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第3章 青年剣士の過日
第48話 その祈りは誰が為に
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やるせない気持ちを抱きながらもこの墓の下で眠る二人に手を合わせた。たとえ出会ったことがなくても、それくらいする義務はある。
「ありがとうございます。お二人もムギトさんに会えてきっと喜んでますよ」
セリナが嬉しそうに目を細める。だが、その微笑みも相変わらず愁いに帯びていた。
「その……友達とはかなり親しかったのか?」
こういう空気は慣れておらず、セリナの心の傷をえぐるようで怖かった。それでも墓の主のことが知りたくて、おずおずと訊いた。
すると、セリナは悲しむ様子もなく、むしろ懐かしむように答えてくれた。
「確かに親友と呼べるほどの間柄でしたが、幼なじみでもありました。私……両親を早くに亡くしており、よくこの子の家にお世話になっていたので」
「そ、そっか……」
一つ、ふたつと順調に地雷を踏んでいく。それでもセリナは俺に話をしてくれた。
「魔法属性も同じなので、二人でお花を咲かせたり、ゴーレムを作って遊んだりもしました……私がギルドで働くようになってからも職場まで顔を出してくれて――」
そこでセリナの声が震えた。
言葉を詰まらせたセリナに、心配したゴレちゃんとムンちゃんが駆け寄る。やはり、無理して明るさを取り繕っていたのだろう。それでもセリナは「大丈夫」と言うようにしゃがんで二体の頭にポンッと手を置く。
「……つらいこと思い出させてごめん」
悲しくなるくらい健気な彼女を見ていると、謝らずにはいられなかった。
けれども彼女は、俺の言葉にも首を振った。
「そんなことないです」
セリナは笑ってみせているが、その瞳は涙でうるんでいる。泣きたい気持ちを我慢しているのが痛いほど伝わり、こちらも心苦しい。
それなのに、彼女は謙虚だった。
「私こそ修行の邪魔をしてごめんなさい――戻りましょうか」
居たたまれなく思ったのだろう。そう言ってセリナはすっくと立ち上がり、二人の墓に背を向けた。
ゴレちゃんとムンちゃんも彼女の後ろについていく。
俺も戻ろうとしたが、ノアだけはまだ動こうとせず、二つの墓石をじっと見つめていた。
「ノア?」
「ん? ああ……今行く」
それだけ言って、ノアはぴょんと飛んで俺の肩に乗った。
「同じにおいだった――貴様の勘、多分合ってるぞ」
耳元で静かに告げたノアの発言に思わず固まる。この言い草からするとこいつも俺と同じ考えなのだろう。
だが、答えあわせはまだできない。それはお互いわかっていたから、俺たちはそれ以上何も言わずに墓場を立ち去った。
◆ ◆ ◆
翌朝。
俺を起こしたのは、朝日でもノアでもなく、ゴレちゃんとムンちゃんだった。
「ム~!」
二人共、ベッドの上に乗っかって俺の顔を見下ろしている。二体の言葉はわからないが、きっと「おはよう」なのか「起きて」か、それに似たようなことを言っているのだろう。
「わかった。起きるよ……」
目を擦りながらベッドから降りると、ゴレちゃんとムンちゃんも俺に続いてリビングに戻る。
――あれからセリナとは墓参りの後、すぐに別れた。
代わりに、ゴレちゃんとムンちゃんは昨日に引き続き一緒にいる。二体とも俺に忠実……というか、セリナに忠実で、俺の修行に付き合ってくれているのだ。
紅茶を入れ、買ってきたパンを口に頬張る。
まだ眠たいし、頭にも寝癖がついているのがわかるが、二体はさっきから「ムー! ムー!」と俺に何かを訴えている。両腕を上げて必死に何かをアピールしているから「修行しよう」とでも言っているのだろうか。
「わかったわかった……飯食って、顔を洗って歯を磨いたら修行するから。ちょっと待ってろよ」
俺の言うことが伝わったのか、二体は「ム~!」とバンザイした後、すぐに大人しくなった。その代わり、まだかまだかとソワソワしているのが俺でもわかる。本人たちは気にも止めてないだろうが、こっちとしては余計にプレッシャーを感じた。
