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第12章 VS暗殺者・パルス

第169話 新技覚えたなら教えてよ

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 俺の荒声に戦っていた三人の動きが止まった。

 特にパルスは眉をひそめ俺を警戒するように一度下がって距離を取った。いや、今のタイミングだと俺というよりかはノアに警戒しているようだ。奴にとってノアはただの猫だと思っていたのだろう。それが、今、俺と会話しているような光景を見て状況が変わった。

「なんなのですかあなたは……いや、なんなのですか、その猫は」

「気にするな。ただの戯言だ」

 強がって笑ってみせるが、パルスの疑心は拭えていないようだ。疑るような眼差しを向けたまま、クイッと眼鏡を直す。視線は、相変わらず俺の肩の上にいるノアだ。

「……まあ、いいでしょう。どうせ何もできやしない」

「クククッ……おっしゃる通りだ」

 パルスの独り言にノアは肩を揺らしながら笑って答える。だが、ノアの返事はパルスには聞こえていなかった。猫の言葉を理解していないということではない。消えていたのだ。

「また潜られた!」

 咄嗟に辺りを警戒する。あいつの憎たらしい性格から行動を考えれば、背後か死角に回ってきそうだ。となると、一旦しゃがみ込む!

 俺の勘が当たったらしく、パルスは俺の斜め後ろに現れて短剣を振るっていた。俺にしゃがまれて攻撃は空振り。意外そうに目を見開いたパルスと視線がぶつかる。

 今度は俺の番だ。持っていたバトルフォークをパルスに向かって突き上げる。しかし、すぐさま水に潜られ、パルスに逃げられた。

「クッソ、ちょこまかと……!」

 すぐに体勢を整えるが、パルスは俺から逃げるために数メートル離れたところで姿を現した。

「仕方がないじゃないですか。短剣と槍ではリーチが違い過ぎる。こうして即座に距離を詰めないと僕に勝ち目はない」

「こっちだって本気ですから」そう吐き捨てながらもパルスは片手でくるくると短剣を回していた。

 パルスの動きには策がないまま未だに翻弄されている。一気に距離を詰めないと攻撃ができないのが幸いとはいえ、距離の詰め方の速さが目で追えていないのも事実。遅れを取っているから俺は攻撃ができていない。これではいつか攻撃が当たってしまう。

 それと、もう一つ問題がある。

「ノア、さっきの話って――」

 そう話しかけようと視線をずらした途端、パルスが地面を蹴った。

 水飛沫が飛び、俺の視界を白く染める。すぐさま守りに入った時、すでにパルスは俺の懐の中にいた。速い。

 反射的にバトルフォークを振るうと、偶然彼の短剣を捉えた。しかし、パルスはわざと力を抜け、するりと刃を受け流す。そして再び俺に飛び込んで短剣を振るった。

 俺が避けようとするのがわかったらしく、肩にいたノアも飛び降りた。短剣はノアの体をすり抜け、俺の頬を掻っ切る。かろうじて避けることができたのでこれくらいで済んだが、頬からはポタポタと血が流れていた。

「いって~……」

 滴る血が凋落し、水に赤い血液がじんわりと滲む。俺の行動を見ているようで、パルスの追撃はない。かといって、これ以上奴に隙を見せることはできなかった。

 すなわち、ノアに新技を聞くタイミングを完全に見失ってしまった。

 パルスの後ろでノアは俺のことをじっと見つめていた。他の連中には見えていないだろうが、彼の目の前には青い画面が見えている。俺のステータスボードだろう。ただし、ここからでは俺ですら見えない。

 ――どうするよ、ノア。

 視線でノアに訴えるが、ノアはにんまりと口角を上げただけで何も言わなかった。あのタイミングでノアが伝えてきたということは、この戦いを有利にする魔法に違いない。だが、それが何かわからない以上、この状況は打破できない。

 一瞬。ほんの一瞬でいい。あのステータスボードを見て、呪文の内容さえわかればもしかしたら詠唱できるかもしれない。だが、無情にもその「一瞬」ですら与えてくれないのがパルスだ。

 歯を食いしばっていると、ノアが呆れたようにため息をついた。

「なんだ貴様……私がいないと新しい魔法が使えないと思ってるのか?」

「え?」

 思わず声をあげる。

 だって、そうではないか。今までだってステータスの内容はノアにしかわからなかった。そもそもなんの魔法かもわからないのに使える訳がないではないか。

 そう反論する前に、ノアのほうから端的に話を紡いだ。

「貴様が『死の森』で、あんな最初の一瞬でしか見ていない魔法が使えたのはなぜだ?」
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