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策謀3
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薄暗い車内にテレビの音声が流れている。高級リゾートホテル内で起きた爆発事件で、死者と負傷者が出ている事をキャスターは沈痛な面持ちで伝えていた。
「……会社役員、大倉義総さんが病院に救急搬送されましたが、意識不明の重体。他、宿泊客とみられる男性も重傷……」
口元に不敵な笑みを浮かべると、佐々本はニュースを受信していた携帯端末のスイッチを切った。義総が関わった事により、当初の予定が大幅に狂った彼は、憂さを晴らせて上機嫌だった。加えて子供の拉致に成功し、宝の部屋に続く鍵となるメダルも手に入ったと田宮から報告を受けた。
そのメダルを持った彼とここで落ち合う予定となっており、この先の空港からすぐに海外に渡る手筈を整えていた。
国外逃亡の足手まといになりそうな子供はガラムが大喜びで引き受けた。沙織に固執している彼は待機している例の貨物船でサイラムに向かう事にしているが、彼らが故国に着く頃には、佐々本自身は宝を持ってサイラムからも脱出している予定となっている。
佐々本には端から金儲けに繋がるサイラム王家の秘薬しか興味は無く、死んだ将軍に義理立てするつもりは毛頭ない。彼の研究に興味を示している組織はいくらでもあり、サイラムに代わる今後の活動拠点も既に確保してあった。
「来たな」
彼が車を止めていた駐車場に1台の車が入ってきて、すぐ近くに止まる。中から出てきた体格のいい男が街灯に照らしだされる。
「社長、お待たせしました」
車の外から田宮が静かに声をかける。
「つけられて無いだろうな?」
「はい」
用心深く佐々本が外に出ると、田宮は内ポケットから紫色の袋を取り出して彼に差し出す。彼はニヤリと笑うと、それを奪うようにして取り上げる。
「これで手に入る」
中に丸く硬い物が入っている事を確かめると、無造作に袋を破って中身を取り出す。街灯が金属質な光を反射すると、佐々本の目は爛々と輝きを増す。
「何だ、これは!」
だが、袋に入っていた2枚のメダルを取り出して彼は驚いた。先に取り出した金のメダルにはデフォルメされた竜が舌を出し、裏には大きく『ハ♥ズ♥レ』と刻印されている。もう一つ銀のメダルには鳳凰ではなく太った鶏が嘲笑っていて、こちらの裏には『(^_^)/~』と刻印されていた。顔文字の意味どころか存在自体知らない生真面目な彼でもイラッとさせるには十分だった。
「ふざけやがって!」
明らかな偽物のメダルを佐々本は地面に叩きつけた。するとメダルからパチッという音がする。見ると、金のメダルは2つに割れ、その間から小さなチップが覗いている。
「まさか……GPS?」
佐々本の顔から血の気が引く。いつか、このメダルが奪われることを想定し、義総はこんな手の込んだ細工を施したに違いない。これが本当にGPSで、この場に田宮といるのがバレれば、佐々本がガラムに手を貸したことも発覚してしまう。彼は苛立たしげにメダルを踏みつけ、その場から逃げるために車に乗り込もうとする。
「随分お急ぎのようですね」
聞きなれない声に驚いて振り向くと、眼鏡をかけたスーツ姿の若い男が立っていた。
「何者だ?」
2人が身構える中、男は平然と近寄ってくると、名刺を取り出して佐々本に差し出す。
「私は大倉義総様の秘書をしております、青柳和敬と申します」
尾行された形跡は無かったはずである。田宮は警戒を解かず、怪訝そうに相手の様子を窺っているが、佐々本は面白そうに相手を観察している。
「聞いた事があるな。あの男には良くできた秘書がついていると……。あの男はもう助かるまい。私に仕えろ、報酬は弾むぞ」
「お断りいたします」
佐々本が言い終える前に青柳はきっぱりと断る。
「……」
「私は今の仕事が気に入っております。倍だろうと、10倍だろうと、高額の報酬を提示されても主を変えるつもりはありません」
頑なな態度に面食らったが、佐々本が田宮に目で合図すると、彼は懐からナイフを取り出し青柳に斬りかかる。
「ならば死ね」
足元にはまだダミーのメダルが転がっている。今、この場にいる事を他の者に知られるわけにはいかない。
「お断り申し上げます」
青柳は田宮の攻撃をよけると、腕に手刀を加えてナイフを落とし、腹部に一撃を加える。佐々本は車に乗り込んで逃げようとするが、彼等に強力な照明が当てられる。眩しさのあまり動きが止まった彼等を武装した男達が取り囲む。
「貴公には色々お聞きしたい事があります。同行して頂きましょう」
