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第3章 2人の物語
第28話
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陛下や皇妃様と話し込んでしまい、北棟を辞す頃には夜が更けていた。その間もずっと2人で話し込んでいたティムと姫様だったが、それでもまだ離れがたい様子で別れ際まで手をつなぎ、最後は抱きしめ合って別れを惜しんでいた。まあ、次にこんな機会が訪れるのはいつになるか分からないのだからそれは仕方がないのかもしれない。
来た時同様、馬車に乗り込んだ俺達は南棟に移動してそれぞれが着替えをした部屋へ戻った。湯を使い、部屋着に袖を通して寛いでいると扉を叩く音がする。返事をして扉を開けると、普段着に着替えたオリガが立っていた。
「寂しいから来ちゃった」
拒む理由などない。俺は諸手を上げて歓迎し、彼女を抱きしめた。本当は今日の事を振り返って色々話をするつもりだったけど、結局そのまま寝台になだれ込んでしまい、一夜を明かしていた。
結局、賜ったお屋敷の話が出来たのは朝食の席での事だった。まあ、今の俺達に決められることは少なく、元々この日の午後はブランドル家を訪問することになっていたので、そこでの話し合いで決めるしかないと落ち着いた。
「午前中は新しい雷光隊の拠点の確認と鍛錬かな。オリガは?」
「一度北棟に戻ろうかな」
昨夜北棟に招かれてお会いできたが、やはり皇妃様のお身回りの事も気になるし、慌ただしく出立したから部屋も片づけたいのもあるらしい。午前の鍛錬が終わったら着替えて俺の方から北棟へ彼女を迎えに向かうことになった。
荷物の移動の手配はサイラスが引き受けてくれたので、俺は先ずオリガを北棟に送り届けてから竜舎へ向かった。すれ違う竜騎士や係官に無事を喜ばれるのは何とも気恥ずかしい。加えて世話をしたことがある飛竜達からはそれぞれの室の前を通るたびにかまってほしそうに頭を摺り寄せてくる。そんな飛竜達に一通り挨拶を済ませてようやく相棒にあてがわれている室に着いた。
既にティムがエアリアルの世話を済ませてくれていたので、少し丹念にブラシをかけてやる。ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らしている相棒を見ていると、冬場の事件が遠い昔の事の様だ。ああ、平和だなぁと思いながら、相棒と過ごす時間を楽しんだ。
テンペストの世話を終えたティムと共に新たな俺達の拠点へ向かった。他の隊員は既に鍛錬を始めているが、シュテファンが案内役として残り、俺を待ってくれていた。挨拶を交わし、あてがわれている区画を一通り見て回る。
入ってすぐに打ち合わせをしたり、討伐期の待機場所に使える広い多目的な部屋があった。その部屋に隣接して2つ部屋があり、そのうちの1つが俺の執務室になっていた。そして内廊下から奥へ行くと、隊員の部屋へ通じている。
造りとしては他の大隊の宿舎と大して変わらないが、元は来客用の区画ということもあって一部屋一部屋に随分と余裕があった。俺に割り当てられた執務室も随分と広くて驚いた。まだ必要最低限のものしかないから余計にそう思うのだろうけど、今の俺には他に持ち込むような物が思いつかない。
「仮眠用の寝台を置こうかな」
「部屋はまだ空いていますから、そちらでお休みになった方がよろしいのでは?」
妙案だと思ったが、シュテファンにあっさり却下された。他に補佐をしてくれるラウルの机を置く案も出してみたが、執務室として使える部屋はもう一つあるので、こちらも却下となったのだった。
「急いで決めなくてもおいおい考えていかれればよろしいのでは?」
確かに、シュテファンの言うことは正しい。まあ、単に後回しにしたことになるかもしれないが、無理に今考える必要もないのは確かだった。俺はそう納得すると、鍛錬をするために動きやすい服に着替えて練武場に向かった。
