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第5章 『死の森』へ
第75話 道産子の悪知恵
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「もう! ムカつくわね!」
イライラしたアンジェが剣を構え、荒くれ共に向かって炎を放射した。だが、その炎はドクが見切り、華麗に馬を操って見事に避けられた。彼の炎は一直線上にしか放射されないから、軌道が読みやすいようだ。
悔しそうに顔を歪めるアンジェに今度はチャックが攻撃を仕かけてきた。完全に隙を突かれた。剣を振り下ろしていたこの間合いでは、アンジェは矢を振り落とすことができない。
「アンジェ!」
矢が放たれた途端、俺は思わず持っていたフォークの面を盾にするようにアンジェに向ける。すると、矢はフォークの面に当たり、「カンッ!」と音を立ててその場で落ちた。
「あ、あぶねえ……」
転がる矢を見て肝を冷やす。これは自分でもファインプレイだと思う。
「ごめんねムギちゃん。ありがと!」
アンジェも礼を言うが、表情は苦しそうだった。一方、荒くれ共は余裕そうにニタニタと笑っている。この調子だと、数を打てば当たると思っているのだろう。まったくもってその通りである。
この勝負、かなり分が悪い。
こちらが攻撃をするとしたら奴が矢を構える時であろう。アンジェもその隙を逃しておらず、すぐに剣を振るって切っ先から炎を出した。
けれども、ドクがその行動を見切っていた。アンジェが炎を出す前に進行方向を変え、炎を避けたのだ。
「へえ……やるじゃない」
口では褒めているが、彼の目は笑っていなかった。あの二人も伊達に指名手配されるくらい暴れている訳ではなさそうだ。
そうしている間に再びチャックがアンジェに狙いを定めていた。
放たれた矢はまっすぐアンジェのほうに向かって飛んで行く。
奴の手が空になった、今がチャンスだ。修行の成果を見せてやる。
「『冷たい風』!」
気合いを入れた声と共にバトルフォークを振るうと、フォークの面からだまになった雪が出てきた。
しかし、放出された雪は誰にも当たることなく、ただキラキラと風に流れて消えていく……
「意味ねぇぇぇええ!!」
頭を抱えて思わず叫ぶと、アンジェとフーリが頬を引き攣らせていた。
というかこんな猛スピードで移動している馬車の中で雪を放ったらこうなるに決まっている。ただでさえ普段は目つぶしにしかならない魔法なのに、それすら役に立たないと言うのか。
「なんだあの魔法!」
「雪が出たぜ! だっせえ!」
俺の無意味な行動に荒くれ共はケラケラと腹を抱えて笑っている。確かに不甲斐ないが、いざ笑われるとムカつく。
「あんにゃろー……」
悔しさと苛立ちで眉間にしわを寄せる。
だが、こうなると残された攻撃方法といえばこのフォークをぶん投げるくらいか。しかし、いくら手元に戻ってくるにしても、その間は奴の攻撃を防ぐことができない。そこで矢を放たれたらそのまま射られてゲームオーバーだろう。
俺もアンジェも、得意なのは接近戦だ。それが封じられているとなると……どうしたものか。
荷台の壁板を盾に体を縮こませ、ひとまず作戦を考える。
フィールドは狭い馬車にどこまでも広がる草原。使用可能な魔法はアンジェの火炎放射魔法と俺の雪――だが、現状は攻撃の手立てとしては使えてない。だめだ。特に俺の手札がクソすぎる。
てか、属性魔法が氷の時点でアンジェと相性悪いじゃん。あれ? もしかして気づくの遅すぎ?
「くっそー……せめて馬だけでも止められればな……」
ひょこっと壁板から顔を出して辺りを見回す。しかし、どこまでも草原が広がるだけで、盾になりそうなものすらない。
変わった光景といえば一部の草に水滴がついて太陽光できらめいているくらいだ。あれは先ほど俺が出した雪が付着したのだろう。といっても、あんなところを水で濡らしたって……
水で、濡らしたって?
――反芻するように胸内で繰り返すと、行き詰った思考にある閃きが掠った気がした。
しかし、こんな直感的に浮かんだアイデアで事が上手く運ぶだろうか。ただ、少なくともあいつらは俺のことは見くびっている。やってみる価値はあるか?
