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新学期
1.体内環境。
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♦︎ ♦︎
朝食を食べ終えた李由は、歯磨きをしに洗面所へ行った。鏡は、見えないように、鏡用の黒いカーテンを閉めた。
青い歯ブラシを手に取り、歯磨き粉をつける。口に入れると、ほんのりと桃の甘い香りが口の中に広がった。この歯磨き粉は、麻由の趣味で買わされたものだったが、今では自分も愛用している。
八重歯のある歯は磨きにくく、大変だったが、口の中のざらざら感が無くなるまで丁寧に磨く。
舌でそれが無いか確かめ、口の中に溜まった歯磨き粉を吐き出す。
コップに水を入れ、口に含み、歯磨き粉の味がしなくなるまでゆすぐ。
本当は口をゆすぐのは一回でいいのだが、口の中に残っている歯磨き粉の味が大嫌いなので、味がしなくなるまでゆすいで吐き出すのを繰り返す。
ゆすぎ終わるとすぐに部屋に戻って制服に着替えた。
ネクタイを縛るのは、入学したての頃よりは上手になったかもしれないが、でもまだぎこちない。
__後で麻由に直してもらうか。
中学は学ランだった李由にとって、ブレザーの高校ではネクタイが一番難しかった。入学式では李人が締めてくれたのでなんとか大丈夫だった。だが高校生活をしていく中で、一人でネクタイを締められないとなると、笑われてしまう。特に麻由に。
それが嫌だったので、スマホで調べて練習をたくさんした。おかげで今は上達している。
「麻由、僕もう行く」
リビングでまだ朝食を食べている麻由に、一応声をかける。そうする事で、身だしなみを見てもらう。
「ネクタイ曲がってるよ。直してあげる」
「ん。ありがと」
麻由は慣れた手つきで曲がったネクタイを直した。
李由はこれでいつも学校に行っている。
「じゃ、行ってくる。学校でね」
「うん、気をつけてね。僕の李由」
「......きもい」
「え~、ひっどーい」
頬を膨らませふてくされている麻由にふんわりと微笑み、ショルダーバッグを担いで玄関から外に出て行った。
夏休みが終わったばっかりの今日、頭髪・服装検査がある。一から三年生の全校生徒が第一体育館に集まって、生徒指導の先生がチェックをする。
こんな暑い中であんな人数の人が集まったら倒れてしまう。李由は憂鬱な気分になりながら、学校への近道を歩く。
「暑い...」
八月が終わったとは言え、まだ暑さは残っている。李由は早く冬になれと心から願った。
冬はサポーター無しでも生きていけるし、いちいち隠す必要がないから楽だ。
何度もため息をつきながら歩いていると、目の前に背の高い同じ制服を着た男子がウロウロしていた。
李由は面倒事が大嫌いなので、気づいていないふりをしながらそのまま道を突っ切った。
__あんな人、見たことない。
いくら全校生徒の人数が多いからって、全員の顔を知らないわけではない。何回か二、三年生と交流する機会はあったし、別クラスの一年生同士でも普通に一緒の授業をする機会はある。だから、名前は知らなくても顔は知っている。
でもあんな人は見たことがなかった。
高身長で、一重の切れ目で、だけどパッチリとした瞳をしていた気がする。下を見ながら歩いていたので、相手の顔はそんなに把握していないけど。
学校にいち早く向かうため、いつもより早く歩いた。
「あ、李由ちゃん。おはよう」
「遥斗(ハルト)さん。おはようございます」
するとまた違う人が前にいた。だけどその人は知っている。
駒沢遥斗(コマザワハルト)。李人の幼馴染で、李由たちが小学生の頃に遊んでくれた第二の兄のような人だ。
李由は遥斗が大好きで、たまに家に泊まりにくるときは一緒のベッドで眠っていた。
「今日は早いんだね。いつもは俺が学校着いた後に来るのに」
「なんか、知らない人、歩いてて...」
「知らない人?」
「はい」
李由は今までのことを全て話した。
高身長の同じ制服を着た男がこの近辺をうろうろしていたこと。それが怖くて多少走ったことを、遥斗に全て話した。
それを聞いた遥斗は、クスッと笑った。
「それ多分、転校生じゃないか?」
「転校生?」
「今日から転校生が来るんだってよ。しかも李由ちゃんのクラスにね」
「えー」
最悪だった。
今でもまだ馴染めていないクラスに、また新しい人が来るなんて。ストレスが溜まって傷跡が増えてしまう。
李由は大きなため息をつき、遥斗のたくましい腕を小さな両手でぎゅっと握った。
単純に、怖かった。
その転校生は、絶対に自分の隣に座ることがわかっていたからだ。
李由の席は一番後ろの窓側の席で、隣はいつも空いていた。というか君悪がって李由の隣に座りたい人なんていない。だからいつも空いている。
転校生が来るとなると、空いている席はそこ以外になかった。だから、怖くなって遥斗にしがみついたのだ。
「大丈夫。いつも通りにしていれば、李由ちゃんは平気だよ」
そう言って、遥斗は李由の頭を撫でてくれた。