負傷前の動きを取り戻すため、この日も俺はひたすら基礎練習に励んだ。ティムなどは「それだけ動ければもう十分では?」等と言うが、俺からしてみればまだまだだ。以前と同じように動けると思って油断していると、何でもないことでまた怪我をしてしまうこともある。幸いにしてまだ時間はあるので、焦らずじっくり時間をかけて元に戻していこうと考えていた。
鍛錬を終え、着替えるために南棟の部屋に戻ると、ブランドル家から先にオリガを連れて行くと言う伝言があった。サイラス曰く、婚礼衣装の仮縫いがあるらしい。つくづく女性は準備が大変だと思いながら、鍛錬でかいた汗を流し、軽く昼食を済ませてから正装に身を包んだ。
期間限定とはいえ、俺の従者であることに誇りを持つティムを従え、ブランドル家に到着する。ブランドル家の家令に迎えられて壮麗なお屋敷の中へ一歩踏み入れた途端、俺はいきなり使用人たちに囲まれて訳の分からないままとある部屋へ押し込まれた。
「こちらをお召しになってみてください」
先ほどにこやかに出迎えてくれた家令に差し出されたのはいつも以上に装飾が施された礼装だった。秋のお披露目の時に着る予定の礼装らしいが、それにしても随分と派手だ。着替えを終えて姿見で確認していると、扉を叩く音がする。着替えを手伝ってくれた家令が応対し、入ってきたのはまさかのブランドル公夫人グレーテル様だった。
「なかなか似合うわよ。でも、ちょっと詰めた方がいいかしら」
「派手過ぎませんか?」
「貴方も団長と同格になるのですから、このくらいは着こなさないと……。それに、つり合いというものがありますからね」
礼装姿の俺を夫人は家令と一緒になって検分しながら、嬉々として諸々の事情を説明してくれる。結婚式をアジュガでするのは当然の事と納得して下さっているが、それでも皇都でのお披露目は欠かせない。俺達は賜ったばかりのお屋敷ですればいいと考えていたが、もっと大々的に行うことになるらしい。
今回のカルネイロ残党の捕縛や女王の行軍の討伐で功績をあげ、俺は団長と同格まで出世する。陛下が国主会議からお帰りになったら大々的に認証式を行い、その場でお披露目もすることになるらしい。俺達の知らない間にそんな計画が立てられていたことに驚きと同時にあきらめもついた。甘んじて受け入れるしかなさそうだ。
ブランドル家の威信にかけて用意したオリガのドレスも非常に豪華なものになっているのだろう。男は添え物とはいえ、俺もそれなりの装いが必要になってくる。夫人は緩いのをしきりに気にしておられたが、鍛錬を続けるので秋までにまた体形が変わる可能性がある事を伝えると、一旦このまま仕上げてもらうことになった。また秋に試着することになるが、まあ、それは仕方がない。
なんか、世話になりっぱなしで恐縮していたら、ブランドル家だけでなく、サントリナ家と合同での一大事業らしい。俺が逆らえる要素はどこにもなかった……。
非常に満足したご様子のグレーテル様は衣装合わせの途中らしいオリガの様子を見に戻られ、疲れ切った俺はようやく元の正装に着替えた。正装が楽に思える日が来るなんて……と思いながら家令に案内されて部屋を移動すると、エルフレート卿とお茶を飲んで寛いでいるティムがいた。今日は俺の従者として来ているんじゃなかったか、こいつ……。
「あ、お疲れ、ルーク兄さん」
「何で、お前が寛いでいるんだ?」
「えーと、成り行き?」
ティムはコテンと首を傾げているが、既に成人している男がやっても可愛くないぞ。内心毒づきながら、笑顔でエルフレート卿に向き直り、挨拶を交わした。
「彼は、まあ、うちの子みたいなものですから」
俺達のやり取りをほほえまし気に眺めていたエルフレート卿はそう言って俺を宥める。確かに後見をしていただいているのでそうとも受け取れる。でも、なんか……腑に落ちない。
俺も席を勧められ、お茶を頂く。話を聞いてみると、エルフレート卿は出立前に俺と会っておきたくて奥方がいるタルカナに向かう日にちを変更していたらしい。やはり心配をかけていたようで、奥方のみならずタルカナの重鎮方にも良い報告が出来ると喜んでおられた。なんか……面目ない。
