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55.しあわせの日々(1)

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 久我咲グループの売り上げは順調に推移し、開業するホテルの数も増えた。透也は仕事がますます忙しくなり、帰宅は遅くなりがちだ。貴重な休日は、すっかり隼人の遊び相手をする時間となってしまっている。
 隼人はすくすくと育ち、順調に三歳の誕生日を迎えた。透也は週末だけでもベビーシッターを雇おうと盛んに勧めてくる。家事や育児は自分の担当と考えている綾芽にとってはちょっと抵抗があった。

「そうですよね……。透也さんが休めなくなるし。土、日は私がどこかへ連れ出して発散させてきましょうか?」

「そうじゃない。もちろん隼人とも遊びたいが、一番俺が欲しいのは綾芽との時間だ。二人で過ごせる時間をもっと作りたい」

 むくれたような表情で、真剣な顔をして言われてしまうと答えようがない。困惑した綾芽に透也が軽くため息をついて、頬を緩めた。

「困らせるために言ったんじゃない。俺は……」

「わかりました。月に一度は誰かに預けて、二人だけで出かけましょう」

「まるで、俺が子どもみたいだな」

 透也は恥ずかしそうに視線を逸らす。その言葉に綾芽はおかしくなって笑い出した。
 できる限り隼人に関わってやりたいと考える綾芽は、なるべく親子で過ごす時間を大切にしたいと考えていた。一方で透也の気持ちもよくわかる。

「ママ―! こんなにおおっきなビルできた!!」

「ほんとだ。凄いねぇ~!!」

 大袈裟に褒めると、隼人は嬉しそうな表情を浮かべ、またブロックの山へと向かった。

「綾芽、もう荷物の準備は済んだのか?」

「ええ。隼人と一緒に準備したんですけど、リュックにおもちゃばかり詰めてしまって。寝る時も、リュックを枕元に置いて、とても楽しみにしてるみたいです。あとで中身をこっそり減らしておかないとかしら」

 明日は軽井沢に一週間ほど滞在し、途中、透也は視察の仕事をこなす予定だ。改装中のホテルを視察するついでに、最近、建てられたばかりのリゾートホテルに泊まる予定になっている。話によると知人が経営しているらしく、完成前から招待されていたのだとか。秋の深まる季節、きっと素敵な旅になるに違いない。
 まとまった休みを取れないから、久しぶりに三人で遠出できることは、とても嬉しかった。そしてちょっと大きくなった隼人にとっては、大イベントだ。



 翌朝、透也の運転で都内から高速に乗り、長野方面へと向かった。大はしゃぎの隼人を乗せて、車内はとてもにぎやかだ。後部座席には綾芽と、その隣にはチャイルドシートの席に隼人が座っている。元気よく足をばたつかせながら声を上げた。

「パパ、まだあ? ホテルに、いつ着くのー?」

「そうだな、もうちょっと走らないと着かないな」

 綾芽は話を聞きながらくすくすと笑い声を上げた。

「隼人、さっきも聞いたじゃない。パパ疲れちゃうよ。ママとおしゃべりしよう」

 久しぶりにパパとゆっくり過ごせるせいか隼人は嬉しくて、いつになく透也にべったりだ。そして、それ以上に透也が楽しそうに隼人のおしゃべりにつき合っている。


 数時間後、目的地のホテルに到着した。ホテルといっても中央の棟に標準的な設備の建物があり、その周囲に個室の建物がいくつも並び、貸し切りタイプの宿泊施設になっている。中央棟には温水プールやスパもついているから、施設を楽しみながら個室でゆったりと過ごすことができるようだ。
 綾芽たちが宿泊するのは、離れにある貸し切りタイプの建物だった。部屋には温泉付きのバスルームとベッドルームが三つあり、中央には広めのリビングがある。

「パパ、いっしょにあそぼ!」

「よーし! 何をやろうか?」

「隼人、パパは運転で疲れてるから、持ってきたブロックで遊んだら?」

 興奮状態の隼人の耳には、まるで届かない。
 それから数時間、ベッドの上を跳ねまわったり転がってみたり、二人でじゃれ合いながら遊んでいた。


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