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22.二度目のプロポーズ(4)

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 透也との恋――――。

 それは、心のどこかでずっと夢見ていたことだった。
 決して叶わないはずの恋が、もし許されるのだとしたら……。


「でも、透也さん……」

「やっと様を付けないで呼んでくれたね」

 自ら言葉を口にしてハッとする。
 あれだけ口癖のように付けて呼んでいたはずの言葉が、無意識に変わるなんて……。

「貸してごらん」

 透也はネックレスを綾芽の手から再び持ち上げると、両手で綾芽の首に掛けてくれた。胸元には、ライトアップされた光が反射して、キラキラとアヤメのネックレスが輝く。

「本当に私が……透也さんのお相手でも、いいのですか?」

「俺が必要なのは綾芽だけだ」

 差し出された透也の手のひらに導かれるように、そっと自分の手を置いた。そこへ優しくキスを落とされ、すぐに透也の両手が握り返す。
 透也は綾芽の手を引き上げ、立ち上がらせると、改めて綾芽を抱き寄せ優しく唇を重ねた。立っているのがつらいほど、痺れるような喜びが全身を包み込む。
 
 いつの間にかほどけかかっていた心は、透也のキスによって徐々に封印を解かれていく。
 呼吸する暇もないくらい何度も唇を吸われ、綾芽の苦しそうな様子に、透也はやっと顔を上げた。

「すまない。嬉しくて、つい我を忘れてしまった……」

 照れたような表情をして謝る透也の姿が 年上なのにとても可愛らしく、きゅんとしてしまう。その反面、心のどこかで暗闇のような不安が次々と生まれてくる。綾芽の表情の変化に透也がすぐに気付いた。

「どうした? 何か心配事があるのなら、すべて話してくれ」

「いいえ。ただ……怖いんです。もし、このまま一緒に東京へ行ってしまったら……」

 心の奥底から湧き上がる感情と、抑圧していた感情がぶつかり合う。ずっと鍵をかけていた感情が少しずつ現れ、自分でも気付かなかった本心が次々と顔を表した。
 八歳の頃から押し殺した感情……それは、心の奥で燃えるような透也に対する熱い気持ちだった。

 もし、このまま東京へ行ってしまったら、綾芽の心は完全に透也の虜になってしまうだろう。

「……やっぱり……やっぱりできません。私が透也様と恋愛なんて……」
 
 言葉を伝えている最中、透也はいきなり自らの口で綾芽の唇を塞いだ。先程とは違い、荒々しく口中を探ると、何度も綾芽の舌に絡みつこうとする。思わず手で抗おうとするが、その腕を彼に掴まれ、身動きが取れない。
 今まで感じたことのない切なさと甘さが一気に突き抜け、力が抜けそうになった。

 こんなことされたら、もう……何も考えられない……。

 ふらつきそうになった綾芽を透也の腕が、がっしりと受け止める。キスを重ねているうちに抱き上げられ、まどろんでいるうちに、いつの間にか部屋まで運ばれていた。
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