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第2章 オリガの物語
第21話
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踊る牡鹿亭の前は3カ月前と同様にお祭り会場と化し、まだ早い時間にもかかわらず、既に親方衆は酒盛りを始めていた。私達の姿を見て駆け寄って挨拶してくれたカミラさんの話によると、明日の結婚式の準備を終えた彼等は私達の到着を待ちきれずに飲み始めてしまったらしい。
「おお、ルーク坊おかえり」
「オリガちゃんもよく来たねぇ」
前回の滞在ですっかり顔なじみとなった町の人達に迎えられて、前回同様私達は一番大きなテーブルに案内された。今回の主役のはずのクルトさんとリーナさんは端の方に仲良く並んで座り、頑張れとばかりに笑顔で手を振っている。
心の準備が整わないままお酒の入った杯が配られて乾杯となる。そして即位式とその後の祝賀会の様子を代わる代わる語った。
「露台で集まった人達にお手を振られていた時に雲の切れ間から光が差し込んできて御一家を照らし出されたんだ。まるでダナシア様から祝福を受けられたみたいで、ものすごく感動した」
ルークが即位式の様子を語り、その厳かな様子に感嘆の声が上がる。そして今度は私が本宮内部の様子やお2人のご衣装の詳細を語ると、女性陣はうっとりとした様子で聞き入っていた。逆に男性陣はさすが職人と言うべきか、調度にどんな細工が施されていたかを知りたがっていた。
そして賢者様から私達の婚約を祝福していただいたことを伝えると、みんな我が事の様に喜んでくれていた。
「着飾ったオリガちゃんはさぞかしきれいだったろうね」
「もちろん」
おかみさんの1人がそう尋ねると、ルークは即答していた。横でティムが「鼻の下伸ばしていたよね」と茶化すから思いっきり足を踏まれていた。それで済ませておけばいいのに、今度は私達が踊ったことを暴露してさっきよりも強く足を踏まれていた。もう、余計な事言わないでほしい。
「じゃあ、踊って見せてよ」
当然の様にそう言われてしまって大いに焦った。アレコレ理由をつけて何とか免れることが出来て私もルークもホッと胸をなでおろす。後で絶対ティムにお説教しようと固く心に誓った。
翌日に響くからとこの日の宴会は早目に終了となった。翌日の婚礼のお祝いもここでするらしく、片付けも簡単でいいよと言われてあっという間に済んでいた。
ラウル卿とシュテファン卿そしてティムは踊る牡鹿亭、私達はルークの持家に泊まることになっていた。みんなと別れ、家の扉を開ける。ルークのお父さんが夕方から暖炉に火を入れておいてくれたおかげで家の中は十分温まっていた。
明日に備えて早く寝た方が良いのだけど、すぐに寝るのも何だかもったいなくて、2人でお茶を用意して居間のソファーに並んで腰を下ろした。
「何だかホッとするね」
そう言って2人で顔を見合わせる。皇都で借りた家は豪華で贅沢な気分を味わうことができたけれど、やはり自分達はこの家の方が落ち着くと意見が一致した。他愛もない話をしながらゆっくりとお茶を飲み干す。そして茶器を手早く片付けると、手を取り合って2階の寝室へ向かった。
翌日は門出の日に相応しい快晴となった。この時期は雨が降ることが多いので、随分気をもんだのだけれど、ダナシア様がお2人の為にお計らいして下さったのかもしれない。
少し早めに身支度を終えた私達は、神殿へ向かう前にビレア家の庭で花を摘んでいた。結婚式に参列する人もしない人も小さな花束を作って神殿に飾り、夫婦となる2人を祝福するのがこの町の習わしとなっている。私達もその習わしに従い、お母様が育てている花を譲っていただいて花束を作っていた。
秋の花々に赤く色付いた実を添えて持参したリボンで束ねる。傍らではルークとティムも器用に花束を作っているが、ラウル卿とシュテファン卿はこう言ったことは苦手らしく、少々苦戦しておられた。
ビレア家の方々も出てこられたのでみんなで神殿に向かう。既に着飾った町の人達も小さな花束を手に集まっていて、私達……というか竜騎士正装姿のルークの姿を見てざわついている。煌びやかすぎるからと礼装は控えたのだけどあまり変わらなかったかもしれない。
