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第6章 森の奥の隠れ里
第90話 そして朝になる
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「えっと……家やお店がいっぱいあって……人が賑わってるとこ?」
「家……お店……」
ちゃんと想像できているのか定かではないが、リオンは単語をぽつり、ぽつりと復唱する。
「そこって、ムギト君みたいな人がいっぱいいる?」
「ん? まあ、そうかな……少なくとも、耳はこんな感じの人たちばかりだよ」
自分の耳を指しながら答えると、リオンは「そっかー……」としみじみと呟いた。
街のことを想像しているのか、リオンの口元が緩んでいる。いったい、彼の頭の中ではどんな旅が繰り広げられているのだろうか。
楽しそうなリオンの頭にバスッと手を乗せる。撫でられたことが嬉しいのかリオンは俺の顔を見て「えへへ」と笑った。その笑顔も仕草も、一つ一つがまだあどけない。
「……お前、お父さんとお母さんは?」
頭を撫でたまま、何気なく尋ねる。すると、リオンはゆっくりと首を横に振った。
「二人とも死んじゃった」
「そっか……まあ、そんな感じはしたよ。変なこと訊いて悪かった」
素直に謝るが、リオンは目をパチクリさせただけだった。そんな無垢な瞳で見つめられるとかえって胸が痛くなり、俺は誤魔化すようにわしゃわしゃと柔らかい彼の髪を掻き回した。
「キャッキャ」と屈託なく笑うリオンの顔に俺も釣られて破顔する。
「ねえねえ、もっとムギト君のお話して」
強請るリオンは布団ごとギュッと俺を抱きしめる。そんな可愛げな振る舞いをされても、こっちは慣れてないから変に照れてしまう。
「俺の話ねえ……なんも楽しくねえぞ」
「いいの。聞きたいの」
「そうかよ……それじゃ――」
腕を枕のように頭の後ろで組みながら、俺は彼にこれまでのことを語った。
ここに来る途中、エレメント系の魔物と戦ったこと。その前は馬車に乗って来たこと。『オルヴィルカ』の街のこと。そして、アンジェと行ったクーラの洞窟での冒険も少しだけ。
最初は興味津々に聞いていたリオンだったが、途中から半目になってコクコクと寝そうになっていた。
やがて睡魔に負けた彼は布団にしがみついたまま眠りにつく。けれども、このまま寝かすのは風邪をひきそうだ。
仕方なく起こさないようにそっと抱きかかえ、布団の中に入れる。ベッドの広さは彼が隣で寝ても十分なスペースがあるので、俺もこのまま寝かせてもらうことにしよう。
それにしても、服といい、ベッドといい、リオンは随分と体に合っていないものを使っているものだ。それに、寝巻きとして使っているローブもかなり年季が入っている。新しいものでも買ってやればいいのに。
しかし、当の本人は何も気にせず、幸せそうな顔でスースーと眠っている。
「……まあ、いいか」
そんな独り言を呟きながら、ポンポンとリオンの布団を優しく叩いた。
しかし、先程起きたばかりなのに、リオンの寝顔を見ているとこちらも眠くなった。
大きなあくびをし、俺も目をつぶる。たったそれだけですぐに眠気はやってきた。俺も今日は色々あって疲れたのだ。
探索は明日。もっとエルフの情報が知りたい。だが、果たしてエルフははぐれ者の俺たちと接してくれるのだろうか。
一抹の不安を感じながらも、俺も眠りについた。
◆ ◆ ◆
朝が来た。
俺とリオンを起こしたのは、他でもなくアンジェだった。
「おはよう二人とも。ご飯できてるわよ」
うっすら目を開けると、アンジェが俺たちの顔を覗き込んでいた。しかも、片手にはお玉がある。このセリフ、この起こし方、その装備品、完全におかんだ。
アンジェ母さんに起こされ、俺もリオンも大きく口を開いて欠伸をする。
するとアンジェはおかしそうにクスッと笑った。
「あらあら、もうすっかり仲良しね。兄弟みたい」
兄弟か。ここのシンクロだけ見ると兄弟顔負けかもしれない。
――兄弟といえば、肝心の実の兄はあれからどうしたと言うのだろう。
