終わりよければ総て良し

花影

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ラシードの事情

第21話

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後ろ髪引かれる思いで歩を進める。母屋の前にはすでに出立の準備を整えた兵士が整列して待機し、ファラを除くジャルディードの一族が見送りのために揃っている。

「お世話になりました」
「当然の事をしたまでじゃ。道中、お気をつけて」

私がジャルディードの一同に世話になった礼を言うと、長からは当たり障りのない返答がかえってきた。ざっと見渡すと、男性陣の顔色があまりよくない。私とファラが寝室に籠っていた間、彼等はやけ酒をあおっていたようだ。
つつがなく出立の挨拶を済ませると、私は壮麗に馬装された愛馬の元へ歩み寄る。騎乗しようとしたところで、周囲がざわつく。

「待って、置いて行っちゃ嫌!」
「ファラ……」

振り返ると裸足でかけてくるファラの姿が目に入る。周囲が騒然となる中、私は慌てて彼女に駆け寄るとその体を抱きしめた。

「嫌……離れるのは嫌……」
「ファラ……」

腕の中でファラは子供の様に泣きじゃくっている。我儘を言ってもらえるのは嬉しいのだが、果たしてどうしたものかと困ってしまう。

「もう、仕方ないわねぇ」

対処に困っていると、ファラの母親を中心としたジャルディードの奥方達が行動を起こす。苦虫を口一杯頬張ったかのように渋い顔をしているジャルディードの男衆を放置し、彼女達は嬉々として召使い達にあれこれ指示している。やがて連れてこられたのは、その背中に荷物が括りつけられたファラの愛馬だった。
伯母は私達に近づいてくると、ファラの頭を優しく撫でる。

「体面なんて気にしなくていいから、行きなさい、ファラ」
「いいの?」
「よろしいのですか、伯母上?」
「いいのよ。もう決まった事なのにあの連中ったらいつまでもうじうじとしてファラを引き留める事ばかり考えているのよ。それでこの子が悲しい思いをする方が問題だわ。苦労もするだろうけど、一緒にいた方が何倍も楽よ」
「ありがとう、母様!」

伯母に一瞥されると男衆は気まずそうに視線を逸らす。奥方衆はやけ酒をあおる男達にあきれ果てて、ファラが同道することを望んだら叶えてやろうと準備をしていたらしい。

「あれに当面の物は入っているけど、後は甲斐性を見せて頂戴」
「勿論です」

伯母に力いっぱい肩を叩かれる。勿論、言われるまでもなくかわいい伴侶を溺愛するのはやぶさかではなかった。

「陛下、そろそろ……」

出立の時間を大幅に過ぎてしまい、バースィルが遠慮がちに声をかけてくる。最大の理解者でもある母親と抱擁を交わしたファラの手を取るが、そこで彼女が裸足だったことを思い出す。

「行こう」

私は苦笑するとファラを抱き上げた。そして自分の馬に彼女を乗せると、その後ろに騎乗する。そしてジャルディードの面々に改めて黙礼を送ると馬を出した。

「私幸せよ」
「私もだ」

流れゆく景色を見ていたファラがポツリと呟く。私はそれに同意すると彼女の頭を優しく撫でた。
幸せな気分がこみ上げてきて無性に馬を走らせたくなり、思わず馬の腹を蹴っていた。突然の行動にファラはギュッとしがみつき、周囲を守っていた帝国兵は慌てて後を追ってくる。後で怒られるだろうなと思いながらも愉快で仕方ない。
愛しい少女と笑いあいながら、ジャルディードに広がる草原を駆け抜けていた。

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