ちなみに私はグレーテル様がご用意して下さった朽葉色の地に緑で刺繍が施された落ち着いた色合いのドレス。軽く結った髪にドレスと供布のリボンを飾り、ルークから贈られたあのエメラルドの首飾りを付けている。ルークはそんな私に神殿に着くまで終始可愛いと言い続けていた。ちょっと……恥ずかしい。
「綺麗……」
神殿の中は秋にも関わらず花で溢れていた。将来この町の職人を引っ張って行く存在になるはずのクルトさんと面倒見の良さからみんなに慕われているリーナさんの為に町中の人が花束を贈っているに違いない。その光景に目を奪われながら私達も持参した花束を飾った。これらの花は神官の祝福を受けてご利益があると言われているので、婚礼の後は新居の寝室に飾られることになっているらしい。
やがて花嫁衣裳を纏ったリーナさんが馬の背に揺られて到着した。その馬はルークが贈ったあの馬で、綺麗に馬装されており、礼装を纏ったリーナさんのお祖父さんとクルトさんが引いている。本来荷役用の馬だけど、軍で調教されただけあって大勢の人にも驚くことなく大人しく従っている。
「おめでとう!」
「お幸せにね」
「リーナさん、綺麗」
等と神殿前に集まった人々に祝福されながら、クルトさんが手を貸してリーナさんが馬の背から降りる。そして今日の婚礼を取り仕切る神官が姿を現し、その神官の合図でダナシア賛歌の合唱が始まった。2人は神官が先導で神殿の中に入っていき、参列する私達もダナシア賛歌を歌いながらその後に続いた。
花で埋め尽くされた祭壇の前でクルトさんはいささか緊張した様子で、リーナさんは幸せそうに微笑みながら愛を誓い合った。そして神官がその朗々とした声で祝福の言葉を紡ぎながら、クルトさんとリーナさんの手に色鮮やかな組紐を巻いていく。そして2人が口づけを交わし、神官が婚姻の成立を宣言して儀式は終了した。そして参列者から割れんばかりの拍手を受けながら夫婦となった2人は神殿の外へと向かった。
その後は前日同様、踊る牡鹿亭の前の広場で祝宴となった。簡易の舞台の上では呼ばれた楽団が演奏し、みんなで飲んで、歌って前日よりも賑やかな宴となった。恒例となる組紐をほどく共同作業が始まると、既にお酒が入っているからか「そうじゃない」「いや、そっちだ」などと外野の方がうるさいのはおなじみの光景。それでもどうにかほどくことが出来て、それぞれの腕に1本ずつ綺麗に巻き直された。
「さて、それじゃ踊ってもらおうか」
腕に巻かれた組紐を満足そうに撫でながら、いきなりクルトさんがそう切り出した。昨日は音楽が無いと踊れない等といくつか理由をつけて断ったのだけれど、今日は楽団も招いているし、舞台も用意されていて逃げ道をふさがれてしまっている。
「昨日、あっさりと引き下がったはずだよ」
傍らのルークを振り仰ぐと、彼は天を仰いでいた。けれど確認するように顔を見合わせると、「仕方ない」と言って脱いでいた上着を羽織る。そして立ち上がると私の前に手を差し出した。
「一曲踊って頂けますか?」
「喜んで」
私はその手を取って立ち上がる。周囲から囃し立てるような拍手が沸き起こる中、私達は舞台に移動した。そして楽団が演奏を始めると、互いに一礼をして踊り始めた。
「逃げられなかったね」
「まあ、仕方ないか。作法云々は誰も気にしないだろうから楽しもう」
そんな会話を交わしながら基本的なステップを踏んでいく。不安はあったけれど、案外体は覚えていたらしく、すんなりとルークの動きに合わせることができた。即位式では失敗できないとばかり思って緊張しかなかったけれど、今日は気楽な分ダンスが楽しいと思えた。
「なんか、楽しくなってきた」
ルークも同じ気持ちだったらしく、だんだんステップの難易度を上げていく。周囲の歓声にも煽られて本番以上のダンスを披露した私達は、終わった後の礼をした時には息を切していた。舞台から戻るとみんなから絶賛され、今後も機会があったらまたルークと踊りたいと思った。
その後も賑やかな宴は夜が更けるまで続いた。そしてルークと過ごした楽しい思い出がまた一つ増えたのだった。
今回はあまり長居できない私達は、ルークの家族を始め町の人達に見送られて婚礼の翌日にアジュガを発っていた。「ここを故郷だと思ってまたゆっくり遊びにいらっしゃい」そうお母様に言って頂けたのが何よりも嬉しかった。