「やれやれ」と思いながら、さっさと飯を食って身支度を済ませる。それが整ったら、さっそく魔法の修行に入った。
「ありがとうございます。お二人もムギトさんに会えてきっと喜んでますよ」
セリナが嬉しそうに目を細める。だが、その微笑みも相変わらず愁いに帯びていた。
「その……友達とはかなり親しかったのか?」
こういう空気は慣れておらず、セリナの心の傷をえぐるようで怖かった。それでも墓の主のことが知りたくて、おずおずと訊いた。
すると、セリナは悲しむ様子もなく、むしろ懐かしむように答えてくれた。
「確かに親友と呼べるほどの間柄でしたが、幼なじみでもありました。私……両親を早くに亡くしており、よくこの子の家にお世話になっていたので」
「そ、そっか……」
一つ、ふたつと順調に地雷を踏んでいく。それでもセリナは俺に話をしてくれた。
「魔法属性も同じなので、二人でお花を咲かせたり、ゴーレムを作って遊んだりもしました……私がギルドで働くようになってからも職場まで顔を出してくれて――」
そこでセリナの声が震えた。
言葉を詰まらせたセリナに、心配したゴレちゃんとムンちゃんが駆け寄る。やはり、無理して明るさを取り繕っていたのだろう。それでもセリナは「大丈夫」と言うようにしゃがんで二体の頭にポンッと手を置く。
「……つらいこと思い出させてごめん」
悲しくなるくらい健気な彼女を見ていると、謝らずにはいられなかった。
けれども彼女は、俺の言葉にも首を振った。
「そんなことないです」
セリナは笑ってみせているが、その瞳は涙でうるんでいる。泣きたい気持ちを我慢しているのが痛いほど伝わり、こちらも心苦しい。
それなのに、彼女は謙虚だった。
「私こそ修行の邪魔をしてごめんなさい――戻りましょうか」
居たたまれなく思ったのだろう。そう言ってセリナはすっくと立ち上がり、二人の墓に背を向けた。
ゴレちゃんとムンちゃんも彼女の後ろについていく。
俺も戻ろうとしたが、ノアだけはまだ動こうとせず、二つの墓石をじっと見つめていた。
「ノア?」
「ん? ああ……今行く」
それだけ言って、ノアはぴょんと飛んで俺の肩に乗った。
「同じにおいだった――貴様の勘、多分合ってるぞ」
耳元で静かに告げたノアの発言に思わず固まる。この言い草からするとこいつも俺と同じ考えなのだろう。
だが、答えあわせはまだできない。それはお互いわかっていたから、俺たちはそれ以上何も言わずに墓場を立ち去った。
◆ ◆ ◆
翌朝。
俺を起こしたのは、朝日でもノアでもなく、ゴレちゃんとムンちゃんだった。
「ム~!」
二人共、ベッドの上に乗っかって俺の顔を見下ろしている。二体の言葉はわからないが、きっと「おはよう」なのか「起きて」か、それに似たようなことを言っているのだろう。
「わかった。起きるよ……」
目を擦りながらベッドから降りると、ゴレちゃんとムンちゃんも俺に続いてリビングに戻る。
――あれからセリナとは墓参りの後、すぐに別れた。
代わりに、ゴレちゃんとムンちゃんは昨日に引き続き一緒にいる。二体とも俺に忠実……というか、セリナに忠実で、俺の修行に付き合ってくれているのだ。
紅茶を入れ、買ってきたパンを口に頬張る。
まだ眠たいし、頭にも寝癖がついているのがわかるが、二体はさっきから「ムー! ムー!」と俺に何かを訴えている。両腕を上げて必死に何かをアピールしているから「修行しよう」とでも言っているのだろうか。
「わかったわかった……飯食って、顔を洗って歯を磨いたら修行するから。ちょっと待ってろよ」
俺の言うことが伝わったのか、二体は「ム~!」とバンザイした後、すぐに大人しくなった。その代わり、まだかまだかとソワソワしているのが俺でもわかる。本人たちは気にも止めてないだろうが、こっちとしては余計にプレッシャーを感じた。
「やれやれ」と思いながら、さっさと飯を食って身支度を済ませる。それが整ったら、さっそく魔法の修行に入った。
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