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第4章 夫婦の物語
第16話
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誤字報告ありがとうございます。
今話から本編に戻ります。
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ルークの足の怪我と不調の為、ミステルで療養を余儀なくされた私達は、およそ1カ月ぶりにアジュガへ戻って来た。
「ああ、やっと帰って来た」
見慣れた景色に何だかホッとしたのは私だけではなかったようで、エアリアルを着場に降ろしたルークが感慨深げにつぶやいていた。
「お帰り、ルーク。体はもう大丈夫なのかい?」
着場にはビレア家みんなで迎えてくれていた。更に領主館前の広場には沢山の町の人達が集まっていて、私達に手を振ってくれている。彼等にもルークの不調が伝わっていたようで、「大丈夫?」と心配する声が上がっていた。
「心配かけてゴメン。もう大丈夫だから」
ルークは声を張り上げ、広場の人達に手を振った。すると大きな歓声が上がり、ルークと私はそれに応えて手を振った。
その間に同行してくれた雷光隊員とティムが荷物を降ろした飛竜達を竜舎へと連れて行ってくれていた。病み上がりのルークを気遣い、すぐに屋内へ移動する。人数が多いので、3階の私達の部屋ではなく、1階にある応接間で話をすることとなった。
ルークと私、ビレア家の皆さんの他には近く家族の仲間入りをするウォルフさんにミステルから合流したシュテファン卿、そしてお母さんには家族認定されているティム。コンラート卿とエーミール卿は遠慮して、警護として扉の外に立っていた。ちなみにミステルまで護衛として同行してくれていたドミニク卿とローラント卿は、先にアジュガに帰って来たウォルフさんを送った後休暇に入り、それぞれの故郷へ帰っていた。
今日はカミラさんとリーナお姉さんがお茶を淹れて下さった。私も手伝おうとしたんだけど、座ってゆっくりしていてと言われてルークの隣に座った。
「ルークは休んでなくて大丈夫なのかい? 無理していないかい?」
「向こうで十分休んできたからもう大丈夫だよ。俺の事よりカミラの体調はどうなんだ?」
「私?」
急に話を振られてお茶を淹れていたカミラさんの手が止まる。ミステルに出立前に会った時に比べて随分と顔色は良くなり、心なしかお腹の辺りがふっくらしている。何だかとても幸せそうだ。
「もう全然。悪阻がひどかったのはあの時期だけだったし」
懐妊が分かった頃は、どうしていいか分からずに途方に暮れていたのかもしれない。安定期に入ったのもあるけれど、好きな人との結婚が決まり、精神的負担が取り除かれたのが一番良かったのかもしれない。
全員にお茶がいきわたり、互いの近況を報告し合う。私達の話は先にアジュガへ帰っていたウォルフさんから聞いていたみたいだったけど、楽しんでもらえた。加えてカイ君がお見舞いに来てくれた話をすると、「健気な子だねぇ」とお母さんが感心していた。
アジュガではカミラさんとウォルフさんの引っ越しが済み、2人での生活が始まっていた。ただ、カミラさんの負担を考え、夕飯はビレア家で食べている。婚礼が1カ月後に決まり、その準備も始まっていて、お母さんが着た花嫁衣裳を今は手直ししている最中らしい。
「私も手伝うわ」
「オリガ姉さんは裁縫がお上手だから嬉しい」
手伝いを申し出ると、カミラさんは嬉しそうに応じてくれた。現在はビレア家のカミラさんが使っていた部屋に置いてあり、男性陣には当日まで内緒とのこと。カミラさんの隣でウォルフさんは少しだけ残念そうにしていた。
一方、ミステルからの見習いを受け入れるため、お父さんの工房の改修も始まっていた。
「冬になる前に受け入れられるようになると思うんだけどねぇ」
口数の少ないお父さんに代わってお母さんが言う。ルークも神殿に頼んで人員の選定を進めてもらっていると応えていた。アジュガにとってもミステルにとってもよりよい未来の第一歩になる事を願うばかりだ。
アジュガに帰って来た翌日、特に予定を入れていなかった私は早速カミラさんの花嫁衣裳の手伝いに赴いた。
ビレア家のカミラさんが使っていた部屋の中央に古風な花嫁衣装が飾られている。今はお腹を締め付けないように作り替えている最中で、裁縫に自信がある町の若い女性達が集まって作業を進めていた。
