群青の軌跡

花影

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第6章 親子の物語

第3話

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 祝宴から5日後、俺達はアジュガへ帰省することにした。無事の手紙を出してはいるが、心配しているはずの両親にちゃんと姿を見せておきたいし、竜騎士科の運用が始まったミステルの様子も見ておきたい。夏至祭の直前にまた皇都へ戻って来る予定で帰省することに決めた。
「隊長、アジュガへ行くなら自分も同行します」
「荷物の搬送と道中の護衛は任せて下さい」
 雷光隊のみんなは疲れているだろうし、休暇を満喫してもらおうと船を手配するつもりでいたのだが、どこからか話を聞きつけた彼等が例年通り移動に手を貸してくれることとなった。
 みんなもうちの両親に無事の帰還を報告したいらしい。だが、さすがに一度に全員は多すぎる。話し合いの結果、今回の往復、そして夏至祭後の往復の4回に分かれることになり、俺は信用の置ける護衛と移動手段を得ることになった。
「おはようございます。今回はお任せください」
「ありがとう。助かるよ」
 移動当日の朝、今度はドムスでお披露目があるアルノーとジークリンデが着場で俺達一家を迎えてくれた。遠回りになるにもかかわらず、結婚の報告もしたいからとわざわざアジュガに立ち寄ってくれるらしい。後はファビアンとマティアス、そして婚約者のヴァルトルーデを連れたレオナルトが同行する。
 今回レオナルトは竜騎士に復位を果たしたことで、俺の従者として無理に働かなくても良くなったのだが、本人の強い希望でまだしばらく続ける事となった。せっかくの休暇に付き合わなくてもいいと言ったのだが頑として譲らず、オリガが提示した妥協案として婚約者殿も同行させることになったのだ。
「りゅーしゃんだ」
 荷物の采配をサイラスがしてくれているので、その間に家族で相棒に挨拶を済ませておく。待機している飛竜達に近づくと、腕に抱えているカミルが嬉しそうに指さす。相棒に挨拶をすると、カミルも一緒になってペタペタと飛竜の顔に振れている。赤ん坊のころから触れ合っているせいか、飛竜に対して物おじしない子に育っている。竜騎士の子供にありがちな特徴だ。
「エアリアル、今日もよろしくね」
 俺と一緒でオリガの事が大好きな相棒は彼女に頭をなでてもらうと嬉しそうに喉を鳴らしている。カミルも一緒になってなでている光景は正に癒しだ。そうしている間に他の飛竜の準備は整っていた。
「さ、じぃじとばぁばの所へ向かおうか」
「うん!」
 元気よく返事をするカミルの頭をなでると、先ずはオリガを相棒の背中に乗せた。そして彼女の後ろに乗った俺との間に挟むようにカミルを補助具で固定して準備を整えた。
「さ、行こうか」
 俺が合図を送るとアルノーが最初に相棒を飛び立たせ、続けて他の飛竜も順に飛び立っていく。俺も相棒の首筋を軽くたたいてから最後に飛び立たせた。およそ1年半ぶりの故郷。家族や皆に会えるのが楽しみだった。



