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第11章 ダンジョン名『旧灯台』

第158話 階段地獄

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「さて……階段も見つけたし、上に行くわよ」

「とどめ刺さないのか?」

「ええ。だって……こんなところで無駄な体力使いたくないでしょ?」

 そう言ってアンジェはぬりかべゴーレムから降りる。

 アンジェの言う通りだ。片足がやられた今、ぬりかべゴーレムはしばらく立ち上がれないだろう。だが、攻撃打数は少ないから体力はまだまだ残っている。息の根を止めるには骨が折れるし、攻撃されないのであれば倒さなくてもいい。無駄なことはしないほうがいいと言うことだ。

「それに……まだまだやることはあるわ」

「……そうだな」

 俺たちの目的はあくまでも神官たちの救助。それに、おそらくボスも待っている。

「――パルスは任せたわよ、ムギちゃん」

 アンジェがポンっと俺の肩を叩く。それに応えるように俺は頷き、じっと階段を見つめた。

「次、行くぞ」

 アンジェとリオンがコクリと縦に首を振る。それを見守るように、ノアはにんまりと口角をあげていた。


 ◆ ◆ ◆


 ――次のフロアに着いた途端、俺たちは同時に天を仰いだ。天井が吹き抜けになっており、螺旋階段が天井に向かってどこまで伸びていたのだ。

「……マジかよこれ」

 いったい何段あるのだこの階段。考えるだけで気が遠くなりそうだ。しかし、上がるしか手立てはない。

 憂鬱に思いながらも諦めて階段を上る。ここまで内装が変わるくらいだ。警戒したほうがいいのだが、数十分歩いただけでそんな余裕はなくなった。

「これ……けっこう……きついな……」

 ぜいぜいと言いながら俺は呟く。「けっこう」と言いながらも正直足のほうはがたついていた。

「ここ、灯台でしょう? もっと簡単に上がれないのかしら」

「ふぅ」と息をつきながらアンジェは手で顔を煽ぐ。顔にこそ疲れが出ていないが、彼の額にも汗が光っていた。

「もしかするとここも内装が変わっているのかもな」

「それか、最初からウィンド・コア・ピンで移動していたか……」

「あ、それあり得るかも……」

 疲れを誤魔化すように無駄な推測をする。

 というか、地味にこの階段地獄は魔物と戦かうよりキツイ。

「だ、大丈夫か……リオン……」

 後ろにいるリオンがちゃんとついてきているか振り返ると、その心配をよそにリオンはケロッとしていた。しかも頭にはノアを乗っけている。俺もアンジェもへばって来ているのにリオンは随分と余裕だ。

「魔法で浮いているから大丈夫だよー」

「へえ、そうか魔法でねー……ってチート使ってるんじゃねえよ!」

 思わずビシッと指差すとリオンは「え?」と首を傾げた。そしてノアはリオンの頭の上でニタニタ笑っている。こいつ、リオンが魔法を使っていたことに気づいていたな。どうりで俺のところに来なかった訳だ。ちゃっかり一番楽をしてるんじゃねえよ、神の使いがよぉ。

 恨みを込めながらじとっとノアを睨んでいると、横にいたアンジェも振り向いた。

「凄いわリオちゃん。それって高度も上げられるの?」

 驚きながらアンジェはリオンの足元を見る。一緒になって下を見てみると、リオンの足は緑色に光っており、十センチくらい浮いていた。

「なるほど、天井が吹き抜けてるから一気に飛んじゃえるってことな」

 アンジェの目論見に合点すると、リオンも納得するようにコクリと首を振った。

「やったことないけど、やってみる」

 そう言ってリオンは背負っていた杖を横に持って両手で掲げる。すると先端のウィンド・コアがぼんやりと光り、リオンの体がふわりと浮いた。

「おお」

「まあ!」

 ゆっくりと向上するリオンに俺とアンジェも感嘆の声をあげる。両手が塞がっているから攻撃はできなさそうだが、ウィンド・コアの魔力も使えば自分の体は浮かせられるようだ。本当にこのハーフエルフさんの魔法は風に関してはなんでもありだ。

「でも、腕が痛いから大変」

「そう……魔力より体のほうが持たないって訳ね」

 確かにこの宙ぶらりんの状態は体制がきつそうである。魔法で体をさらに軽くしているだろうが、リオンの華奢な体だと、そんなに長くは持たなさそうだ。

「疲れちゃう前に様子見てくるね」

 そう言うリオンに空気を読んだノアが彼から飛び降りる。それからはリオンは魔女っ子……には程遠いが、杖にぶら下がったままさらに高度を上げてスーッと天井に向かって飛んで行った。
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