「あら、いらっしゃい」
カミラさんは懐妊中ということもあって、作業の中心となっているのはリーナお姉さんだった。目を酷使するのは良くないと年配の女性達が心配するので、カミラさんはいわば現場監督のようなものだ。
同年代の女性が集まっているのもあって、手を動かしながらも賑やかなおしゃべりが絶えない。話題はもっぱら恋愛関係で、私とルークのことも良く聞かれた。でも、やはり主役となるカミラさんとウォルフさんの話が一番多かった。
「オリガ、お客さんが来ているから帰ってきて欲しいとルークから伝言だよ」
そこへ伝言のついでにお茶の差し入れに来たお母さんが部屋に入って来る。男性陣は入室禁止となっているので、ここに集まっている女性陣に用がある人は、階下で番をしているお母さんやおかみさん達に伝言を頼むことになっている。
「分かりました。それでは戻りますね」
集まっていた女性陣に断りを入れると、道具を片付けて部屋を出る。ビレア家の外では伝言に来てくれたらしいティムが待ってくれていて、領主館まで護衛を兼ねて付き添ってくれた。アジュガでは滅多なことは起こらないと思っているけど、それでも町中を移動するときは護衛を必ずつけることになっていた。なんだか申し訳ない気もするのだけれど。
ティムは誰が来たかは詳しくは教えてくれなかったので、領主館に戻ると針仕事用に着ていた普段着から、少し改まった服装に着替えた。3階の私室で手早く身だしなみを整え、お客様がいらっしゃるという1階の応接間へ移動した。
「失礼いたします」
お茶の支度をしてくれていた侍官と一緒に入室する。ルークの向かいには初めてお会いする男の方が3名座っておられ、ルークの背後にはウォルフさんとシュテファン卿、そしてフォルビアで休暇中のはずのラウル卿が控えていた。しかも戸口にはラウル卿の配下のアルノー卿が控えて立っている。
気心の知れたお相手なら自分でお茶を淹れてもてなすつもりだったけれど、どうやら今日は違うらしい。ルークに呼ばれ、お客様にルークに妻だと紹介してもらい、遅れてきたことをお詫びして席に着いた。その間に侍官がお茶を淹れてくれていた。まだ慣れていないので緊張している様子だったけれど、どうにか作法通り出来ていた。
「オリガ、こちらの方はツヴァイク領の御領主レオポルト様、そしてツヴァイク領の親方衆の代表をされているルトガー殿。そしてビルケ商会のフォルビア支部の責任者ノアベルト殿だ」
ルークがお客様を私に紹介してくれる。皇妃様の侍女として、そして今は領主となったルークを支えるため、無知なままではいけないと国内の貴族に関する情報を勉強するようにしている。
ツヴァイク領は西方地域にあり、確か木工が盛んな地域だったと記憶している。おそらくルトガー親方は木工の職人なのだろう。ただ、そんな方々が何故遠方から来られたのかが不思議だった。
そして亡きグロリア様はビルケ商会ともお付き合いがおありだったが、ノアベルトさんとはお会いしたことは無かったので、内乱後にフォルビア支部の責任者になられたのではないかと推測できた。
こうして同じ席で話をするということは、先のお2人とは何かしらの接点をお持ちなのだろう。色々と疑問は尽きないけれど、先ずは先方から話を聞くのが先だった。
「そろそろ本題に入りましょう」
「そうですね」
お茶を飲み落ち着いたところでルークが話を促す。先方も異存はないようで、領主のレオポルト様が口火を切られた。
「この度は突然押しかけてきて申し訳ありませんでした。しかし、どうしてもルーク卿と直接お会いしたくて参上いたしました」
「俺にですか?」
「はい。先ずは先の女王の行軍の折に、西方地域を守って下さり、お礼を申し上げます」
レオポルト様とルトガー親方は突然立ち上がると、深々と頭を下げる。急な2人の行動にルークは驚き、慌てて彼も立ち上がっていた。
「や、やめてください。あれは、竜騎士として見過ごすことが出来なかったからで……。しかも後から思うと、本当に無茶をしすぎたと反省しているんです」
「アスター卿からも決して褒められる行為ではないと言われております。ですが、それでも、ルーク卿の行動により、あの地域に住む者達が助かったのは紛れもない事実です」
レオポルト様の話によると、被害は少なかったとはいえ昨年はその後始末に追われてその機会を捻出することが出来なかったらしい。機会があれば皇都の夏至祭の折にでもと考えていらしたが、何分雷光隊は常に忙しい。結局その機会は得られずに領地へお帰りになられていた。