アジュガを昼前に出立した私達はその日の夕刻に皇都に到着した。ルーク達は飛竜を1日休ませてからフォルビアに帰還する手筈となっていて、その日は皇都を散策したりして2人の時間を過ごした。
正直に言うと離れたくない。でもそれぞれに役目があるのだから今は我慢するしかなかった。出立前夜、荷造りしている彼に私は昨年から編み続けた防寒具をそっと差し出した。
「こんなに沢山……ありがとう」
会えない寂しさを紛らわせるのと、彼の無事を祈願して編み続けた防寒具は全部で5枚あった。彼は嬉しそうに受け取ると、翌日に付ける分を除いて大事そうに荷物にしまった。
「無茶しないでね」
「う……鋭意努力します」
ラウル卿やシュテファン卿から昨年は随分と無茶な事ばかりしていたと伺った。本人曰く、自棄になっていたところもあったらしい。
「でも、ちゃんと帰ってくるから」
「約束よ」
「うん」
ルークはそう言うと私をそっと抱きしめ、唇を重ねた。
翌朝は霧雨が降っていた。ヒース卿もリーガス卿も既に帰還されており、今回は雷光隊だけでの移動となる。ティムの相棒も船でロベリアに戻ったジーン卿が預かってくれていて、もう到着しているころ合いだった。
私達が着場に行くと既に5頭の飛竜が準備を整えて待っていた。実は急遽、雷光隊に叙勲されたばかりの若い竜騎士が2名も加わることになり、フォルビアへ同行することになったのだ。それに伴い、ルークは大隊長に昇進していた。彼は随分と不本意そうにしていたけれど。
皆、既に準備は整っていた。ルークの荷物は見送りに来たイリスさんとの挨拶を済ませたラウル卿が預かり、エアリアルにはティムが同乗する。最後に口づけを交わすと、ルークは軽やかに相棒の背に跨った。
「フォルビアに帰還する」
大隊長になって初めての号令をかけると、彼は一度私の方を見て頷き、それからエアリアルを飛び立たせた。それにラウル卿が続き、新人の2人、そして殿にシュテファン卿の相棒が飛び立っていく。
「行っちゃいましたね」
「ええ」
その姿は霧雨の向こうにすぐ見えなくなってしまった。それでも私とイリスさんはしばらくその場で空を見上げ続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
閑話をいくつか挙げて第2章は終了。
また、ルークの昇進の詳細は閑話にて乗せる予定。
「おお、ルーク坊おかえり」
「オリガちゃんもよく来たねぇ」
前回の滞在ですっかり顔なじみとなった町の人達に迎えられて、前回同様私達は一番大きなテーブルに案内された。今回の主役のはずのクルトさんとリーナさんは端の方に仲良く並んで座り、頑張れとばかりに笑顔で手を振っている。
心の準備が整わないままお酒の入った杯が配られて乾杯となる。そして即位式とその後の祝賀会の様子を代わる代わる語った。
「露台で集まった人達にお手を振られていた時に雲の切れ間から光が差し込んできて御一家を照らし出されたんだ。まるでダナシア様から祝福を受けられたみたいで、ものすごく感動した」
ルークが即位式の様子を語り、その厳かな様子に感嘆の声が上がる。そして今度は私が本宮内部の様子やお2人のご衣装の詳細を語ると、女性陣はうっとりとした様子で聞き入っていた。逆に男性陣はさすが職人と言うべきか、調度にどんな細工が施されていたかを知りたがっていた。
そして賢者様から私達の婚約を祝福していただいたことを伝えると、みんな我が事の様に喜んでくれていた。
「着飾ったオリガちゃんはさぞかしきれいだったろうね」
「もちろん」
おかみさんの1人がそう尋ねると、ルークは即答していた。横でティムが「鼻の下伸ばしていたよね」と茶化すから思いっきり足を踏まれていた。それで済ませておけばいいのに、今度は私達が踊ったことを暴露してさっきよりも強く足を踏まれていた。もう、余計な事言わないでほしい。
「じゃあ、踊って見せてよ」
当然の様にそう言われてしまって大いに焦った。アレコレ理由をつけて何とか免れることが出来て私もルークもホッと胸をなでおろす。後で絶対ティムにお説教しようと固く心に誓った。
翌日に響くからとこの日の宴会は早目に終了となった。翌日の婚礼のお祝いもここでするらしく、片付けも簡単でいいよと言われてあっという間に済んでいた。
