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第13章 神と魔王が動き出す
第179話 隠し忘れ
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「アンジェ君がお腹空いてるだろうからって」
「あ、うん……ありがとう」
トレイを受け取ったが、リオンはリビングに戻ることなく、俺のベッドに座った。
リオンの視線が熱い。どうやら俺がちゃんと夕食を取るか見ているみたいだ。
仕方なくトレイをテーブルに持っていき、アンジェの作った夕食を口に入れる。
気を遣ってくれてか、彼が作ってくれたのはどれも俺の好物だった。けれども、残念ながらいつもの美味しさは今の俺には感じなかった。
流し込むように夕食を胃に入れて完食しても、リオンが部屋を出る気配はない。
「……どうした?」
リオンの隣に座って尋ねると、リオンは寂しそうな声でこう訊いた。
「ムギト君……この街から出て行っちゃうんでしょ?」
その問いに胸がキュッと絞めつけられた。きっと、先ほど俺が不在にしている間にアンジェが彼に教えたのだろう。頭の中では理解していても、改めて事実を突きつけられるときついものがあった。
「……そうだよ。リオンとは、残念ながらここでお別れ──」
そこまで言った時、リオンがギュッと俺のことを抱きしめた。
「えっと……リオン?」
無言で抱きしめるリオンに俺はひそかに戸惑っていた。寂しがってくれているのだろうか。それとも甘えてくれているのか。どちらにしろ、こんなにも懐いて慕ってくれた彼にはこんな別れになって申し訳なく感じた。
しかし、リオンが俺をこんなに抱きしめる理由はどれでもなかった。
「……前に兄ちゃんが言っていたの。『自分の好きな人が悲しんでいる時は、黙って抱きしめてやれ』って」
リオンの腕の力がさらに強くなる。それと同時に、あの不良エルフの顔が脳裏に浮かんだが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
「──柄じゃないことを言いやがって」
そう呟いた俺の腕は自然とリオンの小さな背中に回っていた。リオンの体が温かい。人のぬくもりが、優しさが、こんなにも温かい。
「僕ね……ムギト君のそばにいるよ。ムギト君と、どこでも一緒に行くよ。だから、ムギト君は一人じゃないんだよ」
リオンの声が涙で震えている。小さな彼の大きな決意だ。それに触れてしまうと、胸の中から何かがこみ上げてきた。
「……ごめんなリオン。ありがとう」
泣きそうになるのをグッと堪えると、リオンは濡れた顔を俺の胸に押し付けた。泣かせてしまったのは、俺のほうだった。
リオンが声をあげることなく静かに泣いている。そんな彼の背中をポンポンと叩いていると、そのうちリオンはうとうとし始めた。彼の疲労はまだ残っていたのだろう。やがて寝息を立てて眠り始めた。
リオンをベッドに寝かせていると、家の外から竪琴の音色が聞こえてきた。外を見ると、黒いシルエットだけが見える。きっとアンジェだろう。
俺は空になった皿とトレイを持ち、部屋の灯りをそっと消した。
リオンの寝息を背に、静かに部屋を出る。リビングは食卓テーブルのところだけポツンとランプの灯りがついていた。食器は俺の使ったもの以外洗われている。
竪琴を聴きながら、自分が使った食器を洗う。
綺麗な音色だ。聴いているだけで心が安らぐような、そんな音色だ。
音色に誘われるようにランプを持って外に出ると、案の定アンジェが竪琴を弾いていた。煌々と青く光る月の下で竪琴を弾くアンジェ。その姿は、前に見た時と変わらないくらい優美だ。
俺の気配を感じたのか、アンジェの演奏はピタリと止んだ。
「……ご飯食べれた?」
月明りにアンジェの優しい笑みが照らされる。俺は無言で頷くと、アンジェは「そう」と目を細めた。
「リオちゃんは?」
「寝たよ」
「そう、やっぱり疲れてたのね……ねえ、ちょっと話さない?」
と、その場に座ったアンジェはトントンと俺に座るように草原を手で叩いた。
気まずさがなかったと言えば嘘だ。けれども、俺はアンジェにも謝らなければいけないことがあるから、彼の言う通りに隣に座った。
今日の夜空は空気が澄んでいつもより星が瞬いて見えた。意外と俺の心は音色や星空に美しさを感じるほど冷静さを取り戻していた。
だからだろうか。アンジェに対して自然と謝罪の言葉がこぼれ出た。
「……今まで嘘ついててごめん。信じてくれないかもしれないけど……本当は、俺──」
そこまで言ったところで、アンジェが深く息を吐いた。
