転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第4章 ギルド、崩壊

第69話 勇者の品格

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「百歩譲って森を突破してその先にエルフがいたとしよう。だが、そんな何十年も人間と接していないエルフがそう易々と我々に力を貸してくれるとは思えん」

 ミドリーさんはそう言って腕を組み、深いため息をついた。

 彼の言うことは一理ある。いや、むしろ正しい。最難関なのはダンジョンではない。エルフをここまで連れてきて、セリナの治療をさせることが難しいのだ。

 だが、それがなんだって言うのだ。

「……そんなこと、知ったこっちゃねえよ」

 この世界の人間がどうとか、エルフがどうとか、俺には関係ない。なんせ俺は転生人。この世界の人間じゃない。

「あんたらがどんなに正論を並べても『はい、そうですか』って諦められる問題じゃねえんだ」

 これは俺の傲慢なのかもしれない。行動自体も無謀かもしれない。そもそも俺の目的は魔王を倒すことだ。こんな命がいくつあっても足りないようなことをやらなくたっていい。俺はただ魔王を倒せばそれでいいんだ。

 そんなこと言われなくてもわかっている。

 だが、これが、これこそが、俺が初めて抱いた正義なのだ。

「ここで何も行動起こさないで『魔王をぶっ倒す』とか抜かしてるのか? そんな訳ないだろ!」

 歯を食いしばり、眉間にしわを寄せる。そして高ぶる感情を声帯に籠め、俺は二人に向かって吠えた。

「友達一人救えないで、勇者になんかなれるかよ‼︎」

 怒声に近い本音に、アンジェがハッと息を呑んだ。

「お前はどうなんだよ、アンジェ……お前も、このままでいいと思ってるのか?」

 表情に強張りがあるアンジェに真顔で悟す。

 別に彼に同行を求めているのではない。ただ彼の本心が知りたいのだ。

 なぜなら、俺が知っているアンジェは、こんなところで指を咥えてセリナの死を待つような軟弱な奴ではない。

 険しい顔つきのまま彼を睨みつけると、アンジェも黙りこくったまま俺を見つめ返した。

 時が止まったように動かない俺たちをミドリーさんは固唾を呑みながら見守る。

 暫時の沈黙が続き、無言の睨めっこが続く。

 そんな中、アンジェは力尽きたように両腕をだらんと垂らした。その後はすぐに「フフッ」と小さく笑うと、遠い目をしてミドリーさんに声をかける。

「神官様……セリちゃんのこと、お願いできるかしら」

 その発言にミドリーさんは身じろぎするほど仰天した。

「本気かアンジェ! お前までエルフを探しに行くって言うのか!」

「そうよ……でも、申し訳ないけどこれはセリちゃんのためでもムギちゃんのためでもないわ。あたしがもう二度度あんな思いをしたくないから行くの――運命っていうのに抗いたくなったのよ」

 そう言ってアンジェは俺の隣に並び、ポンッと俺の肩を叩いた。

「……これならいいでしょ?」

 諭すようにアンジェは頬を綻ばせる。そんな見透かすような彼の顔に俺の釣られて笑う

「お前のそういうところ、嫌いじゃないぜ」

 俺も、彼も、自分の意志で行く。こうなった以上、誰も止められないだろう。

 それがミドリーさんにも伝わったのか、彼は頭を悩ませるように額に手をつき、嘆息をついた。

「わかったよ……お前たちの決意、しかと見届けた」

 そしてミドリーさんは呆れたように後ろを振り向き、扉に向かって話しかけた。

「お前らもそこで聞いているのだろう?」

 そんな彼の発言にきょとんとしていると、閉まっていたはずの部屋の扉がゆらりと揺れた。

 ミドリーさんの声かけにより、そこにいた二人がゆっくりと入ってきた。

 一人はセバスだったが、もう一人は知らない人だった。ツンツンに髪を立たせた緑髪で、目鼻立ちの良い青年だ。年は俺より少し年上のようで、細見だがしっかりと筋肉がついている。この体格から【創造者クリエーター】のようには見えなかった。

「セバちゃん、フーリ……あなたたち、怪我はもういいの?」

 彼らを気遣うようにアンジェが尋ねると、二人とも黙って首を縦に振った。

「僕は研究棟にいたので無傷です」

「俺はさっき帰ってきたばかりでな。セバスにここまで連れてきてもらった。悔しいくらいピンピンしてるぜ」

 フーリと呼ばれた男は真剣な表情で俺たちを見つめている。この感じだと、アンジェとは顔見知りらしい。

 そんな彼らにミドリーさんは力強く言う。

「今から彼らにクエストを要請する」

 ニッと歯を見せるミドリーさんにセバスは「ええ!?」と驚いた声をあげる。このギルドが半壊の状況でクエストを要請するとは思わなかったのだろう。ただ、フーリと呼ばれた彼だけは無言で頷いた。
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