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第14章 旅立ちへ
第186話 ノアが運ぶね
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「ご覧ください」
エスメラルダさんは椅子に立てかけていたロッドを手に持つと、スクリーンに映った南の大陸をそれで指した。
「こちらが『オルヴィルカ』です」
『オルヴィルカ』は大陸の南西にある平地だった。少し西に行ったところで陸繋島になっているところが『カトミア』だろう。
「そしてこの中央の山岳地帯が『アルカミラ』。魔王はここを拠点としています」
言われなくても、「そうだろうな」と薄々思っていた。なんせこの山から禍々しい雰囲気を感じる。大方、この火山から魔界に通じているとでも言うのだろう。勿論、最終的に俺たちが向かう場所もそこだ。
しかし、エスメラルダさんが指したのは南の大陸の最北──『アルカミラ』と一番隣接している地帯だった。
「戦う前に、みなさまにも拠点がないと何かと不便でしょう。こちらに『イルニス』という街があります。前任が使っていた家もあるので、ご自由にお使いください」
前任。エスメラルダさんがその単語を言った時、ノアの肩がピクッと動いた気がした。思い当たるところがあるのだろうか。けれども一瞬浮かんだその疑問は、アンジェの問いによってかき消された。
「お気遣いありがとうございます。しかし、お言葉ですが魔王が復活した今、馬車すら持たない我々がそんな最果ての地まで向かう時間は残されているのでしょうか」
ごもっともな意見である。
地図に描かかれた『オルヴィルカ』と『カトミア』の尺度から見ても『イルニス』という街は日本を横断するよりも距離がある。歩いて行ける距離ではない。それなのに、エスメラルダさんは「案ずるな」と言わんばかりに微笑んだ。
「心配ご無用です。ねえ、ノア」
エスメラルダさんに話を振られたノアはゆっくりと頭を上げた。
「準備はよろしくて?」
「いつでもどうぞ」
「それでは──えいっ!」
エスメラルダさんがお茶目な掛け声を共に持っていたロッドをノアに振りかざした。
ロッドの切っ先が光り、ノアの体を包み込む。その光がノアを隠したと思ったら、その光の中でノアの姿がみるみると変わっていった。人型のシルエットから四足歩行の獣となり、徐々に大きくなっていく。
言葉を失っているうちにノアを包んだ光がパッと消えた。
出てきたのは紺色の毛並みの猫だった。無論、いつもの猫の姿ではない。体長は二メートルあるだろうか。ゾウのように大きく、背中には翼が生えている。神々しい姿はまさに聖獣──なのだが。
「ま、まさか、これに乗れと……?」
恐る恐るエスメラルダさんに尋ねると、彼女は目を細めてニコッと笑った。
彼女の表情にアンジェは固まり、セリナは細い体をカタカタと震わせている。目を輝かせているのはリオンだけであろう。
「すごーい! ノア、乗っていいの?」
「ああ。乗るがいい。特別だぞ」
ノアがニヤリと笑うと、大きな八重歯がチラリと見えた。
目の前にいるノアは大きな獣。それなのに、リオンは怖がることなく「わー!」と感嘆の声をあげながら、さっそくノアの背中に乗っていた。
ノアがノシノシと歩くとリオンが楽しそうに「キャッキャッ」と笑う。リオンが乗ってもノアの胴体にはまだまだ人が乗れるスペースがあり、俺たち三人が乗っても余裕そうだ。乗り心地が良いかは置いておいて。
俺たちが唖然としながらノアを見上げていると、エスメラルダさんが声をかけてくれた。
「いかがですか? 立派なものでしょう?」
「いや、確かに立派ではあるんすが……これ、本当に大丈夫なんすか? こんなの乗っていたら、街中パニックになりそうなんすけど」
「ご安心を。聖獣は神に選ばれた者しか乗れませんし、見えません。スピードも馬車の数倍はありますので、目的地まであっという間に着きますし、天界と地上も楽に移動できますよ」
「へー……天界と地上をね」
ということは、あんな意識が飛ぶような恐怖はもう二度と味合わなくていい訳か。
「──どうして行きの時も使ってくれなかったんすか……」
あの時、もうすでにみんな神に認められていたじゃん。最初からノアの背中に乗せてくれればあんな恐怖の人体スペースシャトルなんてやらなくてよかったじゃん。マジで死んだと思ったのに。
