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第4章 夫婦の物語
閑話 レーナ
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遅くなってすみません。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
孤児院に来てから2度目の春が来た。今の領主様のおかげで私達はもう、ひもじい思いも寒さで凍えるような思いもしなくていい、そんな幸せな日々を送れていた。いつか、きっと、何かお返しがしたい。いつからか、そんな風に思うようになっていた。
「カイ兄ちゃん、かっこいい」
「カイ兄ちゃん、行っちゃいやだ」
「え~、カイ兄ちゃんどっか行くの?」
今日はこの孤児院で最年長のカイ兄が竜騎士見習いになるための勉強の為に、領主館にある宿舎へ引っ越す日だ。珍しく寝坊せずに起きだしたカイ兄は今日の為に用意された綺麗なシャツとズボンを着ていて、それを見た年少の子供達が大騒ぎしていた。
「同じ町にいるんだ。またいつでも戻って来れるさ」
寂しがる年少の子達とは違い、カイ兄は何だかワクワクしている。まだ、見習いになれると決まったわけではないのだけど、それでも憧れの存在である竜騎士に一歩近づくのだから当たり前かもしれない。
「あ、馬車だ!」
外を眺めていた子が窓の外を指さす。みんなで窓の外をのぞいて見ると、立派な馬車がちょうど孤児院の門をくぐってきたところだった。大騒ぎする年少の子達をなだめ、出迎えの為にみんなで玄関へ向かった。
「ようこそご領主様」
馬車から降りて来たのは、このミステルの領主様のルーク卿だった。お貴族様で有名な竜騎士様なのに偉ぶらないで、私達の事をとても気にかけて下さる優しい方だ。この孤児院にいるみんなを保護してくれて、カイ兄の資質も見つけてくれた人で、私達はとっても感謝していて、そしてとっても大好きな人だ。
「みんな元気だね」
みんなで声をそろえて挨拶をすると、とても喜んでくださった。みんなの名前も憶えていてくださって、一人一人を呼んで頭をなでて下さった。きっとこんな領主様、他にはいないと思う。
ひと通り挨拶を終えられると、大事なお話があるからと、孤児院の院長で勉強も教えて下さっている女神官様とカイ兄を伴って奥の応接間へ向かわれた。みんなは残念そうにしていたけれど、その代わりに一緒に来てくれた騎士様が今回は来ることが出来なかった奥様から預かって来たお土産を皆に配ってくれた。
絵本や筆記用具、玩具に服もあってみんな大喜びだった。私も新しい本と筆記用具を頂いた。大切に使おうと思う。
元気が有り余っている子は騎士様が外で相手をして下さっていたので、私は残った小さい子達に新しい本を読んであげていた。私も知らないお話だったので、わくわくしながら読み進めていると、院長先生からお声がかけられる。
「レーナ、ちょっと来てちょうだい」
何かお手伝いすることが出来たのかもしれない。新しい本の続きが気になるけれど、院長先生のご用が優先だから仕方がない。絵本の続きは別の子に読んでもらうことにして、私は院長先生の後に従った。
「レーナをお連れしました」
驚いたことに、着いた先は奥の応接間だった。院長先生の後に従い、「失礼します」と頭を下げて中に入ると、中には領主様が待っていた。お話は終わったらしく、カイ兄の姿は無かった。
「急に呼び出してゴメンよ」
領主様は私の姿を見ると、そう言って笑いかけて下さった。ちょっとドキドキしながら勧められた通り領主様の向かいに座ると、隣に院長先生が座った。
「オリガの専属の侍女を探すことになってね、レーナにその気があったら考えてみて欲しいんだ」
思いがけないお申し出に胸が高鳴る。あのお優しい奥様のお傍に仕える。とても夢のようなお話だった。
「私……頑張ります。奥様にお仕えしたいです」
「いやいや、気持ちは嬉しいけど、今すぐ答えを出さなくていいんだよ。俺達は飛竜での移動が多いし、覚えることも沢山ある。なるだけ守るつもりでいるけど、偏見もあって辛い思いもすることもある。今、思っている以上に大変な事ばかりだと思うから、よくよく考えて答えを出して欲しいんだ」
