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第14章 旅立ちへ
第193話 責任の所在は大概醜い
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マリア姉さんがエスメラルダ様の謁見の間に戻った時、すでに彼女の体は透明になっていた。
神の使いである私たちに囲まれる形で、マリアは泣きながらエスメラルダ様に謝罪した。
『ごめんなさい……私がもっとミナトの気持ちをわかっていれば……本当に、ごめんなさい』
彼女から説明がなくても、みんな察しがついていた。ミナトが自ら命を絶った理由は、「魔王討伐」に対する重圧からだ。どんなに高い魔力があっても、どんなに魔物に負けない強さがあっても、あいつの心は最初から魔王に負けていたのだ。
『私、ずっとミナトに言ってました……『ミナトは大丈夫』『ミナトなら絶対に魔王に勝てる』って……ミナトも笑ってくれていたから勘違いしてたんです……それが……ミナトを苦しめていたなんて……』
ミナトを殺したのは私だ。マリア姉さんはそう言って頭を額にこすりつけるくらいエスメラルダ様と私たち神の使いに頭を下げた。それが「土下座」といって、ミナトの世界で使われる最大級の謝罪姿勢だというのは後から知った。
ミナトの自殺はマリア姉さんの監督責任だと、その場にいた殆どの神の使いが彼女を罵った。自分だってミナトに期待していたくせに都合の悪いところだけマリア姉さんに押し付ける。実に醜い戯言だった。それでもマリア姉さんは顔を上げずに「ごめんなさい」「ごめんなさい」とずっと謝っていた。
──気がつけば、私はマリア姉さんをかばうように彼女の前に立っていた。
そして、セトはマリアに戯言を言った神の使いの顔面をぶん殴っていた。
『お前らおかしいだろ! なんでマリアだけ責められなきゃいけないんだよ! こうなったの、俺たちのせいだろ!!』
セトの怒声に誰もが目を合わせなかった。
セトの言うことは間違っていない。ミナトを殺したのは、重圧を背負わせたのは、他でもない神と神の使いである私たちだ。それはみんなわかっていた。わかっていたが、ここで認めると「自分も勇者殺しに加担した」と認めることになってしまう。だからあやつらは案内人であるマリア姉さんに責任を負わせようとしたのだ。
そして、少数者は多数者の前ではなんの意味もなさない。そのことをこの場でよく思い知らされた。
『貴様! よくも殴ったな!』
『取り押さえろ!』
『うるせえ! 間違ってるのはお前らだろ!』
他の神の使いに取り押さえられながらも、セトは騒いで喚いた。体を倒され、頭や胴体を数人に押さえつけられた状態になっても、あやつは他の連中やエスメラルダ様を睨みつけていた。
エスメラルダ様は、そんなあやつを憐れむような眼差しで見つめていた。多分、それがあの方の過ちだった。
『──黙ってないでなんか言えよ、エスメラルダ! 元はと言えば、あんたの人選ミスだろ! なんであんな弱い奴を勇者に選んだんだ! なんでマリアをあんな弱い奴と契約させたんだ!!』
セトは血走った眼でエスメラルダ様を睨みつけながら叫んだ。だが、今度はセトが殴られた。
『この不敬者を連れていけ!』
『こいつはエスメラルダ様を侮辱した!』
『こんな奴をエスメラルダ様の使いにさせられるか!』
そうやってセトは数人に取り押さえられながら、引きずられるように謁見の間を追い出された。
その時もあいつはずっとエスメラルダ様に向けて叫び続けていた。
『答えろよ、エスメラルダ!』
『謝れよ!』
『マリアに謝れよ!!』
謁見の間の扉が閉められても、セトの声が枯れた叫び声は漏れて私たちの耳に届いていた。
その叫びをエスメラルダ様はただ黙って、苦しそうにしながら聞いていた。あのお方の指名は世界の平和。そのためには手段を問わない。だからエスメラルダ様だけはどんなことがあっても自分を曲げてはいけないし、威儀を正さなければいけない。世界は、神にですら無情だった。
