転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

文字の大きさ
上 下
14 / 242
第1章 異世界《エムメルク》の歩き方

第14話 フォルムチェンジが些細すぎる

しおりを挟む
「気にしないで。綺麗な髪色と紫色の瞳だなって思っただけだから」

「むらさき?」

 反射的に目に触れる。俺の瞳の色は黒だ。なのにアンジェは紫と言った。

 確かめたいとズボンのポケットを探るが、顔を見られるような鏡もスマホもない。もたついている俺を不思議に思ったのか、アンジェは首を傾げながらまたバッグの中を探る。

「こんなのでいいかしら?」

 彼が取り出したのは木製の小さな鏡だった。

「わ、悪い」

 会釈しながら鏡を受け取り、顔を覗き込む。すると、アンジェの言った通り俺の瞳が紫色になっていた。

「うわ、マジだ! どういうことだよノア!」

 隣に座るノアに訊くと、ノアは澄ました顔でゆっくりと尻尾を振る。

「さあ? 転生したから見た目が変わったのでは?」

「さあって……適当だな、おい」

 半目になって顔をしかめていると、そのやり取りを見ていたアンジェがクスクスと笑う。

「凄いわムギちゃん。あなた、猫の言葉がわかるのね」

「え」

 しまった、と思った時は遅かった。ノアの声が俺にしか聞こえていないということを忘れていた。

 彼からしてみれば、ノアは「にゃーにゃー」としか言ってない。猫と話しているところを見られるなんて、ちょっと、いや、かなり恥ずかしい。

 頬に火照りを感じながらなんて誤魔化そうかと考える。けれども、アンジェは気にしていないようで、ニコニコ笑いながらノアの前にしゃがみ込んだ。

「あなたもよろしくね、ノア」

 そう言ってアンジェはノアの喉元を指で優しく撫でた。

 ノアは目を細めながら嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らす。元の姿は神の使いだというのに、こう見ると本当にただの猫だ。こいつ、順応性高いな。

 感心しながら腕を組んでいると、ノアを撫で終えたアンジェがすっくと立った。

「ところで……あなたたち、見ない顔よね。どこから来たの?」

 ドキッとした。アンジェの問いは当然の疑問だ。けれども、「どこから来たの?」と言われても、なんて言えばいいのだ。日本で通じるのか?

「え、えっと……」

 何を言おうか戸惑っていると、アンジェが不思議そうに小首を傾げた。これ以上言及されたくないあまりに咄嗟に視線を逸らす。すると、ニヤニヤと面白そうに笑うノアを目が合った。こいつ、案内人のくせに助ける気は毛頭なさそうだ。

 困惑している俺に、アンジェは見兼ねたのか心配そうに眉尻を垂らす。

「……もしかして、迷子?」

「え……あー……迷子っちゃ迷子っすね」

 主に人生の。

 それはどうでもいいとして、その場を取り繕うために俺は話を続けた。

「迷子もあるんすけど……い、色々と記憶がないんすよね」

 誤魔化すつもりだったが、目が泳いでいるのが自分でもわかる。ただ、この状況を上手く打破できるのがこれしか思いつかなかった。ちらりとノアを見ると、相変わらず澄まし顔だった。少しくらいなんか言ってくれ。

 恨めしそうにノアを見ていたが、そんな俺の不安を他所にアンジェは「まあ!」と声をあげた。

「もしかして記憶喪失? さっき魔物に襲われたせいかしら」

「可哀想に」とアンジェは人差し指を自分の頬に当てて小さく息を吐いた。この人は本当、仕草の一つ一つが女性……いや、女性より女性な気がする。

「そういえば、アンジェさんはなんでこんなところに来たんすか?」

 素朴な疑問をアンジェにぶつける。

 すると、アンジェは「呼び捨てでいいわよ」と笑みながら答えた。

「ギルドからさっきの魔物……ルソードの討伐のクエストがあってね。ここに出没情報があったからやってきたのよ」

「な、なるほど……」

『ギルド』『クエスト』気になる言葉は色々あるが、この場をやり過ごすために敢えて深追いはしないでおいた。

「でも、びっくりしたわ。着いてみたらいきなり悲鳴が聞こえたんだもの。本当、飛んできたかいがあったわ」

 アンジェはホッとした様子で頬を綻ばす。

 俺も本当に不甲斐ない。アンジェが来てなかったら間違いなく死亡していただろう。その魔物退治を依頼した人にも感謝せねば。

 そんなことを思っていると、アンジェは「さて」と話題を切り替えるように軽く手を叩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...