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第4章 ギルド、崩壊
第66話 「また遊ぼうぜ」
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ハッと男の手を見ると、あの時セリナに見せていた爆弾らしき石が握られていた。慌ててもう片方の手に目をやると、もう奴が指を鳴らす直前だった。
「やべぇ!」
咄嗟に手を離し、転がるように男から逃げる。すると、男の手に持っていた石が爆破した。
爆破と共に熱風が吹き荒れる。しかし、集会所を襲った時よりも爆破は俄然弱い。そのおかげで転がっただけでなんとか直撃は避けられた。だが、俺が起き上がろうとした時には辺りに青紫色の煙がもくもくと湧いており、男がそれに紛れて消え去ろうとしていた。
「待ちやがれ!」
急いで体制を整えたが、男はすでに逃走しており、俺とかなり距離を離していた。
「じゃーなお兄さん。また遊ぼうぜ」
振り向きざまにそう言って男は手を振る。しかし、追いたいのに足のほうがついていかなかった。俺にはもう一度全力疾走する力が残っていなかったのだ。
「クッッソ!」
悔しさのあまり、地面を拳で殴る。ちょうどその時、背後から俺を呼ぶアンジェの声が聞こえた。
「ムギちゃん! 大丈夫!?」
アンジェもここまで走ってきたようで、肩で息をしていた。しかし、先ほどの爆発で擦り傷がついている俺と、目視ができるギリギリのところまで小さくなっている男から色々と悟ってくれた。
「悪い……俺……」
「ううん。あたしも何もできなかった……」
易々と敵を逃してもアンジェは俺を責め立てなかった。そして彼も悔しそうに下唇を噛んでいると、やがて深く息をついた。
「――戻りましょう。神官様が待ってるわ」
◆ ◆ ◆
アンジェに連れられてたどり着いたのは、ミドリーさんたちのいる教会だった。
教会の中はとにかく慌ただしくなっていた。
木製の長椅子には唸り声をあげた怪我人で埋め尽くされており、モネさんやミドリーさんが何度も行き来して手当てをしていた。
無論それでは人手が足りず、軽傷のギルド員がクーラの水を使って仲間の治療をしていた。床には空になったウォーター・コア・ボトルが無残に転がっている。おそらく数が足りていないのだろう。
呆然と立ち竦んでいるとミドリーさんが俺たちに気づいた。何度も治癒魔法を使っているからか、彼の額には汗が輝いている。
「ムギト、大丈夫だったか?」
「ご覧の通りピンピンしてるっす。けど、爆破クソ野郎は取り逃しました……」
「いや、相手も相当の手練れだろうから仕方ない。無事で何よりだ」
そう言って安心したように息をついたミドリーさんだったが、視線はすぐに患者たちに戻った。
患者たちはミドリーさんやクーラの水のおかげで外傷は治っているようだが、どの人も顔色は血の気が通っていないと思うほど青白かった。中には過呼吸のような呼吸困難になっている者もいる。怪我は治っているのに、どうしてこんなにも苦しそうなのだろうか。
患者たちの様子を見てあることに気づいてしまった。患者の中にセリナの姿がないのだ。
「ミドリーさん、セリナは?」
食いつくようにミドリーさんに尋ねると、彼は申し訳なさそうに眉尻を垂らした。
「セリナは……奥の部屋にいる」
ミドリーさんが後ろを向いてシスターにアイコンタクトを送る。「ここは任せる」ということのようだ。シスターもその合図をすぐに察し、コクリと首を振って応える。
ひと呼吸したミドリーさんは「こっちだ」と俺とアンジェを連れて奥にある廊下へと踵を返す。
彼の後に続いて奥の部屋へ行くと、部屋のベッドでセリナが眠っていた。
すでにミドリーさんたちが手当てした後のようで外傷はない。しかし、顔はこれまで見たどの患者よりも青白く、ところどころ紫色のあざが浮き上がっていた。
