大精霊の導き

たかまちゆう

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69話 発見

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 その後の馬車の旅では、特に問題は起こらなかった。

 僕は、この2ヶ月で受けた依頼でまだ話していなかったものや、他の宿の冒険者について話した。
 リーザは、相変わらず不快そうな様子だったが、他のパーティーの魔導師や防御者については関心があるようだった。

 ラナは、飲食店として本格的な営業を始めた、宿についての話をした。
 驚いたのは、クローディアさん目当てに通ってくる男性客が、想像以上に多かったという話だ。

 しかし、考えてみれば、クローディアさんはクレセアさんと同じくらい美人なのだから、人気が出るのは当然だと言える。
 本人は迷惑がっているようだが、皆を使って客寄せをしようとした報いなのかもしれない。


 そんな話で時間を潰しながら、依頼を出した街に辿り着く。

 依頼を出した街の有力者達から話を聞いた僕達は、ブラッドイーグルを目撃したという情報が多い西に向けて出発した。


「まずは、飛んでるブラッドイーグルを見付けないといけないのか。面倒な依頼だな……」

 ラナがかったるそうに言う。

「そう言わないで。見つけるまでは、私達も協力するから」

 リーザがそう言って宥め、僕達はブラッドイーグルを探した。

 しかし、なかなか見つからない。

「くそっ! とっとと出て来いよ、迷惑な鳥だな!」
「そんなにイライラしないで。長丁場になることは、覚悟してここに来たはずでしょう?」

 リーザにそう言われても、ラナは悪態を吐き続けた。

 彼女としては、その後の囮としての役割が重大であるため、その前の準備は手っ取り早く済ませたいのだろう。
 ブラッドイーグルを探している間、ラナは囮になる恐怖と戦い続けなければならないのだ。

 しかし、結局その日は、ブラッドイーグルが現れることはなかった。
 辺りが暗くなってきて、僕達が引き返す頃には、ラナは疲れ切った様子だった。

「大丈夫よ。きっと、明日には発見できるわ」

 リーザがそう励ましても、ラナの反応は芳しくなかった。


 その日は、街に戻って、依頼主が手配してくれた宿に泊まる。

 僕達は、夕食の時にも、あまり会話を交わさなかった。


「ソフィアさんがいてくれたらな……」

 突然、ラナがそんなことを呟いた。

「えっ?」
「いや、レイリスの方が寂しいんだろうし、ルークのことは頼りにしてるんだけどな……あの人がいると、自然と安心できたっていうか、癒されたっていうか……」

 ラナがそう言うと、レイリスも悲しげな顔になった。
 一方で、リーザは複雑な表情を浮かべる。

 そういえば、レイリスほどではなかったが、ラナもソフィアさんに懐いていた。
 ラナの精神状態が不安定なのは、囮になることへの恐怖だけでなく、あの人がいないことも影響しているのだろう。

「……私が、ラナを守る」

 突然レイリスがそんなことを言ったので、僕達は驚いた。

「いや、ブラッドイーグルを狩る時のことなら、レイリスのことは頼りにしてるぜ?」
「今回だけじゃない……皆のこと、私が任されたから」
「任されたって……レイリスが?」

 ラナが目を丸くして尋ねると、レイリスは頷いた。

「もう、私達はソフィアさんに頼れない。ルークがパーティーから抜けたら、3人だけで戦わないといけないから」
「レイリス。皆を任せるっていうのは、ソフィアさんが全員に言ってることなんだよ。だから、君だけがそんなに気負う必要は無いよ?」

 僕は、ソフィアさんの意図を察して、そう言った。

「それは違うわ」

 リーザは、僕の言葉を否定した。苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「えっ?」
「私は言われてないわよ、そんなこと」
「あたしも言われてないぞ?」
「……」

 色々と危なっかしいラナはともかく……リーザも?

 じゃあ、ソフィアさんは……大精霊の保有者である僕を除けば、レイリスだけにパーティーを託したのか?

「それは……きっと、そんなことを言える相手は、いつも傍にいるレイリスだけだったからじゃないかな?」

 僕はそうフォローしたが、リーザは首を振った。

「違うわよ。私達がクローディアさんにどう評価されたか、貴方だって覚えてるでしょ?」
「……」

 それは、残酷な評価だった。

 現在保有している精霊の大きさだけで判断したのではない。

 今後の成長の余地まで含めて考えても、見込みがあるのはレイリスだけ。
 クローディアさんはそう言ったのである。


 ミランダさんは、見ただけで、大精霊の保有者の能力が本当は低い、ということを見抜いていた。
 見る人が見れば、冒険者に才能があるか否かは、分かってしまうものなのだろう。

 ラナの精霊は、レイリスと同じCランクだが……彼女がダンデリアに適合したのは、好戦的な性格が、たまたま相性の良いものだったためである。
 そういう意味では、大精霊の保有者ほどではなくても、イレギュラーであることは間違いない。

 ソフィアさんは、僕とレイリスにしか、このパーティーのことを託さなかった。
 そして、僕はいずれパーティーを抜けることが決まっており、そのことはソフィアさんだって当然覚えているだろう。

 つまり……ソフィアさんは、最も幼いレイリスに、このパーティーを託したのだ。

「そっか……何だか、悪い気がするな。この前まで、あんなに小さかったレイリスに、そんな責任を押し付けるなんて」
「ソフィアさんは、このパーティーのことを大切にしていたから。私だって守りたい」
「あんまり気負うなよ?」

 ラナの反応は、それで終わりだった。

 彼女は、この話を、あまり深刻に受け止めていないらしい。
 それは、ソフィアさんがレイリスを娘同然に扱っていたからなのかもしれない。
 親が娘に大切なものを託すのは、自然なことのように思えるのだろう。

 しかし、リーザは悔しそうな様子だった。
 彼女は、最年長だったソフィアさんがいた時ですら、このパーティーの参謀のような立場の振る舞いをしてきたのだ。

 にもかかわらず、自分がソフィアさんから信用されていなかった、と受け止めたのだろう。
 僕は、何と言って慰めればいいのか分からなかった。


 翌朝、僕達は、再びブラッドイーグルを探すために出発した。

「今日こそは見付けるぞ!」

 ラナは意気込んでいる。多少は空元気も含まれているように思えたが、昨日の夜の状態よりはマシだろう。

「……」

 一方で、リーザの表情は暗かった。

 考えてみれば、今回、囮になるラナや、ラナを守るレイリス、そしてブラッドイーグルを仕留める予定の僕と違い、リーザの役割はほとんどない。
 ひょっとしたら、自分が何のためにこのパーティーにいるのか、思い悩んでいるのかもしれない。

「リーザ……あんまり考え過ぎない方がいいよ?」

 僕はそう言ったが、リーザは小さく頷いただけだった。


 リーザのことは心配だったが、彼女のことばかり気にしているわけにもいかない。

 僕達は、昨日と同様に、ブラッドイーグルを探し続けた。

 しかし、やはり見付からない。
 そろそろ日が高くなり、これから傾き始める、という頃になっても、赤い鳥の姿は確認できなかった。

 今日も発見できないのだろうか……?
 そんなことを考えていると、レイリスが僕の袖を引っ張った。

「どうしたの?」

 尋ねると、レイリスは西の空を指差して言った。

「いた」

 慌ててそちらを見ると、遠くの空に、何かが浮かんでいるように見える。
 しかし、遠すぎて、それが鳥なのかも赤いのかも分からなかった。

 だが、レイリスが間違っている、ということはないのだろう。

 僕達は、顔を見合わせて頷く。
 そして、西を目指して進んだ。
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