領主様はそう言って逸る私を窘めて下さった。でも、この答えに代わりは無いと断言できる。今でも孤児院に預けられる子供は増え続けているし、成人する頃には私もこの孤児院を出なくてはならない。その為には何かしらの仕事を見つけるか、神官への道を選ぶかしなければならなくなる。ならば、大好きな奥様にお仕えしたい。それに、私が孤児院出身である事は変えようが無い事実なので、どの仕事を選んでも同じ気がするのだ。
「一生の事だから、よく考えて決めて欲しい。また、秋までには顔を出すと思うから、その時に答えを聞かせて」
「分かりました」
私がそう答えると、領主様は満足そうにうなずかれた。それで今日のご用は終わったらしく、お忙しい領主様はカイ兄を連れて孤児院を後にした。私達はその馬車が見えなくなるまで手を振って見送った。
カイ兄が出て行ってからの孤児院は一段と騒がしくなった気がする。今までも些細なケンカはよくあったけど、カイ兄がそれを仲裁することですぐに治まっていた。今はその役を私がしているのだけど、男の子達はあまり私の言うことを聞いてくれない。それならば次に年長のヴィムに頼めばいいのだけど、ヴィムとその次のルッツがいがみ合って騒ぎを起こすので院長先生も随分と手を焼いていた。
「僕がやるから、レーナ姉は神殿へ行っておいでよ」
ようやく夏の暑さも和らいだこの日も朝からヴィムとルッツがケンカをしている。奥様の専属侍女になるための勉強の一環で神殿へ礼儀作法を習いに行く時間なのだけれど、この騒ぎを放って置くことは出来ない。どうしようか途方に暮れていると、3番目に年長のラースが声をかけて来た。
「でも、大丈夫?」
ここにいる子供達の中で一番良く本を読んでいて、勉強ができる子だ。だけど、ケンカの仲裁なんてできるのだろうか。
「大丈夫だよ。まかせておいてよ」
自信満々でラースがそう言うので、この場は彼に任せることにした。少し遅れてしまった上に、ケンカの事も気にかかる。いつもより失敗をしてしまったけど、それでも無事に今日の礼儀作法の課題を終わらせることが出来た。指導して下さった女神官様にお礼を言って神殿を後にした。
「レーナ」
孤児院に戻って来たところで声をかけられる。顔を上げると、目の前に居たのはカイ兄だった。彼が孤児院を出てから半年も経っていないのに、背が伸びているし、声変わりもしていて、何だか随分と大人になっていた。
「カイ兄! どうしたの?」
「領主様が連れて来てくれた。応接間でお待ちだよ」
カイ兄の変化に驚いている場合ではなかった。身だしなみを確認して大急ぎで応接間へ向かう。扉を叩き、返事を待ってから中に入った。
「失礼いたします」
中では領主様と院長先生が話をしていた。今回も奥様はご一緒ではなかったらしい。緊張で足が震えていたけれど、習ったばかりの淑女の礼を披露した。
「頑張っているみたいだね」
領主様はそう仰ると、正面の席に座る様に勧めて下さった。緊張してぎこちない動作で席に座ると、早速ご用件を切り出された。
「春に来た時に言っていた、オリガの専属侍女の件で話に来たんだ。十分に考えてもらえたかな?」
「はい。頑張りますので、よろしくお願いします」
お話をうかがった時から心は決めていたので、迷うことなく頭を下げた。
「大変だと思うけど、よろしく頼むよ。でも、無理はしなくていいからね」
領主様はそう言って柔和に笑いながら手を差し出された。私は恐る恐るその手を取り、握手を交わした。
「ミステルには10日ほど滞在する。アジュガに戻る時に一緒に行くことになっても大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
もう心づもりは出来ていた。いつでも迎えが来ても良い様に、夏の終わりころから準備は進めてあった。他の子達も既に知っているのもあって、ヴィムとルッツは余計に私の言うことを聞いてくれなくなっていた。
「帰る前日にまた迎えに来るから」
今日は私の意思確認の為にわざわざ立ち寄って下さったらしい。お忙しいのにわざわざ時間を作って下さったのが嬉しかった。