神の使いである私たちに囲まれる形で、マリアは泣きながらエスメラルダ様に謝罪した。
『ごめんなさい……私がもっとミナトの気持ちをわかっていれば……本当に、ごめんなさい』
彼女から説明がなくても、みんな察しがついていた。ミナトが自ら命を絶った理由は、「魔王討伐」に対する重圧からだ。どんなに高い魔力があっても、どんなに魔物に負けない強さがあっても、あいつの心は最初から魔王に負けていたのだ。
『私、ずっとミナトに言ってました……『ミナトは大丈夫』『ミナトなら絶対に魔王に勝てる』って……ミナトも笑ってくれていたから勘違いしてたんです……それが……ミナトを苦しめていたなんて……』
ミナトを殺したのは私だ。マリア姉さんはそう言って頭を額にこすりつけるくらいエスメラルダ様と私たち神の使いに頭を下げた。それが「土下座」といって、ミナトの世界で使われる最大級の謝罪姿勢だというのは後から知った。
ミナトの自殺はマリア姉さんの監督責任だと、その場にいた殆どの神の使いが彼女を罵った。自分だってミナトに期待していたくせに都合の悪いところだけマリア姉さんに押し付ける。実に醜い戯言だった。それでもマリア姉さんは顔を上げずに「ごめんなさい」「ごめんなさい」とずっと謝っていた。
──気がつけば、私はマリア姉さんをかばうように彼女の前に立っていた。
そして、セトはマリアに戯言を言った神の使いの顔面をぶん殴っていた。
『お前らおかしいだろ! なんでマリアだけ責められなきゃいけないんだよ! こうなったの、俺たちのせいだろ!!』
セトの怒声に誰もが目を合わせなかった。
セトの言うことは間違っていない。ミナトを殺したのは、重圧を背負わせたのは、他でもない神と神の使いである私たちだ。それはみんなわかっていた。わかっていたが、ここで認めると「自分も勇者殺しに加担した」と認めることになってしまう。だからあやつらは案内人であるマリア姉さんに責任を負わせようとしたのだ。
そして、少数者は多数者の前ではなんの意味もなさない。そのことをこの場でよく思い知らされた。
『貴様! よくも殴ったな!』
『取り押さえろ!』
『うるせえ! 間違ってるのはお前らだろ!』
他の神の使いに取り押さえられながらも、セトは騒いで喚いた。体を倒され、頭や胴体を数人に押さえつけられた状態になっても、あやつは他の連中やエスメラルダ様を睨みつけていた。
エスメラルダ様は、そんなあやつを憐れむような眼差しで見つめていた。多分、それがあの方の過ちだった。
『──黙ってないでなんか言えよ、エスメラルダ! 元はと言えば、あんたの人選ミスだろ! なんであんな弱い奴を勇者に選んだんだ! なんでマリアをあんな弱い奴と契約させたんだ!!』
セトは血走った眼でエスメラルダ様を睨みつけながら叫んだ。だが、今度はセトが殴られた。
『この不敬者を連れていけ!』
『こいつはエスメラルダ様を侮辱した!』
『こんな奴をエスメラルダ様の使いにさせられるか!』
そうやってセトは数人に取り押さえられながら、引きずられるように謁見の間を追い出された。
その時もあいつはずっとエスメラルダ様に向けて叫び続けていた。
『答えろよ、エスメラルダ!』
『謝れよ!』
『マリアに謝れよ!!』
謁見の間の扉が閉められても、セトの声が枯れた叫び声は漏れて私たちの耳に届いていた。
その叫びをエスメラルダ様はただ黙って、苦しそうにしながら聞いていた。あのお方の指名は世界の平和。そのためには手段を問わない。だからエスメラルダ様だけはどんなことがあっても自分を曲げてはいけないし、威儀を正さなければいけない。世界は、神にですら無情だった。
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