ごくりと生唾を呑み、わずかな可能性にかけてそっとフーリに尋ねてみる。
イライラしたアンジェが剣を構え、荒くれ共に向かって炎を放射した。だが、その炎はドクが見切り、華麗に馬を操って見事に避けられた。彼の炎は一直線上にしか放射されないから、軌道が読みやすいようだ。
悔しそうに顔を歪めるアンジェに今度はチャックが攻撃を仕かけてきた。完全に隙を突かれた。剣を振り下ろしていたこの間合いでは、アンジェは矢を振り落とすことができない。
「アンジェ!」
矢が放たれた途端、俺は思わず持っていたフォークの面を盾にするようにアンジェに向ける。すると、矢はフォークの面に当たり、「カンッ!」と音を立ててその場で落ちた。
「あ、あぶねえ……」
転がる矢を見て肝を冷やす。これは自分でもファインプレイだと思う。
「ごめんねムギちゃん。ありがと!」
アンジェも礼を言うが、表情は苦しそうだった。一方、荒くれ共は余裕そうにニタニタと笑っている。この調子だと、数を打てば当たると思っているのだろう。まったくもってその通りである。
この勝負、かなり分が悪い。
こちらが攻撃をするとしたら奴が矢を構える時であろう。アンジェもその隙を逃しておらず、すぐに剣を振るって切っ先から炎を出した。
けれども、ドクがその行動を見切っていた。アンジェが炎を出す前に進行方向を変え、炎を避けたのだ。
「へえ……やるじゃない」
口では褒めているが、彼の目は笑っていなかった。あの二人も伊達に指名手配されるくらい暴れている訳ではなさそうだ。
そうしている間に再びチャックがアンジェに狙いを定めていた。
放たれた矢はまっすぐアンジェのほうに向かって飛んで行く。
奴の手が空になった、今がチャンスだ。修行の成果を見せてやる。
「『冷たい風』!」
気合いを入れた声と共にバトルフォークを振るうと、フォークの面からだまになった雪が出てきた。
しかし、放出された雪は誰にも当たることなく、ただキラキラと風に流れて消えていく……
「意味ねぇぇぇええ!!」
頭を抱えて思わず叫ぶと、アンジェとフーリが頬を引き攣らせていた。
というかこんな猛スピードで移動している馬車の中で雪を放ったらこうなるに決まっている。ただでさえ普段は目つぶしにしかならない魔法なのに、それすら役に立たないと言うのか。
「なんだあの魔法!」
「雪が出たぜ! だっせえ!」
俺の無意味な行動に荒くれ共はケラケラと腹を抱えて笑っている。確かに不甲斐ないが、いざ笑われるとムカつく。
「あんにゃろー……」
悔しさと苛立ちで眉間にしわを寄せる。
だが、こうなると残された攻撃方法といえばこのフォークをぶん投げるくらいか。しかし、いくら手元に戻ってくるにしても、その間は奴の攻撃を防ぐことができない。そこで矢を放たれたらそのまま射られてゲームオーバーだろう。
俺もアンジェも、得意なのは接近戦だ。それが封じられているとなると……どうしたものか。
荷台の壁板を盾に体を縮こませ、ひとまず作戦を考える。
フィールドは狭い馬車にどこまでも広がる草原。使用可能な魔法はアンジェの火炎放射魔法と俺の雪――だが、現状は攻撃の手立てとしては使えてない。だめだ。特に俺の手札がクソすぎる。
てか、属性魔法が氷の時点でアンジェと相性悪いじゃん。あれ? もしかして気づくの遅すぎ?
「くっそー……せめて馬だけでも止められればな……」
ひょこっと壁板から顔を出して辺りを見回す。しかし、どこまでも草原が広がるだけで、盾になりそうなものすらない。
変わった光景といえば一部の草に水滴がついて太陽光できらめいているくらいだ。あれは先ほど俺が出した雪が付着したのだろう。といっても、あんなところを水で濡らしたって……
水で、濡らしたって?
――反芻するように胸内で繰り返すと、行き詰った思考にある閃きが掠った気がした。
しかし、こんな直感的に浮かんだアイデアで事が上手く運ぶだろうか。ただ、少なくともあいつらは俺のことは見くびっている。やってみる価値はあるか?
ごくりと生唾を呑み、わずかな可能性にかけてそっとフーリに尋ねてみる。
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