それからエルフレート卿と話をしていたのだが、ふと、エアリアルに会いに行ったときに使った車輪付きの椅子を思い出して話題にあげた。
「父さん達に見せたら喜んで改良しそうだよ」
「本当か? ぜひ頼みたい」
軽い気持ちで話題に出したのだが、彼は真顔で食いついてきた。今すぐにでもアジュガへ飛んでいきそうな勢いに狼狽えていると、あの椅子は便利ではあるがやはり振動が不評らしい。
「とりあえず頼んでみるよ。仕事の合間になるだろうからすぐには無理だろうけど」
「構わない」
エルフレート卿もどうにかできないかと考えていたところだったらしい。予備の椅子がアジュガに届くよう、手配してくれることになった。父さん達の反応も楽しみだ。もしかしたら仕事そっちのけで改良に勤しみそうだ。
会話が一段落したころ、衣装合わせが終わったらしいオリガとグレーテル様がやって来た。すかさず席を立ってオリガに手を貸すが、彼女は随分と疲れた様子だった。
「大丈夫か?」
「ええ……皆さんの熱意が凄くて……」
俺は1着だけだったが、オリガには何着も用意されていたらしい。グレーテル様と侍女達の熱意に押されながら全てを試着し、アジュガの結婚式用と秋のお披露目用をどうにか選んだのだとか。
「お疲れ」
席に着き、オリガはほっとした様子でお茶を飲んでいる。逆にグレーテル様は気力が充実してやる気がみなぎっているご様子だった。それはそれでなんか怖い……。
皆でお茶を飲みながら一息入れ、夕刻になる頃本宮からブランドル公がお帰りになられた。それから俺達が賜った屋敷で働く人材についての話し合いが始まり、ブランドル家やサントリナ家から推薦された人たちと面談して俺達が決めることになった。
「留守をすることが多いだろうから、屋敷を管理できる家令をまず決めた方が良い。他の使用人はその家令の意見も参考にした方が良いかもしれないな」
ブランドル公からそんな助言をいただき、翌日には早速、家令候補と面談することが決まった。
その日は夕餉もご馳走になり、遅くなったのもあってそのままブランドル家に泊めていただくことになった。しかし、グレーテル様からこれから結婚式まで同衾は禁止と言い渡され、オリガと部屋は分けられてしまった。一人寝はやはり寂しかった。
来た時同様、馬車に乗り込んだ俺達は南棟に移動してそれぞれが着替えをした部屋へ戻った。湯を使い、部屋着に袖を通して寛いでいると扉を叩く音がする。返事をして扉を開けると、普段着に着替えたオリガが立っていた。
「寂しいから来ちゃった」
拒む理由などない。俺は諸手を上げて歓迎し、彼女を抱きしめた。本当は今日の事を振り返って色々話をするつもりだったけど、結局そのまま寝台になだれ込んでしまい、一夜を明かしていた。
結局、賜ったお屋敷の話が出来たのは朝食の席での事だった。まあ、今の俺達に決められることは少なく、元々この日の午後はブランドル家を訪問することになっていたので、そこでの話し合いで決めるしかないと落ち着いた。
「午前中は新しい雷光隊の拠点の確認と鍛錬かな。オリガは?」
「一度北棟に戻ろうかな」
昨夜北棟に招かれてお会いできたが、やはり皇妃様のお身回りの事も気になるし、慌ただしく出立したから部屋も片づけたいのもあるらしい。午前の鍛錬が終わったら着替えて俺の方から北棟へ彼女を迎えに向かうことになった。
荷物の移動の手配はサイラスが引き受けてくれたので、俺は先ずオリガを北棟に送り届けてから竜舎へ向かった。すれ違う竜騎士や係官に無事を喜ばれるのは何とも気恥ずかしい。加えて世話をしたことがある飛竜達からはそれぞれの室の前を通るたびにかまってほしそうに頭を摺り寄せてくる。そんな飛竜達に一通り挨拶を済ませてようやく相棒にあてがわれている室に着いた。
既にティムがエアリアルの世話を済ませてくれていたので、少し丹念にブラシをかけてやる。ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らしている相棒を見ていると、冬場の事件が遠い昔の事の様だ。ああ、平和だなぁと思いながら、相棒と過ごす時間を楽しんだ。