李由は学校まで、遥斗から離れようとはしなかった。
朝食を食べ終えた李由は、歯磨きをしに洗面所へ行った。鏡は、見えないように、鏡用の黒いカーテンを閉めた。
青い歯ブラシを手に取り、歯磨き粉をつける。口に入れると、ほんのりと桃の甘い香りが口の中に広がった。この歯磨き粉は、麻由の趣味で買わされたものだったが、今では自分も愛用している。
八重歯のある歯は磨きにくく、大変だったが、口の中のざらざら感が無くなるまで丁寧に磨く。
舌でそれが無いか確かめ、口の中に溜まった歯磨き粉を吐き出す。
コップに水を入れ、口に含み、歯磨き粉の味がしなくなるまでゆすぐ。
本当は口をゆすぐのは一回でいいのだが、口の中に残っている歯磨き粉の味が大嫌いなので、味がしなくなるまでゆすいで吐き出すのを繰り返す。
ゆすぎ終わるとすぐに部屋に戻って制服に着替えた。
ネクタイを縛るのは、入学したての頃よりは上手になったかもしれないが、でもまだぎこちない。
__後で麻由に直してもらうか。
中学は学ランだった李由にとって、ブレザーの高校ではネクタイが一番難しかった。入学式では李人が締めてくれたのでなんとか大丈夫だった。だが高校生活をしていく中で、一人でネクタイを締められないとなると、笑われてしまう。特に麻由に。
それが嫌だったので、スマホで調べて練習をたくさんした。おかげで今は上達している。
「麻由、僕もう行く」
リビングでまだ朝食を食べている麻由に、一応声をかける。そうする事で、身だしなみを見てもらう。
「ネクタイ曲がってるよ。直してあげる」
「ん。ありがと」
麻由は慣れた手つきで曲がったネクタイを直した。
李由はこれでいつも学校に行っている。
「じゃ、行ってくる。学校でね」
「うん、気をつけてね。僕の李由」
「......きもい」
「え~、ひっどーい」
頬を膨らませふてくされている麻由にふんわりと微笑み、ショルダーバッグを担いで玄関から外に出て行った。
夏休みが終わったばっかりの今日、頭髪・服装検査がある。一から三年生の全校生徒が第一体育館に集まって、生徒指導の先生がチェックをする。
こんな暑い中であんな人数の人が集まったら倒れてしまう。李由は憂鬱な気分になりながら、学校への近道を歩く。
「暑い...」
八月が終わったとは言え、まだ暑さは残っている。李由は早く冬になれと心から願った。
冬はサポーター無しでも生きていけるし、いちいち隠す必要がないから楽だ。
何度もため息をつきながら歩いていると、目の前に背の高い同じ制服を着た男子がウロウロしていた。
李由は面倒事が大嫌いなので、気づいていないふりをしながらそのまま道を突っ切った。
__あんな人、見たことない。
いくら全校生徒の人数が多いからって、全員の顔を知らないわけではない。何回か二、三年生と交流する機会はあったし、別クラスの一年生同士でも普通に一緒の授業をする機会はある。だから、名前は知らなくても顔は知っている。
でもあんな人は見たことがなかった。
高身長で、一重の切れ目で、だけどパッチリとした瞳をしていた気がする。下を見ながら歩いていたので、相手の顔はそんなに把握していないけど。
学校にいち早く向かうため、いつもより早く歩いた。
「あ、李由ちゃん。おはよう」
「遥斗(ハルト)さん。おはようございます」
するとまた違う人が前にいた。だけどその人は知っている。
駒沢遥斗(コマザワハルト)。李人の幼馴染で、李由たちが小学生の頃に遊んでくれた第二の兄のような人だ。
李由は遥斗が大好きで、たまに家に泊まりにくるときは一緒のベッドで眠っていた。
「今日は早いんだね。いつもは俺が学校着いた後に来るのに」
「なんか、知らない人、歩いてて...」
「知らない人?」
「はい」
李由は今までのことを全て話した。
高身長の同じ制服を着た男がこの近辺をうろうろしていたこと。それが怖くて多少走ったことを、遥斗に全て話した。
それを聞いた遥斗は、クスッと笑った。
「それ多分、転校生じゃないか?」
「転校生?」
「今日から転校生が来るんだってよ。しかも李由ちゃんのクラスにね」
「えー」
最悪だった。
今でもまだ馴染めていないクラスに、また新しい人が来るなんて。ストレスが溜まって傷跡が増えてしまう。
李由は大きなため息をつき、遥斗のたくましい腕を小さな両手でぎゅっと握った。
単純に、怖かった。
その転校生は、絶対に自分の隣に座ることがわかっていたからだ。
李由の席は一番後ろの窓側の席で、隣はいつも空いていた。というか君悪がって李由の隣に座りたい人なんていない。だからいつも空いている。
転校生が来るとなると、空いている席はそこ以外になかった。だから、怖くなって遥斗にしがみついたのだ。
「大丈夫。いつも通りにしていれば、李由ちゃんは平気だよ」
そう言って、遥斗は李由の頭を撫でてくれた。
李由は学校まで、遥斗から離れようとはしなかった。
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