ラウル卿とシュテファン卿そしてティムは踊る牡鹿亭、私達はルークの持家に泊まることになっていた。みんなと別れ、家の扉を開ける。ルークのお父さんが夕方から暖炉に火を入れておいてくれたおかげで家の中は十分温まっていた。
明日に備えて早く寝た方が良いのだけど、すぐに寝るのも何だかもったいなくて、2人でお茶を用意して居間のソファーに並んで腰を下ろした。
「何だかホッとするね」
そう言って2人で顔を見合わせる。皇都で借りた家は豪華で贅沢な気分を味わうことができたけれど、やはり自分達はこの家の方が落ち着くと意見が一致した。他愛もない話をしながらゆっくりとお茶を飲み干す。そして茶器を手早く片付けると、手を取り合って2階の寝室へ向かった。
翌日は門出の日に相応しい快晴となった。この時期は雨が降ることが多いので、随分気をもんだのだけれど、ダナシア様がお2人の為にお計らいして下さったのかもしれない。
少し早めに身支度を終えた私達は、神殿へ向かう前にビレア家の庭で花を摘んでいた。結婚式に参列する人もしない人も小さな花束を作って神殿に飾り、夫婦となる2人を祝福するのがこの町の習わしとなっている。私達もその習わしに従い、お母様が育てている花を譲っていただいて花束を作っていた。
秋の花々に赤く色付いた実を添えて持参したリボンで束ねる。傍らではルークとティムも器用に花束を作っているが、ラウル卿とシュテファン卿はこう言ったことは苦手らしく、少々苦戦しておられた。
ビレア家の方々も出てこられたのでみんなで神殿に向かう。既に着飾った町の人達も小さな花束を手に集まっていて、私達……というか竜騎士正装姿のルークの姿を見てざわついている。煌びやかすぎるからと礼装は控えたのだけどあまり変わらなかったかもしれない。
ちなみに私はグレーテル様がご用意して下さった朽葉色の地に緑で刺繍が施された落ち着いた色合いのドレス。軽く結った髪にドレスと供布のリボンを飾り、ルークから贈られたあのエメラルドの首飾りを付けている。ルークはそんな私に神殿に着くまで終始可愛いと言い続けていた。ちょっと……恥ずかしい。
「綺麗……」
神殿の中は秋にも関わらず花で溢れていた。将来この町の職人を引っ張って行く存在になるはずのクルトさんと面倒見の良さからみんなに慕われているリーナさんの為に町中の人が花束を贈っているに違いない。その光景に目を奪われながら私達も持参した花束を飾った。これらの花は神官の祝福を受けてご利益があると言われているので、婚礼の後は新居の寝室に飾られることになっているらしい。
やがて花嫁衣裳を纏ったリーナさんが馬の背に揺られて到着した。その馬はルークが贈ったあの馬で、綺麗に馬装されており、礼装を纏ったリーナさんのお祖父さんとクルトさんが引いている。本来荷役用の馬だけど、軍で調教されただけあって大勢の人にも驚くことなく大人しく従っている。
「おめでとう!」
「お幸せにね」
「リーナさん、綺麗」
等と神殿前に集まった人々に祝福されながら、クルトさんが手を貸してリーナさんが馬の背から降りる。そして今日の婚礼を取り仕切る神官が姿を現し、その神官の合図でダナシア賛歌の合唱が始まった。2人は神官が先導で神殿の中に入っていき、参列する私達もダナシア賛歌を歌いながらその後に続いた。
花で埋め尽くされた祭壇の前でクルトさんはいささか緊張した様子で、リーナさんは幸せそうに微笑みながら愛を誓い合った。そして神官がその朗々とした声で祝福の言葉を紡ぎながら、クルトさんとリーナさんの手に色鮮やかな組紐を巻いていく。そして2人が口づけを交わし、神官が婚姻の成立を宣言して儀式は終了した。そして参列者から割れんばかりの拍手を受けながら夫婦となった2人は神殿の外へと向かった。
その後は前日同様、踊る牡鹿亭の前の広場で祝宴となった。簡易の舞台の上では呼ばれた楽団が演奏し、みんなで飲んで、歌って前日よりも賑やかな宴となった。恒例となる組紐をほどく共同作業が始まると、既にお酒が入っているからか「そうじゃない」「いや、そっちだ」などと外野の方がうるさいのはおなじみの光景。それでもどうにかほどくことが出来て、それぞれの腕に1本ずつ綺麗に巻き直された。
「さて、それじゃ踊ってもらおうか」