テンペストの世話を終えたティムと共に新たな俺達の拠点へ向かった。他の隊員は既に鍛錬を始めているが、シュテファンが案内役として残り、俺を待ってくれていた。挨拶を交わし、あてがわれている区画を一通り見て回る。
入ってすぐに打ち合わせをしたり、討伐期の待機場所に使える広い多目的な部屋があった。その部屋に隣接して2つ部屋があり、そのうちの1つが俺の執務室になっていた。そして内廊下から奥へ行くと、隊員の部屋へ通じている。
造りとしては他の大隊の宿舎と大して変わらないが、元は来客用の区画ということもあって一部屋一部屋に随分と余裕があった。俺に割り当てられた執務室も随分と広くて驚いた。まだ必要最低限のものしかないから余計にそう思うのだろうけど、今の俺には他に持ち込むような物が思いつかない。
「仮眠用の寝台を置こうかな」
「部屋はまだ空いていますから、そちらでお休みになった方がよろしいのでは?」
妙案だと思ったが、シュテファンにあっさり却下された。他に補佐をしてくれるラウルの机を置く案も出してみたが、執務室として使える部屋はもう一つあるので、こちらも却下となったのだった。
「急いで決めなくてもおいおい考えていかれればよろしいのでは?」
確かに、シュテファンの言うことは正しい。まあ、単に後回しにしたことになるかもしれないが、無理に今考える必要もないのは確かだった。俺はそう納得すると、鍛錬をするために動きやすい服に着替えて練武場に向かった。
負傷前の動きを取り戻すため、この日も俺はひたすら基礎練習に励んだ。ティムなどは「それだけ動ければもう十分では?」等と言うが、俺からしてみればまだまだだ。以前と同じように動けると思って油断していると、何でもないことでまた怪我をしてしまうこともある。幸いにしてまだ時間はあるので、焦らずじっくり時間をかけて元に戻していこうと考えていた。
鍛錬を終え、着替えるために南棟の部屋に戻ると、ブランドル家から先にオリガを連れて行くと言う伝言があった。サイラス曰く、婚礼衣装の仮縫いがあるらしい。つくづく女性は準備が大変だと思いながら、鍛錬でかいた汗を流し、軽く昼食を済ませてから正装に身を包んだ。
期間限定とはいえ、俺の従者であることに誇りを持つティムを従え、ブランドル家に到着する。ブランドル家の家令に迎えられて壮麗なお屋敷の中へ一歩踏み入れた途端、俺はいきなり使用人たちに囲まれて訳の分からないままとある部屋へ押し込まれた。
「こちらをお召しになってみてください」
先ほどにこやかに出迎えてくれた家令に差し出されたのはいつも以上に装飾が施された礼装だった。秋のお披露目の時に着る予定の礼装らしいが、それにしても随分と派手だ。着替えを終えて姿見で確認していると、扉を叩く音がする。着替えを手伝ってくれた家令が応対し、入ってきたのはまさかのブランドル公夫人グレーテル様だった。
「なかなか似合うわよ。でも、ちょっと詰めた方がいいかしら」
「派手過ぎませんか?」
「貴方も団長と同格になるのですから、このくらいは着こなさないと……。それに、つり合いというものがありますからね」
礼装姿の俺を夫人は家令と一緒になって検分しながら、嬉々として諸々の事情を説明してくれる。結婚式をアジュガでするのは当然の事と納得して下さっているが、それでも皇都でのお披露目は欠かせない。俺達は賜ったばかりのお屋敷ですればいいと考えていたが、もっと大々的に行うことになるらしい。
今回のカルネイロ残党の捕縛や女王の行軍の討伐で功績をあげ、俺は団長と同格まで出世する。陛下が国主会議からお帰りになったら大々的に認証式を行い、その場でお披露目もすることになるらしい。俺達の知らない間にそんな計画が立てられていたことに驚きと同時にあきらめもついた。甘んじて受け入れるしかなさそうだ。
