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芒種 4
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前話で芒種の章を終えるつもりだったんだけど、もう1話。
冒頭、沙耶と義総と幸嗣がいちゃついてるけど、このくらいは日常の光景ということで目をつむって頂けると……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「沙耶、先ずはこれを飲みなさい」
「次はこれね」
一夜明けた義総の寝室。既に昼に近い時間になって沙耶が目を覚まし、身を清め終えた頃合いを図って軽食が運ばれて来た。まだ心なしかクタリとしている沙耶を膝に乗せた義総が彼女に飲み物を飲ませ、近くに跪いている幸嗣が彼女に果物を食べさせている。2人ともとろけるような表情を浮かべて嬉々として沙耶の世話を焼いているのだ。
もはや大倉家では日常の光景なのだが、勤め始めてまだ日の浅い琴音にとっては刺激が強すぎる。何しろ3人が着ているのはバスローブのみ。特に露出している沙耶の肌には2人が付けたと思われる痕がいたる所に色濃く残っている。更にはことあるごとに男達は沙耶の体を撫で、その肌をくすぐり、口づける。それに応じる沙耶は、年下だとは思えないほどの色気を醸し出していて、彼女自身も頬が熱くなってくる。
「後はするから下がっていいよ」
琴音の事を気遣ってくれたのか、単に彼女がいない方が心置きなく沙耶を愛でられるからか、幸嗣がそう声をかけてくれた。琴音は内心ホッとしながら、むつみ合う3人に頭を下げて寝室を後にした。
「はぁ……」
義総の寝室を出ると、安堵のあまり急に力が抜けてくる。姿は見えないが、誰が見ているかは分からない。廊下に座り込みそうになるのをどうにかこらえ、使用人用の裏階段まで移動して座り込み、気持ちが落ち着くのを待った。
「乃木さん?」
声を掛けられて顔を上げると、階下から青柳が上がってきていた。頬を染め、少し目が潤んでいる彼女の姿に彼はギョッとする。
「具合でも悪いのか?」
急いで傍に寄ると、跪いて琴音の額に手を当てて熱を確かめる。彼女は慌てて「大丈夫」と答えた。
「ちょっと刺激が……」
そう答えると、和敬も事情を察したらしく「ああ……」と納得してくれた。
「本当に仕方のない方達です。沙耶様も気の毒に……」
彼はそう言うとため息をつく。2人の主は仕事から解放されてやりたい放題の状態だが、後でいたたまれない気持ちになるのは沙耶の方だ。沙耶もだがそれを目の当たりにさせられた琴音も気の毒としか言いようがなかった。
「立てますか?」
和敬が手を差し出すと、琴音は礼を言ってその手を取って立ち上がる。まだ動悸がしているが、彼と話が出来たことで少し落ち着いた気もする。スーツを着ている所から察するに彼は仕事中なのだろう。手を煩わせるのも申し訳ないと思い、「もう大丈夫」だと曖昧に返した。
「もし、今後も度が過ぎるようなら仰ってください。私はいつもいるわけではないので、塚原さんか綾乃さんに言って頂ければあの2人をお諫めすることは出来ます」
「で、でも……」
もし、自分が言ったことで気分を害されて解雇されてしまったらどうしよう……そんな懸念があった。今、解雇されてしまったら非常に困る事情が彼女にはあるのだ。
「ご心配は無用です。沙耶様の為にも少しは遠慮というものを覚えていただかなければなりません」
そう言って和敬は琴音を安心させる。心優しい沙耶は男2人に何をされても許してしまう傾向にある。だからこそ、その分周囲が2人の手綱を取る必要があるのだと説明する。
「そ、そういう事でしたら……」
和敬の説明に琴音もおずおずといった様子で頷いた。彼女もあの心優しい女主の事を気に入っている。出来る事ならばずっとこのまま仕え続けたいと思うほどに。
「落ち着いたようですね。1人でもどれますか?」
こうして会話を交わしたおかげで琴音の動悸も治まった。和敬のさりげない気配りが嬉しいが、仕事中らしい彼をこれ以上引き留めるのは申し訳ない。
「もう、大丈夫です。お仕事中なのに済みませんでした」
「休暇中ですし、謝らなくていいですよ」
「でも……」
「ああ、これは普段着です」
和敬の話では、他の服装にしようにもどうにも落ち着かない上に、急に呼び出されることもあるので、結局休みの日もスーツを着てしまうらしい。昨日の本の続きを読もうと書庫へ向かっていたところで琴音と遭遇したらしい。
「そうですか、失礼しました」
「謝らなくていいですよ。まだ日が浅いのですから、失敗や間違いがあるのは当然です。そんなに委縮してしまっては身が持ちませんよ」
「は、はい……」
「心配はいりませんから、もう少し気を楽にしてください」
「はい……ありがとうございます」
そう言って琴音が頭を下げたところで、階下から綾乃が彼女を呼ぶ声がする。思った以上に時間がかかっていたようだ。琴音は返事をすると、慌てて和敬に頭を下げて階下に降りて行った。
「無理をしすぎないといいのですが……」
その後姿を見送りながら、和敬は1人呟いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次で章が変わります。