「カイ、帰るぞ」
外に出ると、カイ兄は他の子達の相手をしてくれていた。領主様が声をかけると、みんな残念そうにしている。
「ねえねえ、次はいつ来るの?」
「まだわかんないけど、また時間が出来たら来るよ」
カイ兄はそう言ってみんなを宥めると、領主様に従って馬車に乗り、帰って行った。
「また来てね!」
そしていつかと同じように馬車が見えなくなるまでみんなで手を振って見送った。
領主様とカイ兄が来てくれた日を境に、驚いたことにヴィムとルッツのケンカが少なくなった。不思議に思っていると、ラースがこっそり教えてくれた。
「元々、あの2人はどっちがカイ兄の後を継いで頭になるか争っていたんだけど、みんなに迷惑かけている様じゃ頭にはなれないよって僕が言ったんだ。そんな事は無いって言っていたけど、ちょうどカイ兄が来てくれたからはっきりさせてもらったんだ」
ラースから話を聞いたカイ兄が今の2人に頭は無理だと言うことと、孤児院にいる間は院長先生の言うことを聞くように言ってくれたらしい。
「さすが、カイ兄ね」
「うん。陰では僕がしっかり舵を取れって言ってくれた」
カイ兄は無茶を言うと思ったけれど、ラースは自信があるのか不敵な笑みを浮かべている。
「だから、レーナ姉は心配せずにアジュガへ行って。時々、手紙をくれると嬉しいけど」
カイ兄にも手紙を頼んでいるけど、忙しいのか、面倒なのか、滅多に届かない。世の中の事をもっと知りたいラースにはとてもじれったいのかもしれない。
「分かったわ。あなたの知りたい内容と合うかどうかわからないけど、出来るだけ書いて送るわね」
「ありがとう」
こうして私とラースとの間に取引が成立した。そして、それから10日後、領主様がわざわざ迎えに来て下さり、私は2年間過ごした孤児院を巣立ち、新しい生活を始めることになったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この時レーナは推定13歳。
カイは推定14歳で、ヴィムとルッツが推定11歳。そしてラースが推定10歳。
みんな誕生日が不明なので、孤児院では新年のお祝いと一緒にみんなの誕生日を祝っている。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
孤児院に来てから2度目の春が来た。今の領主様のおかげで私達はもう、ひもじい思いも寒さで凍えるような思いもしなくていい、そんな幸せな日々を送れていた。いつか、きっと、何かお返しがしたい。いつからか、そんな風に思うようになっていた。
「カイ兄ちゃん、かっこいい」
「カイ兄ちゃん、行っちゃいやだ」
「え~、カイ兄ちゃんどっか行くの?」
今日はこの孤児院で最年長のカイ兄が竜騎士見習いになるための勉強の為に、領主館にある宿舎へ引っ越す日だ。珍しく寝坊せずに起きだしたカイ兄は今日の為に用意された綺麗なシャツとズボンを着ていて、それを見た年少の子供達が大騒ぎしていた。
「同じ町にいるんだ。またいつでも戻って来れるさ」
寂しがる年少の子達とは違い、カイ兄は何だかワクワクしている。まだ、見習いになれると決まったわけではないのだけど、それでも憧れの存在である竜騎士に一歩近づくのだから当たり前かもしれない。
「あ、馬車だ!」
外を眺めていた子が窓の外を指さす。みんなで窓の外をのぞいて見ると、立派な馬車がちょうど孤児院の門をくぐってきたところだった。大騒ぎする年少の子達をなだめ、出迎えの為にみんなで玄関へ向かった。
「ようこそご領主様」
馬車から降りて来たのは、このミステルの領主様のルーク卿だった。お貴族様で有名な竜騎士様なのに偉ぶらないで、私達の事をとても気にかけて下さる優しい方だ。この孤児院にいるみんなを保護してくれて、カイ兄の資質も見つけてくれた人で、私達はとっても感謝していて、そしてとっても大好きな人だ。
「みんな元気だね」
みんなで声をそろえて挨拶をすると、とても喜んでくださった。みんなの名前も憶えていてくださって、一人一人を呼んで頭をなでて下さった。きっとこんな領主様、他にはいないと思う。
