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第2章 創造者《クリエイター》の冒険者ギルド

第31話 これは三叉槍であって、フォークではない

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 現れたのは白いムカデのような生き物だ。ただし、体長は俺たちより大きく、おそらく二メートルはある。ギョロリとした目は鋭く、凶暴に見える。

 もう一体は白いうさぎだった。うさぎと言えども体は大きく、毛玉のようにコロコロとしていた。それに加えて耳の先が凍っているし、額についたツノも氷柱だ。氷属性の魔物だろう。

「あのムカデ、試し切りにぴったりじゃない」

 明るい口調でアンジェは言うが、目は笑っていなかった。彼もまた、魔物をる気満々だ。

「ムカデは私がやるから、ムギちゃんはうさぎちゃんをお願い」

「りょ、了解!」

 強く頷いて、革のケースからバトルフォークを取り出す。

 そして、前みたいに柄を強く握るとフォークは紫のオーラを纏って俺の身長くらいに伸びた。戦いの準備は十分――いざ、戦闘だ。

「よっしゃ! 行くぜ!」

 気合い十分に声を高らかにあげる。そこでようやく、みんなの視線が俺に集まっていることに気づいた。

「……あれ?」

 ふと、隣に顔を向けるとあれだけ鋭かったアンジェの目がバトルフォークを見て丸くなっている。

 他の魔物も同じだ。出てきたフォークにキョトンとしていた。張り詰めていたはずの空気が、シュールな雰囲気に変わっているのが嫌でもわかる。そして、岩の奥で避難しているノアが必死に笑いを堪えていることも。

 そんな中、ついにアンジェが腫れ物に触るような感じに訊いてきた。

「ムギちゃん……その武器は?」

「三叉槍です」

「え?」

「三叉槍です」

「そ、そう。個性的なデザインね」

 アンジェが頬を引きつらせながらそう返してくれたが、そのやり取りに耐えきれなくなったノアはついに後ろを向いてぷるぷる体を震わせて笑った。

「人の気も知らないで、このクソにゃんこ……!」

 馬鹿にしたように笑うノアへのムカつきが、怒りとなってわなわなと沸き立つ。

 その憤りを発散するように俺はフォークの面を魔物たちに向け、怒鳴るように魔法を唱えた。

「『冷たい風コルド・ウィンド』」

 手の体温が一気に下がり、冷気を伝ったフォークの面から雪が出る。

 その雪はうさぎとムカデの顔面に当たり、驚いた二体は反射的に退いた。

 その隙を、アンジェが逃がさない。

「ナイス、ムギちゃん」

 高々と飛んだアンジェは剣を掲げ、勢いよくムカデを叩き切った。


 斬撃はムカデの胴体を切り裂き、赤黒い液体が舞った。アンジェに切り裂かれたムカデは鳴き声をあげながら後ろに転がる。一撃で致命傷だ。だが、これには当の本人も驚いていた。

「まあ、鋭い切れ味。前に使っていたのと段違いだわ。流石、魔王の配下のコアね」

 剣の切っ先を見ながらアンジェは満足そうに微笑む。

 そんな彼の戦いぶり目を奪われているうちに、今度はうさぎが攻撃を仕かけてきた。

 うさぎが大きく息を吸うと、俺に向けて氷の塊を吐き出した。

「うお!」

 吐き出された氷は弧を描いて俺の足元に落ちる。攻撃は外れたが、地面に落ちた氷の塊は水で湿った地面を一瞬にして凍らせた。あれに当たっていたら、俺も凍っていたのだろうか。

 だが、怯んでいる暇はない。

 間髪入れずに今度はうさぎがツノを向けて俺に突っ込んできた。ジャンプしたうさぎは一気に俺の懐に入る。あまりの速さに避けることはできず、間合いは逆に近すぎてフォークでは刺せない。空いているのは、左手だけだ。

「うおりぁぁ!」

 突撃するうさぎに咄嗟に左フックを決める。

 殴られたうさぎは壁になっている岩に直撃した。短い断末魔をあげたうさぎはその場で落ちて伸びている。ダメージは与えられたが、コアは出ていないのでまだ倒せてはいない。それと、あれだけ思い切り殴っても小手のおかげで左手に痛みはなかった。手を握ったり開いたりしても、小手は傷ついていない。この弾力性のある緩衝材に助けられたのか。

 防御力一.五増しの恩恵に感心していると、ノアが俺に話しかけてきた。

「おい、貴様のステータスが更新されたぞ」

 振り返るとノアが岩の上に乗って尻尾を揺らしていた。彼の前には青いボードが浮かんでいる。ステータスボードだ。

「さっきは防御力しか上がっていなかった。だが、今は攻撃力も『三』上がっている。多分貴様のバトルスタイルに伴って更新されたのだ」

 ノアが短く笑うと、ステータスボードはフッと消えた。 

「ステータスの更新って、そんなことあるのかよ」

「私も初めてのことだからよくわからん――ほら、油断するな。次、来るぞ」

 ノアに言われハッとうさぎを見ると、奴はすでに態勢整え終えていた。

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