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第13章 神と魔王が動き出す
第177話 神官長の慈悲
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「や、やめてくださいオズモンドさん!」
咄嗟に叫ぶが、オズモンドさんにためらいはない。目を閉じ、息をひそめて俺のマジックパワーを探っている。
「神官長……以前自分も探りましたが、彼のクラスは──」
そうミドリーさんが口を挟もうとした時、オズモンドさんの目がカッと開いた。そして、静かに俺たちに向けて告げたのだ。
「こやつのクラスは……【赤子の悪魔】」
心臓が止まった気がした。中には呆気に取られた者もいたが、大概が大きく開いた口が塞がっていなかった。
だが、どうして知られてしまったのだ。ミドリーさんがやった時、「マジックパワーが探れない」と言っていたではないか。あの時と比べてマジックパワーが増えたから? それとも、神官長のオズモンドさんがやったから? いや、憶測は後回しだ。
「なんだそのクラス……聞いたことがないぞ」
「でも、悪魔ってことは魔王の手下?」
「そういえば、魔王とこの人同じ顔だったよね?」
街の人からそんな声が聞こえてくる。腹の底から「違う!」と声を張りあげたが、オズモンドさんの表情は変わらなかった。
「……違うとは、どういう意味だ?」
「お、俺は……あいつの仲間なんかじゃない。むしろ、俺は魔王を倒しにきたんだ」
「しかし、魔王は弟なのだろう?」
「それは……そうだけど」
そこを突かれると何も言い返せなかった。魔王の凶暴性は今しがた見たばかりだ。そんな奴と兄弟──しかも、同じ顔をしておいて「味方ではない」なんて、誰が信じてくれるか。
「クラス、血縁……それだけでもお主と魔王は切っても切れない関係にある。この先、魔王側に着く可能性だって捨てきれない。それに……自己犠牲とはいえ、こんな莫大な力がある」
ぽつり、ぽつりと呟くオズモンドさんから途轍もない威圧を感じる。しかし、博打とはいえ、この街をめちゃめちゃにしたのはこの俺だ。弁明の余地もなく、ただ俯くことしかできなかった。
気まずい沈黙が流れる。それでもなお、オズモンドさんは神妙な顔つきで何かを考えている。死刑宣告を待つ罪人の気分だ。呼吸すら苦しい。
そんな俺に、オズモンドさんは静かに告げた。
「ムギト……お主には、この街を出て行ってもらう。そして、もう二度とこの街には踏み入れるな」
「……え?」
アンジェから呆気に取られたような声が漏れた。簡単に言えば、追放だ。
顔を上げると、オズモンドさん以外は呆然としていた。ただ、フーリだけはギリッと歯を食いしばって、拳をわなわなと震わせていた。
「それはないだろ神官長! 俺たちはこいつに何度救われたと思ってるんだ!」
フーリはオズモンドさんに掴みかかろうとする勢いで舌を捲し立てた。けれども、それを止めたのはアンジェだった。
「やめてフーリ! 神官長のお言葉よ! 手を出したらあなたがどうなるか……」
「なら、お前はいいのかよアンジェ! こいつがどんな奴か一番知ってるの、お前じゃねえのかよ!」
フーリがアンジェの胸倉に掴みかかる。
けれども、アンジェは抵抗することなく、ただ目を伏せた。そういえば、前に言っていた。神官は神に近い存在。民を統べる力もある。つまり神官長であるオズモンドさんの決定には誰にも逆らえないのだ。
しかし、そんなオズモンドさんであっても、ミドリーさんは反論してくれた。
「お言葉ですが神官長。我々神官を助けてくれたのは他でもなく彼です。むしろ英雄とも言える彼を追放しなくてもいいのでは?」
それを聞いて難しい表情をするオズモンドさんだったが、彼の答えは変わらなかった。
「ミドリー……お主の言うこともよくわかる。しかし、それを加味したうえでの判断だ。歴代の神官長の中には即刻処刑する者もいただろう。これは、私の慈悲だ」
「しかし!」
ミドリーさんが声を荒らげる。けれどもオズモンドさんの表情を見て、ミドリーさんも言葉を失った。
「奴が慕われていることは承知している。けれども、これも民を護るため……仕方がない。仕方がないのだよ」
オズモンドさんの顔が苦痛で歪んでいる。たとえ会ったばかりでもわかってしまう。彼だって、苦渋の決断なのだ。だから、もういい。誰も、俺を庇わなくていい。
