群青の軌跡

花影

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第5章 家族の物語

第29話

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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


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 朝の決闘騒動の報告が一段落し、議題を変えようとしたところへ慌ただしく扉が叩かれる。何事かと返事をする前に息を切らしたアルノーとジークリンデが飛び込んできた。
「どうした? 護衛の打ち合わせは終わったのか?」
「先程終わりました」
「レオナルト卿がバルトルト卿と決闘したと……」
 礎の里へ向かう護衛の打ち合わせと重なっていたので、アルノーとジークリンデは今日の会合は欠席の為、今朝の試合には立ち会っていなかった。どうやら騒動を聞きつけて来たらしい。
「決闘じゃなくて試合だな」
 すかさずシュテファンが訂正する。そして2人にも席を勧めると、先程俺も聞かせてもらった経緯を説明する。するとジークリンデはいきなりレオナルトに頭を下げた。
「レオナルト卿、申し訳ありません」
「何で、ジークリンデが頭を下げるんだ?」
 理解できずに俺は首を傾げる。レオナルトも同じく思ったようで、困惑した様子で首を傾げている。
「隊長達がラヴィーネに向かった後、バルトルト卿がリネアリス家に婚約破棄の無効を訴えて来たそうです。自分はレオナルトに嵌められたのだと訴えたそうですが、リネアリス公は相手にしなかったそうです」
「父は怒りに任せてバルトルト卿にかなり厳しい言葉を返したそうです。その後の尋常ではない様子から何か騒ぎを引き起こすのではないかと推測しておりました。私達は十分警戒していたのですが、まさかレオナルト卿へ矛先が向くとは思いませんでした」
 ジークリンデは困った表情を浮かべている。その様子からリネアリス公も大人げない対応をしたのではないかと推測できたが、だからと言ってリネアリス公を責めるのは筋違いだろう。
「悪いのはバルトルトだ。レオナルトも試合には勝ったし、結果から言うと奴は自業自得で恥を上塗りして終わった。リネアリス公もジークリンデも謝る事は無いだろう」
「気にしないで下さい。自分も今日の事はいい教訓になりました」
 レオナルト自身の口からこういった言葉が出てくるようになったのは嬉しい事だ。
「まだまだだけどな」
「バルトルト卿に苦戦するようではまだ鍛錬が足りないですね」
 俺の評価にラウルが更にダメ出しをすると、レオナルトは顔を引きつらせている。しかし、シュテファンは別の事を思っていたようで安心させる様に捕捉する。
「ですが、貴公の実力を示すいい機会になったのではないでしょうか?」
 シュテファンが言うには新たに後継候補としてミムラス家の養子となった3人はレオナルトを見下しているらしい。俺は気付かなかったが、今日の試合も見に来ていて、散々レオナルトにヤジを飛ばしていたが、レオナルトの実力を見て逃げる様に去って行ったと言う。
「推測でしかないが、この3人がバルトルトを焚きつけた可能性もある。だから、ジークリンデも気にしなくていいぞ」
 シュテファンはそう言って自分の見解を締めくくった。まだ証拠は無いので憶測でしかないらしいけれど、彼が根拠も無しにそんな事を言うとは思えない。カミルにも関わる事なので、サイラスもミムラス家の情報を集めているはずだから、彼も何か情報を得ていないか後で話を聞いてみよう。
「でも……自分は兄者……バルトルト卿に勝てるとは思っていませんでした」
 レオナルトがポツリと本音を口にする。彼は昔からバルトルトの事を兄者と呼んで慕い剣術も基礎から教えてもらったらしい。元々の彼の剣術を見ればそれも納得できる。そして今まではどんなに試合をしても勝つことが出来なかったのに、たった1カ月俺達の指導を受けただけで勝てたのが不思議らしい。
「それは彼が自分の力を過信しすぎて努力をおこたったからだろう」
「それもありますが、彼が有利な条件でしか試合をしていなかったから、レオナルトは勝てなかったのではないか?」
 俺の見解にシュテファンが補足する。現在、第2騎士団を預かっているケビン卿がクビを言い渡さなかったのだからそれなりに力がある竜騎士なのだろう。だが、鍛錬を続けなければその力は衰えていくばかりだ。それを理解させるのもあって、今年の武術試合に参加させたと聞いている。
 そしてレオナルトが今までバルトルトに勝てなかったのは、攻撃を避けるのは負けと同義と言われてレオナルトに不利な力押しだけの条件で試合をしていたからに他ならない。体格差があるのだから、勝てないのは当然だ。この1カ月の鍛錬でようやく避けてもいいのだと理解させたのだ。
「バルトルトに勝って喜んでいるようではまだまだだけどな」
 俺が最後にそう付け加えると、レオナルトは神妙な表情で「精進します」と答えていた。



