転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第5章 『死の森』へ

第76話 やられたらやり返す

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「なあ、この馬車ってまだスピード出せるか?」

「ああ? 魔法を使えば初めのスピードくらいかっ飛ばせるが……俺の今の魔力じゃあまり持たねえぞ?」

「でも、あいつと距離を離すくらいならできる?」

「まあ……多分、それくらいなら」

 フーリの返答に「よし」と頷く。その様子をアンジェは不思議そうに見つめている。

「どうしたの?」

「ん?……まあ、作戦会議かな」

 そう言ってバトルフォークを握り直しながら、荷台の後部に着く。

「一気にスピード上げてもらうけど、アンジェはすぐに攻撃できるようにしておいてくれ」

「いいけど……いったい何をするっていうの?」

 訝しい表情を浮かべる彼から不安を感じる。そんな彼に、俺は乾いた笑みを浮かばせながらさらりと告げた。

「一回限りの……騙し討ちだよ」

 縁から顔を出して魔物の行動を確認する。イノシシの魔物の進行方向は直進。犬の魔物は今にも矢を放ちそうなほど、目を光らせていた。

 そうしている間に、フーリとセントリーヌの準備が整ったようだ。

「いつでも行けるぜ」

「オーケー。んじゃ、さっそく頼むわ」

「了解……!」 

 フーリが手綱を引くと、セントリーヌが「ブルルッ!」と力強く鳴いた。

 その途端、飛び上がりそうなほど荷台が揺れ、馬車は爆発的に加速した。

 これには魔物たちも驚き、一瞬奴が弓を下ろした。その隙に馬車は電光石火の勢いで魔物と距離を開けた。

 次は俺の番だ。

 バトルフォークを強く握り、深呼吸をして手のひらに魔力を溜める。

 そしてそのままバトルフォークを天に掲げ、高らかに吠えた。

「おらぁぁぁ! 『冷たい風コルド・ウィンド』!!」

 掛け声と共にフォークの面から大粒の雪が勢い良く放出される。だが、少し面を傾けていたとはいえ、その雪は先ほどと同様に風に流され、荒くれ共の手前の草を濡らして終わった。

「どこを見てるんだよ! 全然当たってないじゃないか!」

 これには奴らも肩を揺らして笑った。しかし、俺の狙いは別に奴らではない。

「……どこを見てるかって?」

 案の定、奴らは雪で濡れた草原のことなんて気にせずに突っ込んできた――俺の術中にはまっていることなんで知らずに。

 そんな奴らに向け、俺はほくそ笑みながら言い放った。

「……お前らがすっ転ぶ未来だよ」

「何!?」

 ドクが慌てて下を見たが、その頃にはすでに馬は濡れた草原のテリトリーに入っていた。

 奴の嫌な予感は正しい。あれ程のスピードを出しているのだ。想像通り、たった数歩草原に踏み入れただけで馬はつるっと足を滑らせた。

「はっはっは! 馬鹿め! 濡れた草は滑りやすいんだよ! 道民舐めんな!」

 草原に転がる荒くれ共と馬に思わず高笑いする。

 これで奴らの動きを完全に止めた。

 あとは、相棒に託すだけである。

「ナイス、ムギちゃん」

 語尾にハートがついたような明るいアンジェの口調に振り向くと、彼はすでに自分の剣を大きく掲げていた。

「特別に……手加減してやるわよ」

 ペロッと唇を舌なめずりしたアンジェだったが、途端に眼光が鋭くなる。

 と、同時に両手で剣の柄を強く握ると、彼の剣は炎を纏ってメラメラと燃え上がった。

 そんなことになっていることも知らずに荒くれ共は呑気に頭を擦りながら体を起こす。

 だが、奴が殺気を感じた頃にはもうすでにアンジェの剣は思い切り振り落とされていた。

「ちょ、待っ――!」

 何か言おうとしていた荒くれ共だったが、もう遅い。

 アンジェが放った火炎放射はまっすぐ奴らのほうへと飛んで行った。その火は二人の服に燃え移り、途端に二人の悲鳴があがる。

「あっちぃ!」

「服が燃える! 死ぬ!」

 そうやって無様に喚きながら、二人は草の上を転がるように悶えていた。一発逆転。一撃必殺と言ったところだ。

「よ、容赦ねえ……」

 目を丸くしたフーリが様子を見守るように徐々にセントリーヌのスピードを落としていく。どうやら彼らをこんがりと焼かないように加減したようだが、たとえ火が消えたとしても奴らは火傷でしばらく動けないことだろう。

「ギルドに戻ったらあいつらを回収しておいて」

 勝利の笑みを浮かべるアンジェに、フーリの頬が引き攣る。多分、敵に回したくないと思っているのだろう。奇遇だ、俺もそう思ったところだ。

 だが、これで戦闘終了。俺たちの勝ちだ。
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