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第1章 ルークの物語
閑話 エドワルド
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タイトル通りエドワルド視点の回想です。
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騎士を乗せた3頭の飛竜が着場を発っていく。国内……いや、大陸でも有数の速さを誇る彼等は、隊長の二つ名から雷光の騎士隊と呼ばれている。発足からわずか半年足らずで隊に通称が付けられるのは極めて異例だ。そしてその通称に違わず、速度を上げた彼等はあっという間にその姿が見えなくなった。
可愛い部下の見送りぐらいしたいのだが、次期国主という立場上慎むべきだと言われてやむなく諦めた。そこで相棒と同調して出立を見送ったのだが、着場と南棟の執務室では距離が離れすぎていたせいかどっと疲れが押し寄せてくる。同調を解除した私は椅子に力なく腰掛けた。
「早くこちらに呼んでやれるといいのだが……」
オリガと別れを惜しんでいた姿が浮かぶ。ルークだけじゃない。ラウルもイリスと結婚を前提とした付き合いを始めたと聞く。本当はすぐにでも移動させたいのだが、フォルビアが落ち着かないことには話にならない。それだけ彼等が担《にな》っている役割が重要なのだ。
それにしてもルークがこれほどまでの竜騎士に急成長を遂げるとは誰もが思っていなかっただろう。思えば最初に彼の名を知ったのはロベリアに赴任して間もないころだった。ロベリア北部の討伐に巻き込まれたとして、報告書にダミアン・クラインと共にその名前が書かれていた。
当時、クラウディアを喪った私は全てにおいてやる気をなくしていた。何をするにも投げやりで、その報告書もただ機械的に目を通して署名していた。ただ、春になり、その一件で負傷したダミアンが自殺したと知らせがあり、その報告書を読み返す機会があったこともあって印象に残っていた。
初夏、私は日常のわずらわしさから逃れ、供もつけずにグランシアードで出かけた。向かったのはロベリア北部。密猟等で領民からの訴えが多かった地域だ。中には飛竜を連れた不審な男がいるというのもあった。そう都合よく遭遇できると思っていなかったが、気分転換にはなるだろうと出かけた。
目立つ髪を隠し、領民から話を聞きながら飛び回っていると、いつの間にか昼時を過ぎていた。休憩を欲したグランシアードが見つけたのは、普段は通らないような場所にある高台の泉。立ち寄るとそこには既に先客がいた。
飛竜を連れているが、飛竜の装具も身に付けているものも擦り切れている。飛竜を連れた不審な男は彼の事だろうとすぐに見当はついた。そして密猟者も彼の事かと疑ったが、グランシアードの反応から違うと判断した。様子をうかがいながらも一緒に昼食を摂り、その後話を聞いて第2騎士団所属の竜騎士見習ルーク・ビレアだと分かった。
それにしても随分と粗略に扱われている。着ているものもそうだが飛竜の装具もどう見ても誰かの使い古しだ。それに竜騎士見習いとは思えないほどやせ細っているところから、十分に食事もできていない様子。しかも、見習いの間は相棒が出来ても1人で飛び回ることは許されておらず、使いに出すなど言語道断。私は彼と別れた後真っすぐに総督府へ帰り、第2騎士団長ホルストへ親書を送った。
『忠告痛み入るが、事実無根だ。そのような捏造をしているお暇があるなら、ご自身の職責を果たされたらいかがか?』
帰って来たぞんざいな返事に怒りを覚えた。同時に自分がいかに未熟か痛感させられた。確かに自分がやっている仕事は最低限で後は部下にまかせきり。たたき上げで騎士団長まで上り詰めた相手からすれば、当時の私など無能に思われても仕方がない。
いつまでもふてくされている場合ではないとこの時から心を入れ替えた私は、総督と騎士団長の職務を真面目にこなす様になっていた。それでもたまに息抜きをしたくなり、気づけばあの高台へ向かっていた。
高台へ行けばいつもルークと会えるわけではなかったが、それでも秋が深まるまでに2度ほど会うことができた。相変わらずの身なりから待遇は改善された気配はない。その度にホルストへ苦言を呈するのだが相変わらずの塩対応が続いている。少しは疑問に思わないのだろうか? それでもルークは明るく前向きに生きている。どうやら相棒の存在が大きい様子だ。
