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第3章 ダナシアの祝福
14 選んだ道は1
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イリスは故郷に続く田舎道を荷馬車に揺られていた。正式にコリンシアの侍女として勤めることになり、数日後には一家と共に皇都に移ることになる。すると気楽に帰って来れなくなるので、フォルビアを離れる前に家族に会いに行くことになったのだ。
荷馬車にはお土産も積んである。農家なので食べる物には不自由しないが、何分田舎の上に大家族なので日用品……特に洋服を作る生地は重宝される。支度金をもらえたので、今回はいつもより多く用意できていた。
「あ、イリスお姉ちゃんだ」
村に着き、ここまで荷馬車に乗せてくれた商人にお礼を言っていると彼女の姿を目ざとく見つけた弟妹達が駆け寄ってくる。
「はい、ただいま。ちょっと手伝ってちょうだい」
まとわりついてくる弟妹を宥めながら、商人に改めて礼を言う。そして降ろしてもらった荷物を手分けして持ち、実家に向かって歩き出した。
帰郷は昨年、正神官になった折に以来なのでほぼ1年ぶり。見習いの間は帰って来なかったので、神殿に上がってからは2度目の帰郷となる。変わらない景色を眺めながら、実家へ続く道を歩いていると、そこかしこから声をかけられる。それに応じていると、家に着くまでいつもの倍以上かかっていた。
「ただいま、母さん」
「お帰り、イリス」
先に帰った弟妹達から話を聞いたのか、母親が家の前で待ってくれていた。抱擁を交わして再会を喜び、記憶の中と寸分変わらない家の中へ入っていった。
そして曾祖母の墓参りを済ませたイリスは、母親と共に台所に立っていた。もうじき畑仕事を終えた家族が帰ってくる。大所帯なのでその量も半端ない。年少の弟妹にも手伝ってもらいながら、大わらわで準備を進める。
「帰ったぞー」
「ただいまー」
「腹減った」
イリスが帰っているのを知ったからか、いつもよりも早く皆帰ってきた。離れで隠居の身となっている祖父母と同じ敷地に住む伯父一家もやってきて、祭りの様な賑やかさだ。こうして外から人が来るのも稀なので、村の外の情報を聞くのは数少ない娯楽となっているのだ。
加えてつい先日、役人が立ち寄って内乱の収束を触れ回っていた。こんな田舎にまで役人が来るのは税の取り立てぐらいなので、逆に村人たちの方が驚いたぐらいなのだが、何分型通りの情報だけだったので、もっと詳しい話を知りたいのだろう。食事の支度が済むころには、身内だけでなく近所の人達も集まっていた。
「先日、役人が触れ回っていたが、あの、ラグラスが捕まったのは本当か?」
席に着いたイリスに早速父親が尋ねて来る。みんな興味津々で彼女を見ている。イリスは水を一口飲むと、ラウルから教えてもらっていたラグラス捕縛の顛末を語った。この辺りもラグラスの横暴さに悩まされていたので、彼が用水路に嵌って動けなくなっていたと教えると一同は大爆笑だった。
その後も他国から訪れたお歴々や、濡れ衣を着せられていたフレア達の逃避行に驚きの声が上がる。そしてエルヴィンの誕生とエドワルドとフレアの夢の様な婚礼の様子を語っていくにつれて幾度も歓声が上がり、その度に乾杯となった。そしてイリスは夜が更けるまでこの数日で起こった出来事を語った。
「それでね、私、姫様付きの侍女に選ばれてね、皇都に行くことになったの」
最後にそう言って締めくくると、この夜一番大きな歓声が起こり、彼女の幸運に皆で乾杯したのだった。
翌日、イリスが目を覚ますと、既に日は高く昇っていた。慌てて起きだすと、母親は食後の後片付けをしていた。
「遅くまで寝ててごめんね」
「良いのよ。夜遅くまでみんなが付き合わせたんだもの」
母親はそう言って笑いながらイリスの為に残しておいた朝食をテーブルに出してくれる。
「みんなは?」
「さっき畑に行ったわ。今日ははかどらないかもね」
遅くまで飲んでいたので、今朝はみんな寝坊したらしい。二日酔いでフラフラしていたので、今日は大して仕事にならないだろう。
「ところで、本当に皇都に行くの?」
「うん。どうしようかと迷いもあったけど、あの方々のお傍なら何があっても平気な気がするの。何よりもね、姫様のお力になりたい。そう思ったの」
「大丈夫なのかい?」
娘が遠くに行ってしまうと思うと、親としては心配でたまらないのだろう。ましてや皇家に仕えることになるのだ。それは当然のことだろう。
「大神殿の神官長様が後ろ盾になって下さることになっていて、ワールウェイド公ご夫妻からも御助力いただけることになっているの」
「そうなのかい」
まだ完全に安心した様子ではないらしく、表情は曇ったままだ。だが、既に決まった事なのだと理解したらしく、母親は畑に行くと言って出かけた。