「ルーク!」
 着場に着くなり母さんが俺を抱きしめる。やはり心配をかけていたみたいだ。「大丈夫だよ」と声をかけてなだめてようやく離してもらえた。だがその後、1年会えなかった間に大きくなっているカミルの姿を見て感激して泣き、俺の留守中1人で育児や家の切り盛りを頑張ったオリガを労ってまた泣いていた。ともかく母さんを宥めるのは大変だったのだが、それだけ心配かけたのだと理解した。
「本日は雷光隊の皆様の無事のご帰還と、アルノー卿とジークリンデ卿のご成婚の祝宴の準備を整えております。アジュガの住民総出で準備いたしました」
 母さんが落ち着いたところで、一緒に出迎えてくれたガブリエラがそう報告すると、着場の前の広場に集まってくれていたみんなから歓声が上がった。春分節のお祝いを自重し、今日はその経費で祝宴の準備を進めてくれたらしい。
 町の上空からも確認済みだが、広場の一角には舞台が設置されている。無礼講なら領主館よりもこちらの方が楽しめるだろう。春分節や収穫祭に匹敵する宴となりそうだ。
「分かった。みんなもありがとう。今日はみんなで楽しもう」
 こうなる事は予見していた。きっと背後で満億そうな笑みを浮かべているサイラスの入れ知恵に違いない。何はともあれみんなの気持ちが込められている。今日はみんなの希望通り無礼講で楽しむことにした。
「いつも温かく迎えてくれてありがとうございます。誰一人欠けることなく任務を遂行して無事に帰ってきました。これで自分も心置きなくリンデと新婚生活を送れます。これからも立ち寄ると思いますが、よろしくお願いします」
 今日は結婚祝いも兼ねているので、挨拶はアルノーに任せた。少し硬い挨拶は、一部の独身者達から僻まれたもののその他の住民からは喝采を浴びた。賑やかな宴会はこうして始まった。
「ティム君はまだ向こうで頑張っているのかい?」
 エルニアで起こった事を皆聞きたがったので、話せる範囲で説明する。どちらかと言うと政治的な事よりも見知っている人達の事を心配していたので、この町にも来たことがあるアレス卿やティムの様子を中心に話した。
「アレス卿の計らいで、エルニアを制圧するまでは主に伝令の役割をはたしていたらしい。今は騎士団の一員として忙しくしているみたいだ」
「今回の事は彼がいち早く情報を礎の里へ持ち込んだから迅速な対処が出来たと聞き及んでいます。今現在エルニアで彼は『黒い雷光』と呼ばれているそうです」
 アルノーが俺の情報に捕捉する。竜騎士に通り名が付くのは一流の証だと言われている。ティムもその仲間入りを果たしたのだが、本人はまだ納得がいっていない様子だ。向上心があると言えばいいのか、自分を卑下しすぎていると言えばいいのか微妙なところだ。
「すごいねえ」
 母さんや町の人達が感心している一方で、オリガはしきりに恐縮している。彼女にとってはいつまでも手のかかる弟のままなのだろう。ともかく彼は残りの契約期間中もアレス卿の元で頑張るつもりらしい。
「アレス卿も大変な役を引き受けたんだねえ」
 アレス卿はエルニアの復興に騎士団の再編、そして未成年で即位した新しい国主の教育も任されていた。礎の里が全面的に協力を約束してくれているのがせめてもの救いだが、10年はエルニアから離れられないだろう。
「各国の国主方も支援を約束されているし、彼が孤立することは無いと思うよ」
 不安要素はあるが、エルニアにとって現状以上に悪くなる事は無いと言い切れる。アレス卿から内密に知らせてもらった事だが、ダミアンさん達もエルニアの住民達の為に奔走しているらしい。カルネイロに関わった過去の為に彼等の活躍が公に出来ないのが残念だが、元気にしていると聞いて少し安堵した。
 話題はやがてアルノーとジークリンデの慶事に移った。先日のリネアリス家公邸で開かれた煌びやかなお披露目の様子は、年齢を問わず女性陣が関心を示していた。あの宴が出会いの場になった隊員もいたと教えると、母さんを筆頭にした元おかみさん達が自分の子供達の事の様に喜んでいた。
 この頃になると父さん達元親方衆は酔っ払って話など聞いていなかった。それを母さん達に叱られ、それを見ている周囲が笑っている。ちなみに今の親方衆は真面目で大人しい人が多いので、元親方衆に意見がなかなか言えないのが現状だ。もっと強気に出てもいいのだけど、師匠に当たる人達ばかりなので遠慮してしまうらしい。その分、元おかみさん達には頑張ってもらおう。
 こうして賑やかな宴は夜遅くまで続き、翌朝はオリガ特製の二日酔いの薬が大活躍したのだった。
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