白銀の簒奪者

たかまちゆう

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第106話

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 ロザリーにこれ以上の虐待を加えることに、正当性があるのかについて考える。

 僕は以前、盗みをした女性を酷い目に遭わせたことがある。
 そのことを考えれば、より巨額の金品を盗んだロザリーのことを、もっと苦しめてもおかしくない。

 しかし、スピーシアは既に、ロザリーに過酷な拷問を加えている。
 そして、ロザリーが盗みをする前には、スピーシアが彼女のことをいじめていたという。

 スピーシアは愛情があったと言っているが、ロザリーはそう思っていなかった可能性が高いだろう。
 ならば、ロザリーには同情すべきだ。

 無論、警備隊に突き出せば、スピーシアがどれほど酷いいじめを行っていても、ロザリーは公開処刑になるはずだ。

 だが、僕は役人ではない。
 法に則った裁きをする必要など感じなかった。

「スピーシア」

 僕は、あえて彼女を呼び捨てにした。

「はい」

 それに対して、スピーシアは抗議しなかった。

「ロザリーのことは、そろそろ許してあげたらどうかな?」
「まあ! そのようなことをおっしゃらないでください。面白いのは、ここからではないですか」
「だって、ロザリーが盗みをしたのは、君のいじめに耐えかねたからなんじゃないの? だとしたら、これ以上の罰を与えるのは公平性に欠けるよ」
「ですが、この子は既に、何回もお金をくすねています。元々、手癖が悪いのだと思いますよ?」
「えっ……?」
「最初は金貨を1枚。一番多い時には、金貨を5枚も盗みました。それだけでも、本来であれば、かなり重い罪になるはずですわ。ですが、私はそれを許しました。この子は泣きながら反省の言葉を述べましたし、肌を重ねて愛し合った仲ですから」
「……」
「今回も簡単に許したら、また同じことの繰り返しです。なので、今回は徹底的にお仕置きをするのですわ」
「なるほどね……」

 僕は、しゃがんでロザリーに顔を近付けた。
 ロザリーは、身の危険を感じた様子で、逃げようともがく。

 スピーシアの言葉が本当なら、ロザリーに同情の余地はあまりない。
 少なくとも、スピーシアと対立するリスクを冒してまで、ロザリーを助ける必要性は感じなかった。

「スピーシア。ここで叫ぶと、上の誰かに聞こえるかな?」
「大丈夫です。ここは、かなり深いですから」
「それは良かった」

 僕はロザリーの猿轡を外した。
 そして、彼女に問いかける。

「ねえ、どうして大金を盗もうとしたのか、教えてくれないかな?」
「……それは……」
「正直に言ってくれれば、なるべく優しくしてあげてもいいよ? でも、この期に及んで嘘を吐いたら、このまま死ぬまで拷問生活を送ることになるだろうね。ああ、死ぬ前に、お人形になるんだっけ?」
「だって……スピーシア様が、私だけを愛してくれないから! アンナやサーシャともベッドを共にして、カーラまで連れて来て!」
「……君は、そんな理由で、公開処刑になるほどのお金を盗んだの?」
「それは……スピーシア様に、他の女と幸せになってほしくなかったから……。お金がなければ、贅沢な暮らしはできないじゃない」
「……じゃあ、君は盗んだお金をどうするつもりだったの?」
「それは……」
「正直に言ってくれないと……重りを付けて、水に沈めるよ?」
「い、いや! スピーシア様、助けてください……!」

 ロザリーの言葉に対して、スピーシアは首を振った。

「とても残念ですが、このままだと、これで貴方とはお別れになってしまいますわね」
「そんな……!」
「早く話さないと、アンナとサーシャに、貴方に括り付けるための石を持って来させますわよ?」
「……だって、お金がなかったら……ここを出て行っても、他の場所で働くことになるでしょう!? スピーシア様は、両親から愛されて、何もしなくても大金を手に入れたというのに……どうして私は、お金を手に入れるために苦労しないとならないんですか!?」

 ロザリーは、ついに怒りをぶちまけた。
 そんな彼女を見て、スピーシアは悲しそうな顔をする。

「お金に不自由しない生活がしたいのなら、今までどおり、私に仕えてくだされば良かったのです」
「だったら、スピーシア様は誰が一番好きなのですか!?」
「そんな無粋なことを尋ねるものではありません。好きな人に順位を付けるなど……」
「本当に愛する人は、たった1人であるはずです!」
「そう言われましても……好きな人は自分では決められませんし、1人に絞る必要性も感じません」
「不誠実じゃないですか! 酷いです!」
「ちょっと落ち着いてよ」

 僕は、憤るロザリーの頬に触れた。
 ロザリーは、汚物が付着した手で触られたかのように、絶叫して逃げようとする。

「君は、お金を盗ったりしないで、静かにスピーシアの元を離れるべきだったと思うな」

 僕がそう言うと、ロザリーは僕を睨んできた。

「それじゃあ、スピーシア様は私のことを忘れるじゃない! そんなの、負けたみたいで嫌よ!」
「そっか……」

 ロザリーの、スピーシアから愛されたいという欲望も、大金を楽に手に入れたいという欲望も、どちらも本音なのだろう。
 愛情の表現としては酷いものだが、それはスピーシアも同じだし、僕も他人のことを言えるような人間ではない。

 色々と考えて、僕は結論を出した。

「ねえ、ロザリー」
「な、何よ!?」
「ちょっと触って気付いたけど、君の身体は、水責めを受けたせいで冷え切ってるみたいだね。僕が温めてあげるよ」

 そう言って抱き寄せると、ロザリーは断末魔のような悲鳴を上げた。

 抱き心地は悪くなかった。
 生身の女性の肌は柔らかい。背中を撫で、腕や足をさすって温める。

 ついでに、お尻も撫でて温めてあげる。
 適度に筋肉が付いているものの、充分に柔らかい。

 僕が少し手を動かす度に、ロザリーは狂ったように叫んだが、すぐに体力を使い果たし、苦しそうに呻くようになった。

 せっかくだから、僕も脱ごうか……?
 そんなことを考えて、思わず笑ってしまう。

「やめて……やめて……」

 ロザリーは、虚ろな目で呟くように言った。
 涙をぽろぽろと流す彼女は、心身共に激しく消耗して、限界が近い様子だった。

 彼女の身体が冷え切っていることは事実だが、感謝はされていないようである。当然だが。

 気分が乗ってきたので、ロザリーの身体を回して、後ろから抱き締める。
 そして、腹部をゆっくりと撫でた後で、両胸に手を回して。
 ロザリーは悲鳴を上げて逃げようとしたが、無駄な努力に終わる。

 乳房だって、冷えたままではいけないだろう。
 時間をかけて揉み、丁寧に温めてあげることにする。

 ボリュームがあって、良い乳房だ。
 柔らかく、重量感があって、とにかく手触りがいい。

 僕の、男性としての能力が低いことが悔やまれる。
 健康なオットームの男性なら、もう1回程度は射精することが可能なのかもしれないが……僕は自信がない。

 ひょっとしたら、スピーシアはそのことまで計算して、風呂場で僕を挑発して抜くように仕向けてから、ここに連れて来たのかもしれない。

 彼女ならあり得ることだ。
 だとしたら、少し悔しかった。
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