187 / 242
第14章 旅立ちへ
第187話 勇者の住居
しおりを挟む
「やれやれ」と頭を抱えていると、ノアがリオンを背中に乗せたままエスメラルダさんに近づいた。
「エスメラルダ様、そろそろ──」
「そうですね。リオン、みなさまもノアの背中に乗せてもらえますか?」
「うん!」
リオンの元気な返事が聞こえたと思うと、俺たちの体がふわりと浮かんだ。リオンが風の魔法を使ったのだ。
「おわっ!」
「ひゃっ」
「キャッ!」
それぞれ短い悲鳴をあげながら、ノアの背中に乗せられる。人間四人、ちゃんとノアにまたぐことができた。ただ、ここからうっかり落馬……ならぬ、落猫をすると死にそうである。
そんな心配をよそに、エスメラルダさんは持っていたロッドをひょいっと振った。
ふわっと風が吹いたかと思うと、瞬きしている間に神殿の外へ出ていた。女神様にしてみれば、瞬間移動なんてロッドひと振りで出てきてしまうらしい。
「それでは、お気をつけて……あなた方の祝福をお祈りしております」
「はい、エスメラルダ様」
「温かきお言葉をありがとうございます」
見送るエスメラルダ様にアンジェとセリナがお辞儀をする。別れの挨拶を済ませると、ノアはゆっくりとエスメラルダさんに背中を向けた。いよいよ、新たな地への旅立ちだ。
「ムギト」
エスメラルダさんに名を呼ばれ、徐に振り向く。すると、エスメラルダさんは申し訳なさそうに眉尻を垂らしながら俺に告げた。
「──ノアのこと、どうかよろしくお願いします」
その表情が胸が張り裂けそうなくらい心苦しそうだったので、俺は不思議に思いつつもとりあえず敬礼しておいた。
ノアが後ろ足を蹴って走り出す。その勢いの良さに、たまらず「うお!」と声をあげてしまう。
「おいノア! もっと丁寧に走れよ!」
文句を言ってみたが、先ほどの神妙な顔つきはどこへ行ったのやら、ノアから「ああ?」とやる気のない声が返ってきた。
「そんなこと言われても困る。そもそもこの姿になるのは私も初めてだ。振り落とされても文句言うなよ」
「えぇぇぇ」
なんて理不尽。しかし、ノアはその言葉通りに俺たちに遠慮なく空の旅をしていた。空中を蹴りながら、風を切って下降していく。
「わーい!」
「あぁぁぁぁ」
走行中も降下中も、リオンの無邪気な声と俺を含めた大人たちの情けない悲鳴が天空に響き渡る。しかし、こんなにも騒いでもノアは聞く耳も持たず、そして、一切スピードを落とすこともせず、目的地へと向かった。
──そして、ついに俺たちは例の拠点へとたどり着いた。体感にして一時間。だが、実際には十五分かそこらしか経っていないという。
リオンの風の魔法を使ってノアの背中から降りる。
この時点ですでに三半規管が壊れており、地面に足がついているはずなのにまだ体が浮いているような感覚があった。それはアンジェやセリナも同様で、三人共ヘロヘロになりながらひざまずいていた。
「大の大人がなんてだらしないのだ。リオンを見習えたまえ」
「誰のせいでこうなったと思ってるんだ……」
と、苦言を言いながら顔を上げると、ノアはすでにいつもの猫の姿になっていた。
しかも「新たな定位置」と言わんばかりにリオンの頭の上にちょこんと座っている。一方、リオンはこの地上と天界のとんでもない高低差の移動でもなんともないらしく、一人だけピンピンしていた。
「でも、見てよ。凄いよ、ここ」
リオンに言われ、くらくらしていた頭を徐に上げる。そして、そこから飛び込んできた光景に思わず声が漏れた。
「おぉ……」
久しぶりに出した感嘆の声だった。前任が使っていた拠点は岬の上にある小さな一軒家だった。岬から見える広い海は太陽の光に反射してキラキラと輝いている。この空が赤くなければもっと綺麗だったことだろう。
「へえ……良い家ね」
アンジェは一軒家を見つめながら小さく呟いた。木造の外壁は白いペンキが塗られており、屋根は朱色。岬といい、背景の海といい、ここだけ見ると映画のワンシーンにでも出てきそうだ。
「エスメラルダ様、そろそろ──」
「そうですね。リオン、みなさまもノアの背中に乗せてもらえますか?」
「うん!」
リオンの元気な返事が聞こえたと思うと、俺たちの体がふわりと浮かんだ。リオンが風の魔法を使ったのだ。
