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第11章 ダンジョン名『旧灯台』
第153話 『旧灯台』へ
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「……さて、そろそろ答え合わせの時間だぞ」
フーリが低い声でまっすぐ進行方向を見つめる。顔を上げると目の前にレンガ造りの高い塔が見えた。
「あれが、旧灯台……」
余程古い建物なのか、レンガの色が変わり全体的に黒ずんでいた。
森を抜けるとアイーダのばあさんが言うように岬になっており、灯台の麓には小さな波止場がある。アイーダのばあさんたちはあそこに小舟を停めていたのだろう。なるほど、人目につかないいい場所だ。
フーリが馬車を停める。流石に灯台の中までは馬車で移動できないし、何より彼はもうギルドの集会所に戻らないといけない時間だ。
トンッと馬車から降りると、フーリが名残惜しそうな表情で俺たちのことを見つめていた。
「最後まで付き合えなくて悪いな」
「いいや、十分助かったぜ。ありがとよ」
「そう言ってくれて何より。あとは任せたぞ」
「ええ、ちゃんとミドリー神官を助け出すから」
アンジェと共にニッと歯を見せて笑うと、フーリも釣られるように口角を上げた。
風が強く吹く。フーリとセントリーヌとは一旦お別れだ。
最後にリオンがセントリーヌの首元をそっと撫でる。
「またね」
それだけ言ってリオンが数歩下がると、フーリは馬車ごとつむじ風に包まれ、そのまま消えていった。これで一瞬で『オルヴィルカ』に帰れるのだ。いつ見ても便利な魔法である。
「……さ、行くか」
気を取り直して旧灯台に向かう。
旧灯台の目の前に立って、改めて俺の導き出した答えが正しいような気がした。遠くからでも黒ずみがわかるくらい廃れた建物だったのにも関わらず、扉だけここ最近取り換えられたように真新しかったからだ。新築の灯台を建てるのだから扉なんて新しくする必要はないのに。
魔法を使って扉をつけたのは容易に想像できる。ただし、魔法を使ったって「作り変える」ことはできても「元に戻す」ことはできない。これはアンジェの家の床もそうだったから、例外はなさそうだ。
「これはきな臭いわね」
木でできた扉にアンジェがそっと触れる。だが、彼がそのまま扉を開けようとしても鍵がかかって開かなかった。
「鍵をかけるなんて、ここに何かあるって言ってるようなもんだよな」
頬を引き攣らせながら扉を見つめる。しかし困った。こんなにも怪しいのに鍵がかかっていたら中に入れない。かといって鍵を探すような時間もないし、持っているとしてもリチャード市長に化けていたパルス本人だ。
試しに蹴り破ろうとしたが、俺の脚力でもびくりともしなかった。木造の割にはしっかりと硬い材料を使って作っているようだ。何気に抜かりないのがパルスらしくてムカつく。
押しても引いてもだめとなると、どうしたものか。頭を搔いて悩んでいると、アンジェがポンッと俺の肩を叩いた。
「選手交代。あたしに任せて」
パチンとウインクしたアンジェは手招きして俺たちを扉から離れさせる。そしてアンジェはというと扉から数メートル離れた場所で持っていた剣を抜いた。
抜いた剣を扉の一直線上に向ける。この構えだけで彼が何をしたいかわかってしまった。
「そーれっ」
「あ、やっぱり?」
アンジェの掛け声と同時に切っ先から炎が出る。放射された炎は扉に燃え移りメラメラと燃え始めた。幸い周りがレンガのためこれ以上燃え広がることはないが……流石アンジェさん、ためらいが一切ない。
「どうせぶっ壊すんだもの。一つや二つ何か燃やしたって変わらないでしょ?」
燃える扉を見ながらアンジェは頬を綻ばせる。だが、言っていることは物騒だし、その切れ長の目はすでに鋭い。どうやら、もう彼は戦闘モードに切り替わっているようだ。
やがて扉は炭になり、旧灯台の入り口が露わになった。
途端に冷たく、禍々しい空気が入り口から放出される。ほんの二カ月前まで使われていたとは思えないほど廃れた雰囲気だ。空気感は『ザラクの森』とよく似ている。ちなみにこの空気感というのは「瘴気」ではない。第六感を刺激するような――心霊スポット的な空気だ。