そう言ったらエスメラルダさんが目を丸くしながら「ハッ!」としていた。気づいていなかったんかい。もしかしてこの人、天然なのだろうか。
エスメラルダさんは椅子に立てかけていたロッドを手に持つと、スクリーンに映った南の大陸をそれで指した。
「こちらが『オルヴィルカ』です」
『オルヴィルカ』は大陸の南西にある平地だった。少し西に行ったところで陸繋島になっているところが『カトミア』だろう。
「そしてこの中央の山岳地帯が『アルカミラ』。魔王はここを拠点としています」
言われなくても、「そうだろうな」と薄々思っていた。なんせこの山から禍々しい雰囲気を感じる。大方、この火山から魔界に通じているとでも言うのだろう。勿論、最終的に俺たちが向かう場所もそこだ。
しかし、エスメラルダさんが指したのは南の大陸の最北──『アルカミラ』と一番隣接している地帯だった。
「戦う前に、みなさまにも拠点がないと何かと不便でしょう。こちらに『イルニス』という街があります。前任が使っていた家もあるので、ご自由にお使いください」
前任。エスメラルダさんがその単語を言った時、ノアの肩がピクッと動いた気がした。思い当たるところがあるのだろうか。けれども一瞬浮かんだその疑問は、アンジェの問いによってかき消された。
「お気遣いありがとうございます。しかし、お言葉ですが魔王が復活した今、馬車すら持たない我々がそんな最果ての地まで向かう時間は残されているのでしょうか」
ごもっともな意見である。
地図に描かかれた『オルヴィルカ』と『カトミア』の尺度から見ても『イルニス』という街は日本を横断するよりも距離がある。歩いて行ける距離ではない。それなのに、エスメラルダさんは「案ずるな」と言わんばかりに微笑んだ。
「心配ご無用です。ねえ、ノア」
エスメラルダさんに話を振られたノアはゆっくりと頭を上げた。
「準備はよろしくて?」
「いつでもどうぞ」
「それでは──えいっ!」
エスメラルダさんがお茶目な掛け声を共に持っていたロッドをノアに振りかざした。
ロッドの切っ先が光り、ノアの体を包み込む。その光がノアを隠したと思ったら、その光の中でノアの姿がみるみると変わっていった。人型のシルエットから四足歩行の獣となり、徐々に大きくなっていく。
言葉を失っているうちにノアを包んだ光がパッと消えた。
出てきたのは紺色の毛並みの猫だった。無論、いつもの猫の姿ではない。体長は二メートルあるだろうか。ゾウのように大きく、背中には翼が生えている。神々しい姿はまさに聖獣──なのだが。
「ま、まさか、これに乗れと……?」
恐る恐るエスメラルダさんに尋ねると、彼女は目を細めてニコッと笑った。
彼女の表情にアンジェは固まり、セリナは細い体をカタカタと震わせている。目を輝かせているのはリオンだけであろう。
「すごーい! ノア、乗っていいの?」
「ああ。乗るがいい。特別だぞ」
ノアがニヤリと笑うと、大きな八重歯がチラリと見えた。
目の前にいるノアは大きな獣。それなのに、リオンは怖がることなく「わー!」と感嘆の声をあげながら、さっそくノアの背中に乗っていた。
ノアがノシノシと歩くとリオンが楽しそうに「キャッキャッ」と笑う。リオンが乗ってもノアの胴体にはまだまだ人が乗れるスペースがあり、俺たち三人が乗っても余裕そうだ。乗り心地が良いかは置いておいて。
俺たちが唖然としながらノアを見上げていると、エスメラルダさんが声をかけてくれた。
「いかがですか? 立派なものでしょう?」
「いや、確かに立派ではあるんすが……これ、本当に大丈夫なんすか? こんなの乗っていたら、街中パニックになりそうなんすけど」
「ご安心を。聖獣は神に選ばれた者しか乗れませんし、見えません。スピードも馬車の数倍はありますので、目的地まであっという間に着きますし、天界と地上も楽に移動できますよ」
「へー……天界と地上をね」
ということは、あんな意識が飛ぶような恐怖はもう二度と味合わなくていい訳か。
「──どうして行きの時も使ってくれなかったんすか……」
あの時、もうすでにみんな神に認められていたじゃん。最初からノアの背中に乗せてくれればあんな恐怖の人体スペースシャトルなんてやらなくてよかったじゃん。マジで死んだと思ったのに。
そう言ったらエスメラルダさんが目を丸くしながら「ハッ!」としていた。気づいていなかったんかい。もしかしてこの人、天然なのだろうか。
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