君の瞳に恋をして

るり

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新学期

1.体内環境。

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「李由、麻由、起きて。朝ごはんできたぞ」

聞き慣れた、低く優しい、大人びた男の人の声。
兄の李人だと分かるまで、それほど時間はかからなかった。

 李由は左腕のひりひりとした痛みとともに、目を覚ます。右腕の方には生暖かく、ずっしりとした何かがくっついていた。

 横目でそれの正体を確認すると、いつもながら麻由がくっついて眠っている。

「......麻由、おもい...」

 ぐっすりと眠っている麻由を引き剥がそうと、右腕を振った。だが、李由の細い腕に、寝起きから力が入るわけがなく、ただ麻由の顔にぺちぺちと腕が当たるだけだった。

 しかし、そんなか弱い力で頰に触れただけで、麻由はうっすらと目を開けた。
 赤く輝く瞳が李由を視界に入れる。

 心臓がドクン、と大きく脈を打つ。

「ん~、りゆ...もうちょっと」

「麻由...っ!怒るよっ!」

 慌てて叫んだが、蚊の鳴くような声だったので、麻由が起きる気配は全くと言っていいほどなかった。
 その光景を見ていた李人は、呆れのため息をつき、麻由の脇をこちょばす。

「おら!起きるまで続けるぞ!」

「ははっ、やめてよっ、起きたよぉっ!」

 李人の大きな手を必死に抵抗しつつも、体を起こす。李由の右腕の重みが消えた。
 李由は麻由の瞳で焦った心を隠すため、弱いながらも麻由の後頭部を叩いた。

「いったーい!李由が叩いたぁ!」

 麻由はわざと痛がり、李人にしがみつく。
 しかし李人も麻由の頭を軽く叩き、微笑みながら「早く着替えて降りておいで」と言った。

 麻由の気怠げなかった返事の後に続いて、李由も「......はい」と返事を返した。

 李人がいなくなった二人の部屋には、少しだけ寂しさが残った。

 二人は顔を見合わせ、同じ顔を見つめた。
 まるで鏡越しに自分の顔を見ているみたいで、李由は顔を背けた。

 そのまま李由は、畳んで置いてあるワイシャツを羽織り、ベッドから降りた。
 そして部屋を出る前に麻由に一言言った。

「早く着替えて、ね...?」

 二人はいつも、シャツは着ないで寝る。

 同じ顔で同じ身長で、同じ格好をしているのが、李由にとって何かが嫌だったのだ。だから、お揃いの服は制服以外にない。

 李由は振り返らず、李人のいるリビングへと向かった。
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