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第3章 2人の物語
閑話 ウォルフ1
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「はぁぁぁ……やっと寝てくれた……」
厚手の敷物が一面に敷かれた床の上、数人の子供達が寝息を立てている。この国の皇子であらせられるエルヴィン殿下を筆頭にいずれも高貴な血を引くお子様方だ。
皇妃殿下のフォルビア行きに伴い、期間限定で子守りを引き受けたはいいが、元気が有り余っている子供達のお相手は思った以上に骨が折れた。子育てが思っていた以上に重労働だったことを認識し、世の中のお母さんたちはこんな大変なことを毎日休みなくやっているのだと思うと、本当に頭が下がる思いがした。
「ありがとうウォルフ、少し休んでくださいな」
殿下に妙に懐かれてしまい、寝付く間際まで傍から離れてくれなかった為、乳母や侍女の方々と一緒に寝貸し付けをしたのだが、恐れ多くも皇妃様が直々に労って下さった。
音を立てないようにそろりと立ち上がると、子供達が昼寝をしている子供部屋から外に出る。この後は乳母の方々が見ていて下さるので、しばらくの間休憩ができる。促されるまま大人達の休憩室となっている隣室に移動する。
「さあ、どうぞ」
そこでは既にフロックス夫人にジーン卿、オリガ嬢が寛いでおられた。自分も用意してもらった席に座ると、皇妃様御自ら淹れて下さったお茶が用意される。最初はこの場に座ることもためらわれたが、この10日の間で慣れてしまった。何よりもこのお茶が美味しい。
こうやって育児の合間に皇妃様が淹れて下さるお茶を頂くのが皆様の楽しみになっておられるらしい。今回手伝いをしたことで、自分もその栄誉を賜った次第だった。
「今夜遅くには着くと先程知らせがあったわ」
西方地域を視察されている陛下から知らせが届いたらしい。当初のご予定では明日フォルビアに到着されるご予定だったが、飛竜での移動を最大限に生かして時間を切り詰めるのに成功したらしい。
陛下とお会いできるからか、心なしか皇妃様は嬉しそうにしておられる。ご婚礼から2年経ったが、今でも仲睦まじいご様子は変わっていない。国中が憧れる理想の夫婦像とも言える。
「ご予定よりも随分早いですわね」
「雷光隊が同行しているのですから当然でしょう」
フロックス夫人の驚きを我が事の様に誇らしく返したのはオリガ嬢ではなくジーン卿だった。子育て中で予備役とはいえ、同じ第3騎士団所属の彼らが誇らしいのかもしれない。
「無事に帰ってきていただけるのが一番ですけど……」
「陛下も同行されておられるのですから、無茶はしてないはずよ」
雷光隊はタランテラ国内随一の騎竜術を誇り、他の竜騎士が通らない難所も平気ですり抜けている。オリガ嬢はその辺を少し心配しておられる様子だが、ジーン卿が言われる通り陛下が御一緒なのだから、危険を伴うような難所は通らない……はずだ。
そんな話に耳を傾けながら、美味しいお茶とお茶菓子を堪能していると、唐突に子供の泣き声が聞こえて休憩時間の終わりを告げられた。1人が泣けばつられて他の子どもも泣き出す。この10日程の間に嫌でも学んだことだ。
慌てて子供部屋に戻ると、半泣きのエルヴィン殿下が俺に抱き着いてくる。あまりにも勢いが良くてよろけてしまったほどだ。母親の皇妃様にすると怒られるのだが、自分にしても何も言われないと理解されているからだ。それほど甘えてもらっているのだと思うと、何だか嬉しくなってくる気もする。
事前に交わしていた契約では、子守りの手伝いは陛下がフォルビアに到着されるまでとなっていた。あと半日となったけれど、誠心誠意お仕えしようと改めて気を引き締め、抱き上げた皇子の目尻にたまった涙を指で拭ってあげた。
深夜にご到着と聞いていたので、ちゃんと陛下をお出迎えするつもりでいた。しかし、皇子のお相手を目一杯頑張ってしまった結果、疲れからいつの間にか寝入ってしまい、気づけば朝だった。
