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第6章 森の奥の隠れ里

第103話 緑の風の混血エルフ

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 身震いするような激しい咆哮をあげたリッチーヌは、大きな口を開けながらリオンに突っ込む。

「いけない!」

 慌てて切っ先を向けたアンジェだが、リッチーヌのほうが機敏だった。自動車のようなどでかい図体のくせにこいつも風を切るほど素早い。このままでは、リオンに直撃する。

「リオン!」

 思わず声を荒げるが、リオンと、それを眺めていたライザはどこまでも冷静だった。

「えーいっ!」

 可愛らしい声をあげながら、リオンはその場でくるっと回る。そうすると、彼の周りにつむじ風が吹き、一瞬で姿を消した。

 空ぶったリッチーヌの歯が「ガチンッ!」とぶつかる。奴もこの間合いで食らいつけないとは思わなかったようで、クエスチョンマークを浮かべながら辺りを見回した。

 一方、リオンはリッチーヌの数十メートル後ろに移動していた。瞬間移動……というよりは、風が彼をここまで運んだように見えた。

「リオン……お前……」

 唖然としながら彼を見るが、リオンは不思議そうにパチパチと何度も瞬きをしているだけだ。

 敵も味方も、リオンの存在感に戸惑いを隠せないでいた。

 ただ、全てを知るライザはこの場を見てニヤっと悪戯っぽく笑った。

「お前ら……俺がいつ、リオンが回復役って言ったよ」

「……え?」

 ライザの答えに、俺もアンジェも口を揃えて素っ頓狂な声をあげる。

 そんなうろたえる俺たちをおかしそうに見ながら、ライザは得意気に告げた。

「リオンは回復役じゃねえ。なぜなら……こいつの属性魔法は『風』だからな」

「『風』!? あんなに治癒魔法使えるのに!?」

 度肝を抜いた。今、彼がアルジャーに当てた攻撃魔法はどう見たって竜巻系だ。

 俺は覚えている。同じ風属性のフーリが「竜巻系の攻撃魔法は魔力の消費が激しい」と言っていたことを。それを彼は詠唱破棄で唱えている。そういえば、治癒魔法も詠唱破棄していた。こいつ、どれだけ魔力が高いのだ。

 なになに? ハーフエルフで? 治癒魔法使えて? 攻撃魔法も使えて? どんだけ万能なんだよ。言うならば攻撃も回復もできる『賢者タイプ』ってか。というか、こいつが一番強いわ。そしてやっぱり俺が断トツで弱いわ。

 しかし、当の本人は相変わらずあどけない表情で不思議そうにしている。これは、彼自身自分の強さをわかっていないパターンだ。これまで孤独だったから比較対象がいなかったのだろう。つまり、彼のポテンシャルを知っているのは兄のライザだけ。こんなに落ち着いていられるのも当然だ。

 そうしている間に、リッチーヌが爪を立てて再びリオンを襲った。

「そりゃっ!」 

 気合いを入れた声でリオンはリッチーヌの前に細長い竜巻を出す。

 だが、同じ手は食らわなかった。リッチーヌはサイドステップで竜巻を避け、大きくジャンプしてリオンのほうに飛んで行った。

 再びくるりと回って瞬間移動しようとするリオンだったが、今度はリッチーヌのほうが速い。先ほどとタイミングがズレているが、果たして上手く避けられるのか――

 だが、そんな心配も必要なかった。奴はもう一人……アンジェの相手もしなければならないのだから。

「はっ!」

 闘魂を注入した声でアンジェがリッチーヌの腕を叩き切る。すると、切られたリッチーヌの腕からは鮮血が舞い、奴の短い断末魔が鳴り響いた。 

「もう……危ないわね」

 一息ついたアンジェは剣を振るってリッチーヌの血を振り払う。これでダメージは一発。冷静な判断で動けた鮮やかな一撃だ。

「まあ、上出来だろ」

 一連の動きを見ていたライザがニヤリと笑う。どうやらアンジェは期待通りの行動をしてくれたようだ。

 こんなに万能なリオンだが、パワー不足という大きな弱点がある。どんなに魔力が高いとはいえ彼はまだ子供。物理攻撃による力攻撃や素早い攻撃は彼には向いていない。その前に彼は丸腰だ。魔法が避けられたら、続けて撃つか、逃げるしか手はないのだ。けれども、それは【剣士ソードマン】であるアンジェが補ってくれる。

 魔法のリオン。物理攻撃のアンジェ。攻撃のバランスが上手く取れている良いコンビネーションだ。これなら、安心してリッチーヌの相手を頼める。

 ――問題は、俺たちのほうだ。

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