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14話 襲撃
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リーザが、冒険者をやめる。
それは、ショッキングな話だった。
しかし一方で、こうなる予感はしていた。
防御者を専門とする者は、その力だけでは充分に活躍出来ない場合が多いのだ。
仮に、自由自在に障壁を展開できる者が存在するなら、防御者はパーティーにとって心強い存在だろう。
敵を攻撃できなくても、あらゆる攻撃を遮り、様々な戦術が可能となるからだ。
しかし、現実はそうではない。
防御魔法には、様々な弱点があるのだ。
たとえば、一度展開した障壁を動かすことはできないし、形状も単純な形にしかできない。
大きな障壁を展開したり、小さすぎる障壁を展開したり、身体から離れた位置に展開すると強度が落ちる。
同時に二枚以上展開すると、使用者の負担が跳ね上がる。
異なる種類の魔法を同時に使う時ほどではないが、それに近い負荷がかかることになる。
同じ面に複数の障壁を展開すると、互いに干渉して打ち消し合う、という性質もある。
ついでに言うと、破壊者の能力に対して非常に弱い。
だから、防御者はパーティーの主力にはなれないのである。
リーザは、新たな障壁を展開する際に、前に展開していた障壁を消していた。
おそらく、二枚同時に展開できないのだろう。
専門の防御者としては並以下である。
それを本人も自覚しているから、限界を感じたに違いない。
しかし、リーザが抜けて、他の3人だけで組んだパーティーは……何だかバランスが悪い気がする。
本来ならば、魔導師が請け負うことが多い頭脳労働は、リーザが担当しているのだ。
リーザには、パーティーに留まってほしい。
僕はそう思った。
その後の行程は、特に問題なく進んだ。
何もトラブルは起こらなかったし、リーザにも、特におかしな様子はなかった。
道中では、ラナとリーザとソフィアさんが取り留めのない話を繰り返すばかりで、僕が話をする機会はあまりなく、レイリスは黙り込んだままだった。
道中の宿で、一度だけ、リーザと二人で話す機会があった。
「ねえ、リーザって、防御者の役割以外は出来ないの?」
「魔導師の魔法も、一応使えるけど……出力が低すぎて、まるで使い物にならないわ。フィオリナの力を借りても、鼠一匹仕留めることも出来ないんだから、実戦で使うのは難しいでしょうね」
リーザの精霊はDランクである。
その力を借りても、小動物すら仕留められない、というのは厳しい。
そして、リーザの場合、より上位の精霊を買うという解決方法は、ラナと比べてかなり難しい。
リーザには、ラナと同じ説得方法は使えない。どうしたものか……。
事件は、目的地まであと一日、という地点で起こった。
目的地に近付き、僕達は街道から外れ、細い道を進んでいた。
レイリスが、ソフィアさんの袖を引っ張った。
「どうしたの、レイリス? トイレ?」
尋ねられ、レイリスは首を振る。
「尾けられてる。10人以上いる」
レイリスの言葉を聞いて、僕達の間に緊張が走った。
「あたしらみたいな貧乏人を狙ってどうするんだよ……」
「お金が目的とは限らないわよ? このパーティーは、ほとんど女なんだし……」
「まさか……身体が目当てか!?」
「誘拐されて、売られて、そういう扱いを受ける女はいるのよ……」
「困りましたね……。仕方がありません。アヴェーラ!」
ソフィアさんが精霊を呼び出す。
アヴェーラはAランクの精霊だ。
僕達にとっては見慣れた大きさだが、このランクの精霊は極めて珍しい。
普通の盗賊ならば、見ただけで驚愕し、逃げ出してしまうだろう。
念のため、僕達は全員が精霊を呼び出す。
まだソリアーチェは縮めたままだが、戦闘を避けられるのであれば、元のサイズに戻すのも方法の一つだ。
相手の動揺が伝わってくる。
女ばかりのパーティーなので目を付けたが、僕達が侮れないと知って混乱しているのだろう。
敵は、しばらく迷っているようだったが、諦めたらしく気配が消えた。
「……どうする。後を追うのか?」
「やめた方がいいわ。罠を仕掛けられてるでしょうから」
「戦わずに済んで、良かったですね」
「……」
レイリスは、まだ緊張した様子で周囲を窺っている。
「大丈夫ですよ、レイリス。念のため、探知の魔法を使っておきますから」
そう言って、ソフィアさんが魔法を発動させる。
敵の中に抹消者がいた場合、同程度の能力を有する抹消者か、相手と同格以上の精霊を有する支援者でなければ位置が分からない。