「隊長、感謝されるお気持ちだけ受け取られては?」
このままでは話もままならない。見かねたラウル卿が間に入って声をかけると、ルークも困惑しながらうなずいた。ともかくまだ本題が残っているらしい。侍官を下がらせたので、私が全員のお茶を淹れなおして一先ず場を落ち着かせた。
「ご存知のように、我が領は木工が主要な産業となっております。代々の領主は優秀な職人を保護し、次代の育成に力を注いでまいりました」
扱う分野は違えど、このアジュガも同じく職人の町。ルトガー親方とお父さんは話が合うかもしれない。
「10年ほど前、我が領の工房に家具の修理の依頼が来ました。我が国の建国よりも前、旧プルメリア王国時代の逸品でした。工房の総力を挙げて挑み、依頼主の納得できる仕上がりとなりました」
レオポルト様はそこでいったん言葉を切り、お茶を一口飲まれてホッと息を吐かれた。
「その工房の仕事に満足した依頼主は、今度は家具の制作を依頼しました。それは前回修理した家具と全く同じものでした。あの、素晴らしい家具を自分達の手で再現する。職人達は奮起し、そしてそれは見事に成功しました」
レオポルト様の表情が苦いものに変わる。それが何を意味するものか、なんとなく分かってしまった。
「その後も家具の制作依頼は続きました。同じような雰囲気で形を変え、いくつも旧プルメリア王朝風の家具が作られました。質が良ければ依頼主は気前よく報酬をはずみ、職人達はより張り切って家具を作り続けました。
その家具の制作を依頼したのはカルネイロ商会でした。職人達が贋作づくりに協力させられていたと気付いた時には既に遅く、彼等は様々な弱みを握られて抜けられなくなっていたのです」
カルネイロ商会らしい狡猾な手法だった。その後も彼等はカルネイロの資金源の一つである、贋作づくりを手伝わされ続けた。そして内乱終結後、そういった贋作を作らされていたのはその工房だけではなく、他にも何件もあったことが発覚したのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ルークパパとルドガー親方はいいお友達になれそう。
ちなみに作者のための人名覚え書き、ミステルに5名追加。
お時間がありましたらのぞいて見て下さい。
今話から本編に戻ります。
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ルークの足の怪我と不調の為、ミステルで療養を余儀なくされた私達は、およそ1カ月ぶりにアジュガへ戻って来た。
「ああ、やっと帰って来た」
見慣れた景色に何だかホッとしたのは私だけではなかったようで、エアリアルを着場に降ろしたルークが感慨深げにつぶやいていた。
「お帰り、ルーク。体はもう大丈夫なのかい?」
着場にはビレア家みんなで迎えてくれていた。更に領主館前の広場には沢山の町の人達が集まっていて、私達に手を振ってくれている。彼等にもルークの不調が伝わっていたようで、「大丈夫?」と心配する声が上がっていた。
「心配かけてゴメン。もう大丈夫だから」
ルークは声を張り上げ、広場の人達に手を振った。すると大きな歓声が上がり、ルークと私はそれに応えて手を振った。
その間に同行してくれた雷光隊員とティムが荷物を降ろした飛竜達を竜舎へと連れて行ってくれていた。病み上がりのルークを気遣い、すぐに屋内へ移動する。人数が多いので、3階の私達の部屋ではなく、1階にある応接間で話をすることとなった。
ルークと私、ビレア家の皆さんの他には近く家族の仲間入りをするウォルフさんにミステルから合流したシュテファン卿、そしてお母さんには家族認定されているティム。コンラート卿とエーミール卿は遠慮して、警護として扉の外に立っていた。ちなみにミステルまで護衛として同行してくれていたドミニク卿とローラント卿は、先にアジュガに帰って来たウォルフさんを送った後休暇に入り、それぞれの故郷へ帰っていた。
今日はカミラさんとリーナお姉さんがお茶を淹れて下さった。私も手伝おうとしたんだけど、座ってゆっくりしていてと言われてルークの隣に座った。
「ルークは休んでなくて大丈夫なのかい? 無理していないかい?」
「向こうで十分休んできたからもう大丈夫だよ。俺の事よりカミラの体調はどうなんだ?」
「私?」