 前置きが長くなってしまったが、そこでようやくラヴィーネでの騒動の話となった。今日はもう予定は無いと言うアルノーとジークリンデもそのまま参加する事になった。
「感想は一言で言うと最悪だったな」
「それは大変でしたね」
 ラヴィーネでの騒動の大まかな話は伝わっていたらしいが、改めて何があったかを伝えると、アルノーと教育部隊の面々は何とも言えない表情を浮かべていた。
「近々監察官が送られることになっているから、改善されるはずだ」
「かなり根が深いですけど、大丈夫ですかね」
 思わず不安を口にしたのは、ドミニクだ。シュタールの例もあるし、ラヴィーネではあの若様の事件を目の当たりにしているから余計に不安なのだろう。
「第1騎士団から竜騎士も派遣し、共に長期間滞在する。今回は徹底的に行う様だ」
「我々が同行することになるのでしょうか?」
 俺と同じ不安を口にしたのはコンラートだ。その表情からはもうあの地には行きたくないと言うのがありありと伝わって来る。
「心配するな。デューク卿の隊が行くそうだ」
 俺の答えに皆ざわつく。彼の隊は第1騎士団でも精鋭中精鋭だ。特にそれがよくわかっているレオナルトが一番驚いていた。
「それだけ陛下もアスター卿も本気という事だ。俺達は予定になかった遠征を済ませたばかりだから、討伐期に入るまではゆっくりしていていいそうだ」
 長めに休暇が取れると分かり、遠征組は一様にほっとした表情を浮かべていた。
「後は教育部隊の今後について話があった」
 この一言で一様に表情を引き締めたのはローラントと教育部隊員だ。やはり俺が話を聞いた時同様、何か不都合があったのかと思っている様だ。
「君達の評判が良すぎるから次の希望者が殺到してその選定が難航しているらしい。そこで今後は竜騎士見習いの育成に力を入れていくことにしたそうだ。当面はミステルで試験的に行うそうだ」
 そう言ってブロワディ卿やエルフレート卿も参加して高等学院に竜騎士育成の部門を立ち上げる話がある事を伝える。規模の大きな話に他の隊員は戸惑っている様子だった。
「おそらく竜騎士全員を育成するのは難しい。だから将来の幹部候補として育てることになるだろう」
「だったらなおの事不正が起こる可能性が高いのでは……」
 第2騎士団程ではないが、これまで各騎士団でも縁故や賄賂による不正採用は行われて来た。どんなに対策しても完全には無くならない。アルノーの心配はもっともだろう。それをどう防いでいくかが今後の課題になる。
「最初は大丈夫だろう。たとえ不正が行われたとしても、ブロワディ卿やエルフレート卿から科せられる訓練に耐えられるかどうか疑問だ。それを10年後、20年後もどう続けていくかの方が課題になる。俺達も協力を要請されているから、出来る限りの事をするだけだ」
 俺の見解にアルノーも他の隊員達も納得してうなずいた。
「この件に関してはまた話があるだろう。その時はラウルもシュテファンも同席してくれ」
「分かりました」
「それでしたらローラントも同席させましょう」
 確かにずっとシュテファンの補佐してきたローラントの意見も貴重だ。シュテファンの提案を受け入れて一先ずラヴィーネの騒動に関する話は終了した。
「そういえばアルノー、空いている日はあるか?」
 雑談が始まりかけたところで、アルノーに今後の予定を聞いてみる。礎の里への出立前に、アルノーとジークリンデ、そしてシュテファンとフリーダの婚約の祝いの席を設けたいからだ。
「隊長、会場はどちらで?」
 都合のつく日を聞き出し、他の隊員との兼ね合いも考えて祝いの席は7日後となったが、ファビアンやエーミールが神妙な面持ちで聞いて来る。
「もちろん俺の家だ。恋人も連れてきていいぞ」
 俺が主宰するのだから当然我が家での開催となる。そしてあの家をたまわってから初めての大掛かりな夜会となる。サイラスも日付が決まればすぐに準備が出来るよう手配を済ませてくれているし、アイスラー家から応援を派遣してくれるとラウルからも約束してくれている。
「場所は……変えられませんか?」
「無理だな」
「緊張するのですが……」
 彼等もまだ我が家の調度品が怖くて触れないらしい。だが、毎日交代で迎えに来てくれているのだからいい加減慣れて欲しいものだ。今回の夜会がいい機会になってくれるはず。俺は異論をはさまずきっぱりと開催日時と場所を明言して全員参加を念押ししたのだった。




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今年のあって無いような目標
遅刻しないように更新する。(できるだけ)
群青の軌跡を完結させる。(多分)
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