彼女達は、そのことを心配しているのだ。
「……この辺りには、私達以外に誰もいませんね」
「そっか。なら安心だな!」
「相手が戻ってくる可能性もあるから、油断は禁物よ?」
「……」
僕らは、その後もしばらくは警戒しながら移動した。
しかし、僕達を狙っていた集団が戻って来る様子はなかった。
おそらく諦めたのだろう。
僕はそう思ったが、何だか嫌な感覚が残った。
その日は、いつもより早めに宿を取ることにした。
森の近くの宿である。
そろそろ暗くなってくる時間で、森の中に入るのは危険だと判断した。
宿の主人である老人から、森の薬草の話を聞く。
どうやら、薬草は森の奥に行かなければ採取できないらしい。
僕達は、なるべく朝早くに森へと入ることを決めた。
その宿も、全てが一人部屋だった。
僕は、今夜は早めに寝て、明日に備えることにした。
突然、ソリアーチェが警告を発した。
僕は、それまで完全に眠っていた。
しかし、ほとんど条件反射のような形で障壁を展開した。
何者かが振り下ろした刃物を弾き返す。
状況が全く分からないまま、僕は飛び起きた。
部屋の中に、3人もの侵入者がいた。
全員が布で顔を隠し、刃物を構えている。
その正体は不明だが、僕を殺そうとしていることは明らかだ。
しかし、その侵入者達は、全員が唖然としたように動きを止めていた。
部屋の中が明るい。
本来ならば真っ暗で何も見えないはずの部屋の中が、金色の光で満たされている。
縮める魔法を使う時間がなかったため、僕の後ろに現れたソリアーチェは本来の姿だ。
侵入者が動きを止めてしまったのも無理はない。
僕が大精霊を保有していることは、全く計算外の事態なのだろう。
僕は格闘家の魔法を使った。
動きを加速して、拳の打撃力を強化して相手を殴る。
単純な戦い方だったが、相手は為す術無く殴られ、全員が倒れ伏した。
僕が息を整えていると、激しい物音が隣の部屋から聞こえてきた。
目覚めきっていない頭を回転させて部屋割りを思い出す。
隣の部屋にいるのは……ソフィアさんだ!
慌てて部屋から飛び出す。
すると、ソリアーチェが僕に警告を発した!
僕は、反射的に障壁を展開する。
光の壁の向こうで、人影が動いた。
顔を布で隠した大男が廊下で待ち構えており、大振りのナイフを振り下ろしてきたのだ。
ナイフは障壁に当たり、バチバチと音を立てる。
ただのナイフではない。
これは……破壊者の能力!
僕を襲った男の後ろには、小さな精霊がいた。
Eランクの大きさだ。
こちらの精霊が並のサイズだったなら、障壁は破られていただろう。
しかし、男のナイフは弾き飛ばされていた。
いかに障壁が破壊者の能力に弱くても、精霊の性能が違いすぎる。
「何……!?」
男が驚愕の声を上げる。
自分のナイフが、障壁を破れないとは思っていなかったらしい。
そして、僕の後ろにいるソリアーチェに気付いて凍りつく。
僕は、再び動きを加速する魔法を使い、魔力を込めた右拳で男の顎を殴った。
鈍い音がして、男が崩れ落ちる。
僕は、ソフィアさんの部屋の扉に飛び付く。
扉には鍵がかかっていなかった。
そういえば、僕の部屋の扉にも鍵がかかっていなかったことを思い出す。
男達がこじ開けたのだろうか?
「ソフィアさん!」
叫びながら部屋の中へと飛び込んだ。
部屋の中には、ソフィアさんと、何故かレイリスがいた。
床には、男が3人倒れ伏している。
「私は大丈夫です。レイリスと一緒に寝ていたおかげで助かりました」
ソフィアさんは、笑顔でそう言った。
「……」
レイリスは、僕を非難するような目で見てきた。
確かに、女性の寝室にノックもせずに入るのは良くないことかもしれないが、今はそれどころではないと思う。
……いや、レイリスが怒ったのは、二人が寝る時の格好だからか?
それに気付いて、僕は慌てて目を逸らした。
レイリスはまだ子供だが、男に見られても気にしないほど幼くはないだろう。
ナイトウェアは、生地が薄い物が多いのだ。
彼女は、下着姿も同然だった。
そして、ソフィアさんは、見たことを怒られても文句の言えない姿をしている。
それでも、二人にナイトウェアを着て寝る習慣があって、お互いに助かった。
田舎では、下着姿や、全裸で寝る習慣がある地方が多いからだ。
改めて、床に倒れている男達を見る。
こいつらを倒したのはレイリスだろう。
ソフィアさんが、接近戦で戦えるとは思えない。
それにしても……レイリスは自分の部屋を取っていたのに、どうしてこの部屋に来ていたのだろうか?
