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第14章 旅立ちへ

第189話 違和感は自分じゃ気づけない

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 リオンに言われ、俺もアンジェもアルジャーの指名手配書に顔を寄せた。

 言われてみればそうだ。火属性の者は髪色も瞳の色も属性にちなんだ色となる。奴の髪色が赤いからこうして似顔絵で見る分には違和感はないが、あいつの瞳の色は違っていた。

「この人の目の色……ムギト君と同じだったよね」

「……俺と?」

 アルジャーの目の色は紫色だった。リオンに言われるまですっかり忘れていたが、俺の目の色も紫色だ。

 試しにケインの指名手配書を見ると、目の色が緑色になっていた。あいつの目の色も紫色だ。この二人は、途中から目の色が変わっているのだ。そしておそらく、パルスも。

「そういえば、ライトの目の色ってどうなってた?」

「そうねえ……はっきりとは言えないけど、『ムギちゃんと同じ顔』という印象だったから目の色も同じだったのではないかしら」

 アンジェの答えにセリナもコクリと頷く。どちらにしろ、奇妙な共通点だ。

「魔王や魔王の配下になったら、目の色が変わるってこと?」

「でも、俺はあいつの配下になんてなってないぞ?」

「それもそうだわ……」

 アンジェと二人で考え込んでいると、ノアが何かに気づいたのかニヤリと笑った。

「セリナ……貴様、他にもこやつらの共通点を知っているだろう?」

 ノアに問われ、セリナは神妙な顔つきのまま首を縦に振った。

「少なくとも……ケイン、アルジャー、パルスの死刑はすでに執行されています」

「はっ!? こいつら、三人共死んでるっつうのかよ!」

 あり得ない。あの三人は全員俺たちの目の前で喋って、動いて、そして戦った。バトルフォークを突き刺した感覚だって確かにあった。それなのに、セリナは少なくとも数年前には死んでいるというではないか。

 唖然としていると、ノアがいきなりピョンッと俺の肩の上に乗ってきた。

「何も死んだことがあるのはこの三人だけではない……なあ、勇者様」

 その核心突いたノアの発言にドキッとした。そうだ。死んでいるのはこの三人だけでない。

「俺も……死んだことあった」

 その発言に三人は「え?」と声が出るくらい驚いていた。けれども、俺が本当はこの世界の人間ではないことと、現実世界で死んでからこの『エムメルク』にやってきたことを話すと、腑に落ちたようだった。

「つまり、ムギちゃんたち転生者はみんな紫色になるってことね」

「そういうことだ。こやつ以外、転生した場所が違うってだけでな」

「転生した場所……魔界ってことか?」

「魔王の配下っつうことは、そうなんだろうよ」

「でも、いったいどうやって転生を……あのセトって奴が契約しているのか?」

「いや、それはない。多分、あいつが契約しているのはライトだけだ」

「なら、どうやって転生を……」

 そこで、俺たちの会話は途切れた。完全に煮詰まってしまった。なんせ俺たちは、魔界のことを何も知らない。

「あー、もう無理だ」

 バタンと後ろに倒れて仰向けになる。けれども俺の視界に入ったのは、青い空ではなくセリナのゴーレムだった。

「ムー!」

「おわっ!」

 慌てて飛びあがると、ゴレちゃんかムンちゃんかもわからないゴーレムが何かアピールするように両手をあげながらピョンピョン飛んでいた。

「もしかして、お掃除終わりました?」

「ムー!」

「あら、早いわね。ご苦労様」

 アンジェがゴーレムを労うと、ゴーレムは万歳をしながら地面に戻っていった。他のゴーレムたちも玄関から出てきたと思ったら地面へと帰っていく。その不思議な光景をリオンは「おー」と楽しそうに見ていた。

 先ほどまでのシリアスな雰囲気はどこへ行ったのやら、ゴーレムたちの割り込みによってそんな空気感は見事に消えてしまった。

「……気分転換に買い物でも行く?」

「いいですね。周辺の情報も知りたいですし」

 一息ついたアンジェの提案にセリナが乗る。勿論、俺も誘われたが、俺はやんわりと断った。

「俺は留守番してるわ。魔王と同じ顔でうろついてトラブルにもなりたくないし」

「そうね……わかったわ」

「ここは私たちに任せてください。街の様子も見てきます」

「おう、頼んだわ。リオンもよろしくな」

「うん。ムギト君の分も頑張る」

 素直に頷いたリオンは、徐にこの家に手をかざした。いつでもここへ戻れるように「ピン留め」をしたのだ。これで万が一道に迷っても、リオンがいれば大丈夫ということだ。

「それじゃ、行ってくるわね」

 出かける三人を、手を振って見送る。その様子をノアはゆらゆらと尻尾を揺らしながら眺めていた。
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