転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

文字の大きさ
上 下
75 / 242
第5章 『死の森』へ

第75話 道産子の悪知恵

しおりを挟む
「もう! ムカつくわね!」

 イライラしたアンジェが剣を構え、荒くれ共に向かって炎を放射した。だが、その炎はドクが見切り、華麗に馬を操って見事に避けられた。彼の炎は一直線上にしか放射されないから、軌道が読みやすいようだ。

 悔しそうに顔を歪めるアンジェに今度はチャックが攻撃を仕かけてきた。完全に隙を突かれた。剣を振り下ろしていたこの間合いでは、アンジェは矢を振り落とすことができない。

「アンジェ!」

 矢が放たれた途端、俺は思わず持っていたフォークの面を盾にするようにアンジェに向ける。すると、矢はフォークの面に当たり、「カンッ!」と音を立ててその場で落ちた。

「あ、あぶねえ……」

 転がる矢を見て肝を冷やす。これは自分でもファインプレイだと思う。

「ごめんねムギちゃん。ありがと!」

 アンジェも礼を言うが、表情は苦しそうだった。一方、荒くれ共は余裕そうにニタニタと笑っている。この調子だと、数を打てば当たると思っているのだろう。まったくもってその通りである。

 この勝負、かなり分が悪い。

 こちらが攻撃をするとしたら奴が矢を構える時であろう。アンジェもその隙を逃しておらず、すぐに剣を振るって切っ先から炎を出した。

 けれども、ドクがその行動を見切っていた。アンジェが炎を出す前に進行方向を変え、炎を避けたのだ。

「へえ……やるじゃない」

 口では褒めているが、彼の目は笑っていなかった。あの二人も伊達に指名手配されるくらい暴れている訳ではなさそうだ。

 そうしている間に再びチャックがアンジェに狙いを定めていた。

 放たれた矢はまっすぐアンジェのほうに向かって飛んで行く。

 奴の手がからになった、今がチャンスだ。修行の成果を見せてやる。

「『冷たい風コルド・ウィンド』!」

 気合いを入れた声と共にバトルフォークを振るうと、フォークの面からだまになった雪が出てきた。

 しかし、放出された雪は誰にも当たることなく、ただキラキラと風に流れて消えていく……

「意味ねぇぇぇええ!!」

 頭を抱えて思わず叫ぶと、アンジェとフーリが頬を引き攣らせていた。

 というかこんな猛スピードで移動している馬車の中で雪を放ったらこうなるに決まっている。ただでさえ普段は目つぶしにしかならない魔法なのに、それすら役に立たないと言うのか。

「なんだあの魔法!」

「雪が出たぜ! だっせえ!」

 俺の無意味な行動に荒くれ共はケラケラと腹を抱えて笑っている。確かに不甲斐ないが、いざ笑われるとムカつく。

「あんにゃろー……」

 悔しさと苛立ちで眉間にしわを寄せる。

 だが、こうなると残された攻撃方法といえばこのフォークをぶん投げるくらいか。しかし、いくら手元に戻ってくるにしても、その間は奴の攻撃を防ぐことができない。そこで矢を放たれたらそのまま射られてゲームオーバーだろう。

 俺もアンジェも、得意なのは接近戦だ。それが封じられているとなると……どうしたものか。

 荷台の壁板を盾に体を縮こませ、ひとまず作戦を考える。

 フィールドは狭い馬車にどこまでも広がる草原。使用可能な魔法はアンジェの火炎放射魔法と俺の雪――だが、現状は攻撃の手立てとしては使えてない。だめだ。特に俺の手札がクソすぎる。

 てか、属性魔法が氷の時点でアンジェと相性悪いじゃん。あれ? もしかして気づくの遅すぎ?

「くっそー……せめて馬だけでも止められればな……」

 ひょこっと壁板から顔を出して辺りを見回す。しかし、どこまでも草原が広がるだけで、盾になりそうなものすらない。

 変わった光景といえば一部の草に水滴がついて太陽光できらめいているくらいだ。あれは先ほど俺が出した雪が付着したのだろう。といっても、あんなところを水で濡らしたって……

 水で、濡らしたって?

 ――反芻するように胸内で繰り返すと、行き詰った思考にある閃きが掠った気がした。

 しかし、こんな直感的に浮かんだアイデアで事が上手く運ぶだろうか。ただ、少なくともあいつらは俺のことは見くびっている。やってみる価値はあるか?

 ごくりと生唾を呑み、わずかな可能性にかけてそっとフーリに尋ねてみる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

処理中です...