この宿のベッドは狭く、片方が子供とはいえ、二人で寝ればかなり窮屈だったはずである。まさか……。
それは、ショッキングな話だった。
しかし一方で、こうなる予感はしていた。
防御者を専門とする者は、その力だけでは充分に活躍出来ない場合が多いのだ。
仮に、自由自在に障壁を展開できる者が存在するなら、防御者はパーティーにとって心強い存在だろう。
敵を攻撃できなくても、あらゆる攻撃を遮り、様々な戦術が可能となるからだ。
しかし、現実はそうではない。
防御魔法には、様々な弱点があるのだ。
たとえば、一度展開した障壁を動かすことはできないし、形状も単純な形にしかできない。
大きな障壁を展開したり、小さすぎる障壁を展開したり、身体から離れた位置に展開すると強度が落ちる。
同時に二枚以上展開すると、使用者の負担が跳ね上がる。
異なる種類の魔法を同時に使う時ほどではないが、それに近い負荷がかかることになる。
同じ面に複数の障壁を展開すると、互いに干渉して打ち消し合う、という性質もある。
ついでに言うと、破壊者の能力に対して非常に弱い。
だから、防御者はパーティーの主力にはなれないのである。
リーザは、新たな障壁を展開する際に、前に展開していた障壁を消していた。
おそらく、二枚同時に展開できないのだろう。
専門の防御者としては並以下である。
それを本人も自覚しているから、限界を感じたに違いない。
しかし、リーザが抜けて、他の3人だけで組んだパーティーは……何だかバランスが悪い気がする。
本来ならば、魔導師が請け負うことが多い頭脳労働は、リーザが担当しているのだ。
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僕はそう思った。
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道中の宿で、一度だけ、リーザと二人で話す機会があった。
「ねえ、リーザって、防御者の役割以外は出来ないの?」
「魔導師の魔法も、一応使えるけど……出力が低すぎて、まるで使い物にならないわ。フィオリナの力を借りても、鼠一匹仕留めることも出来ないんだから、実戦で使うのは難しいでしょうね」
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そして、リーザの場合、より上位の精霊を買うという解決方法は、ラナと比べてかなり難しい。
リーザには、ラナと同じ説得方法は使えない。どうしたものか……。
事件は、目的地まであと一日、という地点で起こった。
目的地に近付き、僕達は街道から外れ、細い道を進んでいた。
レイリスが、ソフィアさんの袖を引っ張った。
「どうしたの、レイリス? トイレ?」
尋ねられ、レイリスは首を振る。
「尾けられてる。10人以上いる」
レイリスの言葉を聞いて、僕達の間に緊張が走った。
「あたしらみたいな貧乏人を狙ってどうするんだよ……」
「お金が目的とは限らないわよ? このパーティーは、ほとんど女なんだし……」
「まさか……身体が目当てか!?」
「誘拐されて、売られて、そういう扱いを受ける女はいるのよ……」
「困りましたね……。仕方がありません。アヴェーラ!」
ソフィアさんが精霊を呼び出す。
アヴェーラはAランクの精霊だ。
僕達にとっては見慣れた大きさだが、このランクの精霊は極めて珍しい。
普通の盗賊ならば、見ただけで驚愕し、逃げ出してしまうだろう。
念のため、僕達は全員が精霊を呼び出す。
まだソリアーチェは縮めたままだが、戦闘を避けられるのであれば、元のサイズに戻すのも方法の一つだ。
相手の動揺が伝わってくる。
女ばかりのパーティーなので目を付けたが、僕達が侮れないと知って混乱しているのだろう。
敵は、しばらく迷っているようだったが、諦めたらしく気配が消えた。
「……どうする。後を追うのか?」
「やめた方がいいわ。罠を仕掛けられてるでしょうから」
「戦わずに済んで、良かったですね」
「……」
レイリスは、まだ緊張した様子で周囲を窺っている。
「大丈夫ですよ、レイリス。念のため、探知の魔法を使っておきますから」
そう言って、ソフィアさんが魔法を発動させる。
敵の中に抹消者がいた場合、同程度の能力を有する抹消者か、相手と同格以上の精霊を有する支援者でなければ位置が分からない。
彼女達は、そのことを心配しているのだ。
「……この辺りには、私達以外に誰もいませんね」
「そっか。なら安心だな!」
「相手が戻ってくる可能性もあるから、油断は禁物よ?」
「……」
僕らは、その後もしばらくは警戒しながら移動した。
しかし、僕達を狙っていた集団が戻って来る様子はなかった。
おそらく諦めたのだろう。
僕はそう思ったが、何だか嫌な感覚が残った。
その日は、いつもより早めに宿を取ることにした。
森の近くの宿である。
そろそろ暗くなってくる時間で、森の中に入るのは危険だと判断した。
宿の主人である老人から、森の薬草の話を聞く。
どうやら、薬草は森の奥に行かなければ採取できないらしい。
僕達は、なるべく朝早くに森へと入ることを決めた。
その宿も、全てが一人部屋だった。
僕は、今夜は早めに寝て、明日に備えることにした。
突然、ソリアーチェが警告を発した。
僕は、それまで完全に眠っていた。
しかし、ほとんど条件反射のような形で障壁を展開した。
何者かが振り下ろした刃物を弾き返す。
状況が全く分からないまま、僕は飛び起きた。
部屋の中に、3人もの侵入者がいた。
全員が布で顔を隠し、刃物を構えている。
その正体は不明だが、僕を殺そうとしていることは明らかだ。
しかし、その侵入者達は、全員が唖然としたように動きを止めていた。
部屋の中が明るい。
本来ならば真っ暗で何も見えないはずの部屋の中が、金色の光で満たされている。
縮める魔法を使う時間がなかったため、僕の後ろに現れたソリアーチェは本来の姿だ。
侵入者が動きを止めてしまったのも無理はない。
僕が大精霊を保有していることは、全く計算外の事態なのだろう。
僕は格闘家の魔法を使った。
動きを加速して、拳の打撃力を強化して相手を殴る。
単純な戦い方だったが、相手は為す術無く殴られ、全員が倒れ伏した。
僕が息を整えていると、激しい物音が隣の部屋から聞こえてきた。
目覚めきっていない頭を回転させて部屋割りを思い出す。
隣の部屋にいるのは……ソフィアさんだ!
慌てて部屋から飛び出す。
すると、ソリアーチェが僕に警告を発した!
僕は、反射的に障壁を展開する。
光の壁の向こうで、人影が動いた。
顔を布で隠した大男が廊下で待ち構えており、大振りのナイフを振り下ろしてきたのだ。
ナイフは障壁に当たり、バチバチと音を立てる。
ただのナイフではない。
これは……破壊者の能力!
僕を襲った男の後ろには、小さな精霊がいた。
Eランクの大きさだ。
こちらの精霊が並のサイズだったなら、障壁は破られていただろう。
しかし、男のナイフは弾き飛ばされていた。
いかに障壁が破壊者の能力に弱くても、精霊の性能が違いすぎる。
「何……!?」
男が驚愕の声を上げる。
自分のナイフが、障壁を破れないとは思っていなかったらしい。
そして、僕の後ろにいるソリアーチェに気付いて凍りつく。
僕は、再び動きを加速する魔法を使い、魔力を込めた右拳で男の顎を殴った。
鈍い音がして、男が崩れ落ちる。
僕は、ソフィアさんの部屋の扉に飛び付く。
扉には鍵がかかっていなかった。
そういえば、僕の部屋の扉にも鍵がかかっていなかったことを思い出す。
男達がこじ開けたのだろうか?
「ソフィアさん!」
叫びながら部屋の中へと飛び込んだ。
部屋の中には、ソフィアさんと、何故かレイリスがいた。
床には、男が3人倒れ伏している。
「私は大丈夫です。レイリスと一緒に寝ていたおかげで助かりました」
ソフィアさんは、笑顔でそう言った。
「……」
レイリスは、僕を非難するような目で見てきた。
確かに、女性の寝室にノックもせずに入るのは良くないことかもしれないが、今はそれどころではないと思う。
……いや、レイリスが怒ったのは、二人が寝る時の格好だからか?
それに気付いて、僕は慌てて目を逸らした。
レイリスはまだ子供だが、男に見られても気にしないほど幼くはないだろう。
ナイトウェアは、生地が薄い物が多いのだ。
彼女は、下着姿も同然だった。
そして、ソフィアさんは、見たことを怒られても文句の言えない姿をしている。
それでも、二人にナイトウェアを着て寝る習慣があって、お互いに助かった。
田舎では、下着姿や、全裸で寝る習慣がある地方が多いからだ。
改めて、床に倒れている男達を見る。
こいつらを倒したのはレイリスだろう。
ソフィアさんが、接近戦で戦えるとは思えない。
それにしても……レイリスは自分の部屋を取っていたのに、どうしてこの部屋に来ていたのだろうか?
この宿のベッドは狭く、片方が子供とはいえ、二人で寝ればかなり窮屈だったはずである。まさか……。
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