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第7章 流浪人とエルフの子
第117話 創造者、オリビア
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「ご馳走様でした。おかげで助かりました」
深々とお辞儀をするオリビアに親父は「いやいや」とたじろぐ。確かに捕ってもらった魚を焼いただけだから、大したことはしていない。それでも彼女は「いやいや」と首を振ってさらに頭を下げた。いったい、この大人たちは何をしているのだろう。
呆れたようにやり取りを眺めていると、やがてオリビアがすっくと立ち上がった。
「何かお礼をさせてください。私、なんでも作れますから」
頬を綻ばせたオリビアは、やる気満々にぐっと握り拳を作る。しかし、「なんでも」と言われたところで、俺も親父もすぐには出てこなかった。いかんせん、この里には足りないものが多すぎる。というか、何もなさすぎて何もでてこなかった。
二人して頭を悩ませていると、オリビアのほうから「そうだ!」と提案してきた。
「家を作り直してあげましょうか?」
「家を!? どうやって!?」
「勿論魔法で。平屋くらいならすぐにできますよ」
「す、すぐって……本当にそんなことができるのかよ」
「まあ、任せって」
そう言って彼女はリビングの中心に立ち、目を閉じたまま「ふぅ」と深呼吸した。
次に彼女が目を開けた時、先ほどのような穏やかな表情は消えていた。初めて見せた彼女の真剣な表情に、俺も親父も、緊張でごくりと唾を呑んだ。
そして次の瞬間、彼女はパンッと手を叩いたあと、叩きつけるように自分の両手を床に置いた。
途端、彼女の両手がオレンジ色に輝き出す。その光に反応するように家の床も壁も光だし、狭い室内が伸びるようにぐんと広がった。壁や床が貼り替わるどころか、家の形すら変わっている。ほとんど台所と寝床しかないような狭い家だったのに、一瞬にしてダイニングと寝室が二つに増えた。いきなり立派になった我が家に俺も親父も開いた口が塞がらなかった。
「な、何をしたというのですか……」
親父はあんぐりとさせながらもオリビアに問う。そんな彼とは裏腹に、彼女は軽々しく返答する。
「木造でしたからね。魔法で木に生命力を与えて大きくしただけですよ」
「せ、生命力……」
もう、彼女の言っていることとやっていることに理解が追いついていなかった。ただ、一つ彼女の魔力が強大だということ。それだけはこのわずかな時間で十分に把握できた。
唖然とする親父の横で、オリビアは机に置いてあった鉄仮面をまたかぶった。
「私なんかが長居しても悪いし、そろそろ行きますね」
「行くってどこへ?」
「うーん……自分の知らないところ、かな」
なんとなしの会話をしているうちにオリビアの退散の準備は着々と進んでいた。彼女はまた旅に出るのだ――自分の「知的好奇心」に赴くままの。
「それでは、お邪魔しました」
立ち去ろうとする彼女を俺はぽかんとしながら見つめていた。属性魔法通りの、本当に風のような人だ。いや、風ではないか。台風みたいだ。
「お、おう。じゃーなオリビ――」
最後に別れを告げようと思った時、その言葉を遮るように親父が「あの!」と大きな声をあげた。
普段、なよなよした親父からは考えられないほどの勢いのある声だった。
俺もオリビアも驚いていると、親父の目は焦点を合わせられないほど凄い速さで泳いでいた。自分で彼女を引き留めておいて、緊張のあまりあたふたしている。いったい、この人は何をしたいのだろう。
半目になって親父を見つめていると、やがて彼は意を決したようにオリビアに言い放った。
「も、もう少し……あなたの魔法の力を借りたいのですが……よろしいですか?」
「え?」
オリビアは目をパチクリさせながら素っ頓狂な声をあげる。
親父にしては随分と大胆な言動だ。けれども彼の言いたいことはよくわかる。オリビアの力を借りて家を直したり、道具を作ってもらえ、この里は一気に発展して住みやすくなる。けれども、エルフのみんなが人間である彼女の力を借りることをどう思うだろうか。
