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第15章 絶望の街『イルニス』
第197話 意外な訪問者
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「こいつは……?」
奴の顔を見てもなお、ノアは眉をひそめた。
見たことはある。けれども、名前を思い出せない。口には出していないか、ノアの顔にはそう書いてあった。
ノアがそうなるのは仕方がない。ノアはこいつを「見たこと」はあっても、「会ったことはない」からだ。やれやれと思いながらも、俺はあいつに聞こえないように小声で紹介した。
「──ライザ。リオンの兄だ」
そう言うと、ノアは「ああ」と口角を上げた。思い出してすっきりしたみたいだ。だが、問題はそこではない。エルフの里にいたはずのこいつが、どうしてこんなところにいるというのだ。
訝しい顔になっていると、ライザは呆れたように深くため息をついた。
「なんつー表情してるんだ。長の俺が、わざわざ里を抜け出して様子を見に来てやったっていうのによ」
「様子って……俺たちのか?」
「リオンだけだよ。ったく、思い切り空が赤くなってるじゃねえか。『魔王を倒す』とか意気込んでいた奴はどこのどいつだよ」
「う、うるせえ! これから倒すんだよ!」
顔をしかめるライザに言い返すが、ライザは無視をして赤い空を仰いだ。
「……まあ、こんなところにいるっつうことは、お前もそれなりに本気なんだろうな」
ライザが独り言のように呟く。
リオンが俺たちの仲間になっておよそひと月半。そのたったひと月半で状況が大きく変わってしまった。それは離れた場所で暮らしているライザにもわかっているのだろう。この赤い空と、『ザラクの森』から遠く離れたこの『イルニス』にいる俺たちを見れば。
そんな話をしているうちに、いきなり風が強くなった。
風がライザの背後で渦巻いて螺旋を描く。風の扉が開かれようとしているのだ。多分、アンジェたちが帰ってきたのだろう。
風の渦が消えると、中から麻の袋を担いだアンジェたちが出てきた。
ライザを目の前にした彼らのリアクションは様々だった。アンジェは「え?」と戸惑い、セリナはきょとんとし、リオンは声が出ないくらい驚いている。けれども、ライザがリオンに向けて口角を上げて微笑むと、リオンは目を輝かせて奴の元へ走りだした。
「兄ちゃ~~ん!」
駆けてくるリオンを両腕広げて抱きしめるライザ。その顔は先程までとは打って変わって穏やかで、心底嬉しそうだった。
「元気か、リオン」
「うん! 兄ちゃんは?」
「俺はぼちぼち。なんも変わんねえよ。里はだいぶ元に戻ったけどな」
「そっかー! よかった!」
ニコニコ笑いながらライザの頬を擦り寄せるリオン。そんな弟の愛情表現を嫌がることなく力強く抱きしめるライザ。兄弟の久しぶりの再会に本来なら感激するところなのだろうが、やはりまだ混乱のほうが大きかった。
「ちょっとちょっと……どうしてここにリオちゃんのお兄さんがいるのよ」
「え!? 彼が!?」
「リオンの兄」と聞いて、セリナが驚いた声をあげる。そういえば、セリナはライザを会うのが初めてだ。ただ、「兄がいる」ということはどうやらリオンから予め聞いていたらしい。わたわたと戸惑いながらセリナはライザに頭を下げた。
「私、セリナと申します。リオン君には以前命を救っていただいたことがありまして……」
「ああ、それってあんただったのか……ふーん」
ライザはセリナを舐めるように見ながらニヤニヤと笑う。その様子にセリナはうろたえていたが、やがてライザは俺のほうを見てほくそ笑んだ。
その下衆い眼差しとムカつく表情でわかる。「この子がそうなんだろ」と言いたいのだろう。そうだよこの野郎。
「……まあ、お前に免じて手は出さないでおいてやる」
口ではそう言うが、ひたすら笑いを堪えているライザに苛立ちを覚える。
だが、セリナにはなんのことかさっぱりわかっていないようで頭の上に大量のクエスチョンマークを浮かべていた。ただ、アンジェとノアは全部察しているらしく、ライザと同じように懸命に笑いを堪えている。覚えてろよお前ら。