フーリが低い声でまっすぐ進行方向を見つめる。顔を上げると目の前にレンガ造りの高い塔が見えた。
「あれが、旧灯台……」
余程古い建物なのか、レンガの色が変わり全体的に黒ずんでいた。
森を抜けるとアイーダのばあさんが言うように岬になっており、灯台の麓には小さな波止場がある。アイーダのばあさんたちはあそこに小舟を停めていたのだろう。なるほど、人目につかないいい場所だ。
フーリが馬車を停める。流石に灯台の中までは馬車で移動できないし、何より彼はもうギルドの集会所に戻らないといけない時間だ。
トンッと馬車から降りると、フーリが名残惜しそうな表情で俺たちのことを見つめていた。
「最後まで付き合えなくて悪いな」
「いいや、十分助かったぜ。ありがとよ」
「そう言ってくれて何より。あとは任せたぞ」
「ええ、ちゃんとミドリー神官を助け出すから」
アンジェと共にニッと歯を見せて笑うと、フーリも釣られるように口角を上げた。
風が強く吹く。フーリとセントリーヌとは一旦お別れだ。
最後にリオンがセントリーヌの首元をそっと撫でる。
「またね」
それだけ言ってリオンが数歩下がると、フーリは馬車ごとつむじ風に包まれ、そのまま消えていった。これで一瞬で『オルヴィルカ』に帰れるのだ。いつ見ても便利な魔法である。
「……さ、行くか」
気を取り直して旧灯台に向かう。
旧灯台の目の前に立って、改めて俺の導き出した答えが正しいような気がした。遠くからでも黒ずみがわかるくらい廃れた建物だったのにも関わらず、扉だけここ最近取り換えられたように真新しかったからだ。新築の灯台を建てるのだから扉なんて新しくする必要はないのに。
魔法を使って扉をつけたのは容易に想像できる。ただし、魔法を使ったって「作り変える」ことはできても「元に戻す」ことはできない。これはアンジェの家の床もそうだったから、例外はなさそうだ。
「これはきな臭いわね」
木でできた扉にアンジェがそっと触れる。だが、彼がそのまま扉を開けようとしても鍵がかかって開かなかった。
「鍵をかけるなんて、ここに何かあるって言ってるようなもんだよな」
頬を引き攣らせながら扉を見つめる。しかし困った。こんなにも怪しいのに鍵がかかっていたら中に入れない。かといって鍵を探すような時間もないし、持っているとしてもリチャード市長に化けていたパルス本人だ。
試しに蹴り破ろうとしたが、俺の脚力でもびくりともしなかった。木造の割にはしっかりと硬い材料を使って作っているようだ。何気に抜かりないのがパルスらしくてムカつく。
押しても引いてもだめとなると、どうしたものか。頭を搔いて悩んでいると、アンジェがポンッと俺の肩を叩いた。
「選手交代。あたしに任せて」
パチンとウインクしたアンジェは手招きして俺たちを扉から離れさせる。そしてアンジェはというと扉から数メートル離れた場所で持っていた剣を抜いた。
抜いた剣を扉の一直線上に向ける。この構えだけで彼が何をしたいかわかってしまった。
「そーれっ」
「あ、やっぱり?」
アンジェの掛け声と同時に切っ先から炎が出る。放射された炎は扉に燃え移りメラメラと燃え始めた。幸い周りがレンガのためこれ以上燃え広がることはないが……流石アンジェさん、ためらいが一切ない。
「どうせぶっ壊すんだもの。一つや二つ何か燃やしたって変わらないでしょ?」
燃える扉を見ながらアンジェは頬を綻ばせる。だが、言っていることは物騒だし、その切れ長の目はすでに鋭い。どうやら、もう彼は戦闘モードに切り替わっているようだ。
やがて扉は炭になり、旧灯台の入り口が露わになった。
途端に冷たく、禍々しい空気が入り口から放出される。ほんの二カ月前まで使われていたとは思えないほど廃れた雰囲気だ。空気感は『ザラクの森』とよく似ている。ちなみにこの空気感というのは「瘴気」ではない。第六感を刺激するような――心霊スポット的な空気だ。
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