一方の私の相棒は、ルークがすっかりお気に入りとなっていた。気難しい彼にしては珍しく初見から触れられるのを嫌がらなかった。更にはブラッシングをしてもらうのがすっかり気に入ってしまい、事あるごとに会いに行こうと飛竜の方から誘われる始末だ。尤も、皇子として敬われることなく接してもらえるのが心地よく、私もすっかり彼と会うのが楽しみになっていた。
霧が発生し、雪が降りだせば息抜きどころではなくなる。団長として先頭に立って討伐の指揮を執り、総督として受けた被害の復旧に努める日々を過ごしていた。そして最も妖魔の出没が多くなる頃、兄上が負傷し、相棒を失ったという知らせを受けた。
正直に言ってすぐにでも駆け付けたかった。しかし、職務を放棄するわけにはいかなかった。私はすぐさま確認の手紙を送った。この私の行動が彼を危険にさらす一因になっていたとも知らずに……。
その日、北砦から討伐要請が届き、私もリーガス等と出撃した。砦のすぐそばだったこともあり、討伐自体は問題なく終わった。しかし、地上に降りて事後処理をしていると、何の前触れなくグランシアードが飛び立っていった。そしてほどなくして飛竜エアリアルを伴って戻って来た。
クオーン
エアリアルは胸を締め付けるような悲痛な鳴き声を上げている。ともかく我々はエアリアルを北砦の着場に誘導して降ろし、そのまま竜舎へ連れて行った。
「まさか……ルーク・ビレアか?」
当初、その背中には誰も乗せていないと思っていたが、擦り切れた毛布らしきものを包まり、騎乗帯で体を固定した若者がぐったりと倒れ込んでいた。声をかけたが意識がないらしくピクリとも動かない。ぎっちりと括り付けられた騎乗帯を外すのももどかしく、ナイフで切り離して彼を飛竜の背から降ろした。苦しそうな表情を浮かべる彼の顔には殴られた跡がくっきりと残っていた。
ルークを抱きとめたリーガスがそのまま抱えて医務室へ走っていったので、私はなお寂し気に鳴き続けるエアリアルの頭を抱え込んで宥めた。すると、私の中にルークが数人から暴力を振るわれている記憶が流れ込んでくる。エアリアルもどうしようもできなかったのだろう。その無念さが伝わって来た。それは使い古された装具を外してやっていたゴルトとケビンにも伝わったらしく、2人も言葉を失った様子で立ち尽くしていた。
「何が事実無根だ」
沸々と怒りがこみあげてくる。そこへ医務室へルークを運んだリーガスが戻ってきて、顔だけでなく体中に痣があったと報告し、更に彼が持っていたと3つの書簡筒を差し出す。1つは私宛で兄上の回復を知らせる内容だった。そして他はフォルビア領とブランドル領方面。ついでとして運ぶにはあまりにも方角が異なる。この真冬の時期にこんなことをしていれば命も危うい。先程のエアリアルの訴えと言い、もう我慢が出来なかった。
「ゼンケルへ行く」
私がグランシアードを連れて着場へ出ると、リーガスとゴルトが供を申し出た。ケビンもついて来ようとしていたが、リーガスに事の次第を総督府に伝える様に命じられて渋々その命令に従っていた。
ゴルトには何が何でもホルストを連れてくるように命じ、私は一度訪れたことがあるリーガスの案内でゼンケルへ向かった。
その後の事は今思い出しても腹が立つ。砦の責任者となっているゴットフリートが留守なのを幸いに、リーガスと無遠慮に捜索すると次々と悪事の証拠が出てくる。ルークへの虐待だけじゃなく、横領に着服そして密猟。領民が訴えていた密猟の犯人がここで判明した。
証拠の山を築き上げているとゴットフリート等が帰還し、ほぼ同時にホルストも到着した。意気揚々とゴットフリート等が持ち帰って来たのは、ロベリア領内で狩られた流紋ヤマネコや雪玉ウサギといった希少な生き物だった。いずれもタランテラ固有種で売買も厳しく制限されている。見つけた証拠の品の中には、これらの毛皮の売買を他国の商人と約した手紙も混ざっていた。私の呼び出しに怒り心頭だったホルストだったが、彼は本当に何も知らなかったらしく証拠の数々にただ項垂れていた。
「私の指摘に事実無根と返されておいででしたが?」
嫌味の一つも言いたくなってしまうのも仕方がないだろう。ホルストはゴットフリートの言葉を鵜呑みにし、ゼンケルの調査も碌にしていなかった。更に呆れたことに彼はここ数年ルークと直接会っていなかったのだ。