しかし、不安に思っているのは俺だけで、オリビアは二つ返事で了承する。
「私の力でよければ、喜んで」
目を細めるオリビアに親父はホッと安堵の息を吐いた。
深々とお辞儀をするオリビアに親父は「いやいや」とたじろぐ。確かに捕ってもらった魚を焼いただけだから、大したことはしていない。それでも彼女は「いやいや」と首を振ってさらに頭を下げた。いったい、この大人たちは何をしているのだろう。
呆れたようにやり取りを眺めていると、やがてオリビアがすっくと立ち上がった。
「何かお礼をさせてください。私、なんでも作れますから」
頬を綻ばせたオリビアは、やる気満々にぐっと握り拳を作る。しかし、「なんでも」と言われたところで、俺も親父もすぐには出てこなかった。いかんせん、この里には足りないものが多すぎる。というか、何もなさすぎて何もでてこなかった。
二人して頭を悩ませていると、オリビアのほうから「そうだ!」と提案してきた。
「家を作り直してあげましょうか?」
「家を!? どうやって!?」
「勿論魔法で。平屋くらいならすぐにできますよ」
「す、すぐって……本当にそんなことができるのかよ」
「まあ、任せって」
そう言って彼女はリビングの中心に立ち、目を閉じたまま「ふぅ」と深呼吸した。
次に彼女が目を開けた時、先ほどのような穏やかな表情は消えていた。初めて見せた彼女の真剣な表情に、俺も親父も、緊張でごくりと唾を呑んだ。
そして次の瞬間、彼女はパンッと手を叩いたあと、叩きつけるように自分の両手を床に置いた。
途端、彼女の両手がオレンジ色に輝き出す。その光に反応するように家の床も壁も光だし、狭い室内が伸びるようにぐんと広がった。壁や床が貼り替わるどころか、家の形すら変わっている。ほとんど台所と寝床しかないような狭い家だったのに、一瞬にしてダイニングと寝室が二つに増えた。いきなり立派になった我が家に俺も親父も開いた口が塞がらなかった。
「な、何をしたというのですか……」
親父はあんぐりとさせながらもオリビアに問う。そんな彼とは裏腹に、彼女は軽々しく返答する。
「木造でしたからね。魔法で木に生命力を与えて大きくしただけですよ」
「せ、生命力……」
もう、彼女の言っていることとやっていることに理解が追いついていなかった。ただ、一つ彼女の魔力が強大だということ。それだけはこのわずかな時間で十分に把握できた。
唖然とする親父の横で、オリビアは机に置いてあった鉄仮面をまたかぶった。
「私なんかが長居しても悪いし、そろそろ行きますね」
「行くってどこへ?」
「うーん……自分の知らないところ、かな」
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「それでは、お邪魔しました」
立ち去ろうとする彼女を俺はぽかんとしながら見つめていた。属性魔法通りの、本当に風のような人だ。いや、風ではないか。台風みたいだ。
「お、おう。じゃーなオリビ――」
最後に別れを告げようと思った時、その言葉を遮るように親父が「あの!」と大きな声をあげた。
普段、なよなよした親父からは考えられないほどの勢いのある声だった。
俺もオリビアも驚いていると、親父の目は焦点を合わせられないほど凄い速さで泳いでいた。自分で彼女を引き留めておいて、緊張のあまりあたふたしている。いったい、この人は何をしたいのだろう。
半目になって親父を見つめていると、やがて彼は意を決したようにオリビアに言い放った。
「も、もう少し……あなたの魔法の力を借りたいのですが……よろしいですか?」
「え?」
オリビアは目をパチクリさせながら素っ頓狂な声をあげる。
親父にしては随分と大胆な言動だ。けれども彼の言いたいことはよくわかる。オリビアの力を借りて家を直したり、道具を作ってもらえ、この里は一気に発展して住みやすくなる。けれども、エルフのみんなが人間である彼女の力を借りることをどう思うだろうか。
しかし、不安に思っているのは俺だけで、オリビアは二つ返事で了承する。
「私の力でよければ、喜んで」
目を細めるオリビアに親父はホッと安堵の息を吐いた。
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