行きに荷馬車に乗せてもらった商人は隣村に用事があったらしい。今日の午後この村に戻ってきて商売をし、明朝城下町に向かうと言っていたのでまた乗せてもらう約束をしていた。明日まで自由に過ごしていいと言われているので、朝食を済ませたイリスは食器を片付けると得にすることもなかったので、年少の弟妹達の衣服の繕い物をして過ごした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
12時に次話を更新します。
荷馬車にはお土産も積んである。農家なので食べる物には不自由しないが、何分田舎の上に大家族なので日用品……特に洋服を作る生地は重宝される。支度金をもらえたので、今回はいつもより多く用意できていた。
「あ、イリスお姉ちゃんだ」
村に着き、ここまで荷馬車に乗せてくれた商人にお礼を言っていると彼女の姿を目ざとく見つけた弟妹達が駆け寄ってくる。
「はい、ただいま。ちょっと手伝ってちょうだい」
まとわりついてくる弟妹を宥めながら、商人に改めて礼を言う。そして降ろしてもらった荷物を手分けして持ち、実家に向かって歩き出した。
帰郷は昨年、正神官になった折に以来なのでほぼ1年ぶり。見習いの間は帰って来なかったので、神殿に上がってからは2度目の帰郷となる。変わらない景色を眺めながら、実家へ続く道を歩いていると、そこかしこから声をかけられる。それに応じていると、家に着くまでいつもの倍以上かかっていた。
「ただいま、母さん」
「お帰り、イリス」
先に帰った弟妹達から話を聞いたのか、母親が家の前で待ってくれていた。抱擁を交わして再会を喜び、記憶の中と寸分変わらない家の中へ入っていった。
そして曾祖母の墓参りを済ませたイリスは、母親と共に台所に立っていた。もうじき畑仕事を終えた家族が帰ってくる。大所帯なのでその量も半端ない。年少の弟妹にも手伝ってもらいながら、大わらわで準備を進める。
「帰ったぞー」
「ただいまー」
「腹減った」
イリスが帰っているのを知ったからか、いつもよりも早く皆帰ってきた。離れで隠居の身となっている祖父母と同じ敷地に住む伯父一家もやってきて、祭りの様な賑やかさだ。こうして外から人が来るのも稀なので、村の外の情報を聞くのは数少ない娯楽となっているのだ。
加えてつい先日、役人が立ち寄って内乱の収束を触れ回っていた。こんな田舎にまで役人が来るのは税の取り立てぐらいなので、逆に村人たちの方が驚いたぐらいなのだが、何分型通りの情報だけだったので、もっと詳しい話を知りたいのだろう。食事の支度が済むころには、身内だけでなく近所の人達も集まっていた。
「先日、役人が触れ回っていたが、あの、ラグラスが捕まったのは本当か?」
席に着いたイリスに早速父親が尋ねて来る。みんな興味津々で彼女を見ている。イリスは水を一口飲むと、ラウルから教えてもらっていたラグラス捕縛の顛末を語った。この辺りもラグラスの横暴さに悩まされていたので、彼が用水路に嵌って動けなくなっていたと教えると一同は大爆笑だった。
その後も他国から訪れたお歴々や、濡れ衣を着せられていたフレア達の逃避行に驚きの声が上がる。そしてエルヴィンの誕生とエドワルドとフレアの夢の様な婚礼の様子を語っていくにつれて幾度も歓声が上がり、その度に乾杯となった。そしてイリスは夜が更けるまでこの数日で起こった出来事を語った。
「それでね、私、姫様付きの侍女に選ばれてね、皇都に行くことになったの」
最後にそう言って締めくくると、この夜一番大きな歓声が起こり、彼女の幸運に皆で乾杯したのだった。
翌日、イリスが目を覚ますと、既に日は高く昇っていた。慌てて起きだすと、母親は食後の後片付けをしていた。
「遅くまで寝ててごめんね」
「良いのよ。夜遅くまでみんなが付き合わせたんだもの」
母親はそう言って笑いながらイリスの為に残しておいた朝食をテーブルに出してくれる。
「みんなは?」
「さっき畑に行ったわ。今日ははかどらないかもね」
遅くまで飲んでいたので、今朝はみんな寝坊したらしい。二日酔いでフラフラしていたので、今日は大して仕事にならないだろう。
「ところで、本当に皇都に行くの?」
「うん。どうしようかと迷いもあったけど、あの方々のお傍なら何があっても平気な気がするの。何よりもね、姫様のお力になりたい。そう思ったの」
「大丈夫なのかい?」
娘が遠くに行ってしまうと思うと、親としては心配でたまらないのだろう。ましてや皇家に仕えることになるのだ。それは当然のことだろう。
「大神殿の神官長様が後ろ盾になって下さることになっていて、ワールウェイド公ご夫妻からも御助力いただけることになっているの」
「そうなのかい」
まだ完全に安心した様子ではないらしく、表情は曇ったままだ。だが、既に決まった事なのだと理解したらしく、母親は畑に行くと言って出かけた。
行きに荷馬車に乗せてもらった商人は隣村に用事があったらしい。今日の午後この村に戻ってきて商売をし、明朝城下町に向かうと言っていたのでまた乗せてもらう約束をしていた。明日まで自由に過ごしていいと言われているので、朝食を済ませたイリスは食器を片付けると得にすることもなかったので、年少の弟妹達の衣服の繕い物をして過ごした。
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