君の瞳に恋をして

るり

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新学期

1.体内環境。

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 リビングに近づけば近づくほど、朝食のいい匂いがしてきた。今日の朝食はトーストだろう。

 李由は寝癖のついた頭を掻くと、洗面所で顔を洗い、軽く歯を磨いた。
 寝起きの口の中は、寝る前に歯を磨いても気持ち悪い。

 李由はふと、鏡に映っている自分を見た。

 雪のように真っ白い髪の毛と、目を覆い隠すようにして伸びている前髪。その隙間からは電気の光を反射して輝く、真っ赤な瞳。

 奥二重で、多少のくまがある涙袋。
 鼻筋から顎にかけてのラインは、ハーフなので自分でも綺麗だと思う。

 だが薄すぎる唇は、噛み癖のせいで爛れている。

「...醜い顔」

 そう鏡の自分に呟くと、電気を消してリビングへと向かった。
 リビングでは李人がコーヒーを飲みながら何かの書類を見つめていた。

 やはり李人のメガネ姿は母親に似ていて吐き気がする。李由は出来るだけ李人の方を見ないようにした。

「あ、李由。おはよ」

「ん、おはよ」

 バレないように、と思ったが、椅子を引いた音で簡単にバレてしまった。
 李人はいつも、李由に対して笑顔を見せている。理由は不明だが、その笑顔の裏には何かがある、といつも思う。

「バイト?」

 大好きなイチゴジャムがぬってあるトーストを食べながら、こそっと聞いてみる。
 優しい李人は、予定表から目を背け、笑顔を作った。

「ううん、生徒会の。体育祭どうしようかなって」

「ああ、なるほど...」

 今日から新学期が始まり、間もなくすれば体育祭がやってくる。
 生徒会長の李人は、プログラムの一番最後の、『生徒会企画・議案書』とにらめっこをしている。

 李由も一応楽しみにしているので、内容は聞かないでおいた。

 トーストを二口かじった。口いっぱいに広がるイチゴの甘酸っぱさは、李由の味覚を刺激し、喉を通っていった。
 やっぱり、このトーストが一番美味しい。

 朝食の時間は、李由にとって最高の時間だった。

「おいし?」

「うん、美味しい」

「そっか」

 李人は嬉しそうに微笑むと、腕時計を見ながらカバンに書類をつめこんだ。
 そして李由の頭を撫でると、また微笑む。

「じゃあ、これから会議があるから行くね。洗い物は帰ってからするから」

「うん」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 李由は急ぐ李人の背中に軽く手を振った。

 頭には、李人の大きな手の感触が残っている。
 それを消すため、李由は左手で頭を触る。サラサラだけど、何かが足りない髪の毛は嫌いだった。

「あれ、りーにぃもう行ったんだ」

「うん。だから麻由も早く食べて」

「はーい」

 今になって部屋から出てきた麻由は、寝癖がついたまま朝食を食べる。

 自分のことじゃないから気にしていないが、この芸術的な寝癖は学校に行くと無くなっているのだ。李由はそれが不思議で仕方なかった。

 しかしもし聞いたとしても、麻由は「知らなーい」と答えるだろうから、聞かないでおいた。

♦︎  ♦︎  ♦︎
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