急に話を振られてお茶を淹れていたカミラさんの手が止まる。ミステルに出立前に会った時に比べて随分と顔色は良くなり、心なしかお腹の辺りがふっくらしている。何だかとても幸せそうだ。
「もう全然。悪阻がひどかったのはあの時期だけだったし」
懐妊が分かった頃は、どうしていいか分からずに途方に暮れていたのかもしれない。安定期に入ったのもあるけれど、好きな人との結婚が決まり、精神的負担が取り除かれたのが一番良かったのかもしれない。
全員にお茶がいきわたり、互いの近況を報告し合う。私達の話は先にアジュガへ帰っていたウォルフさんから聞いていたみたいだったけど、楽しんでもらえた。加えてカイ君がお見舞いに来てくれた話をすると、「健気な子だねぇ」とお母さんが感心していた。
アジュガではカミラさんとウォルフさんの引っ越しが済み、2人での生活が始まっていた。ただ、カミラさんの負担を考え、夕飯はビレア家で食べている。婚礼が1カ月後に決まり、その準備も始まっていて、お母さんが着た花嫁衣裳を今は手直ししている最中らしい。
「私も手伝うわ」
「オリガ姉さんは裁縫がお上手だから嬉しい」
手伝いを申し出ると、カミラさんは嬉しそうに応じてくれた。現在はビレア家のカミラさんが使っていた部屋に置いてあり、男性陣には当日まで内緒とのこと。カミラさんの隣でウォルフさんは少しだけ残念そうにしていた。
一方、ミステルからの見習いを受け入れるため、お父さんの工房の改修も始まっていた。
「冬になる前に受け入れられるようになると思うんだけどねぇ」
口数の少ないお父さんに代わってお母さんが言う。ルークも神殿に頼んで人員の選定を進めてもらっていると応えていた。アジュガにとってもミステルにとってもよりよい未来の第一歩になる事を願うばかりだ。
アジュガに帰って来た翌日、特に予定を入れていなかった私は早速カミラさんの花嫁衣裳の手伝いに赴いた。
ビレア家のカミラさんが使っていた部屋の中央に古風な花嫁衣装が飾られている。今はお腹を締め付けないように作り替えている最中で、裁縫に自信がある町の若い女性達が集まって作業を進めていた。
「あら、いらっしゃい」
カミラさんは懐妊中ということもあって、作業の中心となっているのはリーナお姉さんだった。目を酷使するのは良くないと年配の女性達が心配するので、カミラさんはいわば現場監督のようなものだ。
同年代の女性が集まっているのもあって、手を動かしながらも賑やかなおしゃべりが絶えない。話題はもっぱら恋愛関係で、私とルークのことも良く聞かれた。でも、やはり主役となるカミラさんとウォルフさんの話が一番多かった。
「オリガ、お客さんが来ているから帰ってきて欲しいとルークから伝言だよ」
そこへ伝言のついでにお茶の差し入れに来たお母さんが部屋に入って来る。男性陣は入室禁止となっているので、ここに集まっている女性陣に用がある人は、階下で番をしているお母さんやおかみさん達に伝言を頼むことになっている。
「分かりました。それでは戻りますね」
集まっていた女性陣に断りを入れると、道具を片付けて部屋を出る。ビレア家の外では伝言に来てくれたらしいティムが待ってくれていて、領主館まで護衛を兼ねて付き添ってくれた。アジュガでは滅多なことは起こらないと思っているけど、それでも町中を移動するときは護衛を必ずつけることになっていた。なんだか申し訳ない気もするのだけれど。
ティムは誰が来たかは詳しくは教えてくれなかったので、領主館に戻ると針仕事用に着ていた普段着から、少し改まった服装に着替えた。3階の私室で手早く身だしなみを整え、お客様がいらっしゃるという1階の応接間へ移動した。
「失礼いたします」
お茶の支度をしてくれていた侍官と一緒に入室する。ルークの向かいには初めてお会いする男の方が3名座っておられ、ルークの背後にはウォルフさんとシュテファン卿、そしてフォルビアで休暇中のはずのラウル卿が控えていた。しかも戸口にはラウル卿の配下のアルノー卿が控えて立っている。
気心の知れたお相手なら自分でお茶を淹れてもてなすつもりだったけれど、どうやら今日は違うらしい。ルークに呼ばれ、お客様にルークに妻だと紹介してもらい、遅れてきたことをお詫びして席に着いた。その間に侍官がお茶を淹れてくれていた。まだ慣れていないので緊張している様子だったけれど、どうにか作法通り出来ていた。
「オリガ、こちらの方はツヴァイク領の御領主レオポルト様、そしてツヴァイク領の親方衆の代表をされているルトガー殿。そしてビルケ商会のフォルビア支部の責任者ノアベルト殿だ」
