「おい、待てよ!」

 ケインを呼び止めようとしたが、歩き出そうとしたところでアンジェに止められた。

「放っておきましょう……どうせ明日、また会うんだから」

 アンジェの声は低く、彼からふつふつと湧き出るような怒りを感じた。そんなアンジェに怒りの矛先を向けられても、ケインはまだ笑っていた。

「そういうこと。デート、楽しみにしてるぜ」

 ケインは俺たちに向けてほくそ笑み、風の渦と共に消えていった。俺たちが気づかないうちに自分の足元にウィンド・コア・ピンを出していたのだ。

 ケインを乗せた風の渦に手を伸ばしたところで、奴を捕まえることなどできない。暴れるだけ暴れて去っていったケインに苛立ちが爆発しそうだったが、俺が歯を食いしばってぐっと堪えた。

「……とにかく、街の人を助けるぞ」

 そう言うと、アンジェもセリナもコクリと頷いた。こうしてケインがいなくなった今でも、『イルニス』の街のどよめくは治まる気配はなかった。


 ◆ ◆ ◆


 翌日。人命救助した際の疲労を残すことなく、健やかな朝を迎えることができた。だが、清々しい朝のはずなのに、気分はまったく冴えなかった。

 ケインと決戦ということで、食卓も朝食時から緊迫していた。只事ではないとリオンも思ったのだろう。この時ばかりはリオンも静かに朝食を取っていた。

 静まり返る食卓で、沈黙を割ったのはライザだった。

「俺、これを食ったら里に戻る」

『イルニス』の現状を見て、事態は想像以上に深刻だと思ったのだろう。今はいち早く里に戻って他のエルフたちを護りたいという結論に至ったみたいだ。

「魔力の高いエルフは、いざという時に切り札になるはずだ。こっちはこっちで最後まで足掻いてみせる」

 と、昨日買ってきたパンを頬張りながらもライザは真剣に語った。その真剣さはきちんと弟のリオンにも伝わったみたいで、彼も「わかった」と頷いた。

「お前ら、今日で魔王潰す気でいろよ。でないと、あそこの街の連中の精神が持たねえ」

 核心を突いてくるライザに誰も反論はしなかった。

 奴の言う通りだ。多分、このままだと世界が滅ぶ前に人々の精神が潰れる。いや、『イルニス』だけでない。きっとこの赤い空を見て魔王の復活を察したこの世界の人々みんな絶望の淵に立っているはずだ。戦いは、早いほうがいい。

「……わかってるよ」

 そう端的に返すと、ライザは「ほう」と言いながら真顔でスープを啜った。

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