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第5話 聖堂の穴
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「スピーシャとミーシャは、家に帰って荷物をまとめろ。誰にも邪魔をされないうちに出発するぞ。この建物の壁に穴を空けたことを見咎められる前にな」
彼がそう言ったので、私は驚いて、聖堂の壁を見ました。
今まで、ミーシャに気を取られていたので気付かなかったのですが……マリーという少女が放った閃光は、聖堂の壁を完全に貫いてしまったようでした。
大変なことです!
「いけません! すぐに、管理人様にお知らせして、謝罪しなければ……!」
「スピーシャ」
私の言葉に、彼は怒りました。
そして、私の顎を乱暴に掴み、持ち上げます。
「お前にとっての神は俺だ。こんな建物には、何の価値もない。分かったか?」
「……御主人様、それは……」
「分からないのか? ならば、お前は俺のコレクションに相応しくない。この場でミーシャに始末させる。ついでに、こんな建物は徹底的に破壊させてやろう」
彼の目には、狂気のようなものが宿っていました。
この男は……神を憎んでいるようです。
もしも、これ以上刺激すれば……本当に、言葉どおりのことを実行するでしょう。
「申し訳ございません、御主人様……」
「スピーシャ、お前にとっての神は誰だ? 自分の口で言ってみろ!」
「……御主人様です」
私は嘘を吐きました。
神様の見ておられる聖堂で、このような男のことを、神だと言うなど……私にとっては耐え難いことでした。
しかし、私は今すぐに殺されるわけにはいきません。
何よりも、ミーシャに私を殺させることなど、あってはならないことです。
私の目からは、涙が溢れました。
先ほど、感情を消して従うと決めたばかりだというのに……我ながら情けないことです。
「……ふん。お前の顔と身体の価値に免じて、今は見逃してやろう。だが……俺のことを、心から神だと認められないのであれば、お前のことは、いずれ処分することになる。分かったな?」
「……申し訳ございません」
私にとっての神を自称する、その男は、嬉しそうな顔をしました。
先ほど、私に気圧されたことへの復讐ができて、満足なのでしょう。
彼は、私のことを軽く突き飛ばしました。
私は尻もちをつきましたが、彼に抗議をしませんでした。
私は、改めて跪きます。
「御主人様。私に、罪悪感に苛まれないための、最低限の行為をお許しください」
そのようにお願いすると、彼は鼻を鳴らしました。
「何がしたいんだ? 言ってみろ」
「この建物を修繕するための金品を、残してまいりたいと存じます」
「そんなことを、許すはずがないだろう? コレクションが2つも増えれば、それだけ必要な金も増える」
「ですが、御主人様は、私に美しさを保つように命じました。であれば、心の健やかさを保つことも必要だと思われます」
「……お前達は、どの程度の金を保有しているんだ?」
「幸いにも、私達には、両親が残してくれた遺産がございます。ですので……」
私は、家に残っている現金の額を伝えました。
それを聞いて、彼は意外そうな顔をします。
金額が、予想よりも大幅に多かったのでしょう。
「……まあ、いいだろう。現金や身に着ける物は全て持ち出して、他の資産は、全て差し出してしまえ。どうせ、お前達がこの町に戻ることはない。家や家具は、持って行くことができないのだからな」
「ありがとうございます」
私は、彼に心からの感謝を伝えました。
そんな私に、彼は戸惑っている様子です。
「資産を差し出すために書き置きを残すなら、俺達のことは書くな。文面はミーシャにも見せておけ」
「かしこまりました」
「お前は……俺のことが、憎くないのか?」
彼は、不思議そうに言いました。
私が、いつまで経っても彼を罵倒しないことが、不気味に感じられるのでしょう。
「はい。御主人様は、ミーシャを蘇らせてくださいました。そのことには、心から感謝しております」
「……おかしな女だ」
彼は、呆れたように言いました。
しかし、ミーシャの身体が、まだ生きていることは確かなのです。
そのことについて、私は本当に感謝しているのでした。
彼がそう言ったので、私は驚いて、聖堂の壁を見ました。
今まで、ミーシャに気を取られていたので気付かなかったのですが……マリーという少女が放った閃光は、聖堂の壁を完全に貫いてしまったようでした。
大変なことです!
「いけません! すぐに、管理人様にお知らせして、謝罪しなければ……!」
「スピーシャ」
私の言葉に、彼は怒りました。
そして、私の顎を乱暴に掴み、持ち上げます。
「お前にとっての神は俺だ。こんな建物には、何の価値もない。分かったか?」
「……御主人様、それは……」
「分からないのか? ならば、お前は俺のコレクションに相応しくない。この場でミーシャに始末させる。ついでに、こんな建物は徹底的に破壊させてやろう」
彼の目には、狂気のようなものが宿っていました。
この男は……神を憎んでいるようです。
もしも、これ以上刺激すれば……本当に、言葉どおりのことを実行するでしょう。
「申し訳ございません、御主人様……」
「スピーシャ、お前にとっての神は誰だ? 自分の口で言ってみろ!」
「……御主人様です」
私は嘘を吐きました。
神様の見ておられる聖堂で、このような男のことを、神だと言うなど……私にとっては耐え難いことでした。
しかし、私は今すぐに殺されるわけにはいきません。
何よりも、ミーシャに私を殺させることなど、あってはならないことです。
私の目からは、涙が溢れました。
先ほど、感情を消して従うと決めたばかりだというのに……我ながら情けないことです。
「……ふん。お前の顔と身体の価値に免じて、今は見逃してやろう。だが……俺のことを、心から神だと認められないのであれば、お前のことは、いずれ処分することになる。分かったな?」
「……申し訳ございません」
私にとっての神を自称する、その男は、嬉しそうな顔をしました。
先ほど、私に気圧されたことへの復讐ができて、満足なのでしょう。
彼は、私のことを軽く突き飛ばしました。
私は尻もちをつきましたが、彼に抗議をしませんでした。
私は、改めて跪きます。
「御主人様。私に、罪悪感に苛まれないための、最低限の行為をお許しください」
そのようにお願いすると、彼は鼻を鳴らしました。
「何がしたいんだ? 言ってみろ」
「この建物を修繕するための金品を、残してまいりたいと存じます」
「そんなことを、許すはずがないだろう? コレクションが2つも増えれば、それだけ必要な金も増える」
「ですが、御主人様は、私に美しさを保つように命じました。であれば、心の健やかさを保つことも必要だと思われます」
「……お前達は、どの程度の金を保有しているんだ?」
「幸いにも、私達には、両親が残してくれた遺産がございます。ですので……」
私は、家に残っている現金の額を伝えました。
それを聞いて、彼は意外そうな顔をします。
金額が、予想よりも大幅に多かったのでしょう。
「……まあ、いいだろう。現金や身に着ける物は全て持ち出して、他の資産は、全て差し出してしまえ。どうせ、お前達がこの町に戻ることはない。家や家具は、持って行くことができないのだからな」
「ありがとうございます」
私は、彼に心からの感謝を伝えました。
そんな私に、彼は戸惑っている様子です。
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「かしこまりました」
「お前は……俺のことが、憎くないのか?」
彼は、不思議そうに言いました。
私が、いつまで経っても彼を罵倒しないことが、不気味に感じられるのでしょう。
「はい。御主人様は、ミーシャを蘇らせてくださいました。そのことには、心から感謝しております」
「……おかしな女だ」
彼は、呆れたように言いました。
しかし、ミーシャの身体が、まだ生きていることは確かなのです。
そのことについて、私は本当に感謝しているのでした。
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