ひと通り挨拶を終えられると、大事なお話があるからと、孤児院の院長で勉強も教えて下さっている女神官様とカイ兄を伴って奥の応接間へ向かわれた。みんなは残念そうにしていたけれど、その代わりに一緒に来てくれた騎士様が今回は来ることが出来なかった奥様から預かって来たお土産を皆に配ってくれた。
絵本や筆記用具、玩具に服もあってみんな大喜びだった。私も新しい本と筆記用具を頂いた。大切に使おうと思う。
元気が有り余っている子は騎士様が外で相手をして下さっていたので、私は残った小さい子達に新しい本を読んであげていた。私も知らないお話だったので、わくわくしながら読み進めていると、院長先生からお声がかけられる。
「レーナ、ちょっと来てちょうだい」
何かお手伝いすることが出来たのかもしれない。新しい本の続きが気になるけれど、院長先生のご用が優先だから仕方がない。絵本の続きは別の子に読んでもらうことにして、私は院長先生の後に従った。
「レーナをお連れしました」
驚いたことに、着いた先は奥の応接間だった。院長先生の後に従い、「失礼します」と頭を下げて中に入ると、中には領主様が待っていた。お話は終わったらしく、カイ兄の姿は無かった。
「急に呼び出してゴメンよ」
領主様は私の姿を見ると、そう言って笑いかけて下さった。ちょっとドキドキしながら勧められた通り領主様の向かいに座ると、隣に院長先生が座った。
「オリガの専属の侍女を探すことになってね、レーナにその気があったら考えてみて欲しいんだ」
思いがけないお申し出に胸が高鳴る。あのお優しい奥様のお傍に仕える。とても夢のようなお話だった。
「私……頑張ります。奥様にお仕えしたいです」
「いやいや、気持ちは嬉しいけど、今すぐ答えを出さなくていいんだよ。俺達は飛竜での移動が多いし、覚えることも沢山ある。なるだけ守るつもりでいるけど、偏見もあって辛い思いもすることもある。今、思っている以上に大変な事ばかりだと思うから、よくよく考えて答えを出して欲しいんだ」
領主様はそう言って逸る私を窘めて下さった。でも、この答えに代わりは無いと断言できる。今でも孤児院に預けられる子供は増え続けているし、成人する頃には私もこの孤児院を出なくてはならない。その為には何かしらの仕事を見つけるか、神官への道を選ぶかしなければならなくなる。ならば、大好きな奥様にお仕えしたい。それに、私が孤児院出身である事は変えようが無い事実なので、どの仕事を選んでも同じ気がするのだ。
「一生の事だから、よく考えて決めて欲しい。また、秋までには顔を出すと思うから、その時に答えを聞かせて」
「分かりました」
私がそう答えると、領主様は満足そうにうなずかれた。それで今日のご用は終わったらしく、お忙しい領主様はカイ兄を連れて孤児院を後にした。私達はその馬車が見えなくなるまで手を振って見送った。
カイ兄が出て行ってからの孤児院は一段と騒がしくなった気がする。今までも些細なケンカはよくあったけど、カイ兄がそれを仲裁することですぐに治まっていた。今はその役を私がしているのだけど、男の子達はあまり私の言うことを聞いてくれない。それならば次に年長のヴィムに頼めばいいのだけど、ヴィムとその次のルッツがいがみ合って騒ぎを起こすので院長先生も随分と手を焼いていた。
「僕がやるから、レーナ姉は神殿へ行っておいでよ」
ようやく夏の暑さも和らいだこの日も朝からヴィムとルッツがケンカをしている。奥様の専属侍女になるための勉強の一環で神殿へ礼儀作法を習いに行く時間なのだけれど、この騒ぎを放って置くことは出来ない。どうしようか途方に暮れていると、3番目に年長のラースが声をかけて来た。
「でも、大丈夫?」
ここにいる子供達の中で一番良く本を読んでいて、勉強ができる子だ。だけど、ケンカの仲裁なんてできるのだろうか。
「大丈夫だよ。まかせておいてよ」
自信満々でラースがそう言うので、この場は彼に任せることにした。少し遅れてしまった上に、ケンカの事も気にかかる。いつもより失敗をしてしまったけど、それでも無事に今日の礼儀作法の課題を終わらせることが出来た。指導して下さった女神官様にお礼を言って神殿を後にした。
「レーナ」
