転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

文字の大きさ
上 下
93 / 242
第6章 森の奥の隠れ里

第93話 半分同じで、半分違う

しおりを挟む
「――リオン?」

 子供たちが石を投げていた先にはリオンがいた。しかも額や腕が流血している。

 唖然とリオンを見ていると、彼はそっと腕の傷口に手をかざした。やがて彼の手が優しく白色に光ると、傷はその光に吸い込まれるように綺麗に治った。

「……治癒魔法?」

 リオンの魔法にアンジェは目を見開く。

 かく言う俺も驚いた。俺たちの傷も治してくれたと本人から聞いていたのにもかかわらず、これまでピンと来ていなかったのだ。

 そうして固まっている間にも彼は額の傷もあっという間に治した。ただ、完全に傷が癒えても、彼の表情は今にも泣き出しそうだった。

「リオちゃん……」

 アンジェが名前を呟くと、リオンはゆっくりと顔を上げた。

「アンジェ君……ムギト君……」

 リオンの大きな目が涙で潤んでいる。すぐにサイズの合っていないぶかぶかの袖で涙を拭っても、彼の目は悲しそうにしぼんでいた。

 今にも泣き出しそうなリオンにアンジェがたまらず近づいて彼の前にひざまずく。

「何があったか、聞いてもいい?」

 眉尻をたらしながら優しい声で尋ねると、リオンはうなだれたままコクリと頷いた。

「最初はみんな、この広場で遊んでたんだ……だから、僕も一緒に遊んでほしくて声をかけたんだけど……やっぱりだめだった」

 リオンの色白な小さい手にぐっと力が籠る。込み上がる悲しい気持ちを彼なりに押さえ込んでいるのだろう。こんな幼い子供が、こんな小さな体で。

「僕は……僕の血は穢れているから……みんな、僕のこと嫌いなんだって……だから、だから……」

 リオンの声はどんどん震え、ついには言葉を詰まらせた。

 けれども、彼が子供たちに声をかけた後の結末は俺たちが見た通りなのだろう。

 拒絶され、石を投げられ、そして逃げられる。

 ひょっとして子供たちが逃げたのは俺たちが人間だからというよりは、リオンに石を投げつけているところを他人に見られたからなのかもしれない。

「昨日も、一昨日もだめだった……でも、今日は大丈夫かもしれないって思ったの……けど、けど……」

 涙声になるリオンの言葉を遮るように、アンジェは静かに抱きしめた。

 いきなり抱きしめられたリオンは驚いて目を見開くが、アンジェはリオンに構わず彼の後頭部にそっと自分の手を添えた。

「……頑張ったわね」

 アンジェの囁きに、リオンの表情が一瞬固まった。

 だが、やがてくしゃっと顔を歪め、しがみつくようにアンジェの背中に腕を回した。

 おそらく、毎日子供たちに声をかけていたのだろう。「今日はきっと大丈夫」と、自分に言い聞かせて。だが、現実は非情で、子供たちはただ残酷だった。

「うぅ……」

 リオンの目から大粒の涙が伝う。

 この感じだと、子供も大人も彼を拒絶しているのだと思う。

 みんなが協力しあって生活している中、彼は独りだった。この丈にあっていない古い服も、ライザ以外誰も彼に与えてくれないからなのだろう。

 ――リオンはハーフエルフだ。それは、特別に説明がなくてもわかっていた。彼の耳はエルフのようにあんなに尖っていない。人間の俺たちよりはほんの少し耳が長いかもしれないが、その見た目は明らかにエルフとかけ離れていた。

 けれどもライザとはどことなく顔が似ていたから、彼と兄弟であることは確かなのだろう。ただ、半分違う血が混ざっているというだけで。

「僕ね……本当はここにいちゃいけないんだって……大人は兄ちゃんがいるから何もできないけど……本当は……死んじゃえって……思ってるって……」

 むせび泣きながら告げるリオンに俺たちは何も言えなかった。

 この里の闇をひしひしと感じる。そして、必死に弟を守るライザの人知れぬ苦悩と努力にも密かに脱帽した。

 ただ、いくらライザが頑張っても手の届かないところはどうしても出てくる。ライザがどんな手を使って大人たちに容認させているのかはわからないが、子供たちはそうは行かない。

 それと、どんな傷をつけられても、リオン自身で治せてしまうのがまた酷だ。子供たちもそこに漬け込んでいる可能性だってある。体の傷は治せても、心の傷は魔法では治せないのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...