「……セリナ?」
近くに寄って名前を呼んでみても、彼女に反応はない。ピクリとも動かないし、呼吸をしている感じもない。これではまるで――死んでいるようだ。
「やべぇ!」
咄嗟に手を離し、転がるように男から逃げる。すると、男の手に持っていた石が爆破した。
爆破と共に熱風が吹き荒れる。しかし、集会所を襲った時よりも爆破は俄然弱い。そのおかげで転がっただけでなんとか直撃は避けられた。だが、俺が起き上がろうとした時には辺りに青紫色の煙がもくもくと湧いており、男がそれに紛れて消え去ろうとしていた。
「待ちやがれ!」
急いで体制を整えたが、男はすでに逃走しており、俺とかなり距離を離していた。
「じゃーなお兄さん。また遊ぼうぜ」
振り向きざまにそう言って男は手を振る。しかし、追いたいのに足のほうがついていかなかった。俺にはもう一度全力疾走する力が残っていなかったのだ。
「クッッソ!」
悔しさのあまり、地面を拳で殴る。ちょうどその時、背後から俺を呼ぶアンジェの声が聞こえた。
「ムギちゃん! 大丈夫!?」
アンジェもここまで走ってきたようで、肩で息をしていた。しかし、先ほどの爆発で擦り傷がついている俺と、目視ができるギリギリのところまで小さくなっている男から色々と悟ってくれた。
「悪い……俺……」
「ううん。あたしも何もできなかった……」
易々と敵を逃してもアンジェは俺を責め立てなかった。そして彼も悔しそうに下唇を噛んでいると、やがて深く息をついた。
「――戻りましょう。神官様が待ってるわ」
◆ ◆ ◆
アンジェに連れられてたどり着いたのは、ミドリーさんたちのいる教会だった。
教会の中はとにかく慌ただしくなっていた。
木製の長椅子には唸り声をあげた怪我人で埋め尽くされており、モネさんやミドリーさんが何度も行き来して手当てをしていた。
無論それでは人手が足りず、軽傷のギルド員がクーラの水を使って仲間の治療をしていた。床には空になったウォーター・コア・ボトルが無残に転がっている。おそらく数が足りていないのだろう。
呆然と立ち竦んでいるとミドリーさんが俺たちに気づいた。何度も治癒魔法を使っているからか、彼の額には汗が輝いている。
「ムギト、大丈夫だったか?」
「ご覧の通りピンピンしてるっす。けど、爆破クソ野郎は取り逃しました……」
「いや、相手も相当の手練れだろうから仕方ない。無事で何よりだ」
そう言って安心したように息をついたミドリーさんだったが、視線はすぐに患者たちに戻った。
患者たちはミドリーさんやクーラの水のおかげで外傷は治っているようだが、どの人も顔色は血の気が通っていないと思うほど青白かった。中には過呼吸のような呼吸困難になっている者もいる。怪我は治っているのに、どうしてこんなにも苦しそうなのだろうか。
患者たちの様子を見てあることに気づいてしまった。患者の中にセリナの姿がないのだ。
「ミドリーさん、セリナは?」
食いつくようにミドリーさんに尋ねると、彼は申し訳なさそうに眉尻を垂らした。
「セリナは……奥の部屋にいる」
ミドリーさんが後ろを向いてシスターにアイコンタクトを送る。「ここは任せる」ということのようだ。シスターもその合図をすぐに察し、コクリと首を振って応える。
ひと呼吸したミドリーさんは「こっちだ」と俺とアンジェを連れて奥にある廊下へと踵を返す。
彼の後に続いて奥の部屋へ行くと、部屋のベッドでセリナが眠っていた。
すでにミドリーさんたちが手当てした後のようで外傷はない。しかし、顔はこれまで見たどの患者よりも青白く、ところどころ紫色のあざが浮き上がっていた。
「……セリナ?」
近くに寄って名前を呼んでみても、彼女に反応はない。ピクリとも動かないし、呼吸をしている感じもない。これではまるで――死んでいるようだ。
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