上 下
164 / 242
第12章 VS暗殺者・パルス

第164話 クラス名:アサシン

しおりを挟む
「なっ!?」

 突然消えたパルスに俺は足を止める。

「にゃろう」

 神経を尖らせ辺りを見回す。だが、あの一瞬でパルスの気配すら感じなくなった。

 焦りと緊張感でごくりと唾を呑む。そんな俺を嘲笑うかのように今度は背後で殺気を感じる。

「ほらほら、がら空きですよ」

 パルスの声に慌てて振り向くと、奴はリオンの後ろで短剣を構えていた。リオンが気づいた時にはすでに短剣を振りかざしており、この間合いではたとえリオンの魔法でも避けられない。

「うらぁ!」

 反射的に持っていたバトルフォークを奴に向けて突く。隣にいたアンジェも剣を振るっており、パルスは両サイドから攻撃が飛んでいた。

「おっと」

 軽い声と共に再びパルスが水に潜る。消えたと同時に俺のバトルフォークはアンジェの剣とぶつかり、十字の形に交わった。

 ハッと振り返るとパルスは先ほどまで彼がいた定位置に戻っていた。

 床を水浸しにするなんて面倒なことをどうしてするのかと思っていたが、答えは思いの外シンプルだった。

 水中移動。それがこいつのスキルだ。

「もう……ムカつくスキルね」

 目くじらを立てるアンジェが舌打ち交じりで呟く。その様子にパルスはニヤニヤと笑う。

「そうでもないですよ。なんせ移動しかできませんからね。残念ながら僕は攻撃魔法には恵まれませんでしたので……武器もこのようにありふれたものです」

 と言いながらパルスは持っていた短剣を軽く投げてキャッチする。「ありふれた」とか言いながら今の攻撃スピードといい、その短剣の空中キャッチといい、手馴れている感じは見て取れた。

 水中移動といい、変化魔法といい、おまけに攻撃は手早い接近戦。特技は暗躍といったところか。

「お前……もしかして【暗殺者アサシン】か?」

 低い声で答えを求めると、パルスは「ご名答」と口角を上げた。

 姿は消せるが、攻撃は近距離か。なるほど、それならば遠距離も近距離も魔法でどうにでもなるリオンが一番やりにくいのか。だが遠近両方攻撃を扱えるのはリオンだけではない。

「――なら、あたしも天敵かしら!?」

 発言と共にアンジェが切っ先を向ける。その途端に切っ先から炎が噴射されパルスまで一直線に放たれた。

「おっと」

 驚いたのは口調だけで、パルスは再び水の中に潜んだ。そして今度は部屋の角まで移動し、俺たちから距離を取る。

「危ないですね。当たれば丸焦げでした」

 そう言ってパルスはひと息つく。同じ水属性でも攻撃が水魔法だったライザと違い、攻撃魔法を扱えない分、奴は魔法属性の優劣はなさそうだ。ただ、「攻撃が当たらない」というだけで。

 攻撃が当てにくいのは何もアンジェだけではない。近距離攻撃しかダメージを与えられない俺が一番不利だ。

「俺……やっぱお前のこと嫌いだわ」

 こんな部屋の端の端まで広範囲で逃げられたらやりやなくいったらありゃしない。こいつが水に潜って逃げるのをどうにかしたいが、さて、どうしたものか。

「ムギト君、下がって」

 考えている横でリオンの声がしたので振り向くと、彼の杖についた風核《ウィンド・コア》がまたぼんやりと光っていた。

「『竜巻魔法トルネイディット』」

 呪文を唱えると、床からいきなり竜巻が現れた。

 巻き込まれないようにバックステップで避ける。

 ハッと顔を上げると床に張られた水がリオンが出した竜巻に吸い込まれていった。

 まるで某メーカーのサイクロン掃除機のように水は渦巻いている。しかもこの時は水は吸い込まれているからパルスが逃げられるような水量はなかった。

 これにはパルスも感心したように口角を上げて「ひゅぅ」と口笛のような息が漏れた。

「やりますね。でも、無防備になってますよ」

 そう言ってパルスは短剣を構えてリオンに突っ込む。

「させっかよ」

 と、気合い十分に奴に臨戦したが、振りかぶったバトルフォークをパルスは難なくしゃがんで避けた。

 俺を華麗にスルーしたパルスは素早く体制を直してリオンに駆け寄る。だが、今度はアンジェに阻まれ、パルスが突き刺した短剣はアンジェの剣に防がれた。

「さけないわよ……」

 振り切ろうと剣に力を籠めるが、逆にパルスに押さえ込まれていた。そして僅かな隙を見極めてするりと受け流したパルスはさらに踏み込んでアンジェの懐に短剣を突き刺そうとした。

 だが、その間に今度は空を舞っていた水が大粒の雨のように一気に降り注いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...