ルークがお客様を私に紹介してくれる。皇妃様の侍女として、そして今は領主となったルークを支えるため、無知なままではいけないと国内の貴族に関する情報を勉強するようにしている。
ツヴァイク領は西方地域にあり、確か木工が盛んな地域だったと記憶している。おそらくルトガー親方は木工の職人なのだろう。ただ、そんな方々が何故遠方から来られたのかが不思議だった。
そして亡きグロリア様はビルケ商会ともお付き合いがおありだったが、ノアベルトさんとはお会いしたことは無かったので、内乱後にフォルビア支部の責任者になられたのではないかと推測できた。
こうして同じ席で話をするということは、先のお2人とは何かしらの接点をお持ちなのだろう。色々と疑問は尽きないけれど、先ずは先方から話を聞くのが先だった。
「そろそろ本題に入りましょう」
「そうですね」
お茶を飲み落ち着いたところでルークが話を促す。先方も異存はないようで、領主のレオポルト様が口火を切られた。
「この度は突然押しかけてきて申し訳ありませんでした。しかし、どうしてもルーク卿と直接お会いしたくて参上いたしました」
「俺にですか?」
「はい。先ずは先の女王の行軍の折に、西方地域を守って下さり、お礼を申し上げます」
レオポルト様とルトガー親方は突然立ち上がると、深々と頭を下げる。急な2人の行動にルークは驚き、慌てて彼も立ち上がっていた。
「や、やめてください。あれは、竜騎士として見過ごすことが出来なかったからで……。しかも後から思うと、本当に無茶をしすぎたと反省しているんです」
「アスター卿からも決して褒められる行為ではないと言われております。ですが、それでも、ルーク卿の行動により、あの地域に住む者達が助かったのは紛れもない事実です」
レオポルト様の話によると、被害は少なかったとはいえ昨年はその後始末に追われてその機会を捻出することが出来なかったらしい。機会があれば皇都の夏至祭の折にでもと考えていらしたが、何分雷光隊は常に忙しい。結局その機会は得られずに領地へお帰りになられていた。
「隊長、感謝されるお気持ちだけ受け取られては?」
このままでは話もままならない。見かねたラウル卿が間に入って声をかけると、ルークも困惑しながらうなずいた。ともかくまだ本題が残っているらしい。侍官を下がらせたので、私が全員のお茶を淹れなおして一先ず場を落ち着かせた。
「ご存知のように、我が領は木工が主要な産業となっております。代々の領主は優秀な職人を保護し、次代の育成に力を注いでまいりました」
扱う分野は違えど、このアジュガも同じく職人の町。ルトガー親方とお父さんは話が合うかもしれない。
「10年ほど前、我が領の工房に家具の修理の依頼が来ました。我が国の建国よりも前、旧プルメリア王国時代の逸品でした。工房の総力を挙げて挑み、依頼主の納得できる仕上がりとなりました」
レオポルト様はそこでいったん言葉を切り、お茶を一口飲まれてホッと息を吐かれた。
「その工房の仕事に満足した依頼主は、今度は家具の制作を依頼しました。それは前回修理した家具と全く同じものでした。あの、素晴らしい家具を自分達の手で再現する。職人達は奮起し、そしてそれは見事に成功しました」
レオポルト様の表情が苦いものに変わる。それが何を意味するものか、なんとなく分かってしまった。
「その後も家具の制作依頼は続きました。同じような雰囲気で形を変え、いくつも旧プルメリア王朝風の家具が作られました。質が良ければ依頼主は気前よく報酬をはずみ、職人達はより張り切って家具を作り続けました。
その家具の制作を依頼したのはカルネイロ商会でした。職人達が贋作づくりに協力させられていたと気付いた時には既に遅く、彼等は様々な弱みを握られて抜けられなくなっていたのです」
カルネイロ商会らしい狡猾な手法だった。その後も彼等はカルネイロの資金源の一つである、贋作づくりを手伝わされ続けた。そして内乱終結後、そういった贋作を作らされていたのはその工房だけではなく、他にも何件もあったことが発覚したのだった。
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ルークパパとルドガー親方はいいお友達になれそう。
ちなみに作者のための人名覚え書き、ミステルに5名追加。
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