掌中の珠のように

花影

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プロローグ

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出だしだけみたらファンタジーと思われるかもしれませんが、舞台は現代です。


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 サイラム王国の都を包んだ炎は、真夜中というのに空を赤々と照らしていた。各所で爆発音と銃声が響き、武装した兵隊と炎から逃げ惑う住民が入り乱れて混乱の極みにあった。
「サオリ!」
 王宮の最奥にある部屋の一室に、すすと血で汚れた近衛兵の軍装をした男が飛び込んできた。いつもは短いながらも丁寧に整えてある黒髪も乱れ、精悍な顔も煤で汚れている。
 部屋には2人の女性が不安気に身を寄せ合っていたが、男の姿を見ると、王族に許される紫を基調とした民族衣装に身を包んだ女性が立ち上がる。ゆったりとした衣服の為にわかりづらいが、懐妊しているらしく、僅かにお腹が膨らんでいる。
「ジン……」
 夫婦らしき2人はしっかりと抱き合うと、唇を重ねる。やがてジンと呼ばれた男は愛する妻の両肩に手をかけ、彼女の顔を覗き込む。
「ここもそろそろ危ない。君は逃げてくれ」
「ジン、貴方は?」
 彼は心配げに見上げる妻をもう一度抱き寄せると、額に口づける。
「近衛隊長の私が逃げるわけにはいかない。伯父上……陛下は先ほど、少数の供を連れて脱出された。君も逃げてくれ」
「でも……」
 妻は泣きそうな顔で夫を見上げる。
「君は日本人だ。何としても生き延びて、故国に帰った方がいい。この子の為にも……」
 ジンは優しく妻のお腹をさする。彼女は視線を落とすと、小さく頷いた。
「隊長、時間がありません」
 部屋の外で近衛兵が声をかけてくる。
「さ、こっちだ」
 妻の手を取り、控えていた侍女を促して部屋の外に出る。
 銃声は近くまで迫っていた。一行は王宮の一角にある地下室の更に下へ降り、なみなみと水をたたえた地下水路に出る。そこには漁民が使うような粗末な小舟が用意されていた。
「さあ」
 ジンに手を取られてサオリと侍女が乗り込み、2人の近衛兵がそれに付き添う。
「これは、この子のお守りに」
 ジンは首から金のペンダントを外すと、妻に手渡し、最後の口づけを交わす。
「無事を祈る」
「ジン……」
 ジンが短く別れの言葉を告げると、彼女の目から涙があふれる。
「行ってくれ」
 同乗した近衛兵に命じると、彼らは静かに櫂を操り、船はすべるように動き出した。
「サオリ……」
 愛する妻の名前を呟いて、暗闇に消えていく小舟を見送ると、ジンは踵を返して地上に向かった。死を覚悟して……。


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元々は個人的な楽しみで考えていたネタです。
女性向けにしては少々ハードな内容となっております。
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