大いに焦ったが、「昼頃部屋に来て欲しい」という伝言を侍官に託しておられた。伝言に従ってお部屋に伺うと、恐れ多くも陛下の私室に招き入れられた。
「呼びつけて済まなかった」
「い、いえ、私こそ、昨夜はお出迎えもせずに申し訳ありませんでした」
部屋着姿の陛下は起き抜けだったらしく、まだ幾分か眠そうなご様子で家令のオルティスさんが淹れたお茶を飲んでおられた。何だか男の自分でもドキドキしてしまいそうになるくらいに壮絶な色気を放っていて、昨夜出迎えられなかった謝罪もしどろもどろになる。
「着いたのは深夜だった。気にしなくていい。それよりも、エルヴィンの面倒をよく見てくれたそうだな。改めて感謝する」
そう言って陛下が頭を下げられるので大いに慌てた。狼狽える自分をしり目に陛下はオルティスさんが銀のお盆にのせて持ってきた巾着袋を受け取ると、目の前に置いた。
「これは、約束の報酬だ」
今回、子守りの手伝いをするにあたって誓約書を交わしていた。その中に報酬の文言があり、自分は不要だと言ったのだけど、押し切られる形で受けていた。「せっかくの休みに子守りの仕事をしてもらうのだから当然だ」というのが陛下の言い分だった。
恐る恐る受け取ると、ズシリと重い。思っていた以上の金額が入っていそうだ。
「多く……ないですか?」
「色々大変だったと聞いた。その分上積みさせてもらった」
「えっと……」
エルヴィン殿下と過ごしたこの10日間のアレコレが蘇る。一番大変だったのはフォルビアに着いた翌日に先代女大公様の墓参に正神殿へ向かった時だ。墓参が済んだ後、散策していた中庭で何かに興味を引かれて突っ走ったエルヴィン殿下を捕まえそこねてしまった。姿を見失い、大慌てで護衛の竜騎士や神殿の神官方総動員で探索したのだが、当の本人はベンチの陰で寝こけていた。後で確認したところ、本人はかくれんぼをしていたつもりらしい。あの時は本当に生きた心地がしなかった。
「そういう訳だから気にせず受け取ってほしい」
「は、はい……ありがとうございます」
巾着袋を受け取ると、陛下は満足そうに頷いて残りのお茶を飲み干された。まだどこかスッキリとしないご様子なのは通常の視察よりも強行軍だったからなのだろう。陛下に十分休んでいただくために、お子様方はフロックス家とドレスラー家合同のピクニックに出かけられていた。
いつまでも自分がいては休めない。辞去する旨を伝えると、特に引き留められることもなく私室を辞去した。
その後食堂で昼食を摂っていると、ルーク卿が姿を現した。陛下に同行していた彼も相当疲れていたらしく、起きたばかりだったらしい。そんな彼にこの10日間の事を聞かれ、大変だったことをつい愚痴ってしまった。それでも嫌な顔せずに耳を傾けてくれる彼は本当にできた人だ。
「まあ、お疲れ。今日はもういいのだろう?」
「うん……」
「午後から出かける。準備してくれ」
唐突にそう言われて首を傾げる。行先を尋ねるとフォルビア行きの前に出していたゲオルグ様に面会したいという要望が通ったことが分かった。逸る気持ちを抑えつつ二つ返事で了承すると、急いで自室に戻った。
「神官の勉強を始めたんだ」
再会を喜び合った後、落ち着いてから先ずゲオルグ様がそう話を切り出した。身に付けているのも見習いの神官服で、勉強を教えてもらっている老神官の手ほどきで神官になるための修行を始められたらしい。
更には自由に出ることができる小さな庭の一角でハーブを育て、香油も作っているというから驚いた。本当は油も自作したかったらしいが、小さな庭では油を摂る植物までは栽培できずに断念。仕方なくジグムント卿を通じて商人から油を安く購入しているのだとか。
「いつかは自立できればと思っている」
幽閉の身なので外に出ることはできないが、それでもこの地で国の安寧を祈りながら、自分の力で生きていきたいと決意されていた。本当にお変わりになられた。他の取り巻きとつるんで色々と悪いことをしてきた皇子時代とは別人の様だ。