「──俺が、この街から出ていけばいいんだろ?」
そう言うと、みんなが息を呑んだ気がした。
咄嗟に叫ぶが、オズモンドさんにためらいはない。目を閉じ、息をひそめて俺のマジックパワーを探っている。
「神官長……以前自分も探りましたが、彼のクラスは──」
そうミドリーさんが口を挟もうとした時、オズモンドさんの目がカッと開いた。そして、静かに俺たちに向けて告げたのだ。
「こやつのクラスは……【赤子の悪魔】」
心臓が止まった気がした。中には呆気に取られた者もいたが、大概が大きく開いた口が塞がっていなかった。
だが、どうして知られてしまったのだ。ミドリーさんがやった時、「マジックパワーが探れない」と言っていたではないか。あの時と比べてマジックパワーが増えたから? それとも、神官長のオズモンドさんがやったから? いや、憶測は後回しだ。
「なんだそのクラス……聞いたことがないぞ」
「でも、悪魔ってことは魔王の手下?」
「そういえば、魔王とこの人同じ顔だったよね?」
街の人からそんな声が聞こえてくる。腹の底から「違う!」と声を張りあげたが、オズモンドさんの表情は変わらなかった。
「……違うとは、どういう意味だ?」
「お、俺は……あいつの仲間なんかじゃない。むしろ、俺は魔王を倒しにきたんだ」
「しかし、魔王は弟なのだろう?」
「それは……そうだけど」
そこを突かれると何も言い返せなかった。魔王の凶暴性は今しがた見たばかりだ。そんな奴と兄弟──しかも、同じ顔をしておいて「味方ではない」なんて、誰が信じてくれるか。
「クラス、血縁……それだけでもお主と魔王は切っても切れない関係にある。この先、魔王側に着く可能性だって捨てきれない。それに……自己犠牲とはいえ、こんな莫大な力がある」
ぽつり、ぽつりと呟くオズモンドさんから途轍もない威圧を感じる。しかし、博打とはいえ、この街をめちゃめちゃにしたのはこの俺だ。弁明の余地もなく、ただ俯くことしかできなかった。
気まずい沈黙が流れる。それでもなお、オズモンドさんは神妙な顔つきで何かを考えている。死刑宣告を待つ罪人の気分だ。呼吸すら苦しい。
そんな俺に、オズモンドさんは静かに告げた。
「ムギト……お主には、この街を出て行ってもらう。そして、もう二度とこの街には踏み入れるな」
「……え?」
アンジェから呆気に取られたような声が漏れた。簡単に言えば、追放だ。
顔を上げると、オズモンドさん以外は呆然としていた。ただ、フーリだけはギリッと歯を食いしばって、拳をわなわなと震わせていた。
「それはないだろ神官長! 俺たちはこいつに何度救われたと思ってるんだ!」
フーリはオズモンドさんに掴みかかろうとする勢いで舌を捲し立てた。けれども、それを止めたのはアンジェだった。
「やめてフーリ! 神官長のお言葉よ! 手を出したらあなたがどうなるか……」
「なら、お前はいいのかよアンジェ! こいつがどんな奴か一番知ってるの、お前じゃねえのかよ!」
フーリがアンジェの胸倉に掴みかかる。
けれども、アンジェは抵抗することなく、ただ目を伏せた。そういえば、前に言っていた。神官は神に近い存在。民を統べる力もある。つまり神官長であるオズモンドさんの決定には誰にも逆らえないのだ。
しかし、そんなオズモンドさんであっても、ミドリーさんは反論してくれた。
「お言葉ですが神官長。我々神官を助けてくれたのは他でもなく彼です。むしろ英雄とも言える彼を追放しなくてもいいのでは?」
それを聞いて難しい表情をするオズモンドさんだったが、彼の答えは変わらなかった。
「ミドリー……お主の言うこともよくわかる。しかし、それを加味したうえでの判断だ。歴代の神官長の中には即刻処刑する者もいただろう。これは、私の慈悲だ」
「しかし!」
ミドリーさんが声を荒らげる。けれどもオズモンドさんの表情を見て、ミドリーさんも言葉を失った。
「奴が慕われていることは承知している。けれども、これも民を護るため……仕方がない。仕方がないのだよ」
オズモンドさんの顔が苦痛で歪んでいる。たとえ会ったばかりでもわかってしまう。彼だって、苦渋の決断なのだ。だから、もういい。誰も、俺を庇わなくていい。
「──俺が、この街から出ていけばいいんだろ?」
そう言うと、みんなが息を呑んだ気がした。
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