腕に巻かれた組紐を満足そうに撫でながら、いきなりクルトさんがそう切り出した。昨日は音楽が無いと踊れない等といくつか理由をつけて断ったのだけれど、今日は楽団も招いているし、舞台も用意されていて逃げ道をふさがれてしまっている。
「昨日、あっさりと引き下がったはずだよ」
傍らのルークを振り仰ぐと、彼は天を仰いでいた。けれど確認するように顔を見合わせると、「仕方ない」と言って脱いでいた上着を羽織る。そして立ち上がると私の前に手を差し出した。
「一曲踊って頂けますか?」
「喜んで」
私はその手を取って立ち上がる。周囲から囃し立てるような拍手が沸き起こる中、私達は舞台に移動した。そして楽団が演奏を始めると、互いに一礼をして踊り始めた。
「逃げられなかったね」
「まあ、仕方ないか。作法云々は誰も気にしないだろうから楽しもう」
そんな会話を交わしながら基本的なステップを踏んでいく。不安はあったけれど、案外体は覚えていたらしく、すんなりとルークの動きに合わせることができた。即位式では失敗できないとばかり思って緊張しかなかったけれど、今日は気楽な分ダンスが楽しいと思えた。
「なんか、楽しくなってきた」
ルークも同じ気持ちだったらしく、だんだんステップの難易度を上げていく。周囲の歓声にも煽られて本番以上のダンスを披露した私達は、終わった後の礼をした時には息を切していた。舞台から戻るとみんなから絶賛され、今後も機会があったらまたルークと踊りたいと思った。
その後も賑やかな宴は夜が更けるまで続いた。そしてルークと過ごした楽しい思い出がまた一つ増えたのだった。
今回はあまり長居できない私達は、ルークの家族を始め町の人達に見送られて婚礼の翌日にアジュガを発っていた。「ここを故郷だと思ってまたゆっくり遊びにいらっしゃい」そうお母様に言って頂けたのが何よりも嬉しかった。
アジュガを昼前に出立した私達はその日の夕刻に皇都に到着した。ルーク達は飛竜を1日休ませてからフォルビアに帰還する手筈となっていて、その日は皇都を散策したりして2人の時間を過ごした。
正直に言うと離れたくない。でもそれぞれに役目があるのだから今は我慢するしかなかった。出立前夜、荷造りしている彼に私は昨年から編み続けた防寒具をそっと差し出した。
「こんなに沢山……ありがとう」
会えない寂しさを紛らわせるのと、彼の無事を祈願して編み続けた防寒具は全部で5枚あった。彼は嬉しそうに受け取ると、翌日に付ける分を除いて大事そうに荷物にしまった。
「無茶しないでね」
「う……鋭意努力します」
ラウル卿やシュテファン卿から昨年は随分と無茶な事ばかりしていたと伺った。本人曰く、自棄になっていたところもあったらしい。
「でも、ちゃんと帰ってくるから」
「約束よ」
「うん」
ルークはそう言うと私をそっと抱きしめ、唇を重ねた。
翌朝は霧雨が降っていた。ヒース卿もリーガス卿も既に帰還されており、今回は雷光隊だけでの移動となる。ティムの相棒も船でロベリアに戻ったジーン卿が預かってくれていて、もう到着しているころ合いだった。
私達が着場に行くと既に5頭の飛竜が準備を整えて待っていた。実は急遽、雷光隊に叙勲されたばかりの若い竜騎士が2名も加わることになり、フォルビアへ同行することになったのだ。それに伴い、ルークは大隊長に昇進していた。彼は随分と不本意そうにしていたけれど。
皆、既に準備は整っていた。ルークの荷物は見送りに来たイリスさんとの挨拶を済ませたラウル卿が預かり、エアリアルにはティムが同乗する。最後に口づけを交わすと、ルークは軽やかに相棒の背に跨った。
「フォルビアに帰還する」
大隊長になって初めての号令をかけると、彼は一度私の方を見て頷き、それからエアリアルを飛び立たせた。それにラウル卿が続き、新人の2人、そして殿にシュテファン卿の相棒が飛び立っていく。
「行っちゃいましたね」
「ええ」
その姿は霧雨の向こうにすぐ見えなくなってしまった。それでも私とイリスさんはしばらくその場で空を見上げ続けた。
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閑話をいくつか挙げて第2章は終了。
また、ルークの昇進の詳細は閑話にて乗せる予定。
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