またちょっと間が空くと思いますが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
冒頭、沙耶と義総と幸嗣がいちゃついてるけど、このくらいは日常の光景ということで目をつむって頂けると……。
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「沙耶、先ずはこれを飲みなさい」
「次はこれね」
一夜明けた義総の寝室。既に昼に近い時間になって沙耶が目を覚まし、身を清め終えた頃合いを図って軽食が運ばれて来た。まだ心なしかクタリとしている沙耶を膝に乗せた義総が彼女に飲み物を飲ませ、近くに跪いている幸嗣が彼女に果物を食べさせている。2人ともとろけるような表情を浮かべて嬉々として沙耶の世話を焼いているのだ。
もはや大倉家では日常の光景なのだが、勤め始めてまだ日の浅い琴音にとっては刺激が強すぎる。何しろ3人が着ているのはバスローブのみ。特に露出している沙耶の肌には2人が付けたと思われる痕がいたる所に色濃く残っている。更にはことあるごとに男達は沙耶の体を撫で、その肌をくすぐり、口づける。それに応じる沙耶は、年下だとは思えないほどの色気を醸し出していて、彼女自身も頬が熱くなってくる。
「後はするから下がっていいよ」
琴音の事を気遣ってくれたのか、単に彼女がいない方が心置きなく沙耶を愛でられるからか、幸嗣がそう声をかけてくれた。琴音は内心ホッとしながら、むつみ合う3人に頭を下げて寝室を後にした。
「はぁ……」
義総の寝室を出ると、安堵のあまり急に力が抜けてくる。姿は見えないが、誰が見ているかは分からない。廊下に座り込みそうになるのをどうにかこらえ、使用人用の裏階段まで移動して座り込み、気持ちが落ち着くのを待った。
「乃木さん?」
声を掛けられて顔を上げると、階下から青柳が上がってきていた。頬を染め、少し目が潤んでいる彼女の姿に彼はギョッとする。
「具合でも悪いのか?」
急いで傍に寄ると、跪いて琴音の額に手を当てて熱を確かめる。彼女は慌てて「大丈夫」と答えた。
「ちょっと刺激が……」
そう答えると、和敬も事情を察したらしく「ああ……」と納得してくれた。
「本当に仕方のない方達です。沙耶様も気の毒に……」
彼はそう言うとため息をつく。2人の主は仕事から解放されてやりたい放題の状態だが、後でいたたまれない気持ちになるのは沙耶の方だ。沙耶もだがそれを目の当たりにさせられた琴音も気の毒としか言いようがなかった。
「立てますか?」
和敬が手を差し出すと、琴音は礼を言ってその手を取って立ち上がる。まだ動悸がしているが、彼と話が出来たことで少し落ち着いた気もする。スーツを着ている所から察するに彼は仕事中なのだろう。手を煩わせるのも申し訳ないと思い、「もう大丈夫」だと曖昧に返した。
「もし、今後も度が過ぎるようなら仰ってください。私はいつもいるわけではないので、塚原さんか綾乃さんに言って頂ければあの2人をお諫めすることは出来ます」
「で、でも……」
もし、自分が言ったことで気分を害されて解雇されてしまったらどうしよう……そんな懸念があった。今、解雇されてしまったら非常に困る事情が彼女にはあるのだ。
「ご心配は無用です。沙耶様の為にも少しは遠慮というものを覚えていただかなければなりません」
そう言って和敬は琴音を安心させる。心優しい沙耶は男2人に何をされても許してしまう傾向にある。だからこそ、その分周囲が2人の手綱を取る必要があるのだと説明する。
「そ、そういう事でしたら……」
和敬の説明に琴音もおずおずといった様子で頷いた。彼女もあの心優しい女主の事を気に入っている。出来る事ならばずっとこのまま仕え続けたいと思うほどに。
「落ち着いたようですね。1人でもどれますか?」
こうして会話を交わしたおかげで琴音の動悸も治まった。和敬のさりげない気配りが嬉しいが、仕事中らしい彼をこれ以上引き留めるのは申し訳ない。
「もう、大丈夫です。お仕事中なのに済みませんでした」
「休暇中ですし、謝らなくていいですよ」
「でも……」
「ああ、これは普段着です」
和敬の話では、他の服装にしようにもどうにも落ち着かない上に、急に呼び出されることもあるので、結局休みの日もスーツを着てしまうらしい。昨日の本の続きを読もうと書庫へ向かっていたところで琴音と遭遇したらしい。
「そうですか、失礼しました」
「謝らなくていいですよ。まだ日が浅いのですから、失敗や間違いがあるのは当然です。そんなに委縮してしまっては身が持ちませんよ」
「は、はい……」
「心配はいりませんから、もう少し気を楽にしてください」
「はい……ありがとうございます」
そう言って琴音が頭を下げたところで、階下から綾乃が彼女を呼ぶ声がする。思った以上に時間がかかっていたようだ。琴音は返事をすると、慌てて和敬に頭を下げて階下に降りて行った。
「無理をしすぎないといいのですが……」
その後姿を見送りながら、和敬は1人呟いた。
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次で章が変わります。
またちょっと間が空くと思いますが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
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