互いの近況を交えつつ、他愛もない話をしている間に時間は過ぎてしまい、面会は終わりを迎えた。自由に行動できる居住区の境までゲオルグ様は見送って下さり、別れ際に自作の香油を手渡して下さった。
「できればあの方にも……」
今でも何かと気にかけて下さる陛下に何かしらの感謝の気持ちをお伝えしたいのだろう。もちろん、快く引き受けた。そして固く握手を交わして再会を約束し、ゲオルグ様と別れた。
フォルビア城に帰還後、報告に向かうルーク卿と共に陛下の下に向かった。夕餉を終え、ご家族で寛いでおられるところだったが、快くお会いして下さった。
「ただ今、戻りました」
「今回は面会を許して下さり、ありがとうございました」
深々と頭を下げると、陛下は苦笑しながらも楽にするよう仰った。
「そなたからの要望などめったにない事だ。今回エルヴィンが世話になったし、元より反対するつもりはなかった。まあ、手筈は全てルークに丸投げしてしまったが」
陛下御自身もゲオルグ様の御様子は気になっておられたらしい。だから今回出した要望はちょうど良かったのだと言って感謝は不要だと仰せになられた。それでも再度頭を下げると「律義だな」と苦笑しておられた。
一段落したところでルーク卿が会話の記録を陛下に手渡した。
「息災の様で何よりだ」
記録にざっと目を通された陛下はそう呟かれた。ゲオルグ様が神官になるための勉強をしていることに驚かれたご様子だったが、進むべき道を見いだしたことに安堵されたご様子だった。
「こちらを陛下にと……」
「成長したのだな……」
預かった香油の瓶を手渡すと、陛下は表情を和らげて受け取られ、感慨深い様子で香油の瓶を眺めておられた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
フォルビア城到着の翌日、エドワルドとフレアは夫婦水入らずの時間を過ごしていました。
どんな風に過ごしていたかはご想像にお任せ。
次も閑話の続きになります。
厚手の敷物が一面に敷かれた床の上、数人の子供達が寝息を立てている。この国の皇子であらせられるエルヴィン殿下を筆頭にいずれも高貴な血を引くお子様方だ。
皇妃殿下のフォルビア行きに伴い、期間限定で子守りを引き受けたはいいが、元気が有り余っている子供達のお相手は思った以上に骨が折れた。子育てが思っていた以上に重労働だったことを認識し、世の中のお母さんたちはこんな大変なことを毎日休みなくやっているのだと思うと、本当に頭が下がる思いがした。
「ありがとうウォルフ、少し休んでくださいな」
殿下に妙に懐かれてしまい、寝付く間際まで傍から離れてくれなかった為、乳母や侍女の方々と一緒に寝貸し付けをしたのだが、恐れ多くも皇妃様が直々に労って下さった。
音を立てないようにそろりと立ち上がると、子供達が昼寝をしている子供部屋から外に出る。この後は乳母の方々が見ていて下さるので、しばらくの間休憩ができる。促されるまま大人達の休憩室となっている隣室に移動する。
「さあ、どうぞ」
そこでは既にフロックス夫人にジーン卿、オリガ嬢が寛いでおられた。自分も用意してもらった席に座ると、皇妃様御自ら淹れて下さったお茶が用意される。最初はこの場に座ることもためらわれたが、この10日の間で慣れてしまった。何よりもこのお茶が美味しい。
こうやって育児の合間に皇妃様が淹れて下さるお茶を頂くのが皆様の楽しみになっておられるらしい。今回手伝いをしたことで、自分もその栄誉を賜った次第だった。
「今夜遅くには着くと先程知らせがあったわ」
西方地域を視察されている陛下から知らせが届いたらしい。当初のご予定では明日フォルビアに到着されるご予定だったが、飛竜での移動を最大限に生かして時間を切り詰めるのに成功したらしい。