ブランドル家の威信にかけて用意したオリガのドレスも非常に豪華なものになっているのだろう。男は添え物とはいえ、俺もそれなりの装いが必要になってくる。夫人は緩いのをしきりに気にしておられたが、鍛錬を続けるので秋までにまた体形が変わる可能性がある事を伝えると、一旦このまま仕上げてもらうことになった。また秋に試着することになるが、まあ、それは仕方がない。
なんか、世話になりっぱなしで恐縮していたら、ブランドル家だけでなく、サントリナ家と合同での一大事業らしい。俺が逆らえる要素はどこにもなかった……。
非常に満足したご様子のグレーテル様は衣装合わせの途中らしいオリガの様子を見に戻られ、疲れ切った俺はようやく元の正装に着替えた。正装が楽に思える日が来るなんて……と思いながら家令に案内されて部屋を移動すると、エルフレート卿とお茶を飲んで寛いでいるティムがいた。今日は俺の従者として来ているんじゃなかったか、こいつ……。
「あ、お疲れ、ルーク兄さん」
「何で、お前が寛いでいるんだ?」
「えーと、成り行き?」
ティムはコテンと首を傾げているが、既に成人している男がやっても可愛くないぞ。内心毒づきながら、笑顔でエルフレート卿に向き直り、挨拶を交わした。
「彼は、まあ、うちの子みたいなものですから」
俺達のやり取りをほほえまし気に眺めていたエルフレート卿はそう言って俺を宥める。確かに後見をしていただいているのでそうとも受け取れる。でも、なんか……腑に落ちない。
俺も席を勧められ、お茶を頂く。話を聞いてみると、エルフレート卿は出立前に俺と会っておきたくて奥方がいるタルカナに向かう日にちを変更していたらしい。やはり心配をかけていたようで、奥方のみならずタルカナの重鎮方にも良い報告が出来ると喜んでおられた。なんか……面目ない。
それからエルフレート卿と話をしていたのだが、ふと、エアリアルに会いに行ったときに使った車輪付きの椅子を思い出して話題にあげた。
「父さん達に見せたら喜んで改良しそうだよ」
「本当か? ぜひ頼みたい」
軽い気持ちで話題に出したのだが、彼は真顔で食いついてきた。今すぐにでもアジュガへ飛んでいきそうな勢いに狼狽えていると、あの椅子は便利ではあるがやはり振動が不評らしい。
「とりあえず頼んでみるよ。仕事の合間になるだろうからすぐには無理だろうけど」
「構わない」
エルフレート卿もどうにかできないかと考えていたところだったらしい。予備の椅子がアジュガに届くよう、手配してくれることになった。父さん達の反応も楽しみだ。もしかしたら仕事そっちのけで改良に勤しみそうだ。
会話が一段落したころ、衣装合わせが終わったらしいオリガとグレーテル様がやって来た。すかさず席を立ってオリガに手を貸すが、彼女は随分と疲れた様子だった。
「大丈夫か?」
「ええ……皆さんの熱意が凄くて……」
俺は1着だけだったが、オリガには何着も用意されていたらしい。グレーテル様と侍女達の熱意に押されながら全てを試着し、アジュガの結婚式用と秋のお披露目用をどうにか選んだのだとか。
「お疲れ」
席に着き、オリガはほっとした様子でお茶を飲んでいる。逆にグレーテル様は気力が充実してやる気がみなぎっているご様子だった。それはそれでなんか怖い……。
皆でお茶を飲みながら一息入れ、夕刻になる頃本宮からブランドル公がお帰りになられた。それから俺達が賜った屋敷で働く人材についての話し合いが始まり、ブランドル家やサントリナ家から推薦された人たちと面談して俺達が決めることになった。
「留守をすることが多いだろうから、屋敷を管理できる家令をまず決めた方が良い。他の使用人はその家令の意見も参考にした方が良いかもしれないな」
ブランドル公からそんな助言をいただき、翌日には早速、家令候補と面談することが決まった。
その日は夕餉もご馳走になり、遅くなったのもあってそのままブランドル家に泊めていただくことになった。しかし、グレーテル様からこれから結婚式まで同衾は禁止と言い渡され、オリガと部屋は分けられてしまった。一人寝はやはり寂しかった。
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