「おわっ!」
「ひゃっ」
「キャッ!」
それぞれ短い悲鳴をあげながら、ノアの背中に乗せられる。人間四人、ちゃんとノアにまたぐことができた。ただ、ここからうっかり落馬……ならぬ、落猫をすると死にそうである。
そんな心配をよそに、エスメラルダさんは持っていたロッドをひょいっと振った。
ふわっと風が吹いたかと思うと、瞬きしている間に神殿の外へ出ていた。女神様にしてみれば、瞬間移動なんてロッドひと振りで出てきてしまうらしい。
「それでは、お気をつけて……あなた方の祝福をお祈りしております」
「はい、エスメラルダ様」
「温かきお言葉をありがとうございます」
見送るエスメラルダ様にアンジェとセリナがお辞儀をする。別れの挨拶を済ませると、ノアはゆっくりとエスメラルダさんに背中を向けた。いよいよ、新たな地への旅立ちだ。
「ムギト」
エスメラルダさんに名を呼ばれ、徐に振り向く。すると、エスメラルダさんは申し訳なさそうに眉尻を垂らしながら俺に告げた。
「──ノアのこと、どうかよろしくお願いします」
その表情が胸が張り裂けそうなくらい心苦しそうだったので、俺は不思議に思いつつもとりあえず敬礼しておいた。
ノアが後ろ足を蹴って走り出す。その勢いの良さに、たまらず「うお!」と声をあげてしまう。
「おいノア! もっと丁寧に走れよ!」
文句を言ってみたが、先ほどの神妙な顔つきはどこへ行ったのやら、ノアから「ああ?」とやる気のない声が返ってきた。
「そんなこと言われても困る。そもそもこの姿になるのは私も初めてだ。振り落とされても文句言うなよ」
「えぇぇぇ」
なんて理不尽。しかし、ノアはその言葉通りに俺たちに遠慮なく空の旅をしていた。空中を蹴りながら、風を切って下降していく。
「わーい!」
「あぁぁぁぁ」
走行中も降下中も、リオンの無邪気な声と俺を含めた大人たちの情けない悲鳴が天空に響き渡る。しかし、こんなにも騒いでもノアは聞く耳も持たず、そして、一切スピードを落とすこともせず、目的地へと向かった。
──そして、ついに俺たちは例の拠点へとたどり着いた。体感にして一時間。だが、実際には十五分かそこらしか経っていないという。
リオンの風の魔法を使ってノアの背中から降りる。
この時点ですでに三半規管が壊れており、地面に足がついているはずなのにまだ体が浮いているような感覚があった。それはアンジェやセリナも同様で、三人共ヘロヘロになりながらひざまずいていた。
「大の大人がなんてだらしないのだ。リオンを見習えたまえ」
「誰のせいでこうなったと思ってるんだ……」
と、苦言を言いながら顔を上げると、ノアはすでにいつもの猫の姿になっていた。
しかも「新たな定位置」と言わんばかりにリオンの頭の上にちょこんと座っている。一方、リオンはこの地上と天界のとんでもない高低差の移動でもなんともないらしく、一人だけピンピンしていた。
「でも、見てよ。凄いよ、ここ」
リオンに言われ、くらくらしていた頭を徐に上げる。そして、そこから飛び込んできた光景に思わず声が漏れた。
「おぉ……」
久しぶりに出した感嘆の声だった。前任が使っていた拠点は岬の上にある小さな一軒家だった。岬から見える広い海は太陽の光に反射してキラキラと輝いている。この空が赤くなければもっと綺麗だったことだろう。
「へえ……良い家ね」
アンジェは一軒家を見つめながら小さく呟いた。木造の外壁は白いペンキが塗られており、屋根は朱色。岬といい、背景の海といい、ここだけ見ると映画のワンシーンにでも出てきそうだ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣
ゆうた
ファンタジー
起きると、そこは森の中。パニックになって、
周りを見渡すと暗くてなんも見えない。
特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。
誰か助けて。
遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。
これって、やばいんじゃない。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる