大精霊の導き

たかまちゆう

文字の大きさ
上 下
21 / 76

20話 抹消者レイリス

しおりを挟む
 その日のうちに、クレセアさんは他の宿に対して、今回の依頼に僕達が参加することを通達した。

 他の宿からは、予想以上に強い反発を受けたようだ。
 クレセアさんは、しばらくの間落ち込んでいた。
 しかし、こちらとしても、引き下がるわけにはいかない。


 僕達は、3日後の出発に備えて、急いで準備を進めた。
 そのための資金は、クレセアさんが、その日のうちに質屋から調達してくれた。

 クレセアさんによると、交渉は驚くほどあっさりと済んだという。
 足元を見られて大変なことになるのではないか、という懸念が解消されたのは幸いだった。


 二人になれるタイミングを見つけて、僕はリーザに尋ねた。

「リーザは、冒険者を辞めるつもりなのに、こんなに危険な依頼を受けるの?」

 そう言われると、リーザは困った顔をした。

「だって、このタイミングで辞めたら、裏切るみたいで嫌じゃない。今回の依頼が終わったら、後腐れなく辞められるでしょ?」
「……でも、今回の依頼は危険だよ? 生きて帰れないかもしれないんだよ?」
「怖いこと言わないで! 考えないようにしてるんだから!」

 予想以上に激しい反応である。
 やはり、恐怖心はあるようだ。

「怖いなら、無理はしない方がいいと思うけど……」
「私だって、クレセアさんに恩返しがしたいのよ。辞めるからには、自分で納得できる終わり方にしたいの」

 リーザの決心は固いようだった。
 僕は、くれぐれも無理はしないように、と伝えた。


「ラナは、本当に今回の依頼に参加するの?」

 リーザの時と同じように、僕はラナに尋ねた。

「当たり前だろ? まさか、来るなって言うつもりか?」
「だって、ラナは武器を替えてから、実戦の経験がないじゃないか。心配するのは当たり前だよ」
「あたしだって訓練は積んでるんだ。前と比べれば、動きも良くなったし、防御のタイミングだってマシになったはずだぞ?」
「それは、元がそんなに良くなかったからでしょ? 今回の依頼は、本当に危険なんだよ?」
「危険だから、Aランク以上の精霊が5体も集まるんだろ? なら、今までの依頼より、安全なくらいだと思うけどな」
「……」

 ラナは、あまりにも楽観的だった。
 相手が本当に魔生物だったら、こちらが全滅する可能性だって否定できないのだが……。

 僕は、何度も止めたが、ラナは考えを変えるつもりはなさそうだった。


「ねえ、レイリス。今回の依頼には、他の宿の冒険者も参加するんだけど、大丈夫なの?」

 僕は、レイリスにも懸念をぶつけてみた。

「……どうせ、何も話さないから」
「初めて会う人が怖いっていう感覚は、分からなくはないけど……。一時的にでもパーティーを組むなら、仲良くした方がいいよ?」
「……それは無理」

 そう言うと、レイリスは逃げ去ってしまった。

 このパーティーからリーザがいなくなったり、僕が抜けたりしたら、新たなメンバーを加える必要があるだろう。
 その時に苦労しそうだと思った。

「あの子は、他人を避けて生きてきたんです」

 突然声をかけられた。
 いつの間にか、僕の後ろにソフィアさんが立っている。

「レイリスの家は酒場でした。あの子の母親は奔放な方で、レイリスの父親は誰だか分らないそうです。母親はあの子を愛していましたが、客の中には、娘であるレイリスのことも、そういう目で見る人が少なくなかったようですね。そういった環境で、レイリスは目立ちたくない、他人と関わりたくない、と考えるようになったのです」

 ソフィアさんに説明されて、僕は納得した。

 街のきちんとした酒場ならともかく、そうでない酒場には、タチの悪い客が多く来る。
 そうした場所で働く女性の中には、レイリスの母親のようなタイプの女性も少なくないのだ。

「それで、レイリスは抹消者の適性を獲得したんですね?」

 僕の言葉に、ソフィアさんは頷いた。

 幼い時ならば、後天的に専門の能力を獲得することは可能である。
 下卑た視線を避けたい、というレイリスの感情が、彼女に目立たなくなる能力を身につけさせたのだろう。

「そのような経緯があるので、私はレイリスに無理をさせたくありません。あの子は、あのような性格だからこそ身を守れているのです」
「でも、今のままだと、メンバーが入れ替わったら大変でしょう?」
「レイリスのことは私が守ります。あの子の母親にも、必ず無事に暮らさせるとお約束しましたので」
「……ところで、ソフィアさんは今回の依頼、大丈夫なんですか? その……ご病気をなさったとか……」
「隠さなくてもいいんですよ。クレセアさんから聞いたのでしょう? 私が以前のように戦えなくなったのは、心理的な要因の影響です」

 ソフィアさんは悲しげな様子だった。
 きっと、とても辛い出来事があったのだろう。

「ですが、ご安心ください。きっと、今回の依頼ではお役に立ってみせますから」
「無理はしないでくださいね?」
「ルークさんも、魔法の暴発にはくれぐれも気を付けてください。他の宿の方々もいらっしゃる状況で、迂闊なことをすれば大変なことになりますから」
「……はい」

 ひょっとしたら、僕達は、お互いのことを一番不安視しているのかもしれない。そう感じた。


 僕らは、その依頼を受けるつもりで準備を進めていた。
 しかしそこに、思いもよらない横槍が入ることになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...