陛下とお会いできるからか、心なしか皇妃様は嬉しそうにしておられる。ご婚礼から2年経ったが、今でも仲睦まじいご様子は変わっていない。国中が憧れる理想の夫婦像とも言える。
「ご予定よりも随分早いですわね」
「雷光隊が同行しているのですから当然でしょう」
フロックス夫人の驚きを我が事の様に誇らしく返したのはオリガ嬢ではなくジーン卿だった。子育て中で予備役とはいえ、同じ第3騎士団所属の彼らが誇らしいのかもしれない。
「無事に帰ってきていただけるのが一番ですけど……」
「陛下も同行されておられるのですから、無茶はしてないはずよ」
雷光隊はタランテラ国内随一の騎竜術を誇り、他の竜騎士が通らない難所も平気ですり抜けている。オリガ嬢はその辺を少し心配しておられる様子だが、ジーン卿が言われる通り陛下が御一緒なのだから、危険を伴うような難所は通らない……はずだ。
そんな話に耳を傾けながら、美味しいお茶とお茶菓子を堪能していると、唐突に子供の泣き声が聞こえて休憩時間の終わりを告げられた。1人が泣けばつられて他の子どもも泣き出す。この10日程の間に嫌でも学んだことだ。
慌てて子供部屋に戻ると、半泣きのエルヴィン殿下が俺に抱き着いてくる。あまりにも勢いが良くてよろけてしまったほどだ。母親の皇妃様にすると怒られるのだが、自分にしても何も言われないと理解されているからだ。それほど甘えてもらっているのだと思うと、何だか嬉しくなってくる気もする。
事前に交わしていた契約では、子守りの手伝いは陛下がフォルビアに到着されるまでとなっていた。あと半日となったけれど、誠心誠意お仕えしようと改めて気を引き締め、抱き上げた皇子の目尻にたまった涙を指で拭ってあげた。
深夜にご到着と聞いていたので、ちゃんと陛下をお出迎えするつもりでいた。しかし、皇子のお相手を目一杯頑張ってしまった結果、疲れからいつの間にか寝入ってしまい、気づけば朝だった。
大いに焦ったが、「昼頃部屋に来て欲しい」という伝言を侍官に託しておられた。伝言に従ってお部屋に伺うと、恐れ多くも陛下の私室に招き入れられた。
「呼びつけて済まなかった」
「い、いえ、私こそ、昨夜はお出迎えもせずに申し訳ありませんでした」
部屋着姿の陛下は起き抜けだったらしく、まだ幾分か眠そうなご様子で家令のオルティスさんが淹れたお茶を飲んでおられた。何だか男の自分でもドキドキしてしまいそうになるくらいに壮絶な色気を放っていて、昨夜出迎えられなかった謝罪もしどろもどろになる。
「着いたのは深夜だった。気にしなくていい。それよりも、エルヴィンの面倒をよく見てくれたそうだな。改めて感謝する」
そう言って陛下が頭を下げられるので大いに慌てた。狼狽える自分をしり目に陛下はオルティスさんが銀のお盆にのせて持ってきた巾着袋を受け取ると、目の前に置いた。
「これは、約束の報酬だ」
今回、子守りの手伝いをするにあたって誓約書を交わしていた。その中に報酬の文言があり、自分は不要だと言ったのだけど、押し切られる形で受けていた。「せっかくの休みに子守りの仕事をしてもらうのだから当然だ」というのが陛下の言い分だった。
恐る恐る受け取ると、ズシリと重い。思っていた以上の金額が入っていそうだ。
「多く……ないですか?」
「色々大変だったと聞いた。その分上積みさせてもらった」
「えっと……」
エルヴィン殿下と過ごしたこの10日間のアレコレが蘇る。一番大変だったのはフォルビアに着いた翌日に先代女大公様の墓参に正神殿へ向かった時だ。墓参が済んだ後、散策していた中庭で何かに興味を引かれて突っ走ったエルヴィン殿下を捕まえそこねてしまった。姿を見失い、大慌てで護衛の竜騎士や神殿の神官方総動員で探索したのだが、当の本人はベンチの陰で寝こけていた。後で確認したところ、本人はかくれんぼをしていたつもりらしい。あの時は本当に生きた心地がしなかった。
「そういう訳だから気にせず受け取ってほしい」
「は、はい……ありがとうございます」
