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第14章 旅立ちへ

第195話 本音は上司に隠すもの。建前は上司に表すもの

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 ──残された私に与えられた使命は「勇者の案内人」……マリア姉さんの仕事の引継ぎだった。

 この時の天界はとにかく混乱していた。勇者の急死。案内人の消滅。そして神の使いの堕天使化。魔王の復活という厄災が訪れるというのに、前代未聞の事件が続いたのだ。こうなるのも無理はなかった。

 絶体絶命の状況だったからか、私が「勇者の案内人」になることは誰も反対しなかった。むしろ勇者が自害する前例を目の当たりにしたばかりだから、誰もなろうと思わなかった。

 そんな使いたちの心理的状況をエスメラルダ様も察したのだろう。「もうあなたしかいないのです」と神であるあのお方に頭を下げられたら、私も引き受けるしかなかった。

『……わかりました。ただし、勇者を決める時は私にも意見させてください』

 それを条件に、私は「勇者の案内人」になることを呑んだ。

 他の連中は何も言わなかったが、私が選ばれたこと……いや、自分が選ばれなかったことに対し心底安堵しているようだった。

 ついでだから、どうして貴様……いや、違うな。「ライト・オオダテ」が勇者に選ばれたか話しておくか。

 セトが堕天使に堕ちた時、私はある仮説を立てた。天界に「勇者の案内人」がいるのと同様に、魔界にも「魔王の案内人」がいるのではないか。そして、その「魔王の案内人」こそが堕天使なのではないか、とな。

 噂と言うのは、存在するからこそ「噂」になる。

 となると、考えるのは堕天使の存在意義だ。元々神の使いだから、異世界の者と契約することもできれば、力を与えることもできる。つまり、魔王は堕天使と契約したからこそ魔王になるという訳だ。

 神の使い=堕天使であると、エスメラルダ様の魔王復活の予言は、神の使いの誰かが堕天使になるという予言でもあったはずだ。

 しかし、エスメラルダ様もそれに気づかなかった。いや、気づけなかったのだ。堕天使の存在すら「噂」で収まってしまった程の頻出度だ。その方程式が導かれるほどの前例がなかったのだろう。

 元は同じ神の使いが選定するのだ。魔王の選定が、私たちが勇者を選定する流れと同じだとなると、選ばれるのは勇者同様異世界の人間であることが考えられる。

 ここまでの私の仮説が正しいとすれば、魔王と契約する堕天使がセトである可能性が高い。だから私は思ったのだ。「あやつが魔王の契約をする前に、私たちが先に勇者の契約をしてしまえばいい」とな。

 そして、あやつが選びそうだと思った人間こそがライト・オオダテだった。

 ライトが完璧な人材だということは、兄である貴様が一番良く知っているだろう。おそらくマリア姉さんとの相性を考えてミナトが勇者に選ばれたのだろうが、スペック自体は前任と引けを取らない存在だったはずだ。

 実際、ライト以外にも勇者の候補は上がっていた。だがライトは他の候補と違って見えた。勇者に近い存在であると同時に、魔王にも近い存在のように思えたのだ。

 エスメラルダ様から見れば、能力もあって人望も厚いライトは良き勇者になると思っただろう。だが、私はあいつの「完璧な人間性」から「綻びから生じる破壊衝動」と感じ取れたのだ。そして、セトはそういう奴と魔王にしたがりそうだと思った。

 勿論、そのことはエスメラルダ様に言っていない。あの方は神だ。どんなに優秀な人間であっても、魔王にもなりえる人材を勇者とは認めないだろう。

 しかし、幸いライトのスペックは建前となるには十分すぎるほど優秀だった。だからエスメラルダ様も「勇者に相応しいステータスだ」と判断できた。

 これで、あとはライトと契約するだけとなった。だが、貴様もご存じの通り、私はドジを踏んだ。

 この時の私は相当焦っていた。なんせセトよりも早くライトと契約をする必要があったからな。

 しかし、この土壇場で不運が重なった。一つは紙一重の差で先にセトに契約を追い越されたこと。そしてもう一つは、ライトが一卵性双生児として生まれていたことを知らなかったことだ。

 勇者候補を選ぶ時、エスメラルダ様により優秀な人材が選定される。おそらくこれは魔王候補を選ぶ時も同様だろう。

 そしてその時、間違いなく貴様は選定から弾かれていた。だから私もエスメラルダ様も、多分セトですら貴様の存在を知らなかった。
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