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第6章 森の奥の隠れ里
第96話 交渉なんてできるとでも?
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突然のライザの告白に俺は驚愕した。長というくらいだから長老のような爺さんか、百歩譲ってももっと年配の人がなるものだと思っていた。ライザなんて、どう見ても俺と同じくらいの年齢なのに。
あんぐりとしていると、俺の言わんとしていることがライザにも通じてしまっていた。
「里を取りまとめるのに年齢なんて関係ねえよ。俺がこの里で一番強い。ただ、それだけのことだ」
つんけんした口調でライザは言うが、アンジェは驚いた様子はなかった。
「アンジェは気づいてたのか?」
「なんとなく。他のエルフの人の様子を見ていたらね」
流し目でライザを見るアンジェだったが、ライザは逃げるように視線を逸らす。それでもアンジェは構うことなく「フフッ」と笑う。
「リオちゃんのために成り上がったんでしょう? 尊敬するわ」
「褒めたところで俺が了承するとでも?」
「あら、手厳しい」
アンジェは「お手上げ」というように軽く両手を挙げる。しかし、ここで簡単に退く彼ではない。
「リオちゃん以外で治療魔法を使える人は?」
「……何人かいるが――それはどういう意図で訊いてるんだ?」
「希望の探索と、興味本位。ハーフエルフの彼ですらこの実力なのだから、純血なエルフならばどれほどの力があるのかと思って」
アンジェの発言にライザの眉がピクリと動いた。「ハーフエルフ」という単語に反応したようだ。
無言のままライザはリオンに顔を向けると。リオンは委縮するように持っていたボールをギュッと抱きしめた。そのリアクションでライザは色々察知できたようで吐息をはいた。
ライザの煙草の灰が地面に落ちる。
「……安心しろ。治癒魔法に関してはこいつが里で一番だ」
その答えに無意識に目を瞠った。その一方で納得できる自分もいた。彼の実力は、目の当たりにしている自分たちでも実感している。
しかし、ライザのその回答が俺たちの目的の全てだった。
「つまり……リオンを連れて行きたいってことか?」
ドスの効いたライザの低い声に心臓がドクンと高鳴った。
張りつめていた空気が一気に凍りつく。それはこの場にいた誰もが感じ取ったことだろう。あの、幼いリオンでさえも。
「連れて行くなんて一言も言ってないわ。もっとも、これを機にあたしたちの仲間になってくれるのなら大歓迎なんだけど」
アンジェは口角を上げていたが、額には脂汗をかいていた。彼もまた、胸に迫りくるようなライザの気迫に押されているようだ。
「ふー……」
煙草の白い煙を吐き出したライザは、ポケットから出した革の携帯用灰皿に煙草を入れる。その沈黙がやたらと重々しく、俺の手のひらが汗ばんだ。
「仲間って……お前ら、何がしたいんだよ」
ライザの眉間にしわが寄る。相変わらず彼の心は穏やかではない。
ふと、アンジェの顔を見ると彼も俺にアイコンタクトを送っていた。
アンジェが小さく頷く。リオンが不安そうな表情でこちらを見つめる。ライザはしかめ面で俺たちの答えを待っている。そんな彼に、意を決して俺は告げる。
「……魔王をぶっ飛ばす」
「魔王を? お前らが?」
一瞬拍子抜けしたような声をあげたライザだったが、すぐに腹を抱えて笑い出した。
この笑われようにムカッとしたが、拳を握ってグッと堪えた。
しかし、その笑い声もすぐに消える。
「ククッ……面白い奴らだぜ」
肩を揺らして笑ったライザは、俯いたまま深く息を吐き、徐に自分の太ももに手を伸ばした。
ライザの裾の長いチュニックがゆらりと揺れる。すると、彼の太ももについたレッグホルスターが姿を現した。
「ムギちゃん!」
「兄ちゃん!」
アンジェとリオンが焦った声で同時の俺たちの名前を呼ぶ。
だが、俺には何が起こったのかわからなかった。正確には何をされたか、ということに。
あんぐりとしていると、俺の言わんとしていることがライザにも通じてしまっていた。
「里を取りまとめるのに年齢なんて関係ねえよ。俺がこの里で一番強い。ただ、それだけのことだ」
つんけんした口調でライザは言うが、アンジェは驚いた様子はなかった。
「アンジェは気づいてたのか?」
「なんとなく。他のエルフの人の様子を見ていたらね」
流し目でライザを見るアンジェだったが、ライザは逃げるように視線を逸らす。それでもアンジェは構うことなく「フフッ」と笑う。
「リオちゃんのために成り上がったんでしょう? 尊敬するわ」
「褒めたところで俺が了承するとでも?」
「あら、手厳しい」
アンジェは「お手上げ」というように軽く両手を挙げる。しかし、ここで簡単に退く彼ではない。
「リオちゃん以外で治療魔法を使える人は?」
「……何人かいるが――それはどういう意図で訊いてるんだ?」
「希望の探索と、興味本位。ハーフエルフの彼ですらこの実力なのだから、純血なエルフならばどれほどの力があるのかと思って」
アンジェの発言にライザの眉がピクリと動いた。「ハーフエルフ」という単語に反応したようだ。
無言のままライザはリオンに顔を向けると。リオンは委縮するように持っていたボールをギュッと抱きしめた。そのリアクションでライザは色々察知できたようで吐息をはいた。
ライザの煙草の灰が地面に落ちる。
「……安心しろ。治癒魔法に関してはこいつが里で一番だ」
その答えに無意識に目を瞠った。その一方で納得できる自分もいた。彼の実力は、目の当たりにしている自分たちでも実感している。
しかし、ライザのその回答が俺たちの目的の全てだった。
「つまり……リオンを連れて行きたいってことか?」
ドスの効いたライザの低い声に心臓がドクンと高鳴った。
張りつめていた空気が一気に凍りつく。それはこの場にいた誰もが感じ取ったことだろう。あの、幼いリオンでさえも。
「連れて行くなんて一言も言ってないわ。もっとも、これを機にあたしたちの仲間になってくれるのなら大歓迎なんだけど」
アンジェは口角を上げていたが、額には脂汗をかいていた。彼もまた、胸に迫りくるようなライザの気迫に押されているようだ。
「ふー……」
煙草の白い煙を吐き出したライザは、ポケットから出した革の携帯用灰皿に煙草を入れる。その沈黙がやたらと重々しく、俺の手のひらが汗ばんだ。
「仲間って……お前ら、何がしたいんだよ」
ライザの眉間にしわが寄る。相変わらず彼の心は穏やかではない。
ふと、アンジェの顔を見ると彼も俺にアイコンタクトを送っていた。
アンジェが小さく頷く。リオンが不安そうな表情でこちらを見つめる。ライザはしかめ面で俺たちの答えを待っている。そんな彼に、意を決して俺は告げる。
「……魔王をぶっ飛ばす」
「魔王を? お前らが?」
一瞬拍子抜けしたような声をあげたライザだったが、すぐに腹を抱えて笑い出した。
この笑われようにムカッとしたが、拳を握ってグッと堪えた。
しかし、その笑い声もすぐに消える。
「ククッ……面白い奴らだぜ」
肩を揺らして笑ったライザは、俯いたまま深く息を吐き、徐に自分の太ももに手を伸ばした。
ライザの裾の長いチュニックがゆらりと揺れる。すると、彼の太ももについたレッグホルスターが姿を現した。
「ムギちゃん!」
「兄ちゃん!」
アンジェとリオンが焦った声で同時の俺たちの名前を呼ぶ。
だが、俺には何が起こったのかわからなかった。正確には何をされたか、ということに。
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