奴の顔を見てもなお、ノアは眉をひそめた。
見たことはある。けれども、名前を思い出せない。口には出していないか、ノアの顔にはそう書いてあった。
ノアがそうなるのは仕方がない。ノアはこいつを「見たこと」はあっても、「会ったことはない」からだ。やれやれと思いながらも、俺はあいつに聞こえないように小声で紹介した。
「──ライザ。リオンの兄だ」
そう言うと、ノアは「ああ」と口角を上げた。思い出してすっきりしたみたいだ。だが、問題はそこではない。エルフの里にいたはずのこいつが、どうしてこんなところにいるというのだ。
訝しい顔になっていると、ライザは呆れたように深くため息をついた。
「なんつー表情してるんだ。長の俺が、わざわざ里を抜け出して様子を見に来てやったっていうのによ」
「様子って……俺たちのか?」
「リオンだけだよ。ったく、思い切り空が赤くなってるじゃねえか。『魔王を倒す』とか意気込んでいた奴はどこのどいつだよ」
「う、うるせえ! これから倒すんだよ!」
顔をしかめるライザに言い返すが、ライザは無視をして赤い空を仰いだ。
「……まあ、こんなところにいるっつうことは、お前もそれなりに本気なんだろうな」
ライザが独り言のように呟く。
リオンが俺たちの仲間になっておよそひと月半。そのたったひと月半で状況が大きく変わってしまった。それは離れた場所で暮らしているライザにもわかっているのだろう。この赤い空と、『ザラクの森』から遠く離れたこの『イルニス』にいる俺たちを見れば。
そんな話をしているうちに、いきなり風が強くなった。
風がライザの背後で渦巻いて螺旋を描く。風の扉が開かれようとしているのだ。多分、アンジェたちが帰ってきたのだろう。
風の渦が消えると、中から麻の袋を担いだアンジェたちが出てきた。
ライザを目の前にした彼らのリアクションは様々だった。アンジェは「え?」と戸惑い、セリナはきょとんとし、リオンは声が出ないくらい驚いている。けれども、ライザがリオンに向けて口角を上げて微笑むと、リオンは目を輝かせて奴の元へ走りだした。
「兄ちゃ~~ん!」
駆けてくるリオンを両腕広げて抱きしめるライザ。その顔は先程までとは打って変わって穏やかで、心底嬉しそうだった。
「元気か、リオン」
「うん! 兄ちゃんは?」
「俺はぼちぼち。なんも変わんねえよ。里はだいぶ元に戻ったけどな」
「そっかー! よかった!」
ニコニコ笑いながらライザの頬を擦り寄せるリオン。そんな弟の愛情表現を嫌がることなく力強く抱きしめるライザ。兄弟の久しぶりの再会に本来なら感激するところなのだろうが、やはりまだ混乱のほうが大きかった。
「ちょっとちょっと……どうしてここにリオちゃんのお兄さんがいるのよ」
「え!? 彼が!?」
「リオンの兄」と聞いて、セリナが驚いた声をあげる。そういえば、セリナはライザを会うのが初めてだ。ただ、「兄がいる」ということはどうやらリオンから予め聞いていたらしい。わたわたと戸惑いながらセリナはライザに頭を下げた。
「私、セリナと申します。リオン君には以前命を救っていただいたことがありまして……」
「ああ、それってあんただったのか……ふーん」
ライザはセリナを舐めるように見ながらニヤニヤと笑う。その様子にセリナはうろたえていたが、やがてライザは俺のほうを見てほくそ笑んだ。
その下衆い眼差しとムカつく表情でわかる。「この子がそうなんだろ」と言いたいのだろう。そうだよこの野郎。
「……まあ、お前に免じて手は出さないでおいてやる」
口ではそう言うが、ひたすら笑いを堪えているライザに苛立ちを覚える。
だが、セリナにはなんのことかさっぱりわかっていないようで頭の上に大量のクエスチョンマークを浮かべていた。ただ、アンジェとノアは全部察しているらしく、ライザと同じように懸命に笑いを堪えている。覚えてろよお前ら。
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