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第10話 貿易の街『カトミア』
第147話 アンジェの疑問
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ひとまず適当に夕食の注文をし、さっそく情報を共有することにした。
「……んで、そっちはなんか有力な情報が入ったのか?」
「そういう言い草をするということは、そっちもそんなに収穫がなかったようね」
苦笑するアンジェに俺もフーリも頬を引き攣らす。
「とりあえず、この街にめちゃくちゃ人が来ているということはわかった」
「それは、この状況を見れば察しはつくわ」
ため息をつきながらアンジェはぐるっと辺りを見回す。そんな話をしている間にも向こう側ではアルコールが入り始めたようで、声のボリュームも大きくなっていた。
「この街って、前からこんな感じだったのか?」
「いいえ。少なくともあたしがクエストで来た時はもっと少なかったわ。今は冒険者が多い気がするわよね」
「ああ、それは鍛冶屋のおやっさんも言っていたな」
アンジェの言葉にフーリがうんうんと頷く。この騒がしい野蛮な感じもきっと酒飲みな冒険者たちが騒いでいるのだろう。
「聞けば市長殺しの犯人捜しのクエスト……かなりの高額な報酬らしいわよ。しかも受付人数は無制限」
「だろうな。金は持っていそうだし」
「それに加えて傭兵も増えてるんだろ? そらここまで増えるわな」
人は入るが、出ることはない。ただただ、ひたすたこの街に溜まっていくだけ。その結果がこのごった返しだ。
「なんというか……この人の流れも誰かがコントロールしている気がして気持ち悪いわよね」
「誰かっつうか……パルスなんだろうけど」
「相当やべえな、そのパルスって奴……」
フーリが頭を掻きながら表情を強張らせる。彼がそう思うのも無理はない。ただでさえ人に化けられる能力だ。悪いことなんていくらでも考えられる。
「でも、なんでわざわざ下水道なんかに市長の遺体を破棄したんだろうな。市長に化けられるなら、出張に行くとか適当なことを言えば遺体なんて見つからずに済んだだろ?」
これではまるで、わざと遺体を人に見つからせたようなものだ。
考えれば考えるほど。そして情報を集めれば集めるほど、パルスのやることに謎が残る。
いや、そもそも『カトミア』にいる人のみんながこの事件のことを知らなさすぎるのだ。犯人のことを知っているのはおそらく俺たちだけ。
だが、犯人を知っていてもこんなに詰まっているのだ。外から来た人はもっと苦戦するはず。というか、犯人ですらたどり着けないだろう。
みんなで唸って考えていると、アンジェ一人思い詰めたような深刻な表情をしていた。
「どうしたアンジェ」
「あ、いや……ちょっと考え事をしていてね」
「なんだよ水くせえなあ。悩みか?」
「悩みというか、ちょっと引っかかることがあってね。ただ、この事件にはあんまり関係がないと思うから、あまり考えないようにしていたんだけど……」
半笑いするアンジェだったが、そこまで言われるととても気になる。
「なんでもいいから話してくれよ」
「そうそう。なんかヒントになるかもしれないぜ」
俺とフーリが二人してそういうものだからアンジェも折れた。一つ嘆息を吐いたアンジェは前のめりになり、なるべく周りに聞こえないように俺たちに告げる。
「なら訊くけど……二人は最近の魔物の動きについてどう思う?」
「どうって……何かあるのか?」
アンジェの問いに首を傾げてみるが、隣のフーリは深刻な表情をしていた。
「……増えてるよな、魔物も、魔王の配下も」
「そう。あたしがギルド員になり立ての時より凄く数が増えているの。クエストだって魔物討伐ばかりだもの」
その前も魔物も魔王の配下もいない訳ではなかった。他の魔物よりも知能が高く、ルソードのように喋れるような魔物もいた。だが、そういう魔物も根本的なことは変わらない。人を襲いかかり、強姦や捕食される。それもアンジェの妹であるイルマのように――……。