青柳は人の悪い笑みを浮かべて佐々本に頭を下げた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
メダルのデザインは幸嗣が担当。
「……会社役員、大倉義総さんが病院に救急搬送されましたが、意識不明の重体。他、宿泊客とみられる男性も重傷……」
口元に不敵な笑みを浮かべると、佐々本はニュースを受信していた携帯端末のスイッチを切った。義総が関わった事により、当初の予定が大幅に狂った彼は、憂さを晴らせて上機嫌だった。加えて子供の拉致に成功し、宝の部屋に続く鍵となるメダルも手に入ったと田宮から報告を受けた。
そのメダルを持った彼とここで落ち合う予定となっており、この先の空港からすぐに海外に渡る手筈を整えていた。
国外逃亡の足手まといになりそうな子供はガラムが大喜びで引き受けた。沙織に固執している彼は待機している例の貨物船でサイラムに向かう事にしているが、彼らが故国に着く頃には、佐々本自身は宝を持ってサイラムからも脱出している予定となっている。
佐々本には端から金儲けに繋がるサイラム王家の秘薬しか興味は無く、死んだ将軍に義理立てするつもりは毛頭ない。彼の研究に興味を示している組織はいくらでもあり、サイラムに代わる今後の活動拠点も既に確保してあった。
「来たな」
彼が車を止めていた駐車場に1台の車が入ってきて、すぐ近くに止まる。中から出てきた体格のいい男が街灯に照らしだされる。
「社長、お待たせしました」
車の外から田宮が静かに声をかける。
「つけられて無いだろうな?」
「はい」
用心深く佐々本が外に出ると、田宮は内ポケットから紫色の袋を取り出して彼に差し出す。彼はニヤリと笑うと、それを奪うようにして取り上げる。
「これで手に入る」
中に丸く硬い物が入っている事を確かめると、無造作に袋を破って中身を取り出す。街灯が金属質な光を反射すると、佐々本の目は爛々と輝きを増す。
「何だ、これは!」
だが、袋に入っていた2枚のメダルを取り出して彼は驚いた。先に取り出した金のメダルにはデフォルメされた竜が舌を出し、裏には大きく『ハ♥ズ♥レ』と刻印されている。もう一つ銀のメダルには鳳凰ではなく太った鶏が嘲笑っていて、こちらの裏には『(^_^)/~』と刻印されていた。顔文字の意味どころか存在自体知らない生真面目な彼でもイラッとさせるには十分だった。
「ふざけやがって!」
明らかな偽物のメダルを佐々本は地面に叩きつけた。するとメダルからパチッという音がする。見ると、金のメダルは2つに割れ、その間から小さなチップが覗いている。
「まさか……GPS?」
佐々本の顔から血の気が引く。いつか、このメダルが奪われることを想定し、義総はこんな手の込んだ細工を施したに違いない。これが本当にGPSで、この場に田宮といるのがバレれば、佐々本がガラムに手を貸したことも発覚してしまう。彼は苛立たしげにメダルを踏みつけ、その場から逃げるために車に乗り込もうとする。
「随分お急ぎのようですね」
聞きなれない声に驚いて振り向くと、眼鏡をかけたスーツ姿の若い男が立っていた。
「何者だ?」
2人が身構える中、男は平然と近寄ってくると、名刺を取り出して佐々本に差し出す。
「私は大倉義総様の秘書をしております、青柳和敬と申します」
尾行された形跡は無かったはずである。田宮は警戒を解かず、怪訝そうに相手の様子を窺っているが、佐々本は面白そうに相手を観察している。
「聞いた事があるな。あの男には良くできた秘書がついていると……。あの男はもう助かるまい。私に仕えろ、報酬は弾むぞ」
「お断りいたします」
佐々本が言い終える前に青柳はきっぱりと断る。
「……」
「私は今の仕事が気に入っております。倍だろうと、10倍だろうと、高額の報酬を提示されても主を変えるつもりはありません」
頑なな態度に面食らったが、佐々本が田宮に目で合図すると、彼は懐からナイフを取り出し青柳に斬りかかる。
「ならば死ね」
足元にはまだダミーのメダルが転がっている。今、この場にいる事を他の者に知られるわけにはいかない。
「お断り申し上げます」
青柳は田宮の攻撃をよけると、腕に手刀を加えてナイフを落とし、腹部に一撃を加える。佐々本は車に乗り込んで逃げようとするが、彼等に強力な照明が当てられる。眩しさのあまり動きが止まった彼等を武装した男達が取り囲む。
「貴公には色々お聞きしたい事があります。同行して頂きましょう」
青柳は人の悪い笑みを浮かべて佐々本に頭を下げた。
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メダルのデザインは幸嗣が担当。
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