「アンジェ、ライザは?」
奴の名前に一瞬ピンと来ていなかったアンジェだったが、すぐに「ああ」と頷く。
「家……お店……」
ちゃんと想像できているのか定かではないが、リオンは単語をぽつり、ぽつりと復唱する。
「そこって、ムギト君みたいな人がいっぱいいる?」
「ん? まあ、そうかな……少なくとも、耳はこんな感じの人たちばかりだよ」
自分の耳を指しながら答えると、リオンは「そっかー……」としみじみと呟いた。
街のことを想像しているのか、リオンの口元が緩んでいる。いったい、彼の頭の中ではどんな旅が繰り広げられているのだろうか。
楽しそうなリオンの頭にバスッと手を乗せる。撫でられたことが嬉しいのかリオンは俺の顔を見て「えへへ」と笑った。その笑顔も仕草も、一つ一つがまだあどけない。
「……お前、お父さんとお母さんは?」
頭を撫でたまま、何気なく尋ねる。すると、リオンはゆっくりと首を横に振った。
「二人とも死んじゃった」
「そっか……まあ、そんな感じはしたよ。変なこと訊いて悪かった」
素直に謝るが、リオンは目をパチクリさせただけだった。そんな無垢な瞳で見つめられるとかえって胸が痛くなり、俺は誤魔化すようにわしゃわしゃと柔らかい彼の髪を掻き回した。
「キャッキャ」と屈託なく笑うリオンの顔に俺も釣られて破顔する。
「ねえねえ、もっとムギト君のお話して」
強請るリオンは布団ごとギュッと俺を抱きしめる。そんな可愛げな振る舞いをされても、こっちは慣れてないから変に照れてしまう。
「俺の話ねえ……なんも楽しくねえぞ」
「いいの。聞きたいの」
「そうかよ……それじゃ――」
腕を枕のように頭の後ろで組みながら、俺は彼にこれまでのことを語った。
ここに来る途中、エレメント系の魔物と戦ったこと。その前は馬車に乗って来たこと。『オルヴィルカ』の街のこと。そして、アンジェと行ったクーラの洞窟での冒険も少しだけ。
最初は興味津々に聞いていたリオンだったが、途中から半目になってコクコクと寝そうになっていた。
やがて睡魔に負けた彼は布団にしがみついたまま眠りにつく。けれども、このまま寝かすのは風邪をひきそうだ。
仕方なく起こさないようにそっと抱きかかえ、布団の中に入れる。ベッドの広さは彼が隣で寝ても十分なスペースがあるので、俺もこのまま寝かせてもらうことにしよう。
それにしても、服といい、ベッドといい、リオンは随分と体に合っていないものを使っているものだ。それに、寝巻きとして使っているローブもかなり年季が入っている。新しいものでも買ってやればいいのに。
しかし、当の本人は何も気にせず、幸せそうな顔でスースーと眠っている。
「……まあ、いいか」
そんな独り言を呟きながら、ポンポンとリオンの布団を優しく叩いた。
しかし、先程起きたばかりなのに、リオンの寝顔を見ているとこちらも眠くなった。
大きなあくびをし、俺も目をつぶる。たったそれだけですぐに眠気はやってきた。俺も今日は色々あって疲れたのだ。
探索は明日。もっとエルフの情報が知りたい。だが、果たしてエルフははぐれ者の俺たちと接してくれるのだろうか。
一抹の不安を感じながらも、俺も眠りについた。
◆ ◆ ◆
朝が来た。
俺とリオンを起こしたのは、他でもなくアンジェだった。
「おはよう二人とも。ご飯できてるわよ」
うっすら目を開けると、アンジェが俺たちの顔を覗き込んでいた。しかも、片手にはお玉がある。このセリフ、この起こし方、その装備品、完全におかんだ。
アンジェ母さんに起こされ、俺もリオンも大きく口を開いて欠伸をする。
するとアンジェはおかしそうにクスッと笑った。
「あらあら、もうすっかり仲良しね。兄弟みたい」
兄弟か。ここのシンクロだけ見ると兄弟顔負けかもしれない。
――兄弟といえば、肝心の実の兄はあれからどうしたと言うのだろう。
「アンジェ、ライザは?」
奴の名前に一瞬ピンと来ていなかったアンジェだったが、すぐに「ああ」と頷く。
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