その後、この一件は皇都へ報告が上がり、第1騎士団から1小隊が派遣された。そして隊長のアンドレアス指導の下、第2騎士団は綱紀を正されることになった。ゴットフリートは様々な罪が重なって極刑。ホルストは降格の上第7騎士団へ左遷となった。
ルークは無事に回復し、新たに団長となったアンドレアスの下で鍛えなおされることになった。そして翌年、叙任と同時に第3騎士団へ移籍させた。その後の彼の活躍は目覚ましく、我々にとってなくてはならない存在になっていった。
そして私はこの一件に関わることがなければ、いつまでもクラウディアの死を引きずってロベリアでくすぶったままになっていただろう。グスタフに利用されるか、奸計に嵌められて早々に消されていた可能性もある。だからこそ、逆境にも負けない前向きな姿勢を見せ続け、私の考えを改めさせてくれたルークには感謝している。
「失礼いたします」
扉をたたく音と同時にアスターが執務室に入ってきた。その手には山の様に書類を抱えている。
「また、多いな……」
「殿下なら問題ないでしょう」
澄まして答える彼が憎らしい。私は諦めの境地でペンを手に取った。
「1ついい報告がありますよ」
アスターが差し出した書類に目を通して思わず顔がほころぶ。それはシュタール郊外にあった飛竜の装具を専門とする工房のゼンケルへの移転を正式に決定したことを報告する書類だった。合わせてシュタール領内にある各工房を強化する旨が記されている。その中には当然、新作の金具を作っているアジュガのビレア工房も含まれている。
「ルークも喜ぶな」
「そうですね。クラインの対応にラウルが怒り狂っていましたからね。これで奴も援助せざるを得ないでしょう」
「そうだな」
人材の不足もあって今しばらくはクラインにアジュガを任せるほかはない。ならば、こちらの手の中で転がるように仕向けるだけだ。私は本日最初の仕事として工房移転の書類に了承の署名をした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ルーク 「俺、疑われてたんですか?」
エドワルド 「まあ、あのいでたちは仕方ないだろう……」
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騎士を乗せた3頭の飛竜が着場を発っていく。国内……いや、大陸でも有数の速さを誇る彼等は、隊長の二つ名から雷光の騎士隊と呼ばれている。発足からわずか半年足らずで隊に通称が付けられるのは極めて異例だ。そしてその通称に違わず、速度を上げた彼等はあっという間にその姿が見えなくなった。
可愛い部下の見送りぐらいしたいのだが、次期国主という立場上慎むべきだと言われてやむなく諦めた。そこで相棒と同調して出立を見送ったのだが、着場と南棟の執務室では距離が離れすぎていたせいかどっと疲れが押し寄せてくる。同調を解除した私は椅子に力なく腰掛けた。
「早くこちらに呼んでやれるといいのだが……」
オリガと別れを惜しんでいた姿が浮かぶ。ルークだけじゃない。ラウルもイリスと結婚を前提とした付き合いを始めたと聞く。本当はすぐにでも移動させたいのだが、フォルビアが落ち着かないことには話にならない。それだけ彼等が担《にな》っている役割が重要なのだ。
それにしてもルークがこれほどまでの竜騎士に急成長を遂げるとは誰もが思っていなかっただろう。思えば最初に彼の名を知ったのはロベリアに赴任して間もないころだった。ロベリア北部の討伐に巻き込まれたとして、報告書にダミアン・クラインと共にその名前が書かれていた。
当時、クラウディアを喪った私は全てにおいてやる気をなくしていた。何をするにも投げやりで、その報告書もただ機械的に目を通して署名していた。ただ、春になり、その一件で負傷したダミアンが自殺したと知らせがあり、その報告書を読み返す機会があったこともあって印象に残っていた。
初夏、私は日常のわずらわしさから逃れ、供もつけずにグランシアードで出かけた。向かったのはロベリア北部。密猟等で領民からの訴えが多かった地域だ。中には飛竜を連れた不審な男がいるというのもあった。そう都合よく遭遇できると思っていなかったが、気分転換にはなるだろうと出かけた。