孤児院に戻って来たところで声をかけられる。顔を上げると、目の前に居たのはカイ兄だった。彼が孤児院を出てから半年も経っていないのに、背が伸びているし、声変わりもしていて、何だか随分と大人になっていた。
「カイ兄! どうしたの?」
「領主様が連れて来てくれた。応接間でお待ちだよ」
カイ兄の変化に驚いている場合ではなかった。身だしなみを確認して大急ぎで応接間へ向かう。扉を叩き、返事を待ってから中に入った。
「失礼いたします」
中では領主様と院長先生が話をしていた。今回も奥様はご一緒ではなかったらしい。緊張で足が震えていたけれど、習ったばかりの淑女の礼を披露した。
「頑張っているみたいだね」
領主様はそう仰ると、正面の席に座る様に勧めて下さった。緊張してぎこちない動作で席に座ると、早速ご用件を切り出された。
「春に来た時に言っていた、オリガの専属侍女の件で話に来たんだ。十分に考えてもらえたかな?」
「はい。頑張りますので、よろしくお願いします」
お話をうかがった時から心は決めていたので、迷うことなく頭を下げた。
「大変だと思うけど、よろしく頼むよ。でも、無理はしなくていいからね」
領主様はそう言って柔和に笑いながら手を差し出された。私は恐る恐るその手を取り、握手を交わした。
「ミステルには10日ほど滞在する。アジュガに戻る時に一緒に行くことになっても大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
もう心づもりは出来ていた。いつでも迎えが来ても良い様に、夏の終わりころから準備は進めてあった。他の子達も既に知っているのもあって、ヴィムとルッツは余計に私の言うことを聞いてくれなくなっていた。
「帰る前日にまた迎えに来るから」
今日は私の意思確認の為にわざわざ立ち寄って下さったらしい。お忙しいのにわざわざ時間を作って下さったのが嬉しかった。
「カイ、帰るぞ」
外に出ると、カイ兄は他の子達の相手をしてくれていた。領主様が声をかけると、みんな残念そうにしている。
「ねえねえ、次はいつ来るの?」
「まだわかんないけど、また時間が出来たら来るよ」
カイ兄はそう言ってみんなを宥めると、領主様に従って馬車に乗り、帰って行った。
「また来てね!」
そしていつかと同じように馬車が見えなくなるまでみんなで手を振って見送った。
領主様とカイ兄が来てくれた日を境に、驚いたことにヴィムとルッツのケンカが少なくなった。不思議に思っていると、ラースがこっそり教えてくれた。
「元々、あの2人はどっちがカイ兄の後を継いで頭になるか争っていたんだけど、みんなに迷惑かけている様じゃ頭にはなれないよって僕が言ったんだ。そんな事は無いって言っていたけど、ちょうどカイ兄が来てくれたからはっきりさせてもらったんだ」
ラースから話を聞いたカイ兄が今の2人に頭は無理だと言うことと、孤児院にいる間は院長先生の言うことを聞くように言ってくれたらしい。
「さすが、カイ兄ね」
「うん。陰では僕がしっかり舵を取れって言ってくれた」
カイ兄は無茶を言うと思ったけれど、ラースは自信があるのか不敵な笑みを浮かべている。
「だから、レーナ姉は心配せずにアジュガへ行って。時々、手紙をくれると嬉しいけど」
カイ兄にも手紙を頼んでいるけど、忙しいのか、面倒なのか、滅多に届かない。世の中の事をもっと知りたいラースにはとてもじれったいのかもしれない。
「分かったわ。あなたの知りたい内容と合うかどうかわからないけど、出来るだけ書いて送るわね」
「ありがとう」
こうして私とラースとの間に取引が成立した。そして、それから10日後、領主様がわざわざ迎えに来て下さり、私は2年間過ごした孤児院を巣立ち、新しい生活を始めることになったのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この時レーナは推定13歳。
カイは推定14歳で、ヴィムとルッツが推定11歳。そしてラースが推定10歳。
みんな誕生日が不明なので、孤児院では新年のお祝いと一緒にみんなの誕生日を祝っている。
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