巾着袋を受け取ると、陛下は満足そうに頷いて残りのお茶を飲み干された。まだどこかスッキリとしないご様子なのは通常の視察よりも強行軍だったからなのだろう。陛下に十分休んでいただくために、お子様方はフロックス家とドレスラー家合同のピクニックに出かけられていた。
いつまでも自分がいては休めない。辞去する旨を伝えると、特に引き留められることもなく私室を辞去した。
その後食堂で昼食を摂っていると、ルーク卿が姿を現した。陛下に同行していた彼も相当疲れていたらしく、起きたばかりだったらしい。そんな彼にこの10日間の事を聞かれ、大変だったことをつい愚痴ってしまった。それでも嫌な顔せずに耳を傾けてくれる彼は本当にできた人だ。
「まあ、お疲れ。今日はもういいのだろう?」
「うん……」
「午後から出かける。準備してくれ」
唐突にそう言われて首を傾げる。行先を尋ねるとフォルビア行きの前に出していたゲオルグ様に面会したいという要望が通ったことが分かった。逸る気持ちを抑えつつ二つ返事で了承すると、急いで自室に戻った。
「神官の勉強を始めたんだ」
再会を喜び合った後、落ち着いてから先ずゲオルグ様がそう話を切り出した。身に付けているのも見習いの神官服で、勉強を教えてもらっている老神官の手ほどきで神官になるための修行を始められたらしい。
更には自由に出ることができる小さな庭の一角でハーブを育て、香油も作っているというから驚いた。本当は油も自作したかったらしいが、小さな庭では油を摂る植物までは栽培できずに断念。仕方なくジグムント卿を通じて商人から油を安く購入しているのだとか。
「いつかは自立できればと思っている」
幽閉の身なので外に出ることはできないが、それでもこの地で国の安寧を祈りながら、自分の力で生きていきたいと決意されていた。本当にお変わりになられた。他の取り巻きとつるんで色々と悪いことをしてきた皇子時代とは別人の様だ。
互いの近況を交えつつ、他愛もない話をしている間に時間は過ぎてしまい、面会は終わりを迎えた。自由に行動できる居住区の境までゲオルグ様は見送って下さり、別れ際に自作の香油を手渡して下さった。
「できればあの方にも……」
今でも何かと気にかけて下さる陛下に何かしらの感謝の気持ちをお伝えしたいのだろう。もちろん、快く引き受けた。そして固く握手を交わして再会を約束し、ゲオルグ様と別れた。
フォルビア城に帰還後、報告に向かうルーク卿と共に陛下の下に向かった。夕餉を終え、ご家族で寛いでおられるところだったが、快くお会いして下さった。
「ただ今、戻りました」
「今回は面会を許して下さり、ありがとうございました」
深々と頭を下げると、陛下は苦笑しながらも楽にするよう仰った。
「そなたからの要望などめったにない事だ。今回エルヴィンが世話になったし、元より反対するつもりはなかった。まあ、手筈は全てルークに丸投げしてしまったが」
陛下御自身もゲオルグ様の御様子は気になっておられたらしい。だから今回出した要望はちょうど良かったのだと言って感謝は不要だと仰せになられた。それでも再度頭を下げると「律義だな」と苦笑しておられた。
一段落したところでルーク卿が会話の記録を陛下に手渡した。
「息災の様で何よりだ」
記録にざっと目を通された陛下はそう呟かれた。ゲオルグ様が神官になるための勉強をしていることに驚かれたご様子だったが、進むべき道を見いだしたことに安堵されたご様子だった。
「こちらを陛下にと……」
「成長したのだな……」
預かった香油の瓶を手渡すと、陛下は表情を和らげて受け取られ、感慨深い様子で香油の瓶を眺めておられた。
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フォルビア城到着の翌日、エドワルドとフレアは夫婦水入らずの時間を過ごしていました。
どんな風に過ごしていたかはご想像にお任せ。
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