目立つ髪を隠し、領民から話を聞きながら飛び回っていると、いつの間にか昼時を過ぎていた。休憩を欲したグランシアードが見つけたのは、普段は通らないような場所にある高台の泉。立ち寄るとそこには既に先客がいた。
飛竜を連れているが、飛竜の装具も身に付けているものも擦り切れている。飛竜を連れた不審な男は彼の事だろうとすぐに見当はついた。そして密猟者も彼の事かと疑ったが、グランシアードの反応から違うと判断した。様子をうかがいながらも一緒に昼食を摂り、その後話を聞いて第2騎士団所属の竜騎士見習ルーク・ビレアだと分かった。
それにしても随分と粗略に扱われている。着ているものもそうだが飛竜の装具もどう見ても誰かの使い古しだ。それに竜騎士見習いとは思えないほどやせ細っているところから、十分に食事もできていない様子。しかも、見習いの間は相棒が出来ても1人で飛び回ることは許されておらず、使いに出すなど言語道断。私は彼と別れた後真っすぐに総督府へ帰り、第2騎士団長ホルストへ親書を送った。
『忠告痛み入るが、事実無根だ。そのような捏造をしているお暇があるなら、ご自身の職責を果たされたらいかがか?』
帰って来たぞんざいな返事に怒りを覚えた。同時に自分がいかに未熟か痛感させられた。確かに自分がやっている仕事は最低限で後は部下にまかせきり。たたき上げで騎士団長まで上り詰めた相手からすれば、当時の私など無能に思われても仕方がない。
いつまでもふてくされている場合ではないとこの時から心を入れ替えた私は、総督と騎士団長の職務を真面目にこなす様になっていた。それでもたまに息抜きをしたくなり、気づけばあの高台へ向かっていた。
高台へ行けばいつもルークと会えるわけではなかったが、それでも秋が深まるまでに2度ほど会うことができた。相変わらずの身なりから待遇は改善された気配はない。その度にホルストへ苦言を呈するのだが相変わらずの塩対応が続いている。少しは疑問に思わないのだろうか? それでもルークは明るく前向きに生きている。どうやら相棒の存在が大きい様子だ。
一方の私の相棒は、ルークがすっかりお気に入りとなっていた。気難しい彼にしては珍しく初見から触れられるのを嫌がらなかった。更にはブラッシングをしてもらうのがすっかり気に入ってしまい、事あるごとに会いに行こうと飛竜の方から誘われる始末だ。尤も、皇子として敬われることなく接してもらえるのが心地よく、私もすっかり彼と会うのが楽しみになっていた。
霧が発生し、雪が降りだせば息抜きどころではなくなる。団長として先頭に立って討伐の指揮を執り、総督として受けた被害の復旧に努める日々を過ごしていた。そして最も妖魔の出没が多くなる頃、兄上が負傷し、相棒を失ったという知らせを受けた。
正直に言ってすぐにでも駆け付けたかった。しかし、職務を放棄するわけにはいかなかった。私はすぐさま確認の手紙を送った。この私の行動が彼を危険にさらす一因になっていたとも知らずに……。
その日、北砦から討伐要請が届き、私もリーガス等と出撃した。砦のすぐそばだったこともあり、討伐自体は問題なく終わった。しかし、地上に降りて事後処理をしていると、何の前触れなくグランシアードが飛び立っていった。そしてほどなくして飛竜エアリアルを伴って戻って来た。
クオーン
エアリアルは胸を締め付けるような悲痛な鳴き声を上げている。ともかく我々はエアリアルを北砦の着場に誘導して降ろし、そのまま竜舎へ連れて行った。
「まさか……ルーク・ビレアか?」
当初、その背中には誰も乗せていないと思っていたが、擦り切れた毛布らしきものを包まり、騎乗帯で体を固定した若者がぐったりと倒れ込んでいた。声をかけたが意識がないらしくピクリとも動かない。ぎっちりと括り付けられた騎乗帯を外すのももどかしく、ナイフで切り離して彼を飛竜の背から降ろした。苦しそうな表情を浮かべる彼の顔には殴られた跡がくっきりと残っていた。
ルークを抱きとめたリーガスがそのまま抱えて医務室へ走っていったので、私はなお寂し気に鳴き続けるエアリアルの頭を抱え込んで宥めた。すると、私の中にルークが数人から暴力を振るわれている記憶が流れ込んでくる。エアリアルもどうしようもできなかったのだろう。その無念さが伝わって来た。それは使い古された装具を外してやっていたゴルトとケビンにも伝わったらしく、2人も言葉を失った様子で立ち尽くしていた。