それが、今の魔物の配下はどうだろうか。そのことについて、アンジェは思うことがあるようだ。
「……んで、そっちはなんか有力な情報が入ったのか?」
「そういう言い草をするということは、そっちもそんなに収穫がなかったようね」
苦笑するアンジェに俺もフーリも頬を引き攣らす。
「とりあえず、この街にめちゃくちゃ人が来ているということはわかった」
「それは、この状況を見れば察しはつくわ」
ため息をつきながらアンジェはぐるっと辺りを見回す。そんな話をしている間にも向こう側ではアルコールが入り始めたようで、声のボリュームも大きくなっていた。
「この街って、前からこんな感じだったのか?」
「いいえ。少なくともあたしがクエストで来た時はもっと少なかったわ。今は冒険者が多い気がするわよね」
「ああ、それは鍛冶屋のおやっさんも言っていたな」
アンジェの言葉にフーリがうんうんと頷く。この騒がしい野蛮な感じもきっと酒飲みな冒険者たちが騒いでいるのだろう。
「聞けば市長殺しの犯人捜しのクエスト……かなりの高額な報酬らしいわよ。しかも受付人数は無制限」
「だろうな。金は持っていそうだし」
「それに加えて傭兵も増えてるんだろ? そらここまで増えるわな」
人は入るが、出ることはない。ただただ、ひたすたこの街に溜まっていくだけ。その結果がこのごった返しだ。
「なんというか……この人の流れも誰かがコントロールしている気がして気持ち悪いわよね」
「誰かっつうか……パルスなんだろうけど」
「相当やべえな、そのパルスって奴……」
フーリが頭を掻きながら表情を強張らせる。彼がそう思うのも無理はない。ただでさえ人に化けられる能力だ。悪いことなんていくらでも考えられる。
「でも、なんでわざわざ下水道なんかに市長の遺体を破棄したんだろうな。市長に化けられるなら、出張に行くとか適当なことを言えば遺体なんて見つからずに済んだだろ?」
これではまるで、わざと遺体を人に見つからせたようなものだ。
考えれば考えるほど。そして情報を集めれば集めるほど、パルスのやることに謎が残る。
いや、そもそも『カトミア』にいる人のみんながこの事件のことを知らなさすぎるのだ。犯人のことを知っているのはおそらく俺たちだけ。
だが、犯人を知っていてもこんなに詰まっているのだ。外から来た人はもっと苦戦するはず。というか、犯人ですらたどり着けないだろう。
みんなで唸って考えていると、アンジェ一人思い詰めたような深刻な表情をしていた。
「どうしたアンジェ」
「あ、いや……ちょっと考え事をしていてね」
「なんだよ水くせえなあ。悩みか?」
「悩みというか、ちょっと引っかかることがあってね。ただ、この事件にはあんまり関係がないと思うから、あまり考えないようにしていたんだけど……」
半笑いするアンジェだったが、そこまで言われるととても気になる。
「なんでもいいから話してくれよ」
「そうそう。なんかヒントになるかもしれないぜ」
俺とフーリが二人してそういうものだからアンジェも折れた。一つ嘆息を吐いたアンジェは前のめりになり、なるべく周りに聞こえないように俺たちに告げる。
「なら訊くけど……二人は最近の魔物の動きについてどう思う?」
「どうって……何かあるのか?」
アンジェの問いに首を傾げてみるが、隣のフーリは深刻な表情をしていた。
「……増えてるよな、魔物も、魔王の配下も」
「そう。あたしがギルド員になり立ての時より凄く数が増えているの。クエストだって魔物討伐ばかりだもの」
その前も魔物も魔王の配下もいない訳ではなかった。他の魔物よりも知能が高く、ルソードのように喋れるような魔物もいた。だが、そういう魔物も根本的なことは変わらない。人を襲いかかり、強姦や捕食される。それもアンジェの妹であるイルマのように――……。
それが、今の魔物の配下はどうだろうか。そのことについて、アンジェは思うことがあるようだ。
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