「──この世界の者ではない……って、言いたいんでしょ?」
ハッとアンジェに顔を向けると、優しく微笑んだアンジェと目が合った。
「あ、うん……ありがとう」
トレイを受け取ったが、リオンはリビングに戻ることなく、俺のベッドに座った。
リオンの視線が熱い。どうやら俺がちゃんと夕食を取るか見ているみたいだ。
仕方なくトレイをテーブルに持っていき、アンジェの作った夕食を口に入れる。
気を遣ってくれてか、彼が作ってくれたのはどれも俺の好物だった。けれども、残念ながらいつもの美味しさは今の俺には感じなかった。
流し込むように夕食を胃に入れて完食しても、リオンが部屋を出る気配はない。
「……どうした?」
リオンの隣に座って尋ねると、リオンは寂しそうな声でこう訊いた。
「ムギト君……この街から出て行っちゃうんでしょ?」
その問いに胸がキュッと絞めつけられた。きっと、先ほど俺が不在にしている間にアンジェが彼に教えたのだろう。頭の中では理解していても、改めて事実を突きつけられるときついものがあった。
「……そうだよ。リオンとは、残念ながらここでお別れ──」
そこまで言った時、リオンがギュッと俺のことを抱きしめた。
「えっと……リオン?」
無言で抱きしめるリオンに俺はひそかに戸惑っていた。寂しがってくれているのだろうか。それとも甘えてくれているのか。どちらにしろ、こんなにも懐いて慕ってくれた彼にはこんな別れになって申し訳なく感じた。
しかし、リオンが俺をこんなに抱きしめる理由はどれでもなかった。
「……前に兄ちゃんが言っていたの。『自分の好きな人が悲しんでいる時は、黙って抱きしめてやれ』って」
リオンの腕の力がさらに強くなる。それと同時に、あの不良エルフの顔が脳裏に浮かんだが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
「──柄じゃないことを言いやがって」
そう呟いた俺の腕は自然とリオンの小さな背中に回っていた。リオンの体が温かい。人のぬくもりが、優しさが、こんなにも温かい。
「僕ね……ムギト君のそばにいるよ。ムギト君と、どこでも一緒に行くよ。だから、ムギト君は一人じゃないんだよ」
リオンの声が涙で震えている。小さな彼の大きな決意だ。それに触れてしまうと、胸の中から何かがこみ上げてきた。
「……ごめんなリオン。ありがとう」
泣きそうになるのをグッと堪えると、リオンは濡れた顔を俺の胸に押し付けた。泣かせてしまったのは、俺のほうだった。
リオンが声をあげることなく静かに泣いている。そんな彼の背中をポンポンと叩いていると、そのうちリオンはうとうとし始めた。彼の疲労はまだ残っていたのだろう。やがて寝息を立てて眠り始めた。
リオンをベッドに寝かせていると、家の外から竪琴の音色が聞こえてきた。外を見ると、黒いシルエットだけが見える。きっとアンジェだろう。
俺は空になった皿とトレイを持ち、部屋の灯りをそっと消した。
リオンの寝息を背に、静かに部屋を出る。リビングは食卓テーブルのところだけポツンとランプの灯りがついていた。食器は俺の使ったもの以外洗われている。
竪琴を聴きながら、自分が使った食器を洗う。
綺麗な音色だ。聴いているだけで心が安らぐような、そんな音色だ。
音色に誘われるようにランプを持って外に出ると、案の定アンジェが竪琴を弾いていた。煌々と青く光る月の下で竪琴を弾くアンジェ。その姿は、前に見た時と変わらないくらい優美だ。
俺の気配を感じたのか、アンジェの演奏はピタリと止んだ。
「……ご飯食べれた?」
月明りにアンジェの優しい笑みが照らされる。俺は無言で頷くと、アンジェは「そう」と目を細めた。
「リオちゃんは?」
「寝たよ」
「そう、やっぱり疲れてたのね……ねえ、ちょっと話さない?」
と、その場に座ったアンジェはトントンと俺に座るように草原を手で叩いた。
気まずさがなかったと言えば嘘だ。けれども、俺はアンジェにも謝らなければいけないことがあるから、彼の言う通りに隣に座った。
今日の夜空は空気が澄んでいつもより星が瞬いて見えた。意外と俺の心は音色や星空に美しさを感じるほど冷静さを取り戻していた。
だからだろうか。アンジェに対して自然と謝罪の言葉がこぼれ出た。
「……今まで嘘ついててごめん。信じてくれないかもしれないけど……本当は、俺──」
そこまで言ったところで、アンジェが深く息を吐いた。
「──この世界の者ではない……って、言いたいんでしょ?」
ハッとアンジェに顔を向けると、優しく微笑んだアンジェと目が合った。
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