「何が事実無根だ」
沸々と怒りがこみあげてくる。そこへ医務室へルークを運んだリーガスが戻ってきて、顔だけでなく体中に痣があったと報告し、更に彼が持っていたと3つの書簡筒を差し出す。1つは私宛で兄上の回復を知らせる内容だった。そして他はフォルビア領とブランドル領方面。ついでとして運ぶにはあまりにも方角が異なる。この真冬の時期にこんなことをしていれば命も危うい。先程のエアリアルの訴えと言い、もう我慢が出来なかった。
「ゼンケルへ行く」
私がグランシアードを連れて着場へ出ると、リーガスとゴルトが供を申し出た。ケビンもついて来ようとしていたが、リーガスに事の次第を総督府に伝える様に命じられて渋々その命令に従っていた。
ゴルトには何が何でもホルストを連れてくるように命じ、私は一度訪れたことがあるリーガスの案内でゼンケルへ向かった。
その後の事は今思い出しても腹が立つ。砦の責任者となっているゴットフリートが留守なのを幸いに、リーガスと無遠慮に捜索すると次々と悪事の証拠が出てくる。ルークへの虐待だけじゃなく、横領に着服そして密猟。領民が訴えていた密猟の犯人がここで判明した。
証拠の山を築き上げているとゴットフリート等が帰還し、ほぼ同時にホルストも到着した。意気揚々とゴットフリート等が持ち帰って来たのは、ロベリア領内で狩られた流紋ヤマネコや雪玉ウサギといった希少な生き物だった。いずれもタランテラ固有種で売買も厳しく制限されている。見つけた証拠の品の中には、これらの毛皮の売買を他国の商人と約した手紙も混ざっていた。私の呼び出しに怒り心頭だったホルストだったが、彼は本当に何も知らなかったらしく証拠の数々にただ項垂れていた。
「私の指摘に事実無根と返されておいででしたが?」
嫌味の一つも言いたくなってしまうのも仕方がないだろう。ホルストはゴットフリートの言葉を鵜呑みにし、ゼンケルの調査も碌にしていなかった。更に呆れたことに彼はここ数年ルークと直接会っていなかったのだ。
その後、この一件は皇都へ報告が上がり、第1騎士団から1小隊が派遣された。そして隊長のアンドレアス指導の下、第2騎士団は綱紀を正されることになった。ゴットフリートは様々な罪が重なって極刑。ホルストは降格の上第7騎士団へ左遷となった。
ルークは無事に回復し、新たに団長となったアンドレアスの下で鍛えなおされることになった。そして翌年、叙任と同時に第3騎士団へ移籍させた。その後の彼の活躍は目覚ましく、我々にとってなくてはならない存在になっていった。
そして私はこの一件に関わることがなければ、いつまでもクラウディアの死を引きずってロベリアでくすぶったままになっていただろう。グスタフに利用されるか、奸計に嵌められて早々に消されていた可能性もある。だからこそ、逆境にも負けない前向きな姿勢を見せ続け、私の考えを改めさせてくれたルークには感謝している。
「失礼いたします」
扉をたたく音と同時にアスターが執務室に入ってきた。その手には山の様に書類を抱えている。
「また、多いな……」
「殿下なら問題ないでしょう」
澄まして答える彼が憎らしい。私は諦めの境地でペンを手に取った。
「1ついい報告がありますよ」
アスターが差し出した書類に目を通して思わず顔がほころぶ。それはシュタール郊外にあった飛竜の装具を専門とする工房のゼンケルへの移転を正式に決定したことを報告する書類だった。合わせてシュタール領内にある各工房を強化する旨が記されている。その中には当然、新作の金具を作っているアジュガのビレア工房も含まれている。
「ルークも喜ぶな」
「そうですね。クラインの対応にラウルが怒り狂っていましたからね。これで奴も援助せざるを得ないでしょう」
「そうだな」
人材の不足もあって今しばらくはクラインにアジュガを任せるほかはない。ならば、こちらの手の中で転がるように仕向けるだけだ。私は本日最初の仕事として工房移転の書類に了承の署名をした。
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ルーク 「俺、疑われてたんですか?」
エドワルド 「まあ、あのいでたちは仕方ないだろう……」
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